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ミニマム男子の番外編
ミニマム男子はコンカフェで働く。後編
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ステージデビューの課題曲とダンスの振りは、アルバイト初日に渡されていた。なので、キッチンとフロアの研修期間も自主練をしていた。
「ねぇ……」
レッスン室にて、課題曲『ミニマム男子は恋をする』をBGMにしながら、ルキ君は呆れたように俺に声をかけた。
「はいっ!」
ピシッと直立して良い子のお返事。
一旦、完成度を確認したいと言われたので、通しで見てもらった。
ダンスは動画サイトジャンル『踊ってみてぇ』にあるような、ダンスの心得があまり無くても踊れるような簡単な振付だったので、すぐに身体に叩き込めた。歌は毎日聴きまくって歌いまくって音程を叩き込んだ。
何かまずかっただろうか?
「プロか?」
「いえ!両親がダンス講師です!」
「理解した」
ルキ君の理解は早かった。
「歌も……悪くないな。音程取れてる。発音、発生もいい。感情も乗せられてる。なんかやってたのか?」
「ほぼ毎日、妹たちに昼間は童謡、夜は子守唄歌ってました!」
「理解した」
ルキ君の理解は早かった。
✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼
「カンナです。今日が初めてのパフォーマンスです。よろしくお願いします」
ペコっと頭を下げて、始まりのポーズで静止する。
後ろから、毎日の様に聴いていた楽曲のイントロが流れてくる。
出だしからサビが来るアップテンポな曲なので、お客さまもノリやすい。
しかもキャンミの定番曲なので、パフォーマーが誰であってもお客さまは盛り上げてくれるので、デビューにはとても適した曲だ。
案の定、無名の僕でもお客さまは温かく盛り上げてくれた。
ラストのポーズで締めて、ぺコンと頭を下げる。
すぐにパッと顔を上げて、満面の笑みをお客さま達に見せた。
「エヘっ!緊張しちゃった!これから、もっと上手になるから応援してね!バイバーイ!」
そのままステージをはけると、客席から黄色い声で「カンナ君かわいーっ!」って声が聞こえた。
ほわ……誰が言ってくれたのか、分からないけど、凄く嬉しいっ!
ルキ君も「良かったよ」と褒めてくれた。
✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼
ステージデビューを終えた僕は、土日のどちらか含めた週3~4勤務に落ち着いた。
「カンナくーん♡」
デビューを終え、定期的にパフォーマンスをするようになったので、フロアでもお客さまに声をかけて貰えるようになった。
そうすると、一緒にInstaxを撮ったり、ゲームしたり、食事メニューに手を加えたりと言った、歩合制のお給料も増えた。
確かにファミレスコンビニに比べれば効率よく稼げる。
日々、パフォーマンスに磨きをかけなくちゃいけない大変さはあるけど、時間の拘束は比較的少なく、学業との両立も十分に出来た。
✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼
大学生になる頃には、僕の胸のリボンは黒になっていた。ステージパフォーマンスに関しては、最初は言われるままに課題曲をこなして歌って踊っていたけど、僕のキャラクター性とか、お客さまの需要なんかを考えながら自分で選曲したり、時にはオリジナルの振付でパフォーマンスをするようになった。
すると、今まで以上に僕を気に入ってくれるお客さまも増えて、歩合制のお給料がグンと跳ね上がった。
おかげで、大学費用以上に稼がせてもらえた。
「カンナ君はさ、芸能界に興味ないの?」
同じキャンミのスタッフに聞かれる事がある。
「無いです。自分の学費とお小遣い欲しさに始めた事なので」
そう答えると、みんな口を揃えて「もったいない」と言う。でも、僕には芸能界にはなにも魅力は感じなかった。むしろ良くあんな不安定な職業をみんな目指せるなと不思議にさえ思う。
僕がキャンミでアルバイトを始めてから、何人か、メジャーデビューでキャンミを卒業していった。舞台俳優だったり声優だったり、アイドルグループだったり、道は様々。
