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13−1 温かな出迎え、のはずが
しおりを挟む『リカルドを兵器扱いするのは、おやめください』
それは、ずっと言いたかった言葉だった。
単純に、彼の武力に頼るなという意味ではない。
では、どういう意味かと問うバルトラムに対して、セレスティナは説明した。
兵器だと思っているから、リカルドが騎士としてあるまじき行動を起こしても咎められない。
半ば、諦めるかのように自由にさせてくれている。
それは、リカルドにとっても、国にとっても楽なことかもしれない。
でも、つまりリカルドが信頼されていないということだ。人として、騎士として、いつまで経っても期待されない。
彼の出番は戦時のみで、それ以外は何をしていても許されてしまうのは、とても悲しいことのように思えたのだ。
セレスティナと結ばれることによって、リカルドは変わった。
人として、太陽の下で過ごせるようになったし、戦闘時以外にも穏やかに暮らせるようになった。
まだまだ人と話すのは苦手のようだけれど、嫌いではないようだ。
最近は、訓練の話や部下の話も、ぽろぽろと会話に出るようになっている。
そんな彼の変化が、セレスティナはとても嬉しいのだ。
――なんだかようやく、リカルドが人として生きられるようになった気がして。
バルトラムはその言葉に、しっかりと頷いてくれた。
その約束を取り付けられただけで、今回の会議に同行した意義がある。
それから後も、バルトラムは穏やかに会話をしながらしばらくの道程を進んだ。
その間、リカルドはずっと、肩の力が抜けたような、あどけない顔をしていた。自分の中の感情を確かめるように。
さらに三日移動し、ようやくルヴォイア王国へ。
そこには、懐かしい人の顔が並んでいた。
自分と同じ色彩の、優しそうな表情をした男性。
激情家で有名な〈火の神〉ディオラオンの加護を授かっているものの、本人自体は穏やかで、暖炉に灯ったあたたかな炎のような人。
ルヴォイア王国国王ディオラル・ディオラオン・エン・ルヴォイアその人である。
今は父ではなく、国王としてそこに立っているが、セレスティナを見つめる目は優しかった。
「遠路はるばる、よくお越しくださった。フォルヴィオン帝国皇帝」
「いや、こちらこそ。盛大な歓迎痛み入る」
トップ同士、穏やかに挨拶を交わしあい、奥へと向かう。
次はリカルドとセレスティナの番だ。セレスティナは貴婦人の礼をして、大好きな父に向きなおった。
「ようこそ、我が国へ。――セレスティナ殿も、健勝そうで何よりだ」
「お久しぶりです、陛下。フォルヴィオン帝国では本当によくしていただいてますの。こちら、夫のリカルドですわ」
もう面識はあるらしいが、ここは公式の場だ。セレスティナもあくまでひとりの客人として、他国の王に対する礼儀を見せる。
そうして改めてリカルドを紹介すると、リカルドは非常に緊張した面持ちでディオラルに向きなおった。
「結婚のご挨拶が遅くなり、申し訳ありません。黒騎士リカルド・ジグレル・エン・マゼラと申します。ティナ――セレスティナには、俺――いや、私も、とてもよくして、もらって。その――」
しどろもどろだが、リカルドなりの誠意は伝わってくる。
何せ目の前の男は、セレスティナの父だ。リカルドなりにしっかりと挨拶したいと思ってくれているのだろう。
セレスティナに想いを伝えようとしているときと同じ。自分の気持ちを分解し、どうにか言葉にしようと奮闘している。――奮闘しているが、こういった経験が圧倒的に足りないらしく――。
「すごく、幸せで。可愛くて、優しくて。俺、毎朝、仕事に行くのが嫌になってしまうほど――」
「あっあっあっ! リカルド! ちょっと、待って!」
とんでもないことを口走ろうとしてしまっている!
さすがにこのような場所で夫婦関係について赤裸々に語られるのは勘弁してくれと、セレスティナは真っ赤になりながら彼の腕を引っ張った。
まさかかの黒騎士の口から盛大な惚気が飛び出してくるとは思わなかったのか、ディオラルだけでなく周囲の者たちからもどっと笑い声が漏れる。
セレスティナは真っ赤になりながらあわあわするも、リカルドの言葉は止まらない。きちんと伝えることに躍起になっているのか、真剣な面持ちで主張し続けている。
「――――俺にとって、セレスティナは全てです。彼女を俺の元へ輿入れさせてくれて、本当に、感謝、します。これからも、彼女を大切にすると――その、誓います」
そう、最後まで宣言しきって彼は頭を下げた。
周囲の雑音など耳に届いていない。彼は、気持ちを伝えたい相手に、そのままの気持ちを伝えているだけ。
ディオラルは面食らったように目を丸くして、しばらく。やがて、父親の顔をして眦を下げた。
「娘を貴殿に任せて本当によかった。セレスティナを頼むよ」
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