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ディール王国への救援

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馬車で5日くらいの距離を4時間で走破しながらわたしはディール王国に入った。
 道中で魔術式4輪自動車の乗り心地と空中の快適さからライパ陛下はかなり気に入ったらしく「今回の契約とは別件で話がある」と言っていた。
 
 目の感じからこの車をかなり気に入ったらしい。
 その様子から車くらいなら普及させても良いかな……とわたしの中では思い始めていた。
 輸送が楽だし車に武装を付けてボン〇カーみたいにすれば道中で魔物に襲われても自衛できるし戦争に使われる可能性はあるがどんな技術も戦争に使おうと思えば幾らでも使える。
 そこで問題なのはリスクヘッジできるのかとかそれにより齎される社会的な影響だ。
 
 例えば、皆が知っているホッチキスは文房具として知られているがその構造に着目した会社が機関銃を作ってしまったのだ。
 どんな技術を伝えても人間が戦争の道具にしようと思えば文房具からでも兵器を作れる。

 車を伝えた場合、物流が加速する可能性と兵器転用の可能性はあるがダンジョンの武器を利用されるよりはマシだ。
 車を広めればいつか装甲車両ができる可能性があるがそれも上手くやれば自国民を守る事になり現代戦より高い戦線維持能力を持つ事で魔物や人間の侵攻を抑制し膠着させる事も可能となり邪神の魔力確保も難しくなる可能性もある。
アンティークが全面配備できないならそれもありかな?
 などと考えながらディール王国の王都ギミルに着いた。

 城門前に着き車から降りたわたしを門兵が訝しく見つめるが国王陛下が出て来ると共に敬礼しライパ陛下はわたしを連れてそのまま城内に入り騎士団長を招集し会議場で向かった。

 それから陛下の命令で騎士団長はわたしに現在の状況を教えてくれた。
 銀髪と言うだけで嫌な顔をしていた騎士団長だったが陛下の命もあり不承不承ながらわたしに説明を始める。
 
 どの国でも銀髪に対する差別意識が大きいと改めて再確認しながら騎士団長の説明を要約した。

 王都から南西にあるミグモダンジョンから大量の蜘蛛の魔物が大量に発生し現在、国の3割が彼らの占領下にあると言う。
 現在、防衛ラインを構築して南西で抑えているが蜘蛛は勢力は今も増加しこの勢いではディール王国陥落は待ったなしの状態にあった。
 既にアンティークの出動を視野に入れておりアンティークランナー(パイロット)の待機状態にある。
 最もアンティークは最後の切り札なのでその全ては王都に近い最終防衛ラインに敵が到達すると判断した場合に出撃するそうだ。

 ただ、わたしは悟った。
 仮にアンティークを使ってもディール王国は陥落する。
 そもそも現状のアンティークと蜘蛛では相性が悪すぎる。
 現状を聴いた上でわたしは口を開いた。



「ハッキリ、申しますけどアンティークを稼働させたとしても王都の防衛は失敗します」



 わたしの意見に丸坊主の騎士団長が声を荒立てた。



「何故、そのような事を言う!アンティークは人類の切り札だ。ドランゴが相手ならまだしも蜘蛛ごときに負けるはずがない」

「騎士団長閣下。お言葉ですが、あなたは蜘蛛の生態についてご存知ですか?」

「蜘蛛の生態だと?」

「蜘蛛とは糸は吐き、罠を作り獲物をかけます。」

「そんな事は分かっている!」

「いいえ、分かっていません。蜘蛛の勢力が急に伸びたのは単に物量だけではありません。彼らは辺りに撒き散らした糸から伝わる情報を脚で受け取りこちらの動きを把握しているのです。ですので、アンティークを使ったとしても地上を走る限り彼らの情報網から逃れる事はできませんし先手を打たれるでしょう。」



