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しおりを挟むリカルドからも殺気が漏れる。それを見て、フィーガは大げさに肩をすくめてみせた。
「あー……先に、一応忠告しときますけどォ。主、今から僕が報告することに腹を立てて、そこらへんの物を壊さないでくださいね。面倒ごと大きくなるだけなんで」
「……………………」
――それは難しいかもしれないと、セレスティナも思った。
だって、今現在リカルドから放たれている殺気。ここは結界内のはずなのに、それを無視して放出されていないだろうか。側にいるセレスティナまでもが、その濃さにゾクゾクしてしまうほどに。
リカルドにルヴォイアの血など流れていない。なにがどうなって、こんな魔力放出が可能なのか。
正直、リカルドの魔力が桁違いであるとしか考えられない。
「うわ、この前置きだけで魔力暴発の気配あるとかどんだけ!? あのね! ここ、奥様の実家! 迷惑かけない! わかりますゥ!?」
「……………………………………言ってみろ」
「大丈夫かなァ……」
おおいに不安を感じながらも、フィーガは意を決したようだ。
「なんかですねェ、イオスの王太子サマってば、奥様のことを『自分の妃』だとかなんとか呼ん――――」
バギィ! と、言い終わる前に座っていたソファーが真っ二つに折れた。
リカルドはセレスティナを膝の上に乗せたまま、空気椅子状態である。そのまま動けないくらいに、完全に固まってしまっている。
「あ、あ、あァ! よりにもよってソファー! …………ハァ、謝罪が……僕の仕事が……」
「ここで報告したお前が悪い」
「僕のせい!? ああもう、むしろ事前にお伝えしていてよかったですよ! 会場だと即例の王太子サマを殺しかねなかったですよね!? ってか、結界内でこれって、どんな魔力してんですかアナタ!?」
「ああ、そうか。そうだな。そんなに簡単だったのか。あの男自体を消してしまえばいいのか」
「いやいやいやいや! その真理を得たりって顔、やめてくれますゥ!?」
案の定物騒なもの言いに、フィーガの方が目を白黒させている。けれど、リカルドは納得するようにふんふんと首を縦に振るだけだ。
「なるほど。フィーガ、なかなかいいことを言う」
「いやいやいやいや!? それはさすがにもみ消せないので、殺す場合は誰も見ていないところで――じゃない! もうちょっと別の方法で怒りを抑えてくださいって!」
「無理だ。――――いや、無理だ」
「結局無理なんじゃないですか!」
男ふたりで大騒ぎしているけれど、セレスティナもわけがわからなかった。
どうして今さら、ラルフレットがセレスティナのことを妃などと呼ぶのだろう。
彼とは離縁したと聞き及んでいる。
セレスティナはとっくの昔に捨てられており、イオス王国内での噂も散々だ。今さら固執する意味がわからない。
――が、その前に。
このままだとリカルドが永遠に空気椅子状態のままである。格好もつかないし、さすがにしんどいだろうと、セレスティナはするりと彼の膝の上から下りた。
「リカルド、ほら、立って」
そうしてリカルドの手を掴んで立ち上がらせ、ぎゅーっと彼を抱きしめる。
「…………ティナ」
ああ、彼の体温だ。
荒んでいた彼の魔力が凪いでいく。
リカルドは困惑するような、どこかあどけない顔をして、おずおずとセレスティナを抱き返してきた。そんな彼の背中をぽんぽんと叩き、大丈夫だよと伝える。
「わたしは、あなたの妻」
「ああ」
「ちゃんと、婚姻は結んだもの。それに、わたしはあなたを愛しているわ。――だから、大丈夫」
「――――ん」
はっきりと言い切ると、リカルドもかなり落ち着いてきたのか、セレスティナの肩口に顔を埋める。
うん、うん、と何度も頷き返してくるのが愛しくて、セレスティナは彼の頭を撫でる。
長身で、誰よりも強い男の人なのに、セレスティナにだけは甘えたがりだ。そんな彼が落ち着くまでずーっとそうしていると、フィーガが「大変申し上げにくいんですがー……」と、おずおずと声を書けてきた。
「なんだかね。持ってるんですよ」
何を? と小首を傾げた瞬間。
フィーガはここに来て、特大の爆弾を落とした。
「あの不届き王太子サマと奥様の、当時の婚姻証明書。多分本物」
パリンパリンパリンパリーン! と音がしたかと思うと、部屋中の調度品が綺麗に割れていた。
「…………あ、あ、あっ! どうしてくれるんですか損害賠償がァ~!」
などとフィーガは嘆くけれど、このタイミングで言ったフィーガが悪い。
(……ううん。ここまで、計算に入れて言ってそうではあるけどね)
おそらく、先にリカルドの怒りを発散させるために。
放置しておけば、このあともっと大きな被害が出かねない。だから、被害をこの程度にとどめておいたというわけだろう。
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