ここで働いているスタッフの殆どが、そういう華やかな場所を目指している。
なので、僕みたいなデビューを目指していないスタッフは、全く居ないワケでは無いが、珍しいらしい。
「ここでアルバイトをする目的は人それぞれだと思います。でも、働いている以上は、僕もステージパフォーマンスはヘタなものは見せられませんからね!」
ニコっと笑って胸元の黒リボンを撫でる。
ここでの最上ランクの色だ。
まだ、この色を貰えてなかった時、露骨な嫌味を言ってくるスタッフもいた。でも、彼らよりも完成度の高いステージパフォーマンスとお客さまからの人気で黙らせた。
嫌味は嫌味で返すより実力見せつけた方がダメージは大きい。と、言うことを、僕はキャンミで学んだ。
世間一般的には、男性の背丈が著しく低かったり、華奢だったりすると、社会から期待される男性としての本分が上手く機能しない。
要するに、「男らしく」「力強く」「女性を守り」「家庭を築き」みたいな?よく分からないけど。
だけど、それは自分たちも、その社会から期待される「男性像」と同じ土俵で頑張ろうとするから機能しなくなるだけで、自分なりの戦い方を身に付ければ、十分にやっていける。と、僕はキャンミで働いて思った。
「カンナくぅーん♡来たよー♡」
僕を推してくれてる常連のお姉さんが呼ぶ。
「わーい!おかえりなさい!嬉しいなぁ。今日も楽しんでいってね!」
ニッコリ笑って挨拶をする。
フロアは落ち着いているのでキッチンを覗く。キッチン長も機嫌良く仕事してるし、片付いている。僕が入るまでも無さそう。
なのでフロアに戻って、お客さまとお話をしたり、ゲームしたり、Instaxをこなした。
今日も良い身入りだ。
自分の外見だったり性格を分析して、あとは世の中の流行りだったり、お客さまのニーズなんかをリサーチして、上手く自分に取り込む事が出来れば、自分なりの処世術が構築出来る。
僕はそうやって、ここで働いている。
今日もまた、新しいお客さまがお店の扉を開いてやってきた。
「CANDY MILKへようこそ!」
僕はニッコリと笑って、お客さまを出迎えた。
✂ーーーーーーーーーーーーーーーーーー✂
コンカフェ時代のミキ君でした。
今後、番外編は色々と時代が前後します。
過去のお話の場合は、必ず前置きします。
これからもお付き合いよろしくお願いします。
「ねぇ……」
レッスン室にて、課題曲『ミニマム男子は恋をする』をBGMにしながら、ルキ君は呆れたように俺に声をかけた。
「はいっ!」
ピシッと直立して良い子のお返事。
一旦、完成度を確認したいと言われたので、通しで見てもらった。
ダンスは動画サイトジャンル『踊ってみてぇ』にあるような、ダンスの心得があまり無くても踊れるような簡単な振付だったので、すぐに身体に叩き込めた。歌は毎日聴きまくって歌いまくって音程を叩き込んだ。
何かまずかっただろうか?
「プロか?」
「いえ!両親がダンス講師です!」
「理解した」
ルキ君の理解は早かった。
「歌も……悪くないな。音程取れてる。発音、発生もいい。感情も乗せられてる。なんかやってたのか?」
「ほぼ毎日、妹たちに昼間は童謡、夜は子守唄歌ってました!」
「理解した」
ルキ君の理解は早かった。
✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼
「カンナです。今日が初めてのパフォーマンスです。よろしくお願いします」
ペコっと頭を下げて、始まりのポーズで静止する。
後ろから、毎日の様に聴いていた楽曲のイントロが流れてくる。
出だしからサビが来るアップテンポな曲なので、お客さまもノリやすい。
しかもキャンミの定番曲なので、パフォーマーが誰であってもお客さまは盛り上げてくれるので、デビューにはとても適した曲だ。
案の定、無名の僕でもお客さまは温かく盛り上げてくれた。
ラストのポーズで締めて、ぺコンと頭を下げる。
すぐにパッと顔を上げて、満面の笑みをお客さま達に見せた。
「エヘっ!緊張しちゃった!これから、もっと上手になるから応援してね!バイバーイ!」
そのままステージをはけると、客席から黄色い声で「カンナ君かわいーっ!」って声が聞こえた。
ほわ……誰が言ってくれたのか、分からないけど、凄く嬉しいっ!
