コトコトコトの番外事

黒川

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食べたい2人の番外編

相原君の成人式。

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本編終了後、裕也の成人式話です。
少しだけ、モブ女子ちゃんが微ザマされてますので、苦手な方はご自衛ください。


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年が明けてチラホラと大学、高校、中学時代の友人から連絡が入る。

中学時代の奴らからは年初めの挨拶と、成人式どうするかの話。
リアルで会う事は滅多にないけど、仲の良かった奴らとは季節の節目で繋がっている。
その仲の良かった友人たちの1人から、とある確認が入った。
連絡アプリのグループチャットなので、もちろん他の友人たちも情報を共有する。

『中学の同窓会誘われたか?』

それを聞いてきた友人は、中学時代唯一俺ら仲間内で交友が広かった奴だった。

『『『いや?』』』

俺含め、他の友人たちも即答。
何も誘われていない。
聞けば去年12月から成人式の後にみんなで集まろうと話題が出ており、主要クラスメイトには連絡が入っていたそうだ。

『主要クラスメイト』

要するにヒエラルキー上層から中層のやつらだな。
正直俺らのグループは下層の中でも最下層だった。まぁ、そうレッテルを貼っているのはあくまで周りだけであって、俺らは気にした事は無い。
毎日が楽しくてそんな事を気にする暇なんて無かった。
みんなそれぞれ好きな事があって夢中になって、語り合って笑い合えた。
ずっと楽しい中学生活だった。
で、俺のクラスだけで言えば、ヒエラルキーはだいたい女子のグループが格付けしていて、男子たちは各々好き好きに気の合う友人たちと集っていただけだから、俺らも下層と言われつつもイジメだ仲間はずれだなんて事は、男子同士の中では一切無かった。

連絡が来なかったのも、恐らく……と、考えていたら、正解が来た。


『幹事がジャニ子だからか』


誘われない組の俺らは納得した。
ジャニ子と呼ばれた彼女は、もちろん本名では無くニックネームだ。本人もそう呼ばれる事を望んでいたので、周りはみんなジャニ子と呼び、なぜか俺らはだけは「ジャニ子さん」とさん付で呼ばされていた。
と言っても関わる事なんてほとんど無かったので呼ぶ事も滅多に無かったが。

彼女は言うなればヒエラルキーのトップ。
美人、頭いい、スポーツ万能。
高校は、学区内で1番頭の良い女子高に推薦で進学。
とても優秀な女子だった。
先生からの信頼も厚く友だち想い。
友だち想いなのは……自分の懐に入れたヤツのみ。
まぁ、彼女の懐はかなり広範囲だったので、大概の生徒は彼女の懐に入り、俺らと一部のクラスメイトたちだけが溢れた。

『おかしいと思ったんだよ、参加人数が綺麗にお前らとアイツらが入っていないのさ』

アイツらと言うのは、俺ら以外のジャニ子の懐に入らなかった奴らだ。

『ムナクソ悪いからジャニ子に言うわ』

そう言われたけど、別に行きたいわけではないので、誘われてない組の俺らは揃って断った。

『『『それなら、俺らは俺らだけで集まるわ』』』

『ヤダッ♡♡楽しそうっ!俺もそっち行く!!』

唯一誘われてる交友の広かった奴も、参加費と顔出しだけして俺らの方に合流すると言い張った。
別にいいけどね。
久しぶりにリアルで会える事に、俺は心浮き立った。


✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼


成人式当日。
俺は入学式に着たスーツを少しサイズ直したもので式に参加した。
視線が痛い。

まぁ、分かる。
自分で言うのも何だけど、俺って黙って立っていればそこそこイケメンなんだよ。

あと、送り出してくれた兄ちゃんがとびきりのイケメンなのも注目された原因だ。
兄ちゃんは、車を駐車場に置いて、会場まで付いてきてくれた。

「裕也!カッコイイ!俺の弟!カッコイイ!」

腕組んでその手の先は恋人繋ぎ。
それはいつもの事だから別に良いんだけど、終始褒められまくったのは恥ずかしかった。
門の前でギューギューに抱擁されて頬にキスまでされれば、そりゃ目立つだろう。
いたたまれなくなっていると、控え目に話しかけられた。