 人間で言うところの人工衛星による敵の所在把握と言ったところでしょう。
 蜘蛛は戦闘をする度に撒いた蜘蛛の糸からの情報で効率よく人間を殺しているのだ。
 彼らは昆虫界の狩人だ。
 しかも、虫の中でも獲物を狩る際に人間のように“構え”をせず襲う時は一切無駄な動きで獲物を喰らうので高火力と言う点なら確かにドラゴンの方が厄介だが、魔術的要素を排除した場合、ドラゴン以上に厄介な敵だ。
 況して、南西部を占領できる数となればその脅威はドラゴンの比ではなくドラゴン1匹を倒せる可能性のあるアンティークでも蜘蛛相手には不利が否めない。



「ぎ、銀髪の分際で!わたしに楯突くと言うのか!」



 また、出た。銀髪差別。
 わたしがこの国の為に警告しているのに「お前が銀髪だから話は聴かない」と平然と言う。
 正直、辟易する。

 わたしが論理的に説明しても「お前が銀髪だから間違っている」と言われれば不快だ。
 わたしはこの国を助けに来てそのアドバイスをしているのに足を引っ張るような事を平然と言い放つ。
 神として忍耐深い方であるわたしでも限度はあり今回は脅すつもりで国王陛下に聴こえる声で言った。



「わたしの話を最後まで聴かないと言う事はこの国は助かる気が全くないと言っているのと同意と受け取りますがそれでよろしいでしょうか?だったら帰らせて頂きます。」



 それを聴いた国王陛下は怯えるように顔色を変えた。



「も、申し訳ないレティシア殿。我々にそんなつもりは……」

「ですが、貴国の騎士団長は足並みを揃えようとしません。足並みを揃え国を守るよりも銀髪差別を優先しているようですが?」

「そ、そんな事は決してない。騎士団長!これ以上、軽率な発言は王に対する反逆罪と見做す。以後、銀髪を理由にレティシア殿を見下すな!これは命令だ!」

「は、はい……」



 騎士団長は蛇に睨まれた蛙のように大人しくなった。
 別に自分の意見を言ってはいけないとは言っていない。
 ただ、貪欲や道理の通らない理由で人の意見を否定するのが無駄だからだ。
 そんな無駄な事をする暇があるならやるべき事をやるべきであり人の意見は聴くべきなのだ。

 人によって考え方が違えば重んじる物が違う。
 だから、その想いを否定する事はできない。

 などと言っていた人間がいたがそれはまだ、余裕があるから言える話だ。
 本気で生き残ろうとする者はそんな余裕や自己主張や権利を主張する暇すらない。
 自分を犠牲にしても一致団結して勝利を掴むのが正しい。
 そんな余裕ぶった事を平然と正しいと思える人間がいるならその人間が人当たりの良い優しい言葉を言っているだけで本気で生き残ると言う事の意味を知らないと言う事だ。

 わたしからするとこの騎士団長がまさにそれであり生き残る最善策を検討しているわたしの邪魔をするもどかしい存在以外の何もでもなかった。

 今ですら陛下の言葉で不承不承ながら納得しているだけで完全には納得していない。
 こう言う存在は隙あらば、わたしの邪魔をするだろう。
 この国に背中を預ける事は出来ないとこの時のわたしは判断した。



「話を続けますが、わたしには蜘蛛の糸を掻い潜る術があります。それに加え、大規模殲滅系の魔術を使って蜘蛛の殲滅も可能です。ディール王国の兵士達には被害が出ないように行いますが万一の事もありますので攻撃を開始された場合は即時後退を命じて下さい」

「なるほど、そのような方法があるのですね。どんな方法かは聴いても答えてはくれないでしょう。況して、こちらは頼む側だ、深い詮索は致しません。騎士団長もそれでいいな?」

「え、えぇ。それで構いません」



 作戦……と呼べる物でもないが一応、陛下からの言質は取ったのでわたしは王城の中庭でAPオラシオタイプLを空間収納から取り出し蒼いダイレクトスーツと鎧に換装してそのままAPに飛び乗り空へと飛び出した。

 その姿にライパ陛下達は茫然とAPの後ろ姿を見ていたが騎士団長は何か良からぬ笑みを浮かべていた。
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