食べたい2人の気散事・裏

黒川

文字の大きさ
上 下
49 / 67

44:表~74

しおりを挟む
予約の時間になったので、イシヤマの店に入れば、中はかなり賑わっていた。
大口の予約があったみたい。
テーブル席を空けて置いてもらっていたけど、周りがかなり賑やかだったので、落ち着いているカウンターに変えてもらった。

頼んだ飲み物が来たところで、乾杯をする。

「ふふっ。おつかれさま。試験大変だったでしょ?専攻外なんだし」

「はい。でも、もともと興味のある分野だったので、知らない事を学べるのは楽しかったです。あ!あとですね!!」

ゆん君が嬉しそうに試験会場での出来事を話してくれた……の、だけど……?
内容が……

「それで、タットさんが居なくても、知らない女の人の対処が出来ました!」

「お……?……おぉー……」

微妙な顔をして、小さく拍手をしたら、ゆん君は解せない表情をしていた。
その顔も可愛い。

でも、でも……ふふっ。
ゆん君は、試験会場で同じ大学に通っていると思われる、知らない女の子に話しかけられ、きちんと会話が出来たと満足気だった……けど……けど、思わず笑ってしまう。

「頑張ってるゆん君カッコイイよ。でも……その女の子……ふふっ……」

「なにか、おかしかったですか?」

「んーん。ゆん君は何一つおかしくないよ。ただ……ホントに知らない女の子なの?話を聞く限りでは、大学で何度か会ってそうな気がするんだけど?」

「俺の記憶に残ってなければ、知らない人です」

容赦ないゆん君のセリフに吹き出してしまう。その女の子、絶対ゆん君の事が好きだからね?きっと何度もアプローチしていた筈だよ?
間違えた手順でね!
少し、その女の子に意地悪な気持ちが出てしまったけど、きっと彼女が正しい手順を経てアプローチしたって、ゆん君は靡かない事を、もう俺は知ってる。

「じゃぁ、今度その女の子を大学で見つけたら、思い出して話しかけてあげると良いと思うよ」

ついでに大人の余裕も見せちゃう。
そんな所を想像するだけでヤキモチは妬くけど不安は無い。

ゆん君も、自分が積極的に女の子に話しかけるのは嫌ではないのか?と疑問を持ってくれた。

「ヤキモチ妬くのに女の人に話しかけて良いんですか?」

そう聞くゆん君に、俺は答える。

「うん。だって、ゆん君は俺の恋人だし。俺の事、好きでいてくれてるし。女の子と仲良くなってもね、俺の事は好きなままだろうなって……俺、自惚れてる?」

そう。
不思議なくらい不安が無いし、こんな事も聞ける。
それだけ、ゆん君に好かれているんだと自信を持ってる。

「自惚れてません。タットさんの言う通りです」

「で、俺は俺で、ゆん君の事が大好き」

「俺も大好きです」

「ね?大丈夫でしょ?」

「そうですね」

運ばれてきたおつまみを箸でつつきながら、お互いの気持ちを再確認した。
バカップルでも何とでも言えばいいよ。
イシヤマが呆れ顔をしながらジャンバラヤを置いていったけど気にしない。
なんならゆん君は既に置かれたジャンバラヤに夢中だ。
ここに来ると彼は毎回頼んでいる。

スプーン大盛りに掬って大口を開けてご飯を詰め込むゆん君。
頬をリスみたいに膨らませながらも、しっかりと咀嚼しながら、イシヤマに向かって親指を立ててた。うんうん、よっぽど美味しかったんだね。

「ははっ、相変わらずいい食べっぷり。ありがとな。美味しく食べてくれて」

しばらくジェスチャーでイシヤマとゆん君でコミュニケーションを取っていたら、お客さまの中に、イシヤマ目当てで来てる子がいたみたいで、ヤツの素の笑顔に黄色い声をあげていた。
ゆん君がちょっと驚いていたので、「イシヤマって案外女の子にモテるんだよ?」と教えてあげると、とても興味無さそうな顔してたのも面白かったな。
ゆん君て、興味があるものと無いものの差が激しい。
きっと大学の女の子にもそんな感じなんだろうな。


✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼


「ごちそうさまでした」

「またおいで」

「はい。また来ます」

そんなイシヤマとのやり取りを経て店を出た。
今日は俺の奢り。
俺の仕事がトラブった時に、サポートしてくれた時のお礼だと伝える。
ゆん君は気にしてないと言ってくれたけど、こう言うのは気持ちだからね。