「お前の兄ちゃん相変わらずスゲーな……」

振り向けば、既に中学時代に仲の良かった友人たちが揃っていた。
交友が広い、ライトなゲーオタの、高井。
ゲーオタ、アニオタの、近藤。
ゲーオタ、ドルオタの、浜口。
ゲーオタ、(元)プロ意識デブの、俺。
なんだかんだゲームで繋がってた4人だ。

「「「「なんか、変わったなぁ……」」」」

お互いに言い合って、4人揃って笑い合った。
しばらく会ってなかったとは言え、オンゲでそれぞれプレイし合っている仲の良い4人組だ。
あの時のノリのまま、会話を楽しんだ。
オンゲでは近況も含めて話しているので、そこまで懐かしさは無い。
和やかな雰囲気が心地いい。
陽キャみたいな騒がしさも見栄もマウントも何も無い、このぬるま湯みたいな関係が好きだった。

式典が始まると、会場の後ろに立って適当にお偉いさんの話を聞く。
とても退屈だった。
何とか終わりまで耐え忍んで、会場を出ると4人とも一旦解散。

「俺は同窓会にちょっと顔出ししてくる。けど!絶対こっち戻るから!戻るからな!?ダメだよ?俺の席取っておいてね!?絶対だからな!?」

高井が、物凄く後ろ髪引かれてますと言わんばかりに去って行った。

「んじゃ、俺らも着替えてから集まる?それとも一戦交える?」

ゲームコントローラを握る仕草で近藤に言われたけど、恐らく予約も何も取ってない俺らが行ける場所なんて限られているだろうから、早々に家戻って着替えてから集まる事にした。

その時だった。

「相原くん!」

甘ったるい臭いと共に、やたらとハッキリとした発音で女性に声をかけられた。
声の主の方に顔を向ければ、なんともケバい顔した女性がいた。振袖も目がチカチカし、なかなかに派手派手しい(個人の感想だ)

後ろでは、高井が物凄く焦って手を合わせて頭を下げている。謝罪の仕草だ。

「ねぇねぇ、相原くん!私ジャニ子!覚えてるよね?てか、すっごくカッコよくなったね!ねぇ、このあとみんなで同窓会するんだけど。暇でしょ?来ていいよ!みんなに紹介してあげるから!こんなにかっこよくなってるなんて知らなかったぁ!!凄いイケメンだね!SNSやってる?やってたら教えて!フォローしてあげるよ!アタシのフォロワー1000人超えてるからそっちでも紹介してあげる。今の相原君ならすぐフォロワー増えるよ!」

怒涛だ。
入って来る言葉が全て不快だった。しかもその後ろからワラワラと当時の同級生らしき人物たちも集まってきてるし、所々で「あの相原?」「デブだった相原?」「え?カッコイイんだけど?」「整形でもしたのか?」「整形?」「脂肪吸引?」と心無い声も聞こえてくる。

「ねえ?成人式始まる前に一緒に居た男の人って相原くんのお兄さんでしょ?直ぐに話しかけに行きたかったんだけど、私みんなに囲まれちゃってて行けなかったんだ。すぐに話しかけに行ってあげられなくてごめんね!お兄さん相変わらずすっごくイケメンだね!中学時代から知ってたけど、さらに大人の男性って感じでカッコよかったぁー、ねぇ、よかったら私の事さ、紹介して欲し……」

あぁ、もう不快。聞きたくない。

「ヤダ。ぼく帰る。てか同窓会なんて誘われてない。俺らは連絡来なかった。どの口が言ってるの?近藤、浜口、行こ。高井、後で待ってる」

久々に出てしまった。
全力拒否。
しかも我ながら酷い。
大学ではお馴染みの態度だけど、ここでは違う。
けど、無理。
外見だけで判断するあの態度が無理。
掌を返すあの態度が無理。
俺や兄ちゃんをアクセサリかなんかと見てるのが無理。
俺の見た目が変わった時に感じたモノがフツフツと沸いて、今まで女子に慣れようと努力していたモノが全てどっか行った。
でも、無理なものは無理。
きっと俺の中で、彼女はそう言う部類なのだろう。

