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15−1 エピローグ

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 あとから考えると、あの焼き印はリカルドの優しさだったのかもしれない。
 ラルフレットは、セレスティナがはじめて故意に攻撃した相手だから。

 風の魔法で叩きつけたとき、焼き印が彼の頬をかすめたのは偶然だったが、どんな相手にせよ、誰かを傷つけたという事実は、セレスティナの中で燻り続けている。
 それを見越して、リカルドは目の前でもっとひどい報復をしてくれたのだと思う。

(リカルドのことだから「あの男の記憶が残り続けるのが嫌だから」とか言いそうだけど……)

 実際、大いにあり得る。
 だって、実際にラルフレットのことを思い出しそうになっても、今、脳裏に浮かんでくるのは悪い顔をして焼き印を押そうとするリカルドのことばかりなのだから。
 記憶まるごと、すっかりリカルドに塗りつぶされている。

 でも。
 そんな彼の優しさに救われたのは事実だ。



 あのあと。
 ラルフレットとユァンは、国際裁判にかけられることとなった。
 ラルフレットはもちろん、セレスティナを誘拐しようとした罪で。それから、以前セレスティナを幽閉し、別の者を妃として迎えようとした事実。さらに、魔力を搾り取ろうとしたことまで。

 ユァンも同じく、セレスティナを誘拐した他、セレスティナの魔力を利用して神聖な奉納試合に観衆を巻き込み、眠りの魔法をかけたこと。
 それ以外にも、イオス王国を利用して、他人の魔力を永久に搾取する邪法の開発を咎められることとなった。

 悪事の証拠はいくらでも出た。
 かつてセレスティナが閉じ込められていた地下牢。さらに、彼女の魔力を溜め込む器――すなわち、特殊な魔法兵器が開発されていた研究施設が白日の下へ晒されたからである。

 国際会議が終わった数日後、イオス城は完全に崩壊――いや、粉砕し、瓦礫もすべて吹き飛ばされ、地下施設だけが剥き出しの状態で発見された。
 さらに魔法兵器の研究施設とやらも、見事に外壁という外壁が壊された。

 それはどちらも、イオス王国に調査機関が入る前日のこと。
 イオス王国側は元々隠蔽作業に勤しんでいたようだけれども、それらの努力はすべて水泡に帰した。
 かの国の、倫理を無視した非道な行いは暴かれ、ラルフレットやユァンだけではなく、かの国自体が、各国に責められ、裁判にかけられている状態なのである。

 ただ、他人の魔力を搾取する魔法陣とやらは、その研究資料も含めて全て消失していたのだとか。
 たったひとつ、供給側の魔法陣を除いて。

 その魔法陣は、ラルフレットの身体の表面に刻まれているらしいが、彼がそれを見せることをひどく拒んだ。
 まあ、平らでない場所に刻まれているらしいから、結局、完全な形で確認することなど不可能ならしいが。

 ラルフレットに焼き印を押した人物を除けば、他、一連の事件は、結局誰が起こしたのかはわからない。
 どう考えてもひとりの人間がやったとは思えないほどに大規模な襲撃。しかし、その攻撃した者自体の証拠は何ひとつ残っていなかったからだ。



 なんて。

(――――残っていないのなら、しょうがないわよね)

 国際会議から戻ってきて数ヶ月。
 セレスティナは相変わらず丘の上の屋敷で毎日のんびり過ごしていた。
 
 戻ってきてからしばらくは、リカルドの執着は以前に戻ったように激しかった。でも、それも仕方がないと思う。
 セレスティナは誘拐され、他の男に触れられたわけだし、その後も事件のせいで国際会議の日程は大きな変更を余儀なくされた。
 問題の渦中にあったセレスティナもリカルドも、常に人に囲まれて、ふたりきりになれる時間がほとんどなかったのだ。

 まだセレスティナは慣れているものの、リカルドはそうではない。
 むしろ、事件の詳細を調べるために根掘り葉掘りセレスティナに話を聞かれる度に、番犬よろしく威嚇し回っていたのだ。

 そのときも彼は、周囲に手だけは出さないように、必死に己を戒めていた。だから余計に、帰ってきてからの爆発がすごかった。
 彼は1ヶ月の休暇をもぎ取り、文字通りひたすらセレスティナにくっつき続けたのである。

 大変ではあったけれども、休暇をもぎ取るという概念がリカルドに生まれたことに感動してしまい、受け入れてしまったセレスティナもセレスティナだ。
 身体はヒンヒン言っていたし、足腰も立たなかったけれど、結局のところセレスティナはリカルドに甘い。
 そこまで求められることが、とっても嬉しいのだ。

 まあ、そのあとしっかり数日寝込むことになり――当のリカルドはと言うと、その間屋敷から姿を消していたわけだが。

(仕事に出たわけでもなさそうだったし、本当に、どこに行ってたのかしらね?)

 たしか、その時はイオス王国に例の調査団が入る時期だったような気もするけれど。

(――まあ、世の中には、知らない方がいいこともあるわね)

 セレスティナはそう結論づけて、ふっと微笑む。



「――ティナ」

 にゅっと横から手が伸びてくる。

「そんなに可愛い顔をして、何を考えてる?」

 夜。
 リカルドが仕事から帰ってきて、晩餐を終えたらふたりの時間だ。
 以前のことを思い返してぼんやりしていたところを、すっかり見抜かれていたらしい。

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