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本編

9-カナタ キリ の、距離。

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ご飯も食べ終わって、一緒にキッチンに立って食器を洗う。
僕が洗ってマチ君が拭いて片付ける。
マチ君は片付けなくていいって言ったけど、ご馳走になるだけじゃ悪いし。

「いや、部屋片付けてくれたじゃん」

って言ってくれたけど、それだけじゃ足りないって思ったし、食べた後のお皿をそのままにしておくの、ムズムズしちゃうんだよね。早く片付けたい気持ちになる。
それに、2人で食器を片付けるのが楽しい、って今気づいた。

「一緒になにかするって楽しいね」

そうマチ君に伝えると、そっぽ向かれた。アレ?マチ君は楽しくなかった?僕は陰キャだから、かなりの確率で距離感を間違える。今回も間違えたかも知れない。

「あ……ご……ごめ………ごめん……図々しかったね……」

食器を洗ってた手が止まってしまった。

「いや、こっちこそごめん。直ぐに反応出来なくて。……うん、俺も楽しい。キリと一緒に何かするの、楽しい」

「へ………へへ……うん…………良かった……」

俯いて、止まってた手を再び動かし始めた。
良かった。……もしかしたら、距離感間違えていたかも知れないけど、マチ君はコミュ強だからフォローしてくれたみたい。

でも、ちょっと気まずい雰囲気になってしまって、黙々と2人黙って食器を片付け続けた。


▪▫❑⧉◻︎□◻︎□◻︎⧉❑▫▪


キッチンもリビングのテーブルも全部片付く頃には、良い感じの時間になってた。これで自分のアパートに帰ってシャワー浴びてラキちゃんのSNSチェックすれば、僕の寝る時間くらいかな?
スマホの時計を見ながら、これからの事を考える。

「もう帰るのか?」

「うーん。明日も仕事だしね。マチ君だって学校でしょ?」

「まぁ……」

本当は少し名残惜しいんだけどね。マチ君も同じ気持ちだったら嬉しいなぁとか思っちゃう。

「なぁ?連絡先交換しねぇ?もうここまで来たらSNSだけとか有り得なくないか?」

「確かに。でもいいの?僕と交換なんて」

僕みたいな陰キャと連絡先の交換なんて罰ゲーム以外何物でもないと思うんだけどな。

「キリと交換したいんだよ」

そう言ってくれたから、僕はマチ君と連絡先を交換した。高校卒業以来かも?プライベートで誰かと連絡先を交換するなんて。
僕は新しく登録されたマチ君の名前を眺めた。

「わ、マチ君て下の名前サガリ君て言うんだ?」

「おぅ、呼びたかったら下の名前で呼んでいいぜ?」

「んー?マチ君」

「呼ばねーのかよ」

「うん」

刷り込みってやつなのかな?今更マチ君を下の名前で呼ぶのは何だか恥ずかしかった。
ボソッとマチ君が何か呟いてたけど、僕に言いたい風でも無かったから、特に気にしなかった。
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