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ルシファー事変
NP
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飛行機の中
車に乗り少し離れた森林地帯の開けた場所から、垂直離着陸音速輸送機に乗る羽目になった。
事情があったとは言え、半ば家出をした様な罪悪感の中乗る初めての飛行機は楽しいとは言えない。
それよりも悔いる気持ちの方が強く、顔は暗く影を落とす。
介護の仕事をして来た自分はどんな時でも笑顔を作る様にして来たが、今回はその余裕すらない。
そんな自分の未熟さも痛感しつつ、窓際の席でボーと日が落ちかけの夕暮れの空を眺めている所に吉火が飲み物を取って来てくれた。
「どうです?落ち着きましたか?」
「少しは……」
自分らしくもなく、素っ気なく答えてしまったと思う。
吉火は「そうですか」とだけ答えた。彼はアリシアの心情を察してくれている様でそれに関して不快感などは抱かず受け止めてくれた。
実際、あの直後は車の中でしばらく泣いて、話す余裕が無かった。
今は少しは余裕が生まれているのは事実だった。
吉火は黙って彼女の前の席に座った。
対面する様な形で座ったが、アリシアは吉火と目を合わせなかった。
吉火は窓際の壁にある折り畳みの机を黙って展開した。
彼女が口を開くまで下手に刺激すべきではないと判断したからだ。
その上に自分のコーヒーとアリシアのオレンジジュースを置いた。
オレンジジュースは客室の中に設けられたカウンター席の裏にある大きな冷蔵庫から取り出した。
カウンター席の前には娯楽用と思われる円卓の上にトランプが入った黒いカードホルダーが付いている。ポーカーなどをプレイするためのモノだ。
床は灰色の絨毯が敷かれ、まだ夕日が差し込めるがそれよりも少し強めの白い照明が客室を照らす。
内装には、絵画や手の凝った小物がシックな感じの部屋を映え立たせる。
アリシアにとって部屋の照明が少し強すぎて目がチカチカする。
慣れないものを見ているせいか、目線が自然と自然光である夕日に向いてしまう。
その方がなんだか落ち着くからだ。
数十分くらいお互いに黙って、お互いの飲み物を飲んでいく内にアリシアからようやく口を開いた。
「教えてくれませんか?どうしてわたしなのか?」
(いつまでもウジウジしてられない。まずは知らないと)
アリシアはアリシアなりにようやく前に進もうと自分の置かれた状況を知ろうとし始めた。
どんな仕事でも自分からの積極性は大切な事であり、彼女は藻掻きながらも進もうとしていた。
吉火はそんな彼女の健気な姿に感心し、少し微笑みを浮かべ「分かりました」と答えてタブレットを交えながら説明を始めた。
そこに映し出されたのは、MOMENTと大きな水色の字でゴシック体で書かれた枠の中に様々な部門の名前が記載されていた。
その中には第1歩兵連隊から第30歩兵連隊まで記載されそれを頂点に大隊、中隊、小隊とピラミッド式に記載されていた。
他にも様々な部門があったが、吉火もその中からAP部門の項目をピックアップしその中にある“NP”と書かれた項目を開いた。
「まず、あなたが今から所属アクセル社モーメントのAP部門の実験私設武装組織NPです」
「PMCとは違うんですか?」
「モーメントはあくまで公式的な隠れ蓑、NPは完全に非公式部隊です」
「……それはテロリストなんじゃ?」
アリシアは素っ気ないがあくまで客観的かつ中立的で冷静な発言をした。
企業である以上、国の申請なども通過しなければならない。
付け加えるなら本来、兵器会社であるアクセル社がPMCを持つ事も許される事ではない。
兵器会社が独自の武力を持つ事は原則禁止されている。
万が一、反乱でも起こされたら通常のテロリスト以上の脅威になるからだ。
だが、それも大戦前までの話だ。
大戦後の体制では軍備拡張の一環として審査が通れば、兵器会社もPMCを保有する事が出来る。
ただし、その場合は会社としてのサービスを行使できる反面、軍の要請があれば兵力を優先的に貸し与えねばならず法的には軍に譲渡している形になっている。
それはアリシアでも知っているくらいの一般常識だ。
ただでさえ、審査が厳しい中で非公式の部隊を作れば誰でもテロリストと言う認識を抱くのは自然な事だ。
