騎士団員より屈強な騎士団寮の寮母♂さんのお話。

黒川

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本編

6-8 里帰りの、寮母♂さん。

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そのあとは、怒涛でした。
4人で朝ごはんを食べ終えると、まずは村長のお家に向かいます。

住まいの変更手続きと、薬師としての申請を行いました。

「庭師が薬師になるのか。庭師としても腕が良かったんだがなぁ。書類関係の仕事も手伝って貰っていたが、無くなってしまうのか……」

村長さんが残念がっています。

「あなた、これが本来あるべき姿なのよ?庭師ちゃんだって本職の薬師が出来るのなら、そうなるべきだわ」

奥さんが村長を窘めます。

「村長さん、奥さん。今まで色々配慮頂きありがとうございました。これからは本業の薬師に力を入れて行きたいと思ってますが、この小さな村です。色々仕事は持ってて損は無いと思いますので、俺に出来ることがありましたらお呼びください」

庭師がそう言うと、村長も奥さんも、「ありがとう」と庭師にお礼を言いました。

村長のお家で行う手続きが終わると、いよいよお引越しです。
けれども、庭師と幼い兄弟たちの荷物は、そんなに多くありませんでしたので、直ぐに終わりました。
家具も、寮母♂さんが使っていたものを、そのまま引き継ぐようです。

「何から何までありがとうな」

庭師が改めて寮母♂さんにお礼を言いました。

「なに。気にするな。あとは敷地内の荒れた庭を栽培地に整えれば、庭師あらため薬師だな」

寮母♂さんが、庭に出ようとしましたが、庭師がそれを止めました。

「寮母♂、他の村のやつらにも色々頼まれてるんだろ?もうそっちに行ってくれ。あとは俺とこいつらでやるから」

こいつら、と呼ばれた幼い兄弟も頷きました。

「寮母♂さん、いっぱいありがとう」
「寮母♂さん、ありがとう」

ペコっと二人揃ってお礼と共に、お辞儀をします。

「じゃぁ、ちょっくら村の奴らの所に顔出してくる」

寮母♂さんは、3人を置いて村の中心部に向かいました。


𓂃𓈒𓂂𓏸


最初に向かったのは、鍛錬場です。
小さな子どもから大人まで、一緒になって闘技の稽古をしています。

「あ!寮母♂!!やっと来たか!」

ちょうど休憩を取っていた青年の1人が寮母♂さんに声をかけました。

「悪ぃな、遅れて」

「いやいやいや、気にするな。庭師のところだろ?優先度と言やぁ、あっちの方が大事だ」

村人同士の交流が盛んな村ですから、何かと情報が入ってくるのです。

「ありがとう。あっちはひと段落ついたから、久々に稽古付けてやるよ」

寮母♂さんは、鍛錬場に来ている村の人たちを見、ニヤリと笑い、手のひらを上にして、チョイチョイと手招きをしました。


𓂃𓈒𓂂𓏸


「……適わねぇ……!!ちくしょう!なんでだ!!!」

村で1番腕の立つ青年が悔しがります。
因みに、その青年は寮母♂さんと幼なじみです。

「あはは。元ではあるが、国営騎士団員を舐めんなよ?」

「分かってるよ!けど悔しいのは悔しいんだよ!!俺だって毎日稽古してんのにぃー!!!」

ジタバタ、と地面に寝そべって駄々を捏ねてます。
他の大人たちは、楽しそうに彼に指さし、子どもたちに向かって「あんな大人になってはダメですよ」と教えています。

「お前ら!!聞こえてっぞ!」

村1番の腕っぷしの彼が声を張ります。
それを見て、寮母♂さんも他の村人たちも、みんなゲラゲラと笑っています。
村1番の腕っぷしの彼も笑ってます。

そう、これは毎年の茶番なのです。
寮母♂さんとの稽古が終わると、村1番の腕っぷしの彼が、寮母♂さんに勝負を挑み、ボコボコに負け、彼も含めて、みんなで「やっぱり寮母♂さんは強ぇや!」と笑い合うのです。

「でも、だいぶ腕上げたな?」

寮母♂さんが、彼に言うと、彼もパッと表情明るく、

「だっっろーーー???俺だって強くなってんだよ」

と、嬉しそうに答えました。
そして、他の村人たちも、

「確かに村の中で、彼に勝てるものは居ないな」

と、頷き合いました。


𓂃𓈒𓂂𓏸


寮母♂さんは、鍛錬場を後にすると、お風呂屋さんに向かいました。

「よう、来たか。寮母♂」

お風呂屋の番頭さんが出迎えます。

「ここ1年では困り事はあったかい?」

寮母♂さんが聞きます。

「なぁに、平和なもんだよ。ちょっと前に壁が老朽してたって言って村長さんが改修の手配をしてくれたし、礼儀のなってない客も居ねぇ」

「そうか。なら良かった。これからもよろしくな?」

占有権は村にあるので、管理などは村で行ってますが、所有者である寮母♂さんも、里に戻ってくると、お風呂に入るのとは別に、番頭さんに声をかけるのでした。


𓂃𓈒𓂂𓏸


「寮母♂さーん!」
「寮母♂ちゃん!」
「よぉ!寮母♂!」
「……りょーぼ♂……しゃん……?」

村を歩けば、老若男女関係なく話しかけられます。
寮母♂さんも嬉しそうに応えます。
だって、寮母♂さんは、この村の事が、村の人たちが、大好きなのです。


𓂃𓈒𓂂𓏸


そんなこんなで過ごしていれば、あっと言う間に日が暮れてしまいました。
そろそろ寮母♂さんも、庭師たちに貸した家に戻る時間です。

「っと、その前に…………」

寮母♂さんは、両足にグッグと力を入れると、思いっきり地面を踏み込み、バビューンと村の外を目指しました。

向かった先は、山の中腹です。
寮母♂さんの足にかかれば、ものの数分で到着します。
寮母♂さんは、あたりを見渡し、耳を澄ましました。

カサリ、と何かが動く音がします。

「見つけたっ!」

寮母♂さんは、素早く動いた先を目指し、腰に備えていたオリハルコンの包丁を目標物に突き刺しました。

「プミャーーー!!!!」

寮母♂さんが、包丁で突き刺したのは、野生の「プーミャン」と言う魔物でした。
プーミャンは、豚とイノシシを足して2で割った様な見た目をした、お肉がとても美味しい魔物です。
ただ魔力と力が強く、1人で仕留めるのは骨の折れる魔物です。
寮母♂さんにかかれば朝飯前ですけれどもね。

「夕飯はコレに決まりだな」

寮母♂さんは、素早くプーミャンを解体し、パイスラ斜めがけ異次元バックマジックバックにしまうと、帰路に向かいました。


𓂃𓈒𓂂𓏸


お家に到着すると、まずは外の荒れていた敷地を確認しました。
とても綺麗に整えられ、既にいくつかの草木が植えられています。
どれも薬として使われている植物でした。

「庭師あらため、薬師も趣味がいいなぁ」

寮母♂さんは独りごちてから、お家の中に入りました。



𓂃𓈒𓂂𓏸


「寮母♂さん!!おかえりなさい!!」

最初に迎えてくれたのは、お兄ちゃんでした。
その後を着いてくるように、弟君。

「寮母♂さん、おかえりなさい」

「おかえりー」

最後に、庭師あらため薬師が出迎えます。
家の中から、柔らかな光と、空腹を刺激するようなスパイスの香りがしてきます。
寮母♂さんは、3人をまとめて自分の腕の中に抱き込みました。

「ただいま」
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