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邪神教との開戦

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わたしはすぐにでも向かうとしたがそれをミザエルが止めた。
 なんでもわたしの疲労が目に見て分かるレベルで大きいので休養すべきであると言う事の様だ。

 何故、バレた……弱みを見せないように虚勢を張るのは自信があったんだけどな……。

 幸い、未だ宣戦布告されてからそう時間は経っておらずミザエルの試算では開戦まで3日の猶予があるらしい。

 わたしなら勝つ為なら宣戦布告と同時時刻に攻撃を仕掛けるのでその予想が本当に正しいのか訝しんだが、ミザエルの話ではわたしがいなかった2か月の間に前回のマイト信仰の反省から国境に敵部隊が展開された場合、王都からでも目視で確認できる信号弾のようなモノが発射されるように部隊に徹底させていたようでそれが無いと言う事はまだ、敵は国境にいないと言う事らしい。

 わたしの場合、実は国境部隊が買収されて態と信号弾を発射していない可能性があるのではないか?と思った。

 実際、軍人の中で宗教に関連する人間も多い。
 自分が信仰する神に逆らえないからと敵に懐柔されている可能性も否定はできない。
 況して、相手が宗教国家なら国教部隊が「神に逆らうなど不信人だ!」などと言って既に国境から逃亡している可能性もある。

 それをミザエルに聴くとまるでその回答を予測していたように「あそこにいる部隊は万が一にも敵に懐柔されないように不信仰者の部隊で構成してある」と答えた。
 しかも、その部隊の編成はミザエルが関わっており彼の宗教の恐ろしさを想定して事前に準備していたらしい。

 なんて、有能なんだ!と内心凄く思った。
 わたしの中でミザエルに対する評価がかなり上がった。

 そんなミザエルの根回しのお陰でわたしは王都から派遣された主力部隊の馬車の中で十分な睡眠を取りながら行軍する事が出来、万全の状態で国境付近に向かう事ができた。



 国境は川沿い建設されたユイールの砦に川を跨ぐ石橋で構成されている。
 基本的に敵は侵攻するとすれば、この石橋を通り砦の城門を破壊するしかない。
 水上を走ったり川を裂いたり、川の水を既に塞き止めていなければだが……。

 だが、砦の上から望遠鏡で川を全体に的に見たが塞き止めはなく、川の向こうに見える魔術師達が川を裂いたりする術を発動している様子もなく、水面走りができるほどのスタータスを持った強者も今のところ確認できない。
太陽神教は正攻法でこちらを攻めて来る可能性が非常に高かった。

ならば、石橋を一歩の通さなければ良い。
もしかすると、邪神が現れる可能性もあるけど、その為に既に2重3重の罠は仕掛けた。
 どこから邪神が攻めて来ても万全な状態だ。



「あとは……ただ、ひたすらに滅ぼすのみ」



 わたしが前に歩み寄るとそれを合図に砦の城門が開かれわたしは石橋の上に立ちそれと共に城門が閉じる。

 陛下はあぁ、言っていたがこの戦争はわたしの所為で起きたと考える者も少なくない。
 実際に輸送中も「忌み子のせいで……」とか「世を惑わす悪魔の申し子」とか「これは邪神が嗾けた戦いに違いない」とか陰口を叩かれていた。

 そんな状態で部隊行動しても逆に足手纏いと言うのもあり前回と同じようにわたしが初撃を放ち、敵と出来る限り交戦する事になった。

 その方が兵士からの反発も少なく不信感も抱きにくいからだ。
 それに後ろから斬られたら堪った者ではない。
 
 部隊に対する不審の芽が部隊を全滅させる事もあるのだ。
 それを抱えるくらいならだったら、1人で戦った方が幾分か楽だ。
 全身は銀色の鎧にその内側には蒼いダイレクトスーツ、銀色の外套を羽織ったわたしは敵を炯々に見つめる。

 前回のマイトとの戦闘ではわたしがダンジョンの武器を持っている事を友軍に感づかれるのも配慮して普通の鎧を着ていたが今回は邪神が出る可能性があったのでわたしなりの決戦形態で整えた。

 全身を銀色で覆われたわたしを見て敵部隊から明らかに殺意を向けられる。
 この身一つで多くの人間の悪意を受けるのは久方ぶりだ。
 その時は全部悪い記憶でありろくでもない時ばかりだったがそれと比べれば可愛いモノだ。

 敵部隊は縦列で槍を構えながらわたしの居る石橋に突貫して来た。
 ただし、魔術師により高速移動術系の魔術を付与され電光石火の如き速さで砦に突撃してくる。

 軽く音速に迫る速度が出ておりよくそれで体を制御していると感心してしまうが----------遅過ぎる。

 わたしが空間収納から1対純白の剣を左右に構えた共に突貫して来た兵士達が宙に舞い悲鳴を上げながら上半身や下半身、腕や脚と共に川にボトボトと落ちていき辺りには血だまりが出来、人だった者の肉片が転がる。