「う~ん。非公認な組織と言う意味ではテロリストですね」
吉火は何の陰りもなく肯定した。少なくとも、法律的に違法な事をしている自覚はあるようだ。
「ですが、真の意味でテロリストに成るか成らないかはあなたがどう組織を導くかに掛かっています」
「可笑しな事を言うんですね。その言い方だと、まるで私がその組織の主導権を握っている様ですけど……」
「様にではなく握っているのです」
アリシアは首を傾げた。
話がどうにも見えて来ない。
(私設武装組織の主導権をわたしが握っている?何の為に?何故?どうして、そうなったのか?そもそも、素人同然の自分に小規模とは言え組織の主導権を握らせる意味があるのか?その目的がなんなのかまるで見えて来ない)
アリシアは吉火が持ってきたオレンジジュースを一気に流し込んだ。
多少、ストレスを感じているせいなのか、普段は啜って飲むモノを一気に煽る。
金属のコップの中に入った冷え切ったオレンジジュースが喉の渇きを格別に潤すように透き通っていく。
「NPの目的は何ですか?何で私なんですか?」
アリシアはその根本を率直に聴いた。このまま憶測を考えても答えは出ない。
やはり、分からない事は直接聞いた方が速いと判断した。
吉火は態度を崩す事無く、柔らかい物腰で白い歯を浮かせながら微笑む。
「NPの目的はTSと言う特殊な機体OSを起動させる事です」
質問の答えを言われたような気がするが、それだけでは分からなかった。
そもそも、可笑しなことを言っているように聞こえる。
「可笑しな言い方ですね。自社で作ったOSなのに動かないんですか?」
「いえ、厳密に言うならある日突然、1つのOSに起きた突然変異体です」
「突然変異?」
また、意味の分からない単語が跳んで更にアリシアは首を傾げ右手で自分の髪を弄り始める。
(そもそも、OSが突然変異する事なんてあり得るの?何か生物進化論を応用したOSなら確かに何かしら面白い挙動をするだろうけどそれは仕様的変化であって突然変異とは言えないよね?)
吉火も流石にアリシアの言いたい事が理解しているようで「やっぱり、わかりませんよね」と微笑みながら詳細を説明してくれた。
「事の初めは十五年前の事だった様です。終戦直後にアクセル社が最初に試作したAPのOSがある変異を見せた。どうして、そうなったのか?今でも分かっていません。そのOSはいかなる搭乗者の搭乗を拒み運用不可能と言われた機体に成りました」
「随分、困った兵器ですね」
「誰もがそのように考えました。ですが、そのOSは時折国家機密や歴史の影に隠された真実、更に未知の技術等を開示しました」
その時、アリシアの中である事が過った。
アクセル社の介護士として就職するに辺り、自分なりに企業に関して調べた中でこんな話があった。
戦後アクセル社は急激な頭角を見せこの15年で大企業になった。
様々な最新鋭技術を次々と生み出し世界を先読みする先見性のある経営方針や技術を多数産み出し、7年前には世界の幅広い分野にもその裾野を広げ、アクセル パワープラントやアクセル フーズ、アクセル モーターズなど様々な業界に進出しその全てで革新技術を産み出し成功していた。
「もしかして、アクセル社の成長はそのOSの成果」
アリシアは確信に満ちた瞳で吉火を見つめ返す。吉火は首肯した。
「その通りです。OSのデータを元にアクセル社は急成長しました。もう1つOSにはある特性があります。搭載されている自機に設計データを組み込むと自機の形状を設計に近づけるという機能です」
「データがそのまま反映される機体ですか」
「えぇ。何故、そんな事が出来るのか未だ分かりません。特性上、理論的な創造物を現実に出力する力を持っています。そのOSがある日ある要求をしてきました」
「要求?自我があるんですか?」
意志を持ったOSと言うのも聞いた事はなかった。
確かに現代技術ではAIが柔軟に人間の問いかけに答える事は出来る。
だが、それは評価関数による累積データの評価によって出力されたものだ。
人間とは違い、データにない挙動や無から有を想像する知性まではない。
AIが意志を持っていると判断するかは人間の相対的な価値観でアリシアにも断言出来ない。
少なくとも自立思考型AIはいるが、それはあくまで自分の欲求を満たすような“要求”と言う趣旨の事は出来ないはずなのだ。
