食べたい2人の気散事・裏

黒川

文字の大きさ
上 下
21 / 67

19:表~31

しおりを挟む
「虫がよすぎる話」

確かにそうだ。
でも……

「最初から、ゆん君はきちんと俺に言ってくれていたよね?君のハタチのお祝いをした帰りに。それでもいいから、これからも一緒に居たいって、俺は言ったはずだよ」

ここに罪悪感を覚えたのなら、しっかり訂正しておきたい。俺だって、この曖昧な関係を享受してきたんだから。

「今は……タットさんの気持ちを蔑ろにしていた、と言う気持ちでいっぱいです……ごめんなさい」

「うん……俺としては、気にしなくていいよって言いたい所だけど、ゆん君にとっては、そう言う話では無いよね」

「はい……」

店主さん、なんて事をけしかけてくれたんだ?と恨めしい気持ちが沸きつつ、俺も俺で少しこの関係にナーバスになっていたから、良いタイミングだったかも知れない。
こうやって、俺の気持ちを真剣に考えてくれてるんだ。

「じゃぁ、改めて聞くよ?俺は、ゆん君の事が好き。なんなら、最初の告白した頃よりもっと好き。もちろん、恋愛的な意味で言ってるからね。出来る事ならお付き合いしたい。恋人なら許されるような関係を築きたい。独占したい。ゆん君は?」

「俺も、タットさんが好きです。恋愛的な意味か、まだ分かりません。でも、タットさん以上に好きな人はいません。これからも出来る気配はありません。タットさんが、他の人を好きになってしまう事を想像すると、悲しくなります」

あぁ、なんでコレが恋愛じゃないんだろう?

「コレは、恋愛的な意味で好きって事なんでしょうか?」

俺に聞かないでよ。悪い大人になってしまいたい。

「それ、俺に聞く?そんな事聞かれたら、悪い大人になって『そうだよ、ゆん君のソレは恋愛的な意味で俺の事が好きと言う意味だ。だから俺と付き合おう』って言っちゃうよ?」

ほんと、俺で良かったね?ゆん君を前にして、あの店主さんの威圧を貰って、悪い大人になんてなれるはずがない。

「タットさんが、俺の気持ちを大事にしてくれている事、とても嬉しいです。でも、その大事にしてくれている裏で、俺はタットさんの気持ちを蔑ろにしていたんだと、今は感じています」

それでいい。その言葉だけで、今はいい。

「うん、俺はそれで今は十分だよ。意識してくれるようになったんだなって、感じられる。とても嬉しい」

厳密に言えば、これからも現状維持だけど、ゆん君の心持ちが少しだけ変わったのは、俺にとっては大きな進歩だ。
気持ちを完全に切り替え、店主さんに作って貰ったココアを頂く。

「おいしーぃ!苦味と甘味のバランスが絶妙だね!」

さすがイロトリ。
ココアすらも特別なのか。
今度どこのココアを使ってるのか、店主さんに聞いてみよう。
ゆん君にもココアをすすめて、2人で飲み干すと、ゆん君がカップを片付けてくれた。

裏口から店を出て、ゆん君が施錠を確認すると、2人並んで駅に向かった。

「明日は朝からバイトなんだね」

店主さんとのやり取りを思い出しながら予定を聞く。

「はい。でも、明日は通常営業がランチタイムまでなので、俺はそこで終わりです…………あの……迷惑じゃなかったら、タットさんがお仕事終わってから、一緒に夕飯どうですか?もう何か予定とか入ってますか?」

さっきのやり取りの後にコレ!
あぁ~!もう好き!!ありがとう!!

「全然っ。何も予定入ってないよ?仕事も、夜の打ち合わせ無いし。定時で終われる。むしろ何がなんでも終わらせるよ!夜から会おう!一緒にご飯食べよう」

ギュッと手を握って、体をひっつけると、ゆん君もその距離感を受け入れてくれた。
少しは意識してくれている、と思っている。
あともう少し……こっちに向いてくれたらいいな……好きになって。
俺の事、お願いだから好きになって……?

なんて願いながら、並んで歩いていると、


「タットさん、」


名前を呼ばれ、ゆん君が立ち止まった。


「ん?」


いつもの様に顔を覗き込んで返事をすると、そのままゆん君の顔が近付き……






キスされた…………




しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

【完結】嘘はBLの始まり

紫紺
BL
現在売り出し中の若手俳優、三條伊織。 突然のオファーは、話題のBL小説『最初で最後のボーイズラブ』の主演!しかもW主演の相手役は彼がずっと憧れていたイケメン俳優の越前享祐だった! 衝撃のBLドラマと現実が同時進行! 俳優同士、秘密のBLストーリーが始まった♡ ※番外編を追加しました!(1/3)  4話追加しますのでよろしくお願いします。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

好きなあいつの嫉妬がすごい

カムカム
BL
新しいクラスで新しい友達ができることを楽しみにしていたが、特に気になる存在がいた。それは幼馴染のランだった。 ランはいつもクールで落ち着いていて、どこか遠くを見ているような眼差しが印象的だった。レンとは対照的に、内向的で多くの人と打ち解けることが少なかった。しかし、レンだけは違った。ランはレンに対してだけ心を開き、笑顔を見せることが多かった。 教室に入ると、運命的にレンとランは隣同士の席になった。レンは心の中でガッツポーズをしながら、ランに話しかけた。 「ラン、おはよう!今年も一緒のクラスだね。」 ランは少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑み返した。「おはよう、レン。そうだね、今年もよろしく。」

ある少年の体調不良について

雨水林檎
BL
皆に好かれるいつもにこやかな少年新島陽(にいじまはる)と幼馴染で親友の薬師寺優巳(やくしじまさみ)。高校に入学してしばらく陽は風邪をひいたことをきっかけにひどく体調を崩して行く……。 BLもしくはブロマンス小説。 体調不良描写があります。

後輩に嫌われたと思った先輩と その先輩から突然ブロックされた後輩との、その後の話し…

まゆゆ
BL
澄 真広 (スミ マヒロ) は、高校三年の卒業式の日から。 5年に渡って拗らせた恋を抱えていた。 相手は、後輩の久元 朱 (クモト シュウ) 5年前の卒業式の日、想いを告げるか迷いながら待って居たが、シュウは現れず。振られたと思い込む。 一方で、シュウは、澄が急に自分をブロックしてきた事にショックを受ける。 唯一自分を、励ましてくれた先輩からのブロックを時折思い出しては、辛くなっていた。 それは、澄も同じであの日、来てくれたら今とは違っていたはずで仮に振られたとしても、ここまで拗らせることもなかったと考えていた。 そんな5年後の今、シュウは住み込み先で失敗して追い出された途方に暮れていた。 そこへ社会人となっていた澄と再会する。 果たして5年越しの恋は、動き出すのか? 表紙のイラストは、Daysさんで作らせていただきました。

Take On Me

マン太
BL
 親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。  初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。  岳とも次第に打ち解ける様になり…。    軽いノリのお話しを目指しています。  ※BLに分類していますが軽めです。  ※他サイトへも掲載しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】

彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』 高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。 その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。 そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?

処理中です...