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周回後の戦争の兆し

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 門兵達の話ではわたしが最初にダンジョンから帰還した辺りからわたしが異常な速度で入口に現れ気づいたらダンジョンに入りを繰り返していたようで最近ではわたしが1日に何回戻って来るかその回数で賭け事をしていたと言う。

 わたしの中である結論に至った。

 ダンジョンの内部時間の操作?5日間を5年に引き延ばすほどの時空魔術の類?確かにわたしはかなり力を制約していたからその事に気付かない可能性はなくはないけど、魂はかなり昇華していたから普通の時空魔術なら気づくはず……このダンジョンを造った古代の魔術師はわたしを欺くほど時空魔術に長けていたと言うの?

 可能性としてはゼロではない。
 この世に絶対などと言うモノは既に過去に消え去ったのだから、どこかの魔術師のその域に達した可能性も否定はできない。

 恐らく、ダンジョン内の魔物を一定数倒す事で魔力を吸収し吸収量に応じて時空魔術の装置を稼働させるタイプなのだと思う。
 そうでないと門兵達の証言と辻褄が合わない。
 ただ、その仮説が正しいとすると……。



「これ……かなり幸福なんじゃ……」



 地獄の特訓が幸福と考えるのを可笑しいと考える者もいるかも知れないがそんな事は決してない。
 寧ろ、全てを忍耐し人生において鍛錬を怠らない者が勝者となる。
 その鍛錬は人により違う。
 肉体的な苦痛を受ける者、精神的に苦痛を受ける者……人それぞれだ。
 とにかく、「自殺」さえしなければ勝者になる可能性は万人に与えられる。
 もっとも、その努力と鍛錬ができる幸福が分からず癇癪を起す者が世間でパワハラだのなんだのと騒がれる。
 少なくとも自ら鍛錬の道を逃れようとする者は決して神に近づく事は出来ない。

 そう言う意味では神らしいと言うのは常に鍛錬を率先して行う者の事である。

 だから、わたしは地獄に飛び込むのだ。
 
 努力したくてもできない不幸を誰よりも知っているからだ。
 寧ろ、努力できない事に恐怖すら感じているかも知れない。
 そうだとしても関係はない。
 わたしは極限を超えてでも自分を鍛える……それが神の矜持として正しいからだ。

 こうして、わたしは更に1ヶ月周回を続けて鍛錬に励んだ。
 取り合えず、不眠不休で150年ノンストップで狼達を殺し尽くした。
 このダンジョンはその性質上、外では1日経っていても一度、システムが稼働しその稼働効率により内部時間が最大1年延びるようだ。
 
 このダンジョンの周辺で狼の魔物が溢れるのは外で倒された狼達の魔力をダンジョンが吸収し内部時間でかなりの時間を経過する為に魔力によって新たな狼が長い時間をかけて大量繁殖してそれが外に溢れ出ているからだと言う事が分かった。

 人々にとっては災害以外の何者でもないかも知れないがわたしはこのシステムのお陰でかなり力をつける事ができた。
 魂の適合化も順調に進み適合率50%になったが既に転生前のわたしを超えるほどの力を得ていた。

 転生前のわたし以上の力と言う事は上級の邪神程度なら殺せる力があると言う事だ。
 ただ、それでも安心はできない。
 邪神がどんな手で攻めて来るのかまるで予測がつかない。
 況して、わたしを転生させるほどの邪神がただの上級邪神で済むとは思えない。

 ステータスはかなり上げた。
 このままこのダンジョンに籠ってレベル上げをするのが最適解かも知れないがこの世界にはまだ、他にもダンジョンが存在しもしかするとこのサシイリダンジョンのような変わった効果を持ったダンジョンもあるかも知れない。