呆気に取られてる隙に、近藤と浜口の肩を抱いて走り出す。逃げるとも言う。
あとは高井、お前のコミュ力を信じる。

俺たち3人は会場を後にした。


✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼


「一軍怖いよぅ」

ドルオタの浜口がサメザメと泣くフリをしながら、推しドルのSNSに物凄い速さでリプを送りまくってる。

「三次元無理だよぅ」

アニオタの近藤は今期アニメの情報サイトを物凄い速さでチェックしまくってる。

「アレは無理だ」

俺はタットさんに成人式が終わった事、このあと友人たちと遊ぶ旨を報告。
三者三様、先程のダメージから回復すべく、己の趣味や好きなモノで癒された。

「「「ふぅ……」」」

ため息ついて、3人で顔を見合わせて吹き出した。

「ジャニ子さんの顔、見た?」

近藤がクスクス笑っていた。

「見た見た、相原が『やだ』って言った後、すっごい怖い顔してた。夢に出るよぅ!」

引き続き浜口がサメザメと泣くフリをしている。

「俺、そう言う時は絶対目を合わせないって決めてるんだ」

俺がそう答えると、ポンポンと2人に優しく肩を叩かれた。

「きっとさ、同窓会なんて今回限りだし、中学時代の友だちなんて親しい奴だけが続いて行くんだよ」

「そうそう、あそこに参加したって結局束の間の表面上の関係しか得られないんだしさ、俺らは俺らで続くだけ続けばそれでいいんだよ」

中学時代の友人たちは、そう言って俺の手を引っ張ってくれた。
相も変わらず、気の良い友人たちだ。
これからまた会う事は滅多にないだろうけど、要所要所で集まれたら、それでいいし、集まれなかったら、それでもいい。
そんなぬるい関係が、俺たちだ。

「うん。とりあえず、高井が無事に帰ってくる事を祈っておこうか」

そう言って、3人で神に祈るポーズで空を見上げた。


✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼


一旦家に戻って再び集まった場所は、イシヤマさんが経営するバー。
なんと、俺の出来た恋人タットさんが『迷惑じゃなかったら……』と、予約を取っておいてくれていたんだ。
予定なんて分からないはずなのに。

「うん、必要無かったら俺が1人で行けばいいし、ゆん君の予定が無かったら2人で行くつもりだったし、予定があれば提案の1つとして…ね?何も困る事はないでしょ?」

なんて電話越しで言われたら、もう好きになるしか無い。既に好きだけど。
なので、有難くお店を使わせてもらった。
他にも成人式終わりのグループがチラホラ居て、かなり騒がしかった。
俺らの席だけ、和やかな時間が過ぎている。

メニューを運んでくれるイシヤマさんやスタッフさんが「癒しのテーブル」と囁いて来たのには笑ったけど。

しばらくすると、高井も合流してきた。

「お前らが去って大変だったんだからな?」

と言うセリフと共に、事の顛末を教えてくれた。
俺が「誘われてない」と言った後、他の同級生に「どう言うこと?みんな誘ったって言ったよね?」とジャニ子が詰められたらしい。
ジャニ子はジャニ子で「全員誘うのは大変だったからもしかしたら漏れたのかも?」と言い訳すれば微妙な空気になり、言い訳に言い訳を重ねまくるジャニ子に他の奴らも微妙な眼差しと態度を示し、同窓会も盛り上がりに欠けたのだと。

