コトコトコトの番外事

黒川

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中本さんの番外編

中本さんの子守事情 1

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✷お読みいただく前に✷

⋯⋯本編より文字数増えちゃった(震え声)

中本さんの事情事、食べたい2人の気散事が少しクロスオーバーしています。
中本さんの元奥さんは、気散事の相原裕也の姉、相原美結です。
中本さんと美結の間には、陽太ひなたと言う男の子が居ます。
今回、その陽太が、がっつり絡みに来ます。
苦手な方は回避してください。
9~10話で完結します。


【時代設定】
中本さんの事情事、本編から2年後。
・中本大地34歳(本社勤務)
・平久陽一30歳(神奈川支店勤務)
・相原美結31歳(バリキャリ)
・相原陽太5歳(年長)
・相原裕也21歳(大学3年)

✱✚✚✚✚✚✚✚✚✚✚✱



俺こと中本大地の人生は色々と流される事が多かった。
その中でも、一大イベントと言えたのが結婚と離婚と同性の恋人が出来た事だろう。
もともと、自分の貫きたい意志と言える程のものは無く、何となく言い寄られて、何となく頼られて、何となく応えて、それが俺の生き方だった。
元嫁との関係もそうだった。
何となく嫁がアプローチしてきて、何となく告白されて付き合ってプロポーズされて結婚して子どもが生まれて、しばらくしたら離婚届を突きつけられた。
2年前の話だ。
元嫁からは、慰謝料も養育費も必要無いと言われ、そこまで俺は甲斐性のない男なのかと落ち込みもしたが、そもそも離婚理由において明確な俺の非ってあったか?と疑問だったし、元嫁の家族からは「むしろ申し訳ない」と謝られたくらいだ。養育費を払うくらいの甲斐性は持ち合わせているつもりだが、彼女も彼女でエリート職の高給取りだ。一馬力で子ども1人育てる経済力くらいあるのだろう。とは言え、貰えるものくらい貰っておけばいいのにとも思うのだが、性格上無理なのかも知れない。アレもアレで面倒くさい性格をしている。
子どもに対する未練はあるか?と言われればそこまででもない。あまり関わっていなかった。それに「ママ、ママがいいの」と言われてしまえば俺の出る幕なんてないだろう?
離婚時に面会の話も出てきたが養育費も払わないのに会うだけ会うなんて言えず、断った。
そんな息子ももう年長か?来年は小学生になるのか?
時間が経過するのも早いものだ。

……なんて事をなぜ思い返しているかと言うと。
土曜日と言う休日の始まりの早朝から、何度も何度も元嫁から着信が入り、無視し続けていたら留守番電話に怒声が入ったからだ。

『早く出なさいって言ってるのよ!!気づいているのは分かってるのよ!!おはよー!!おきなさーーーい!!』

声量はそこまで大きくはないのだが、よく通る声なので耳も頭も痛い。隣で半裸で寝こけている平久もさすがに起きた。
平久とは、現在付き合っている恋人だ。
性別は男。
俺もそっちの素質があるとは思っていなかったが、何だかんだ仲良く続いている。

「中本さん、それ出ないんですか?」

掠れた声で平久が言う。

「嫌な予感しかしねぇんだよ」
「わかりみ」
「でも、」
「だよな……」

元嫁は強引な性格ではあるが、非常識な事はしない。
それがコレだ。
恐らく緊急を要するのだろう。
また着信があったのでワンコールで出る。

「はい」

「もしもし、アタシ美結。いま、あなたのマンションの扉の前に居るの」

「は!?」

「来ちゃった♡」

「は!?」

元嫁は強引な性格だが、非常識な事はしない。
……しない……はずなのだが……

俺は平久に「ちょっと外に出てくる。お前は空気に徹してろ」と伝えた。


◆◆◆


外に出てもギリ大丈夫(だと俺は思っている)なスウェットに着替えてマンションのロビーに向かえば、元嫁が仁王立ちをしていた。

「あなた引っ越したなら言いなさいよ。智也と裕也にだけ知らせるなんて私への嫌がらせ?」

離婚した直後、俺が出て行く事になった時、急過ぎて適当にマンスリーマンションに身を置いた。その時は離婚したばかりなので連絡先として住所は伝えていたが、その後職場の異動に合わせて今住んでいるマンションに引っ越したが、確かに元嫁には伝えなかった。
そもそも、お互い連絡なんて取り合わなかったし。
義理の弟君たちに伝えたのは、未だに3人のグループチャットが残っていて、そこに2人が定期的に連絡をくれるからだ。

なんて言い訳すれば、10倍で文句が返って来るのも想定の範囲内だ。だから俺は口をつぐんだ。

「まぁ、いいわ。ちょっと今日だけでいいの。ひーを預かって欲しいのよ。どうせ予定なんて無いでしょ?ほら、ひー。あなたのお父さんよ。今日はお父さんと遊んでもらってね」

「は?」

目を下におろせば、確かに存在していた。
静か過ぎて気づかなかった。
元嫁の顔しか見えていなかったが、息子である陽太ひなたが、元嫁の足にしがみついて俺の顔を見ていた。

「陽太か⋯⋯大きくなったな」

別れたのは2年前。
子どもの2年とは何ともデカい。
別れた時、こいつは日本語が話せていただろうか?そんな事をよぎった。

「おとうさん?」

どこまで理解しているか不明だが、

「陽太の父さんだな。久しぶり。覚えているか?」

と、聞いてみるが、陽太は不安そうに首を横に振るだけだった。
血の繋がった息子とは言え、約2年会ってないのだ。
こんな状況でいきなり預かれとは、元嫁は何を考えているのだろう?
少し責めるように元嫁を見れば、かなり切羽詰まった表情をしていた。

「無理を言ってる自覚はあるのよ」

元嫁がため息を吐いた。これは本当に困ってる時の態度だ。離婚したとは言え、なんだかんだ理解しているつもりだ。

「あー、分かった。で、いつまで預かるんだ?」

「え?理由とか聞かないの?」

「聞いても聞かなくても結果は同じだろ。美結は強引だがこう言うスケジュール管理はしっかりしてた筈だ。それを無視して来たんだから、よっぽどの事だろ?」

「あぁ、ホントにごめん。今日だけだから。仕事でどうしても行かなくちゃダメで、シッターも両親も弟たちも」

「うん、いいよ。取り敢えず預かる。気をつける事は?」

「まとめた」

彼女の通勤カバンからクリアファイルが出され、まぁまぁ本格的な書式で『【陽太】取り扱い説明書』と書かれた用紙を渡された。
身長、体重、好きなもの、普段の休日の過ごし方、今日の大まかなスケジュール等など。

「18時に、私の弟の裕也がここに引き取りに来るわ。その時には家に居て欲しいの」

「分かった」

「じゃぁ、本当に急でごめんなさい。ひーの事お願い。ひー、お父さんにいっぱい甘えときなさい。夕方になったら、ゆう兄ちゃんと一緒にじいちゃんばあちゃんちよ?」

元嫁は、息子を足から引き剥がし、俺の近くに立たせた。

「はーい。ママ、お仕事がんばってね」

「ん、ありがと。ママいっぱい稼いでくるから、ひーはお父さんと一緒しててね」

最後に元嫁は息子を強く抱き締めて、その場を去った。
何となく、息子の様子を見ながら、元嫁が見えなくなるまで2人で見送った。
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