 1つの事を徹底的に突き詰めるのも良い事ではあるが拘り過ぎるのも良くない。
 戦いとは、1つの手段をだけを講じれば勝てる訳ではないし必勝法など無い。
 確かにここはレベリングには打ってつけだが、レベルの高さだけでは得られないモノもある。
 例えば、幾らレベルが高くてもメンタルを育てなければ強敵と戦う事はできない。
 自分よりも高レベルの相手と戦う時になってメンタルを育てれば良かったでは遅いのだ。

 だから、名残惜しいがこのダンジョンは1回撤収する事にした。
 わたしは王都に戻り別のダンジョンの情報を探す事にした。
 今度はダンジョンの特性などを注意深く探りながら次のダンジョンの目星をつけようと王都に戻って5日ほど経ったある日、またリオン陛下に呼ばれる事になった。



 城の応接室



「よく来たなレティシア嬢。」



 リオン陛下は謁見の時に着ているような正装ではなく、もう少しゆったりとした気軽い感じの麻布を着ていた。
 そこにはアルフレッド叔父さんもおり非公式に近いが何か重大な事を報せようとしていると察する事ができた。



「王都に戻って来たばかりで悪いが国の盾として力を貸して欲しい」

「と、言いますと?」

「実はな。隣国のマイトが戦争を起こそうとする兆しがあってな……」

「戦争ですか……」



 この時点で大方の話は理解出来た。
 確かに国の盾として活躍するのは十分かつ正当な理由だ。




「元々、あの国とは仲が良かった訳ではない。小競り合いは何度もあったのだが、今回はいつもとは違ってな。国境警備隊の話では敵はアンティークを国境付近に集結させているようだ」

「……アンティークを使うと戦争の兆しになるのですか?」



 わたしがそう口にすると叔父さんがそれを補足した。



「君はダンジョン籠り……と言うよりは生身で魔物と渡り合えるから分からないかも知れないがアンティークとは本当に有事の際の切り札だ。本来は戦争に持ち出す物ではない。災害級の魔物……それも竜などを討伐する為の物だ。それを人間の戦争に持ち込むと言う事は、マイトはこの戦いを本気で勝ちに来ようとしていると言う事だ」



 そう言えば、そうか……わたしは普通にAP同士で撃ち合っていたから戦争に勝つ為にAP使っても不思議ではないと考えていたがこの世界を基準にすると今回のマイトの行動はかなり異常なのだ。
 寧ろ、人間同士の戦争にAPを持ち出すのはナンセンスと言って良いかも知れない。
 だとしたら、マイトは何故、そこまでして戦争に勝ちたいのか?と言う疑問が浮かぶが人間が戦争をする理由など幾らでもある。

 資源、宗教、差別、正義、道徳……動機を造ろうと思えば幾らでも造れる。
 或いは個人を殺す為に国家が動く……などと言う事も十分にあり得る。

 いずれにせよ、この国が害されようとしているのは事実だ。
 戦争を仕掛けた動機なら軍を指揮している幹部でも捕まえて聴き出せば良い。



「そこでだ。レティシア嬢には国境に向かい、監視について欲しいのだ。そして、もし敵の侵攻が確認された場合、これを迎撃して欲しい。」

「お話は分かりました。お引き受けてします----------使?」

「ん?言っている意味が分からんが、わたしとしては自国民と我が国の兵士……そして、君の安全が最優先だ。それを行う上で必要な手段があるなら好きなだけ講じるが良い。それこそ、自作のアンティークを使っても構わない」

「分かりました。では、陛下の御心を行う為に1つ王命を国境付近の兵士達に命じて欲しいです」

「言ってみるが良い。」

「戦争になった場合、こちらからの攻撃はわたしが最初の一撃を入れるので手を出さないように厳命して下さい」




 マイトの兵士達には悪いけど、今のわたしがどれだけの力を持っているのか実験に付き合って貰います。
 自分の全力を知っておく事は必要な事です。
 況して、相手がアンティークなら不足はない。
 現状のわたしが放てる最大の力を初撃で放つとしましょう。
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