ルキ君も「良かったよ」と褒めてくれた。
✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼
ステージデビューを終えた僕は、土日のどちらか含めた週3~4勤務に落ち着いた。
「カンナくーん♡」
デビューを終え、定期的にパフォーマンスをするようになったので、フロアでもお客さまに声をかけて貰えるようになった。
そうすると、一緒にInstaxを撮ったり、ゲームしたり、食事メニューに手を加えたりと言った、歩合制のお給料も増えた。
確かにファミレスコンビニに比べれば効率よく稼げる。
日々、パフォーマンスに磨きをかけなくちゃいけない大変さはあるけど、時間の拘束は比較的少なく、学業との両立も十分に出来た。
✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼
大学生になる頃には、僕の胸のリボンは黒になっていた。ステージパフォーマンスに関しては、最初は言われるままに課題曲をこなして歌って踊っていたけど、僕のキャラクター性とか、お客さまの需要なんかを考えながら自分で選曲したり、時にはオリジナルの振付でパフォーマンスをするようになった。
すると、今まで以上に僕を気に入ってくれるお客さまも増えて、歩合制のお給料がグンと跳ね上がった。
おかげで、大学費用以上に稼がせてもらえた。
「カンナ君はさ、芸能界に興味ないの?」
同じキャンミのスタッフに聞かれる事がある。
「無いです。自分の学費とお小遣い欲しさに始めた事なので」
そう答えると、みんな口を揃えて「もったいない」と言う。でも、僕には芸能界にはなにも魅力は感じなかった。むしろ良くあんな不安定な職業をみんな目指せるなと不思議にさえ思う。
僕がキャンミでアルバイトを始めてから、何人か、メジャーデビューでキャンミを卒業していった。舞台俳優だったり声優だったり、アイドルグループだったり、道は様々。
ここで働いているスタッフの殆どが、そういう華やかな場所を目指している。
なので、僕みたいなデビューを目指していないスタッフは、全く居ないワケでは無いが、珍しいらしい。
「ここでアルバイトをする目的は人それぞれだと思います。でも、働いている以上は、僕もステージパフォーマンスはヘタなものは見せられませんからね!」
ニコっと笑って胸元の黒リボンを撫でる。
ここでの最上ランクの色だ。
まだ、この色を貰えてなかった時、露骨な嫌味を言ってくるスタッフもいた。でも、彼らよりも完成度の高いステージパフォーマンスとお客さまからの人気で黙らせた。
嫌味は嫌味で返すより実力見せつけた方がダメージは大きい。と、言うことを、僕はキャンミで学んだ。
世間一般的には、男性の背丈が著しく低かったり、華奢だったりすると、社会から期待される男性としての本分が上手く機能しない。
要するに、「男らしく」「力強く」「女性を守り」「家庭を築き」みたいな?よく分からないけど。
だけど、それは自分たちも、その社会から期待される「男性像」と同じ土俵で頑張ろうとするから機能しなくなるだけで、自分なりの戦い方を身に付ければ、十分にやっていける。と、僕はキャンミで働いて思った。
「カンナくぅーん♡来たよー♡」
僕を推してくれてる常連のお姉さんが呼ぶ。
「わーい!おかえりなさい!嬉しいなぁ。今日も楽しんでいってね!」
ニッコリ笑って挨拶をする。
フロアは落ち着いているのでキッチンを覗く。キッチン長も機嫌良く仕事してるし、片付いている。僕が入るまでも無さそう。
なのでフロアに戻って、お客さまとお話をしたり、ゲームしたり、Instaxをこなした。
今日も良い身入りだ。
自分の外見だったり性格を分析して、あとは世の中の流行りだったり、お客さまのニーズなんかをリサーチして、上手く自分に取り込む事が出来れば、自分なりの処世術が構築出来る。
僕はそうやって、ここで働いている。
今日もまた、新しいお客さまがお店の扉を開いてやってきた。
「CANDY MILKへようこそ!」
僕はニッコリと笑って、お客さまを出迎えた。
✂ーーーーーーーーーーーーーーーーーー✂
コンカフェ時代のミキ君でした。
今後、番外編は色々と時代が前後します。
過去のお話の場合は、必ず前置きします。
これからもお付き合いよろしくお願いします。
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