食べたい2人の気散事・裏

黒川

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21:表~33

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「ゆん君?どうしたの?」

来るはずのない、今まさに諦めようとしていた彼が目の前に立っている。

「あの!明日!明日の約束をしてないなって思って……時間とか、場所とか……」

……酷いなぁ……まだ、俺との関係を続けようとするなんて。
あんな事して続けられるわけなんて無いクセに。

「会うの……?明日……?俺、さっきあんな事したのに?」

少し自嘲気味に笑ってしまう。
あぁ、こんな顔見せたく無いのに。

「夕飯一緒に食べようって言ったじゃないですか……」

苦しい。
好きになって貰えないまま、俺は彼との関係をこれからも続けなくてはならないのかな?
ゆん君の性格上、曖昧な態度はきっとダメだろう。きちんと「もう会えない」とハッキリと言わない限り。
あぁ、言わなくちゃ……言いたくないけど……
俺が感情を拗らせていると、


「俺、タットさんの事が好きです」


ゆん君に言われた。うん。知ってる。
親愛の感情ね。お兄さんと一緒のポジション。そんなの、知ってる。
恋愛感情じゃない事くらい、知ってる。


ここまで来て、ソレをわざわざ言いに来るなんて、残酷だ。



「ふふ、ありがと。こう言う時も、ゆん君て気持ちに真っ直ぐだよね。今の俺には、ちょっと残酷過ぎるけど」

嫌味のひとつくらい言ってもいいよね。

「違います。好きです。ちゃんと、好きです。お付き合いしたいとか、恋人になりたいとか、そう言う意味での好きです。さっきのさっきで信じてもらえるか分かりませんが、今、気付きました」

ん?

「だって、簡単な事だったんです。気づけなかった俺が馬鹿でした。タットさんへの気持ち、他の高校の時の友だちとか、大学の奴らとかと、全然違ってたんです。タットさんだけなんです。会えて、遊んで、ご飯一緒に食べて、凄く楽しくて嬉しいって思うのは。さっきの事で、もう会えなくなるかも知れない、と考えました。そしたら、もの凄く不安になって、タットさんを追いかけました。こんなの友人の枠を既に超えてます」

あー。
うん?
つらつらと淀む事無く、真っ直ぐに俺を見据えて語る。
……ゆん君が話してる事が上手く飲み込めない。
いや、何を言ってるかは分かっているけど、自分の都合の良い事ばかりで、幻聴なのではないか?とすら思ってしまう。


「オオカミさん、俺を食べてください」


そう、ゆん君に言われると、彼に腕を掴まれ引き寄せられ、


触れるだけのキス。


けれども、さっきのキスとは違う。
しっかりと触れ合って離される。


「俺の2回目です。こんなお子さまなキスでは、ダメですか?」


緊張してるのか、俺の腕を掴む手が少し震え、目元が真っ赤で必死の顔。
可愛い。めちゃくちゃに可愛い。
俺も、これは幻覚でも幻聴でも無く、ゆん君が自ら考えて来てくれて、さっきみたいな衝動的ではなく、きちんと分かって行動に移した事なのだと思ったら、みるみると顔の温度が上昇した。

けれども、


「ゆん君……展開早すぎて俺の気持ちが追いつかない……」

本当に応えていいのかな?恋愛対象は女の子だと言っていた子が、俺の傍に立ってくれるの?
俺が曖昧な態度で居ると、ゆん君の心はもう決まってるみたいで、ハッキリと言葉を紡いでくれた。

「なら、待ちます。タットさんが待ってくれてたみたいに、俺も待ちます」

うん、覚悟してくれたんだね。
嬉しい。とても嬉しい。
しどろもどろに、今の気持ちと感謝の言葉を伝えていたら、思わず涙が出てしまった。

想いが通じるって、こんなにも嬉しい事なんだ。

「明日、会ってくれますね?ご飯、一緒に食べてくれますね?」

再度、確認するように聞いてくるので、俺も何度も頷いて、約束をした。
凄いな。
ずっとマイナスの事しか浮かんで来なかったのに、ゆん君の言葉一つでこんなにも嬉しい気持ちになれるなんて。
これって、両思いって事でいいんだよね?
あー……そうか。
俺は、あの映画の主人公じゃなかった。
改めて、今の状況を噛み締めていると、ゆん君が飛んでもない事を言ってきた。

「タットさん、今日お泊まりしていいですか?」

「は!?え!?」

「泊まっちゃ、ダメですか?」

「ダメだよ!?何言ってるの?今日の今日でそんな事許されませんが!?俺が何もしないとでも思ってる?」

手を出さないとか無理でしょ!?

「だって俺、タットさんへの気持ちに気付いたら、離れたくないって思ってしまったんです。良いんですか?このまま俺を帰して。このまま家に帰ったら、俺、寂しくなってハラハラと泣きだしますよ?」

「言い方っ!!!」


あ~……!そうだよそうだよ!
ゆん君は決まると行動が早い子だからね!
一緒に遊んでて知ってた!
けど!
けど!
恋愛関係に関しても!?って気持ちかな!!
相手は恋愛初心者、相手は恋愛初心者……しかもノンケ……そう自分に言い聞かせて言葉を絞り出した。

「親御さんにキチンと連絡して。許可を取る。泊まる先は恋人のお家って絶対に言うこと!出来る!?」

年頃の男の子だ。
家族仲は良いのは知ってるけど、さすがにコレは恥ずかしくて出来ないだろうとタカをくくっていたが、ゆん君は素早くスマホを弄りだした。

え?まさかの?

「母さんから許可貰いました」


『OK』と描かれた可愛いウサギのイラストスタンプを見せてくれた。

「おかあさん!!!」

俺もそのスタンプ持ってる!!!
シリーズで!!!

相原家の家族仲を舐めてた。
ゆん君はかなりご機嫌だ。
許可を取るようにと言ってしまった手前、断る事も出来ず、俺は足取り重く、ゆん君と一緒に自分の家へと帰った……


いや!?嬉しいけどね!?
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