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第五章 偽りの魔王と兄妹の絆、過去との対峙

新たな魔王と偽魔王の意外な事実

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「よし……これで一週間後には魔王となる赤子が生まれるよ。ち、な、み、に。そこの……ミーディグリアくん?が数か月前に遊びで抱いて孕ませた女の子から産まれるからそこんとこよろしくね」

「はぁ!?」



 魔人たちの望みを聞き入れた命は早速実行に移した。



 命がしたのは、既に妊娠中の母体の中で身体を作っている赤子に、魔王に相応しい魂を入れ込むという作業だ。これなら長い妊娠期間を待たずともすぐに魔王となる存在が産まれてくるのだ。



 だが、その赤子をお腹で育んでいる母体の持ち主が判明し、当のミーディグリアは思わず大声を上げた。

 ミーディグリアからしてみれば、何故初対面の命が己の性生活を把握しているのか。そして何故自分の子供を魔王の身体に選んだのかが不明だったので、その反応は当然だった。まぁ、全て「命が創造主だから」としか言いようがないのだが。



「ミーディグリア……あなた、まだそんなことをしていたの?汚らわしい」



 ミーディグリアが元々手癖の悪いことを知っていたサランは、まるで汚物を見るかのような目をミーディグリアに向ける。



「ちょっと待て!あれは同意だったし、互いに遊びって割り切ってて……」

「もうそんなのはどうでもいいんだよ。とにかく、魔王となる赤子のお父さんはミーディグリアくんだから、子育てガンバ!」



 必死に弁明を始めるミーディグリアを嘲笑う様に命は話を遮った。ミーディグリアにほぼ丸投げのような状態で、親指を立ててみせた命にミーディグリアは若干イラっとする。



「命、趣味が悪いのじゃ」

「そう?面白くない?」

「面白くないのじゃ。……じゃが武尽なら大笑いするかもなのじゃ。彼奴あやつも趣味が悪いのじゃ」

「ほんと!?武尽のツボにはまるかなぁ。天界に帰ったら話してみよーっと」



 若干引いているソヨに命は悪気ゼロのキョトンとした相好を向けた。だが、こんな趣味の悪い話を聞いて大爆笑する無神経な神にソヨは心当たりがあったので、それを命に伝えた。

 命からすれば武尽に喜ばれるのは滅多にない貴重なことなので、嬉々とした表情で天界への帰還を想像する。



「俺……命様のこと結構苦手かもしれません」

「そう?命はミーディグリアくんのこと結構好きだよ」



 魔人たちを置いてけぼりにしながら狂喜乱舞している命を目の前に、ミーディグリアは思わず呟いた。一方の命はからかう程度にはミーディグリアのことを気に入っていたようだ。



「……やめてくださいよ、照れるじゃないですか」

「……………………あぁ。言っとくけど命、男だからね」

「はぁ!?」



 命の素直な言葉にミーディグリアは頬を染めつつ返す。その反応に違和感を感じた命は数秒思考して結論に辿り着いた。



 長らくされていなかったあの勘違いを、ミーディグリアが現在進行形でしているということを。



 命のことを女だと勘違いしていたミーディグリアは、命の暴露に本日二度目の大声を上げた。久方ぶりに女に間違えられた命は、謎の感動を覚えている。



「ミーディグリア、知らなかったの?魔王様が以前話していたじゃない。まさか魔王様のお言葉を聞き逃したの!?」

「いや……だってよ……」



 不真面目が通常運転であるミーディグリアなので、決して魔王に対する畏敬の念が無いわけではないのだが、普段の癖でどうしても人の話を聞かないことがあるのだ。



「お前、男だったのか……」



 ミーディグリアが言い淀んでいると、同じく勘違いをしていたらしいフックが間抜けな相好で呟いた。因みに命が創造主の力で口を封じるようにした命令は既に解除されていたので、フックは己の声を取り戻している。



「うん、男男。脱ごうか?ちなみに女の子にもなれるよ!見てみる?」

「命、命の女体には興味ありありじゃが、話が進まないのじゃ。今度わらわにだけ見せるのじゃ」



 男であることを証明するために大きめの白いシャツに手をかけた命に、魔人たちは必死に首を横に振る。魔人たちを援護するようにソヨは命のシャツの袖口を引っ張ると、謎の説得で話を本筋に戻そうとした。



「えっと、何の話してたっけ?」

「俺の妹の話だよ!」

「じゃからの口の利き方には気をつけぇと言うとるじゃろが」



 ボケですっ呆けた命にフックは苛立ったように怒鳴った。だがすぐにソヨがフックの頭にチョップしたことで、フックは床に頭をめり込ませる。魔王城の強靭な床には大きなひびが入り、破片が頭に刺さったせいでフックは出血している。



「ふむ……人間の頃は本気の一〇〇分の一程度で丁度良かったのじゃが、女神となるともっともっと手加減が必要なのじゃな……勉強になったのじゃ」



 女神になったことでインフェスタ最強時代よりもすさまじい力を手に入れたソヨが、以前の感覚で手加減したところで人など簡単に殺せてしまうので、ソヨは今後更に手加減が必要であることを学んだ。



「ソヨちゃん納得してる場合じゃないよ、頭からめっちゃ血出てるよ」



 気づくとフックの頭から流れた血は、少し離れたところにいる命の足下まで到達していた。殴るだけ殴って全く対処を施さないソヨに苦笑いを向けた命は、創造主の力でフックの頭の傷を癒した。



