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続 君に届ける音の名は
馬鹿馬鹿しい嫉妬 side敬人
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目を奪われた。頭が真っ白になった。そして思い知らされた。俺は弓弦にとって要らない存在なのだと。
〝うん。左白くんが誕生日プレゼントにくれたんだ。この栞も〟
ほんのり頬を染め、はにかんだ嬉しそうな顔。俺が見たことの無い弓弦だった。俺の知らない弓弦だった。俺は弓弦をこんな風に笑わせることが出来ない。寧ろ困らせるばかりだ。
この笑顔を原因が、どうして俺じゃないんだろう。そう思ったら、弓弦の笑みが注がれているものに対する苛立ちが抑えきれなくなってしまった。
俺は弓弦の反応なんて見ようともせずに、小説を取り上げてプールへと投げた。すると突然、身体に僅かな衝撃が走った。弓弦が俺のことを突き飛ばしたのだ。突き飛ばしたと言っても、力が無いので少しよろめく程度だったが、そんなことはどうでも良かった。
俺は何より、弓弦が俺を突き飛ばした途端に見せた怒りの感情が衝撃的だったから。
涙を浮かべながら俺を睨んでくる弓弦は、今まで見たことの無い表情だった。小学生の頃、いくら俺が苛めたって怒らなかった弓弦が、この時ばかりはその感情を隠さなかった。
その瞬間、遅すぎる理解が追い付いた。弓弦にとって左白は、それ程までに大事な存在なのだと。
気づいた時には、弓弦はもうプールに向かって飛び出していた。呼び止めても弓弦が止まることは無かった。俺はプールに飛び込んだ弓弦が戻ってくるのをただ待つことしか出来ない。
俺は知らなかったのだ。弓弦が泳げないことを。
しばらく経っても一向に弓弦が顔を出さないので、だんだんと俺は不安になってきた。身体から血の気が引いているのが自分でも分かった。その事実に気づいても、勘違いであってほしいと何度も願う。だって気づいたのが遅すぎたから。
身体は震え、あまりの恐怖で身体が動かない。そんな俺を嘲笑う様に、突然現れた音尾が迷わずプールに飛び込んだ。
音尾は、俺の持っていないものをすべて持っている。弓弦からの信頼や愛情も、弓弦を迷うことなく助ける勇気も。弓弦を大事に出来る器量も。弓弦の恋人がコイツで良かったと思えるほどに。
もう一度、嫌という程思い知らされた。弓弦にとって俺は不要なのだということを。
********
病院で弓弦の母親に会った時、俺は小学生の頃を思い出してしまった。俺のことをぎろりと睨みつけたあの瞳は今も昔も変わっていなかった。それはもちろん俺のせいなんだが、それでも委縮してしまう程の力強さだ。
そして反応する暇もないほど迷いなく殴られたことで、俺はようやく目が覚めたような気がした。
頬に伝わる痛みと熱が、弓弦の母親の怒りをダイレクトに伝えてくれた。そして俺は、自分が仕出かしてしまったことの重大さに鳥肌を立たせる。
もう二度と弓弦には会えないんだ。音尾に言われた時よりも現実感があった。弓弦の母親に殴られたことで、俺が弓弦に関わること一切に対する拒絶を受け取った気分だった。
全て自業自得。弓弦の優しさに付け込んで自分の弱さから目を逸らし続けた罰が、遂に下りてしまったんだろう。
〝うん。左白くんが誕生日プレゼントにくれたんだ。この栞も〟
ほんのり頬を染め、はにかんだ嬉しそうな顔。俺が見たことの無い弓弦だった。俺の知らない弓弦だった。俺は弓弦をこんな風に笑わせることが出来ない。寧ろ困らせるばかりだ。
この笑顔を原因が、どうして俺じゃないんだろう。そう思ったら、弓弦の笑みが注がれているものに対する苛立ちが抑えきれなくなってしまった。
俺は弓弦の反応なんて見ようともせずに、小説を取り上げてプールへと投げた。すると突然、身体に僅かな衝撃が走った。弓弦が俺のことを突き飛ばしたのだ。突き飛ばしたと言っても、力が無いので少しよろめく程度だったが、そんなことはどうでも良かった。
俺は何より、弓弦が俺を突き飛ばした途端に見せた怒りの感情が衝撃的だったから。
涙を浮かべながら俺を睨んでくる弓弦は、今まで見たことの無い表情だった。小学生の頃、いくら俺が苛めたって怒らなかった弓弦が、この時ばかりはその感情を隠さなかった。
その瞬間、遅すぎる理解が追い付いた。弓弦にとって左白は、それ程までに大事な存在なのだと。
気づいた時には、弓弦はもうプールに向かって飛び出していた。呼び止めても弓弦が止まることは無かった。俺はプールに飛び込んだ弓弦が戻ってくるのをただ待つことしか出来ない。
俺は知らなかったのだ。弓弦が泳げないことを。
しばらく経っても一向に弓弦が顔を出さないので、だんだんと俺は不安になってきた。身体から血の気が引いているのが自分でも分かった。その事実に気づいても、勘違いであってほしいと何度も願う。だって気づいたのが遅すぎたから。
身体は震え、あまりの恐怖で身体が動かない。そんな俺を嘲笑う様に、突然現れた音尾が迷わずプールに飛び込んだ。
音尾は、俺の持っていないものをすべて持っている。弓弦からの信頼や愛情も、弓弦を迷うことなく助ける勇気も。弓弦を大事に出来る器量も。弓弦の恋人がコイツで良かったと思えるほどに。
もう一度、嫌という程思い知らされた。弓弦にとって俺は不要なのだということを。
********
病院で弓弦の母親に会った時、俺は小学生の頃を思い出してしまった。俺のことをぎろりと睨みつけたあの瞳は今も昔も変わっていなかった。それはもちろん俺のせいなんだが、それでも委縮してしまう程の力強さだ。
そして反応する暇もないほど迷いなく殴られたことで、俺はようやく目が覚めたような気がした。
頬に伝わる痛みと熱が、弓弦の母親の怒りをダイレクトに伝えてくれた。そして俺は、自分が仕出かしてしまったことの重大さに鳥肌を立たせる。
もう二度と弓弦には会えないんだ。音尾に言われた時よりも現実感があった。弓弦の母親に殴られたことで、俺が弓弦に関わること一切に対する拒絶を受け取った気分だった。
全て自業自得。弓弦の優しさに付け込んで自分の弱さから目を逸らし続けた罰が、遂に下りてしまったんだろう。
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