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第二章 魔王と勇者、世界消失の謎

盲目的な者たち

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 「創造主……とは何だ?」

「ねぇ、その前にさ、命のオーラしまっても良い?あと君の仲間早く生き返らせたいんだけど」



 命の説明では完全に創造主という存在を理解できなかったザグナンは、更なる説明を求めた。だが命はザグナンやアランたちが怯えたままで話を進めるのが嫌だったのか、創造主としてのオーラをしまうことにした。



 もう既に命の脅威は嫌という程に伝わったので、ザグナンがそれを断る理由はなかった。



 命は自分のオーラを一瞬で消すと、そのオーラのせいで生命活動を停止させた魔人たちをぐるっと見回し――。



「生き返って」



 その一言を発した。すると死んだはずの魔人たちが一瞬で目を覚まし、何ごともなかったような顔で立ち上がり始めた。



 アランたちは信じられないと言った表情で、生き返った魔人たちを目の当たりにした。



 一度死んだ魔人たちも、死んだはずの自分たちが何故傷一つなく生きているのか?と、困惑する者。そして、本当は死んではおらず、誰かの力で治癒してもらったのだろうか?と、的外れな勘違いをする者。この大きく二パターンに分かれていた。



「ごめんね。命のせいで一度死なせちゃって。お詫びに君たちの来世は本来の所よりもワンランク良い所にしてあげるから!」



 命は一度死なせてしまった魔人たちに笑顔を向けると、そんな宣言をした。命は敵意が無いことを示すためにそんなことを言ったのだが、これでは命が魔人たちを殺したことが事実であることを再認識させるだけなので、命の思惑は失敗に終わり、魔人たちは恐怖で震え始めた。



「元はと言えば、俺がこの大人数の中、貴殿の正体をしつこく問いただしたから起こったことだ。みな、俺のせいで悪かったな。気分が優れぬ者は戻っていいぞ」

「ワァオ。魔王くんやっさしぃ」



 自分の配下である魔人たちを危惧したザグナンは、己の行いを陳謝するとそんな提案をした。命は部下を思いやるザグナンに称賛の声を送った。



 だが魔人たちは長である魔王に対する忠誠心が強いのか、その提案を受け入れること無くその場にとどまった。



「いいねいいね。互いが互いが思いやる……魔王くんが造ったこの国、命大好きだなぁ」

「「…………」」



 魔人たちにとってトラブルメーカーでしかない命が、まるでこの空気を読まない行動をとるせいで、魔人たちは何も言えず沈黙状態が出来上がってしまった。



 だがこれは神々相手でも経験していることなので、命は気にすることなく笑顔を貫いた。



「あ、創造主が何なのか、だったっけ?創造主とはね、この世界を、そして君たちが知らない他の異世界を創り、神々を創造し世界の管理を任せる、森羅万象における絶対君主だよ」

「絶対、君主……」



 命の説明で創造主のことを理解はできても、アランたちにはそれが目の前にいる命であることをなかなか実感できなかった。



 だが、一度死んだ生物を何事もなかったかのように生き返らせたのは見てしまった以上、命の言葉を信じるしかなかった。



「神とは、神と神の間にできるものではないのか?」



 ヒューズドの住人は基本的に神という存在を信じている者が多い。中には過激な宗教も存在しているぐらいなのだが、もちろんこの世界の住人が神の姿を見たことは無い。



 そしてヒューズドでは神という存在がこの世で唯一無二の存在だという認識がなかった。ヒューズドでは、神は神族の一員であって、このヒューズドを守る神もその神族の中の一人にすぎないという考えだったのだ。



 つまりこのヒューズドの神への認識は根本的には違うのだが、神が唯一の存在ではないという点だけは当たっているのだ。



 だからザグナンは、神とは他の生き物と同じように、神と神の間にできる存在だと思ったのだ。



「違うよ。神とは、創造主が選んだ魂に、自らの力を分け与えた存在。例え魔王くんでも、勇者くんでも、命が選んで力を与えたのなら、それはもう神という存在なんだ」



 そう、神とは創造主の次に常識が通じない存在。他の生き物のように種族として存在している訳ではない為、姿形が異なりその力も様々。



 神は創造主が自らその手で造り、創造主としての力を分け与える存在。例え創造主が造り上げた神と神が交わったとしても、産まれてくるのは神ではないく、それぞれの神の特徴を持った生物にすぎないのだ。



「なるほど、理解した。ではそんな創造主である貴殿が、何故アランと共にこんなところにいるんだ?」

「命のことよりさ、今は勇者くんの話を聞いてあげてよ。命はついてきただけだし」



 本来は、アランが魔人への差別撤廃のために、サルマサトラン共和国の法改正に大きく関わることになる、ザグナシア王国の承諾を得るためにこの国まで来たのだ。



 本筋からどんどんずれていっていることを危惧した命は、一旦創造主の話ではなくアランとの話をすることを提案したのだ。



「あぁ、そうだったな。すまない、アラン。今日はどういった用件で来たのだ?」

「はい、今回は――」



 アランは二度と来ることの無いと思っていた、このザグナシア王国への訪問理由を話した。



 自分が魔人への差別撤廃を目指していること。それに向けての法改正を計画していること。その計画を国の重鎮のほとんどが賛成してくれたこと。あとはザグナシア王国の承諾を得るだけだということ。









「ダメだ。それに応じることはできない」

「!何故ですか!?今まで散々魔人を差別してきた他種族とは、今更慣れ合うつもりはないということですか?」



 アランの話を聞き終わったザグナンは一息おくと、アランの提案を却下した。アランにはその理由が、今までの他種族の魔人への差別のせいだとしか思えず、苦しそうな表情を見せた。