「まぁ、俺はすぐ離脱したからその後は知らないけどね」

高井は頼んだカシスオレンジをグイっと飲み込んだ。

「ヤダ……お酒美味し♡♡てか、ここなに?超いい店だね。雰囲気いいし、お酒美味しいし、ご飯も美味しそう」

「イシヤマさんのお店だよ」

俺が答えると、

「出た。説明不足の相原節」

と笑われた。
あ、と気づいて訂正する。

「俺の最近のお気に入りの店。俺も知り合いに教えて貰ったんだけど、ご飯めっちゃ美味しい。お酒は、良く分かんないけど、アルコール控えめって言うと少なめで作ってくれるよ」

「相原が補足するとは。成長してる。さすがハタチ」

3人に拍手されたので、俺もドヤれば、また4人で笑い合った。


✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼


存分に会話を楽しみ笑いあってお酒を飲んで食事をする。
そろそろお開きか?と、言うところでイシヤマさんが俺たちのテーブルにデザートを持ってやってきた。
頼んでないのだけど、と思いつつもテーブルに置かれたモノを見てしまう。
大きめのプレートに、小さなケーキが4つ乗って、周りには飾り切りされた果物が綺麗に並んでいる。

「今回のご予約は、成人式のお祝い後の同窓会と伺っています。そんなハレの日に当店をお選び頂きありがとうございます。こちらは予約頂きました古川様からのサービスですので、最後にお楽しみください。改めて、成人おめでとうございます」

そう説明して、イシヤマさんはカウンターに戻っていった。

俺たちがキョトンとしてると、比較的順応性のある高井が口を開く。

「古川さんて誰?」

「恋人」

スルンと口から出てしまった。
そこからは怒涛。

「おまっ!彼女居たの!?」「リア充撲滅!!」「裏切り者!!」「末永くお幸せに爆発しやがれ!!」「裏山けしからんっ!!」

散々に言われ、ケーキは何とか死守したけど、飾り切りの果物は3人に奪われた。
恋人が男性だと言うことは暈したけど、年上の社会人と付き合ってる事を伝えると、さらに盛り上がった。

会計に行けば、イシヤマさんに、

「古川様からお申し出がありましたので…」

と、支払いを断られ、

「お前の彼女どんだけスパダリなの!?」「抱かれたいっ!!」「抱いて!」「もはや相原が抱いて!!」「いよっ!抱かれたい相原ナンバーワン!!」

と、酔いもあってか、三者三様にからかわれた。
久々に集まったけど、終始楽しい時間だった。
別れる時には「たまにでいいからさ、リアルでも会いたいな」って、4人で言い合って締め括った。


✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼


後日、タットさんに会ってお礼を言った。

「んーん。俺だって何かお祝いしたかったんだよ。ありがとうね、イシヤマの店に行ってくれて」

「友だちが凄く喜んでました。雰囲気の良いお店だって。その……恋人のタットさんが男性って事は伝えなかったのですが、3人ともタットさんの事、すごく良く言ってました」

抱かれたい抱いての件は黙る。

「ふふっ、カッコつけたかったんだよ。あとは……牽制かな?」

「牽制……」

「ゆん君を狙う子たちにね、この子の恋人はオトナの魅力に溢れてますよーだ、オコサマはお呼びじゃないですよーって」

大人の魅力……と、言われて小首を傾げたけど、本人も分かってるみたいでちょっと照れ臭そうに笑ってた。
可愛い。
そう、俺のタットさんは可愛いんだ。

「誰からも狙われてませんが、俺がタットさんにメロメロなのは、あの3人には伝わったと思います」

目を閉じて、タットさんの唇めがけて自分の唇を押し付ける。
スリスリ、ハムっと少しだけ食めば、ヌルンと舌が入ってくる。
幸せ。
幸せの時間だ。
クチュクチュとお互いの舌を絡めあって感触を楽しむ。
こんな事、タットさんと付き合うまで知らなかった事だ。

あいつらが、「相原が大人の階段登った」なんてからかい混じりに言ってきたけど、まぁそうだなと納得した。

大人の相原君は、大人の古川さんに愛されてますんでね。

俺、大人ですから。


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※裕也の地域は20歳で式を行ってます


成人式を迎えられましたみなさま、おめでとうございます。
これから進まれる道が、明るく楽しくありますように。
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