「それは分かりません。ただ、自分が指定する適格者を乗せろ、その者にダビデの様な権威、権能を与えよ。とそのOSは言って来たのです。」
吉火が言った事が真実なら確かにそのTSと言うのは、要求と受け取れる趣旨の内容を言っているとアリシアは思った。
それに聞き捨てならないキーワードを聴いた。
(ここでもダビデ……ですか。やっぱり、あの声は幻聴ではなかったのかな?だけど、何故こうもダビデに拘るの?わたしと何の関係があると言うの?全く分からない)
さっき軽く調べてみたがダビデとは、その名は聖書に記載された王の名だ。
幼少期に大人が倒せなかった巨人ゴリアトを石を投げつけ倒し、エルサレム神殿建築の為の資材を一生を尽くして集め、息子ソロモンに神殿建築を任せた王として知られている。
調べても余計に自分と何の関係があるのか分からない。
自分がその血筋でも引いているとでも言うのか?少なくとも父や母からはそんな話は聞いた試しはない。
尤も母型の血筋はかなりの混血とは聞いた事がある。
ウクライナ系やロシア系、アフリカ系、アジア系など祖先が多方面に多かったらしいので、どこかでユダヤ系が流れている可能性もゼロではない。
「そして、そのOSが指定した人物が……」
「わたしなんですか?」
「我々はOSの解析をする為に私設武装組織NPを建設しました」
アリシアは窓から差し込める夕日を眺める。
もうすぐ、日が傾き夜になろうとしている。
今日の出来事だけで色々、あり過ぎた。これほど1日が長いと感じた事はない。
そして、今の発言でようやく、本題が解けた。
だが、そのOSがなぜ自分を選んだのかは今としては計り知れない。だから、別の質問をぶつける。
「解析の為だけに組織を作ったんですか?」
解析の為と言うのは、理解出来た。
だが、それだけではない気がした。
そのOSは神の大罪とまで言われた旧世代宗教の思想を受け継いでいるのだ。
多少なりバグではないか、と疑う筈であり仮に解析が必要でも、こんな怪しいOSの為に武力を持たせると言うのはやはり異常に思える。
それを度外視してもやるべき事がこの組織にはあるとアリシアは睨む。
流石に吉火もアリシアが何を考えているか、仕草で理解出来た。
(さっきから割と鋭いところを突いてくるな……薄々感づいているか?)
頭の回転が速いとプロフィールに記載されているが実際、話すと中々の洞察力だと感心する。
だが、今は彼女の質問に素直に答えるわけにはいかなかった。
車に乗り少し離れた森林地帯の開けた場所から、垂直離着陸音速輸送機に乗る羽目になった。
事情があったとは言え、半ば家出をした様な罪悪感の中乗る初めての飛行機は楽しいとは言えない。
それよりも悔いる気持ちの方が強く、顔は暗く影を落とす。
介護の仕事をして来た自分はどんな時でも笑顔を作る様にして来たが、今回はその余裕すらない。
そんな自分の未熟さも痛感しつつ、窓際の席でボーと日が落ちかけの夕暮れの空を眺めている所に吉火が飲み物を取って来てくれた。
「どうです?落ち着きましたか?」
「少しは……」
自分らしくもなく、素っ気なく答えてしまったと思う。
吉火は「そうですか」とだけ答えた。彼はアリシアの心情を察してくれている様でそれに関して不快感などは抱かず受け止めてくれた。
実際、あの直後は車の中でしばらく泣いて、話す余裕が無かった。
今は少しは余裕が生まれているのは事実だった。
吉火は黙って彼女の前の席に座った。
対面する様な形で座ったが、アリシアは吉火と目を合わせなかった。
吉火は窓際の壁にある折り畳みの机を黙って展開した。
彼女が口を開くまで下手に刺激すべきではないと判断したからだ。
その上に自分のコーヒーとアリシアのオレンジジュースを置いた。
オレンジジュースは客室の中に設けられたカウンター席の裏にある大きな冷蔵庫から取り出した。
カウンター席の前には娯楽用と思われる円卓の上にトランプが入った黒いカードホルダーが付いている。ポーカーなどをプレイするためのモノだ。
床は灰色の絨毯が敷かれ、まだ夕日が差し込めるがそれよりも少し強めの白い照明が客室を照らす。
内装には、絵画や手の凝った小物がシックな感じの部屋を映え立たせる。
アリシアにとって部屋の照明が少し強すぎて目がチカチカする。