「な、治った……お前、何者なんだ?」

「君学習能力低いね。さっき言ったよね?命はすごい偉い人だって。偉い人がすごい力を持ってるなんて鉄板でしょ?」



 先刻まで頭に激痛を走らせていた傷が一瞬にして消えたことで、フックは目を見開いた。命のアバウトすぎる説明では学習できるものもできないので、フックの反応も仕方のないものだったのだ。





「命様……俺からすれば不本意すぎる報酬でしたが、頂いた以上魔人たちは奴隷商人たちをぶっ潰すつもりです。だけどぶっちゃけ五分五分なんですよね」

「五分五分……奴隷商人ってそんなに強いんだね」



 斜めの方向から自分の女性遍歴を暴露されてしまったミーディグリアは、魔人たちと奴隷商人たちが戦った場合の勝敗予想を命に伝えた。



 魔王ザグナンのような化け物級の逸材はいなくとも、魔人というのは魔法の才能に長けた最強種族である。そのせいで昔は差別の対象となったほどに。

 奴隷商人という存在が、最強種族である魔人に五分五分だと言わしめる程の実力者だとは知らなかった命は素直に驚いた。



「はい、奴隷商人は捕らえた奴隷を買い手に受け渡すまで絶対に逃がしてはいけないという使命を持っています。それに、非道なやり方で奴隷を揃えていますから、当にそこの人間のような奴らがうじゃうじゃいるのです。そういった連中と渡り合うためという意味でも、奴隷商人にはそれだけの実力が求められます」



 サランの説明に命は納得したように頷く。奴隷制度は一度魔人であるザグナンによってその姿を消している。なので奴隷商人たちが魔人を警戒し、魔人と同等の実力者を取り揃えるのは自然なことなのだ。



「ふむ、どっちに転んでもおかしくないってことか。よし、それなら命がいい戦力を紹介してあげるよ」

「いい戦力、ですか?」



 現在の魔人たちには、奴隷商人たちとやり合って勝てると断言できるだけの決め手が無かった。命が提示する、その決め手となる戦力の見当がつかなかったサランは首を傾げる。



 命が知りえる絶対的な戦力として考えられるのはもちろん神だ。だがそれはない。神がこのことにでしゃばることができるのなら、最初からそうすればいいのだ。魔人が奴隷商人とやり合う必要はない。

 今回は神々が口を出すべき案件ではないから、わざわざ報酬を用意してまで魔人たちに協力を要請したのだ。



 そうなってくると、命の提示する戦力が魔人にもソヨでさえも見当がつかなかった。



「うん。このことを持ち出したそこのお兄さんだよ」

「は?」



 命に名指しされたフックは、思わず自分の顔を指差して呆けた面を見せる。ソヨや魔人たちも当惑しており、命の心意を知るものはその場にはいないようだった。



「お、おい。待てよ。俺は戦力にはあまりなれないぞ?そりゃあ冒険者だし、そこそこの援助ぐらいならできる。妹のことだって俺の手で助けたい。でも、魔人が五分ごぶだって言う奴隷商人相手に俺なんかが戦力には……」



 フックの言うことはその場の全員に理解ができた。フックは冒険者であるので実力はそこそこ。だが魔人たちほどではない。言うなれば、いるかいないかの二択ならばいた方が良いが、大幅な戦力アップに繋がるわけではないという感じだ。



 だがそんなことは命も百も承知である。



「うん、君なら、そうだね」

「どういうことじゃ?命」

「この子、元男神だよ」

「なんじゃと!?」



 命から知らされた事実にソヨはただただ驚愕し声を上げた。そして同時に、ソヨには命の言っている意味が全て理解できたのだ。

 一方のフックは話の流れについていけず呆然としている。



「男神時代の記憶を取り戻せば、その頃の力の使い方も思い出して強くなると思うんだよね」

「なるほどなのじゃ。しかもあの女神のことを知っているかもしれないのじゃから、一石二鳥なのじゃ」



 フックが世界が終わる以前男神として生きていて、その記憶を思い出したとしても、今のフックの身体に秘める魔力が上がったりすることは無い。

 だが例え魔力に変化がなくとも、その使い方次第で実力というものは大きな変化を遂げる。神であればそのことは十分承知だろう。



 フックがその頃の記憶を取り戻し、魔力を最大限に生かせる使い方を思い出せば、魔人たちにとって重要な戦力になるのだ。



 同時に、前創造主を裏切った女神のことについて何かを知っている可能性があるので、ソヨの言っていることは的を得ていた。



「お、おい。どういうことだよ?」

「ねぇ、君は神だとか、輪廻転生だとかは信じる質?」

「は……別に疑っているわけでも、信じてるわけでもないけど」

「そっか、順応性が高いのは良いことだよ」



 自分の話をしているというのに、どこか取り残されているフックは命に説明を求めた。フックの質問に質問で返した命にフックは首を傾げたが、素直に思っていることを伝えた。命は、自身が無知であることに関しては決めつけをしないフックの考えが好ましいと感じ、初めてフックのことを褒め称えた。



「簡単に言うとね、君は前世で神様だったから、その記憶を命が取り戻させれば強くなれるっていう、とても単純明快な話なんだよ」



 どこが単純明快なんだ。そんなツッコみをフックは頭をパンクさせながら心の中で叫んだ。





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