食べたい2人の気散事・裏

黒川

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家に着くと、ゆん君はすでに起きてた。

「あ、起きたんだね。ゆん君おはよう」

挨拶をして、コンビニで買ってきたご飯をテーブルの上に置く。
俺が朝ごはんを食べない事を覚えていてくれてたみたいで、ゆん君は少し申し訳なさそうにしていた。
そう言う小さな事でも覚えていてくれるの、嬉しい。
挨拶程度に抱き締めて、シャワーに向かわせる。
夜、結構汗かいてたんだよね、ゆん君。
接客業なので綺麗な体で送り出したい。


✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼


サッパリとした表情で戻ってきた彼に、テーブルに並べた朝ごはんを見せる。
うーん、やっぱりコンビニ飯だと見栄えが悪い……
せめて栄養満点なメニューだと、言い訳がましく、CDフィットで薦められていたサラダの栄養表を見せれば、

「わざわざ調べてくれたんですね。ありがとうございます。でも俺、ジャンクな食べ物も大好きなので、あまり気にしなくても大丈夫ですよ。カップ麺も菓子パンもファストフードも、みんな好きです」

ゆん君の気遣いの塊が降ってきた。
あぁー。そう言う所、好き。
気遣いとか思ったけど、きっと彼の本心だ。
ゆん君は食べる事が好きだから、俺が菓子パンを買ってきたとしても、きっとどんな菓子パンなんだろう?とか興味持って本心で喜んじゃうんだろうな。
好き。
大好き。
思わず笑みが零れる。

お互いどれを食べようか、こっちも美味しい、それは何が入っているの?等と、分け合ったり感想を言い合ったりしながら、朝ご飯が済んだ。
こんな楽しい朝ごはんなら、毎日でも食べたいな。



食事も終わり、しばらくテレビを見ながら食休みをさせていたら、ゆん君のバイトの時間が差し迫ってきた。
俺もそろそろ始業時間。
寂しい気持ちもあるけど、今日の夜も会える!
浮ついた気持ちでゆん君を見ると、なにやら神妙な表情をしていた。
心配して、様子を伺えば、俺への気持ちに気付けて良かったとしみじみと言われた。
え、何それ嬉しい。

でも、確かに昨日ゆん君が追いかけて来てくれなかったら、そのまま関係はフェードアウトしてたんじゃないかなと思う。
もともと、俺はそのつもりだったし。
荒療治な気もするけど、きっかけをくれた店主さんにも感謝だ。
ゆん君も、同じように店主さんに感謝してるみたいなので、俺の分もお礼を言っておいて欲しい事と、改めてイロトリに予約して挨拶しに行く旨を伝えた。

最後に抱き合って舌を絡ませるキスをする。
まだディープキスは恥ずかしいのか、ゆん君が下を向いてしまったので「少しずつ、慣れていこうね」と、伝えると、

「タットさん!俺なんだかめっちゃ恥ずかしいです!!」

なんて、顔を真っ赤にして訴えてきた。
もうその訴えすらも可愛いとしか形容出来ない。
思わず笑ってしまったけど、彼もつられて笑ってくれた。
恋人同士のスキンシップも、日常的であると思えるようになって欲しい。

「行ってらっしゃい。また、夜にね」

そう言って、幸せな気持ちのまま、彼を見送った。


✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼


……夢じゃないよね?
改めて、昨日の夜から今朝にかけての出来事を反芻する。
思わず、古典的に自分の頬を抓る。
間違いなく痛い。
これは現実だ。
彼の事が好きすぎて、俺の頭がおかしくなって自分の都合の良い事を夢想し、幻覚を見ていたわけでもない。
……思い出そうと思えばリアルに思い出せる、ゆん君のペニスの感触に、刺激した時の反応。

あっあぁぁぁぁー!!!!可愛かった!!!可愛かった!!!すっごく可愛かった!!!

いきなり現実味が帯びてきて玄関先で飛び跳ねてしまう。
大の男が何してるんだ?と思うかも知れないけど、考えてもみて欲しい。
手に入らないと思ってた望みの無い男の子が!俺の事を好きになってくれて身体を預けてくれたんだ。
ソレって確率で言ったら飛んでもない天文学的数値になるんじゃない!?
誰も居ない事を良いことに、フーフーと鼻息荒く呼吸をする。
残念ながら、突っ込む人も止める人も誰も居ない。

荒い鼻息を、今度は鼻歌に変換させて居間に戻る。
どんだけ嬉しくても時間は残酷で、そろそろ俺の始業時間だ。
でも、今日は何となく捗りそうな気がするし、何がなんでも定時で終わらせるし、今夜ゆん君を連れて行くお店も決める。

うん、忙しいぞ。


✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼


チームのチャットで「今日の古川がエグい」と突っ込んできたのは同僚。「調子いいね」と言ってきたのはチームリーダー。「今日の古川さんのタスク管理どうなってんですか?」と聞いてきたのは後輩。
何とでも言ってくれ。
何がなんでも定時で上がると強い意志を持ったら思った以上に仕事が捗った。
終業の目処がついたので、ゆん君にメッセージを送る。

『時間通りに仕事終わりそう。駅前で待ち合わせでいいかな?』

昼休み中に、ゆん君が喜びそうなお店を見つけたので、今日はそこに連れて行くつもり。

恋人に昇格したおかげか、ゆん君のメッセージも何だか甘くなった気がする……
ハートの付いたスタンプを初めて貰った……脊髄反射の如く『大好き』をスタンプと言葉で伝えると、ゆん君からも『お仕事頑張って』と応援された。

予定通り定時に合わせて仕事を終わらせる。就業記録を提出し、仕事用のパソコンの電源を切って……これでおしまい。

少し伸びをしてスマホの画面を見ると、再びゆん君からメッセージが届いていた。

『兄ちゃんも一緒に行ってもいいですか?』


お兄さん……!?
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