 わたしの銀髪と鎧が深紅に染まった。

 それでも敵の槍兵はまるで弾丸のように石橋を駆けてわたしに突貫する。
 わたしは左脚を大きく開いて左手の剣を大きく振った。
 剣の間合いと更にその延長線上に放たれた神力の刃が彼らの鎧ごと両断する。
それでもなお迫る、槍兵をわたしは今度は右手の剣を振り同じように迎撃する。
 そして、ようやく、槍兵達は進軍をやめた。



「ば、馬鹿な……」

「あんな、簡単に……」

「化け物め……」




 その場から動こうともしないわたしに対して敵は畏怖の眼差しを向ける。
 紅蓮の鎧に身を固め太陽の力を得たと思い込んでいる彼らにとってこれほど恐怖を感じた事はないだろう。

 あの紅蓮の鎧は神の奇跡とやらで出来ているらしく装備すれば最強になると言われている。
 それは事実ではあるらしいのだが、逆に彼らの中で苦戦を強いられながら戦った者は恐らくいない。
 槍兵達も紅蓮の鎧に過信してか避ける動作など一切無かった。

 武器の性能にモノを言わせて、粋がっている連中という事らしい。
 わたしは石橋の上から一歩歩いた。
 すると、敵兵がそれに連れて一歩後退る。
 更にわたしが一歩一歩また、一歩と歩く度に彼らは後退る。
 
 相変わらず、邪神が現れる気配はない。
 何か作戦を展開しているのかとも思ったがその気配すら無い。
 それとも魔力が溜まるのを待ってから最高のコンディションでわたしを倒すつもり……なら、あぶり出す。

 わたしは石橋の端に立ち天に向けて左手の剣を掲げる。
 純白の剣先から莫大な雷鳴を帯びた火炎の球体が出現する。
 以前、放った本気のファイアボールよりも火球は小さいが内包されるエネルギーは桁違いに高い。
 複合魔術と呼ばれる異なる魔術同士を共振させる事で高効率の魔術を放つ為の術だ。
 本気のファイアボールの時に使った神力の半分も満たない力でそれ以上のエネルギーを生み出す。
 ただし、制御は難しいので人間は愚か、邪神でもこの技の複製は出来ない。(一部例外あり)

 とにかく、この術は効率が良いので大技でも発動、構築までのタイムラグはほぼ皆無なので敵は異様な雰囲気に気づき対策を講じる前にはわたしは既に発射態勢を整える。



「フレアライトニング!」



 刹那、球体から炎と雷鳴を纏った光線が横薙ぎで敵部隊に直撃し盛大な爆発を起こし衝撃波が駆け抜ける。
 砦にいた者達も暴風に吹き飛ばされないように砦の塀にしがみつき悲鳴を上げる。
 石造りの砦が暴風により飛んだ遠くの小さな石の破片に当たり亀裂が走り石が欠ける。



「まだ、生きていますか……」



 肢体が吹き飛び、上半身だけになり泣き喚く人間や腕と脚が吹き飛んだ人間、更には元々人間だったモノも一部が藁のように燃えていた。
 今の一撃で部隊の7割は全滅させた。
 これでも邪神は現れる気配すら無い。
 況して、切り札を使って来る兆しもない。

 わたしを欺くほどの隠蔽で切り札を隠し現在進行形で罠を起動させているかも知れないと言う可能性はあるけど、わたしが装備している銀色の外套には対隠蔽のような効果があり、しかも、神であるわたしからしてもこれほどの一点の品はないと断言できる性能を持ち装備者の隠蔽を見抜く力がなどはこの外套の効果でかなり上がっておりわたしの能力も合わさり隠蔽は不可能と言える。



「わたしに勝算があって攻めてきた筈なのに一体、何がしたいの?この戦域で発生する魔力は全てわたしが処理してる。それに対する妨害があっても良い筈なのに……」



 思わず、独り言を言ってしまうほどこの戦いは”雑“だった。
 ただ、信託を受けてただ単に物量に物を言わせて兵士を死なせただけだ。
 それも魔力すら発生せず事実上、無意味な戦いでありその無意味さに裏があるとすら思える。

 ただ、この時点では可能性の域を出ないが似たような場面に前にも遭遇した事がありその時と状況は違うが雰囲気が違う。
 その時のわたしは兵士にすらなっておらずその時の雰囲気が理解出来ていなかったが、長年の経験と勘がこの状況を説明できる答えをわたしの中で導く。



「なるほど……随分と舐めた真似をしますね」




 わたしはその人物に聴こえるように吐き捨てる。
 だが、それが答えだとしてもわたしのやる事は変わらない。
 もう、刻印(スティグマ)を刻むと決めたのだ。
 徹底的にやり通す。
 わたしが再び、フレアライトニングの発射態勢に入ると誰かがわたしの間合いに入り腰を落としわたしの左脇腹目掛けて剣を振るった。

 わたしは右手の純白の剣でそれと受け止め、すぐさま相手の力を見切り前足に力がかかっていたので相手の後ろ脚に力を伝えるように剣を弾いた。
 敵は仰け反ったがすぐにバク転をして態勢を立て直し、距離を取った。

 強い……と率直に思った。
 少なくとも今まで会った人間の中で一番強いと思った。
 感覚からしてレベル800と言ったところかな……この世界でも恐らく、上位の実力者だと分かった。



「流石、悪魔ですね……今のは確実に殺ったと思ったのですが……」
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