コトコトコトの番外事

黒川

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中本さんの番外編

平久さんの事情事 前編

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「はーい!身長150センチ、体重40キロ、24歳。ちっちゃい暴れん坊!神田ミキでーっす。よろしくおねがいしまーっす!」

「はーい!身長154センチ、体重41キロ、年齢……もぐぐぐ……」

「年齢ダメ!アラサーは年齢言っちゃいけない法律なの!」

プンスコ怒る素振りを見せながら、「神田」と名乗った小さな男は、今、自己紹介をしようとしている、同じく小さな男の口を塞いだ。
すると、口を塞がれた男は、モゴモゴと神田の手を振りほどき、少しだけ「ふんっ!」と鼻息を飛ばし、観客側に笑顔を向けた。

「年齢は秘密!ちっちゃい策士家!新井しのぶでーっす!よろしくおねがいしまーっす」

会場はシンと静まりかえっているが、当の二人はお構いなく、どんどんプレゼンを進めている。
……プレゼンか?……プレゼンだな。だいぶ毛色が違うが。
確かに2人の容姿や仕草、言葉遣いに気が行きがちだが、言ってる事と提示している資料と数字はまともだ。


あぁ、負けたな……。あの2人を見て、俺はため息をついた。


俺、平久陽一は毎年恒例の社長賞の推薦を受け、プレゼン大会に出場した。
ノミネート出来る支店は5支店。
その中から社長賞が1支店、優秀賞が1支店、貢献賞が3支店選ばれる。
俺が所属している営業店がエントリー出来るのは、とても珍しい事だった。
だいたいいつも企画だの広報だのシステムだの、中枢寄りの支店が受賞してるからな。
そして、セオリーとして、そのエントリーする事自体が難しい営業店がエントリーすると、決まって社長賞は営業店が選ばれる。


はずだったのだが……まぁ、仕方がない。向こうも町田の営業店だ。
こっちはドン底からのV字回復。向こうは常にトップだった成績が更に跳ね上がったんだ。
状況が違う。
あと、プレゼンがぶっ飛んでる。
ここはアイドルのライブ会場かよ?と突っ込みたくなるテンションとパフォーマンスだ。
それでいて内容はしっかりしてるんだ。
暴れん坊と策士家?お似合いじゃないか。
もう負けを認めるしかない。

苦笑いしながら、やつらのプレゼンを見続けていた。

✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼

結果は、もちろん町田支店の小さい男2人組が社長賞を受賞した。とは言え、俺も優秀賞を貰えた。十分な評価だ。
町田支店の戦略も勉強になったし。収穫は多い。出来れば、この後の祝賀会であの2人に話をもう少し聞ければいいのだが……

2人は目をウルウルさせながら

「「僕……お酒の席苦手……」」

とか言いながらお偉いジジイと若い女性社員を手玉に取ってた。つぇぇな、あの容姿。
俺は、祝賀会を欠席する理由も無いので、有難くタダ飯、タダ酒を頂く事にする。


……だってだってだって……!!!!


タタン、と貰った資料をカバンの中に突っ込んで、会議室の出入口にひっそり立ってる人に小走りで近寄った!


「中本さんっ♡」


思わず語尾にハートが出てきてしまう。もし、俺に犬の尻尾が生えてたら、間違いなくちぎれんばかりにブンブンと勢いよく振りまくっているだろう。
俺の大切な人。
ノンケだったのに俺に堕ちて来てくれた人。
流されやすい性格なのは知っていたけど、ここまで流されるとは思っていなかった。
ワンチャン、一夜の過ちでパクンと咥えられたらラッキーと思ってたが、押せ押せで行ったらお付き合いまで発展した。
そんな中本さんが、わざわざプレゼン大会後の会議室に来てくれたのだ。

中本さんは、今、本社営業部に所属している。
営業店を統括する部署で、何かと大変なはずなのに……


「なんか……凄かったな……」


中本さんが、俺を労る様に見てくる。


「プレゼン大会見てたんですか?」


「オンラインの方でな。本社だと配信で見られるツールがあるんだよ。町田支店の神田だろ?あいつ、営業事務に居たやつだよ。あいつが新入社員の時、ローテーション研修で指導した事があったんだけどさ、」


「え!?」
まさかの繋がり。


「地頭のいいヤツだったよ。タスク管理も出来てたし、何でも卒無くこなすし、立ち回りも上手い。自分を良く知ってる。メンタルも強かったな……なんか……とにかく見た目に反して強かったの、覚えてるわ」


「へぇー……」


「だからさ……なんて言うか……」


中本さんがバリバリと頭を掻きながら、あー、とか、うー、とか唸ってる。
俺はニコッと笑って耳元に口を寄せた。


「ありがとうございます。俺は落ち込んでないです、優秀賞も十分な評価でしたよ」


「そっか……まぁ、なんだ。おめでとう」


目尻が赤くなってる中本さんが、とてつもなく可愛かった。

✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼

祝賀会は、本社ビルの社員食堂のフロアで行われた。立食式で、都内で有名なレストランのオードブル等が並んでいた。
こう言う会が好きかと聞かれれば、別に好きでもなんでもないのだが、俺の恋人である中本さんも出席しているので、参加以外の選択肢は無かった。
……まぁ、あっちはホストとして駆り出されているので、お酌やら食事やらの手配で忙しそうに立ち回っているけど。


俺はビール片手に社長の話を笑顔を貼り付けて聞いている。


……飯と酒は美味いんだがな……綺麗に去っていった町田支店の小さい男たちの方が正解だったかも知れない。
とは言え、立場は違えど同じフロアに中本さんが居るのは事実なので、チラチラと目で彼の姿を追いながら、酒と食事を嗜みつつ、少しばかり退屈な社長の話を聞き続けた。
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