「違う」

「では何故!?」



 アランには分からなかった。



 ヒューズドは絶対的な実力至上主義。だからこそ国のお偉いどころも実力で決められる。長年の差別を完全に消すというのは難しいが、実力者である国の重鎮が差別撤廃に賛成を示しているのだから、住民たちはそのうち理解していくだろうとアランは踏んでいるのだ。この世界の人間は、実力のある者の意見なら、それが間違っていても正しいと盲目的に信じるからだ。



 それにこれがきっかけで魔人が危険ではないと分かれば、一番の実力者である魔人を他種族はすぐに受け入れるとアランは考えたのだ。



 だからこそ、何故ザグナンがこれを承諾してくれないのかが分からず、アランは声を荒らげた。



「アラン。お前は知らないかもしれないが、お前の国を中心としたとある組織が存在しているんだ。その組織は、魔人の根絶を目的としていて、この世界で最も魔人への差別意識が強い連中だ。その者らが存在する限り、ありとあらゆる方法でアランの邪魔をするだろう。下手に事を進めるとアランの命も狙われるかもしれない。それは何としても避けたいんだ」



 ここで漸くアランは、先日命の言っていた意味を理解した。命の言った通り、ザグナンはアランの提案を受けなかった。命は知っていたのだ。その組織の存在を。だから予言することが出来た。



 アラン一人では叶わないそれが、自分が行けば叶うと。



 だがアランにはどうやって命がザグナンを説得するのかを知る術がない。魔人の根絶を望む組織の存在など、知る由もなかったアランにとってそれは当然のことでもあったのだが。



 ザグナンの意見は尤もだ。ザグナンがその組織の存在を知り、よく調べたうえで発言しているのなら、その組織はそれ程までに脅威的なのだろう。



 盲目的に魔人を悪とし、それを根絶することこそが正義だと信じて疑わない連中なら、なおたちが悪い。宗教的な者は理論立てて説得しようとしても無駄だからだ。





「ねぇ、魔王くん。もしその組織がいなくなれば、君はアランくんの提案を呑むのかい?」

「……どういうことだ?」



 ザグナンは命の言っていることをなんとなく理解した上で、わざととぼけた様な質問をした。



 超人的な力を持つ創造主の命にとって、組織を潰すというのは造作もないことだろう。それを理解していた為、ザグナンは命が組織を壊滅するつもりなのでは?と予想をつけたのだ。



「それなら大丈夫。君の言う組織は今頃もうぶっ潰されてるから」

「…………なに?」



 命の予想外の発言にザグナンは眉を顰めた。これから組織を潰すというのなら、ザグナンにも理解が出来た。だがもう既にその組織が存在していないとなると、流石に予想の範疇を超えていたのだ。



「命の可愛い可愛い子供たちが、ちゃあんとお仕事してくれてるはずだからね」



 命は満面の笑みでザグナンの質問に答えた。その言葉の意味が分からないほどザグナンは愚かではなかった。命の子供……それが神であることはザグナンにも分かったのだ。



 つまり組織は神々の手によって滅ぼされたということになる。



「勇者くん、ごめんね」

「え……?どういうことだい?」



 先刻の笑顔とは一転、何故か申し訳なさそうな表情をした命に対して、アランは首を傾げた。それもそうだ。命は魔人の差別撤廃にとっての宿敵である組織を壊滅し、ザグナシア王国がこの計画を反対する理由を打ち消してくれたのだから、謝る理由などどこにもないはずなのだ。



「君の仲間のシリオス……その組織の仲間で、君にとっては裏切り者だから、もうこの世にはいないかも」

「…………うそだ」



 唐突に告げられた信じられない事実に、アランは否定の言葉を漏らした。そしてアランの頭の中は、命の発言の意味を正確に理解することが出来ずに、ぐちゃぐちゃになっていた。



 シリオスはアランのパーティーの最年長メンバーだ。誰よりも優しく、仲間を見守っていた彼女が、魔人の根絶を目的とした組織の仲間で、今までアランたちを騙していただなんて、アランには信じたくもない真実だったのだ。



「ごめんね。命、人の考えていることも分かるから、嘘じゃないよ」



 創造主である命には当然シリオスの考えも読むことが出来たのだ。命の追い打ちにアランはガクッと膝から崩れ落ちた。シリオスの裏切りをそれ以上否定できなかったのは、確かに思い当たる節がアランにもあったからだ。



 アランが魔人への差別撤廃のための計画を進め始め、国の重鎮たちもそれに賛成し始めた頃に、シリオスはパーティーメンバーになったのだ。



 それが、アランの動向を探るための組織の差し金だったとすれば、命の発言は真実だということになる。



 命はどんな言葉をかけていいのか思い悩み、しゃがみ込んだアランの頭を撫でることしかできなかった。























――一日前――



「デグネフ、クラン。明日二人に仕事を任せたいんだけど、いいかな?」

「はいっ!何でもお申し付けくださいです!」



 クランは以前、命に手伝ってほしいことがあると言われていたので、待ってましたと言わんばかりに命の頼みを受け入れた。



 一方のデグネフは、突然の命の発言にクラン同様胸を躍らせた。命が今までしてきた頼みごとの中で、初めての神らしい仕事関連のお願いだったので、その反応も無理はなかった。



「何なりと私たちにお申し付けください」

「ありがとう。……ヒューズドにおける問題を肥大化させようとしている面倒な組織がいるんだ。放置しておけば世界の基盤が揺るぎかねない。二人にはそれの処理をお願いしたいんだ」

「「承りました(です)」」



 敬礼で忠義を示したクランとは違い、デグネフは片膝をつくことでそれを示した。そんな二人に向かって破顔した命は、今回の仕事内容を簡潔に説明した。



 たったそれだけで全てを把握したような二人は、命に視線を向けるとその仕事を承諾した。







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