慣れないものを見ているせいか、目線が自然と自然光である夕日に向いてしまう。
その方がなんだか落ち着くからだ。
数十分くらいお互いに黙って、お互いの飲み物を飲んでいく内にアリシアからようやく口を開いた。
「教えてくれませんか?どうしてわたしなのか?」
(いつまでもウジウジしてられない。まずは知らないと)
アリシアはアリシアなりにようやく前に進もうと自分の置かれた状況を知ろうとし始めた。
どんな仕事でも自分からの積極性は大切な事であり、彼女は藻掻きながらも進もうとしていた。
吉火はそんな彼女の健気な姿に感心し、少し微笑みを浮かべ「分かりました」と答えてタブレットを交えながら説明を始めた。
そこに映し出されたのは、MOMENTと大きな水色の字でゴシック体で書かれた枠の中に様々な部門の名前が記載されていた。
その中には第1歩兵連隊から第30歩兵連隊まで記載されそれを頂点に大隊、中隊、小隊とピラミッド式に記載されていた。
他にも様々な部門があったが、吉火もその中からAP部門の項目をピックアップしその中にある“NP”と書かれた項目を開いた。
「まず、あなたが今から所属アクセル社モーメントのAP部門の実験私設武装組織NPです」
「PMCとは違うんですか?」
「モーメントはあくまで公式的な隠れ蓑、NPは完全に非公式部隊です」
「……それはテロリストなんじゃ?」
アリシアは素っ気ないがあくまで客観的かつ中立的で冷静な発言をした。
企業である以上、国の申請なども通過しなければならない。
付け加えるなら本来、兵器会社であるアクセル社がPMCを持つ事も許される事ではない。
兵器会社が独自の武力を持つ事は原則禁止されている。
万が一、反乱でも起こされたら通常のテロリスト以上の脅威になるからだ。
だが、それも大戦前までの話だ。
大戦後の体制では軍備拡張の一環として審査が通れば、兵器会社もPMCを保有する事が出来る。
ただし、その場合は会社としてのサービスを行使できる反面、軍の要請があれば兵力を優先的に貸し与えねばならず法的には軍に譲渡している形になっている。
それはアリシアでも知っているくらいの一般常識だ。
ただでさえ、審査が厳しい中で非公式の部隊を作れば誰でもテロリストと言う認識を抱くのは自然な事だ。
「う~ん。非公認な組織と言う意味ではテロリストですね」
吉火は何の陰りもなく肯定した。少なくとも、法律的に違法な事をしている自覚はあるようだ。
「ですが、真の意味でテロリストに成るか成らないかはあなたがどう組織を導くかに掛かっています」
「可笑しな事を言うんですね。その言い方だと、まるで私がその組織の主導権を握っている様ですけど……」
「様にではなく握っているのです」
アリシアは首を傾げた。
話がどうにも見えて来ない。
(私設武装組織の主導権をわたしが握っている?何の為に?何故?どうして、そうなったのか?そもそも、素人同然の自分に小規模とは言え組織の主導権を握らせる意味があるのか?その目的がなんなのかまるで見えて来ない)
アリシアは吉火が持ってきたオレンジジュースを一気に流し込んだ。
多少、ストレスを感じているせいなのか、普段は啜って飲むモノを一気に煽る。
金属のコップの中に入った冷え切ったオレンジジュースが喉の渇きを格別に潤すように透き通っていく。
「NPの目的は何ですか?何で私なんですか?」
アリシアはその根本を率直に聴いた。このまま憶測を考えても答えは出ない。
やはり、分からない事は直接聞いた方が速いと判断した。
吉火は態度を崩す事無く、柔らかい物腰で白い歯を浮かせながら微笑む。
「NPの目的はTSと言う特殊な機体OSを起動させる事です」
質問の答えを言われたような気がするが、それだけでは分からなかった。
そもそも、可笑しなことを言っているように聞こえる。
「可笑しな言い方ですね。自社で作ったOSなのに動かないんですか?」
「いえ、厳密に言うならある日突然、1つのOSに起きた突然変異体です」
「突然変異?」
また、意味の分からない単語が跳んで更にアリシアは首を傾げ右手で自分の髪を弄り始める。
(そもそも、OSが突然変異する事なんてあり得るの?何か生物進化論を応用したOSなら確かに何かしら面白い挙動をするだろうけどそれは仕様的変化であって突然変異とは言えないよね?)