「凄く嬉しかったんだ。だからね、嬉しいのお返しがしたいんだよ。あとは、ゆん君最近いっぱい頑張ってるでしょ?それも労いたかったんだ」

そう、これもね。
女の子に慣れようとしたり、専攻外の試験の勉強したり。
自分のありたい姿に向かって努力してるゆん君はカッコイイ。

「ありがとうございます」

はにかみながらお礼を言うゆん君に、思わず俺も笑みがこぼれた。

帰り道は、のんびりと徒歩。
手は恋人繋ぎだし距離も近い。
たまにすれ違う人に二度見され、ゆん君の反応が気になったのだけど、彼自身は特に気にしてる感じでは無かった。

「兄ちゃんともこんな感じなので」

相変わらずお兄さんとの距離も近いらしい。
なので、俺も手を繋ぎ続けた。

「しばらくは、のんびり出来そう?」

と聞けば、大学もバイトも落ち着いたみたいで、ゆん君もなんだか楽しそうだ。また一緒に遊んだり泊まりたいと言われれば、諸手を挙げて快諾するし、

「あと……は……」

と、言い淀めば、

「うん、いっぱいしようね」

先回りだってしちゃう。

「まだ何も言ってません」

けど、

「違った?」

ゆん君の顔を覗き込んで聞けば、

「違いません」

顔を真っ赤にして肯定してくれる。

「ふふっ、顔が真っ赤のゆん君可愛い」

気まずいのか、顔を逸らされたので、目の前にある頬に素早くキスをする。
大丈夫、きちんと周りに人は居ないか確認してるよ。

ゆん君は更に茹でたこみたいに顔を赤くしていた。
手を繋いだり距離が近いのは平気なのに、キスは顔真っ赤にしちゃうのもギャップがあって可愛い。

✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼

「じゃぁね」

お互いの家の分かれ道。
試験で気疲れもしてるだろうし、今日は帰ってもらう。
寂しいは寂しいけど、ゆん君の休息の方が大事だからね。
ちょっと、別れ難くいたら、ゆん君は辺りを見回してから俺に近づき、唇に触れるだけのキスをしてくれた……!

「お仕事、頑張ってくださいね」

そんな気遣いも!優しいっ!
さっきは顔真っ赤にしてたのにっ!て思ったら、今も顔が赤い。
頑張って俺が喜ぶ事をしてくれるゆん君が好き。
最後に軽くハグをして別れた。

帰り道、寂しくなるだろうなって思ったけど、ゆん君がくれる愛情を思い出すと、寂しいなんて微塵も思わなかった。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!

灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。 何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。 仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。 思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。 みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。 ※完結しました!ありがとうございました!

目が覚めたら、カノジョの兄に迫られていた件

水野七緒
BL
ワケあってクラスメイトの女子と交際中の青野 行春(あおの ゆきはる)。そんな彼が、ある日あわや貞操の危機に。彼を襲ったのは星井夏樹(ほしい なつき)──まさかの、交際中のカノジョの「お兄さん」。だが、どうも様子がおかしくて── ※「目が覚めたら、妹の彼氏とつきあうことになっていた件」の続編(サイドストーリー)です。 ※前作を読まなくてもわかるように執筆するつもりですが、前作も読んでいただけると有り難いです。 ※エンドは1種類の予定ですが、2種類になるかもしれません。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

【完結】遍く、歪んだ花たちに。

古都まとい
BL
職場の部下 和泉周(いずみしゅう)は、はっきり言って根暗でオタクっぽい。目にかかる長い前髪に、覇気のない視線を隠す黒縁眼鏡。仕事ぶりは可もなく不可もなく。そう、凡人の中の凡人である。 和泉の直属の上司である村谷(むらや)はある日、ひょんなことから繁華街のホストクラブへと連れて行かれてしまう。そこで出会ったNo.1ホスト天音(あまね)には、どこか和泉の面影があって――。 「先輩、僕のこと何も知っちゃいないくせに」 No.1ホスト部下×堅物上司の現代BL。

初体験

nano ひにゃ
BL
23才性体験ゼロの好一朗が、友人のすすめで年上で優しい男と付き合い始める。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

同僚に密室に連れ込まれてイケナイ状況です

暗黒神ゼブラ
BL
今日僕は同僚にごはんに誘われました

処理中です...