吉火も流石にアリシアの言いたい事が理解しているようで「やっぱり、わかりませんよね」と微笑みながら詳細を説明してくれた。
「事の初めは十五年前の事だった様です。終戦直後にアクセル社が最初に試作したAPのOSがある変異を見せた。どうして、そうなったのか?今でも分かっていません。そのOSはいかなる搭乗者の搭乗を拒み運用不可能と言われた機体に成りました」
「随分、困った兵器ですね」
「誰もがそのように考えました。ですが、そのOSは時折国家機密や歴史の影に隠された真実、更に未知の技術等を開示しました」
その時、アリシアの中である事が過った。
アクセル社の介護士として就職するに辺り、自分なりに企業に関して調べた中でこんな話があった。
戦後アクセル社は急激な頭角を見せこの15年で大企業になった。
様々な最新鋭技術を次々と生み出し世界を先読みする先見性のある経営方針や技術を多数産み出し、7年前には世界の幅広い分野にもその裾野を広げ、アクセル パワープラントやアクセル フーズ、アクセル モーターズなど様々な業界に進出しその全てで革新技術を産み出し成功していた。
「もしかして、アクセル社の成長はそのOSの成果」
アリシアは確信に満ちた瞳で吉火を見つめ返す。吉火は首肯した。
「その通りです。OSのデータを元にアクセル社は急成長しました。もう1つOSにはある特性があります。搭載されている自機に設計データを組み込むと自機の形状を設計に近づけるという機能です」
「データがそのまま反映される機体ですか」
「えぇ。何故、そんな事が出来るのか未だ分かりません。特性上、理論的な創造物を現実に出力する力を持っています。そのOSがある日ある要求をしてきました」
「要求?自我があるんですか?」
意志を持ったOSと言うのも聞いた事はなかった。
確かに現代技術ではAIが柔軟に人間の問いかけに答える事は出来る。
だが、それは評価関数による累積データの評価によって出力されたものだ。
人間とは違い、データにない挙動や無から有を想像する知性まではない。
AIが意志を持っていると判断するかは人間の相対的な価値観でアリシアにも断言出来ない。
少なくとも自立思考型AIはいるが、それはあくまで自分の欲求を満たすような“要求”と言う趣旨の事は出来ないはずなのだ。
「それは分かりません。ただ、自分が指定する適格者を乗せろ、その者にダビデの様な権威、権能を与えよ。とそのOSは言って来たのです。」
吉火が言った事が真実なら確かにそのTSと言うのは、要求と受け取れる趣旨の内容を言っているとアリシアは思った。
それに聞き捨てならないキーワードを聴いた。
(ここでもダビデ……ですか。やっぱり、あの声は幻聴ではなかったのかな?だけど、何故こうもダビデに拘るの?わたしと何の関係があると言うの?全く分からない)
さっき軽く調べてみたがダビデとは、その名は聖書に記載された王の名だ。
幼少期に大人が倒せなかった巨人ゴリアトを石を投げつけ倒し、エルサレム神殿建築の為の資材を一生を尽くして集め、息子ソロモンに神殿建築を任せた王として知られている。
調べても余計に自分と何の関係があるのか分からない。
自分がその血筋でも引いているとでも言うのか?少なくとも父や母からはそんな話は聞いた試しはない。
尤も母型の血筋はかなりの混血とは聞いた事がある。
ウクライナ系やロシア系、アフリカ系、アジア系など祖先が多方面に多かったらしいので、どこかでユダヤ系が流れている可能性もゼロではない。
「そして、そのOSが指定した人物が……」
「わたしなんですか?」
「我々はOSの解析をする為に私設武装組織NPを建設しました」
アリシアは窓から差し込める夕日を眺める。
もうすぐ、日が傾き夜になろうとしている。
今日の出来事だけで色々、あり過ぎた。これほど1日が長いと感じた事はない。
そして、今の発言でようやく、本題が解けた。
だが、そのOSがなぜ自分を選んだのかは今としては計り知れない。だから、別の質問をぶつける。
「解析の為だけに組織を作ったんですか?」
解析の為と言うのは、理解出来た。
だが、それだけではない気がした。
そのOSは神の大罪とまで言われた旧世代宗教の思想を受け継いでいるのだ。
多少なりバグではないか、と疑う筈であり仮に解析が必要でも、こんな怪しいOSの為に武力を持たせると言うのはやはり異常に思える。
それを度外視してもやるべき事がこの組織にはあるとアリシアは睨む。
流石に吉火もアリシアが何を考えているか、仕草で理解出来た。
(さっきから割と鋭いところを突いてくるな……薄々感づいているか?)
頭の回転が速いとプロフィールに記載されているが実際、話すと中々の洞察力だと感心する。
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