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11−4 *
しおりを挟むあまりに綺麗な微笑みだったものだから、セレスティナは両目を丸くした。
ああ、この人は、こんな風に微笑うのか。
幸せを噛みしめるように、仄かに、眩しそうに微笑うのか。
それが嬉しくて、こつんと額をぶつけ合う。
そのまま上目遣いでリカルドのことを見つめると、彼はわかりやすく狼狽えた。
「っ、あなたにそういう顔をされると、どうしたらいいかわからない」
「ふふっ、こういうときは、キスをくれると嬉しいわ」
「キス――」
リカルドが目を細める。
改めて、なんて美しい顔をしているのだろう。
険が取れてあどけなさが出て、どこか肩の力が抜けたような彼のことが愛しくてたまらない。
セレスティナ自身も瞳を閉じ、彼のキスを迎えいれる。
優しいキスだった。
ふわりとくっつけるだけのキス。
でも、互いにそれでは足りなくて、次第に深くなっていく。
セレスティナから彼を求めて舌を差し出すと、リカルドも待っていたとばかりにそれを絡めてくる。
互いに求め、熱を分け合うように深く愛し合う。
そうするうちにベッドになだれ込み、互いの服を脱がせていった。
ふと、リカルドが瞳を開け、ビリビリに引き裂かれたセレスティナのワンピースを目にしたとき、くしゃりと表情を歪める。
「…………っ」
先ほどまでの行動を思い出したのだろう。きゅっと眉根を寄せ、肩を落とす。
「大丈夫。リカルド、触れて?」
「しかし」
「あなたに愛してほしいの」
そうハッキリと言うと、リカルドは何度か口を開け閉めして、決意したように頷いた。
中途半端に脱いでいたシャツを適当に脱ぎ捨て、セレスティナの纏っていた衣服も全て取り払ってしまう。
それから下着と一緒に己のズボンも脱ぎ捨てると、すっかりと猛った彼の剛直が露わになる。
ああ、なんて愛しい。
最初はあの禍々しいほどの男根が恐ろしくもあった。けれども今は、それがほしくてたまらない。
リカルドも同じ気持ちでいてくれるのだろう。呼吸は荒く、性急に乳房に吸いつき、所有印を落としていく。
この行為を彼は殊更大事にしていて、ふたつ、みっつつけたくらいでは満足できないらしい。五つ、六つと付けたところではっとして、自分に言い聞かせるように呟いた。
「優しく。優しくしなければ。あなたに。優しく……!」
どうも理性との狭間で戦っているようだ。
それがなんだか愛しくて、セレスティナはくすくすと笑う。
「好きに抱いてくれていいのよ?」
「そんな! 俺は、あなたに優しく、したいと。思ってるんです。いつだって――説得力などないかもしれませんが」
ある程度余裕が出てきたのか、思い出したように敬語を使うのが気に食わない。
セレスティナは口を尖らせて抗議する。
「ね、それ」
「?」
あきらかにセレスティナが機嫌を損ねたことに怯えたのか、リカルドはサッと表情を翳らせた。
「想い合う夫婦なのに、いつまで敬語なの?」
「それは……」
リカルドは言葉を探す。
セレスティナの教えを守ろうとしているのか、自分の感情を分解して、どうにか伝えようと苦労しているようだ。
「……これでも。あなたは、手の届かない高嶺の花だと、思っていたから」
「でも今は?」
「……………………夫婦だ」
「そう、夫婦なの」
だから、わかるわよね? とニッコリ微笑むと、リカルドはぐっと唇を横に引き結び、目を閉じては天井を見上げた。
これは彼が大いに葛藤しているときの仕草であることを知っている。
ゆっくりと彼の出す答えを待っていると、リカルドは観念したように息を吐き出した。
「――――わかった」
「ふふ」
「これでいいのか、ティナ」
「ええ、嬉しいわ」
ぐいっと彼を抱き寄せ、感謝の気持ちをキスで示すと、リカルドはまた同じように押し黙った。
「――――――――暴走して、乱暴に抱くかもしれない」
「いいのよ?」
「でも、俺は嫌だ。あなたに優しくしたい。できるように、なりたい。だから」
手伝って、と言われている気がした。
彼の気持ちが嬉しくて、セレスティナは眦を下げる。
「わかったわ。つらかったら、ちゃんと言うわね?」
「ん」
ようやくリカルドは安心したように頷いて、再びセレスティナの攻略を始めたのだった。
これまでの愛撫とは全然違う。
リカルドは慈しむようにセレスティナに触れていく。
ちゅ、ちゅ、と優しく唇を落とし、長い指で細い肢体をなぞっていく。
太腿を撫でられてピクリと反応すると、そのわずかな反応すら彼は見逃さなかった。
ああ、期待しているのがバレている。
彼はセレスティナの内腿に手を滑らせて、ゆっくりと股を開いていく。そうして、柔らかい内腿にもたくさんのキスを落としていった。
「ここに、印をつけても?」
「もちろん」
「そうか」
顔を上げて、安心したように口角を上げる。
まさかこの人、このまま全ての行為に許可を取ろうとしているのだろうか。
だとしたら恥ずかしすぎると身体を強張らせるも、彼の口づけが少し擽ったくて、つい身を捩る。
気恥ずかしくて無意識に股を閉じようとしてしまうのをやんわりと止められ、リカルドはさらにきわどい部分に唇を落としていく。
慎ましい繁みをかき分けて、彼の唇がいよいよセレスティナの秘所に到達した。
そのまま一切の躊躇なく割れ目に舌を這わせるものだから、その刺激にセレスティナは大きくのけ反る。
「――――リカルド!?」
このような場所に口づけられるのははじめてで、セレスティナは目を白黒させる。
それを拒否だと受け取ったのか、リカルドは不安そうに顔を上げた。
なかなかの長身な彼だが、くぅーん、くぅーんと切なくなく子犬のように見えた。その甘えるような眼差しが突き刺さり、セレスティナは言葉に詰まる。
「だめか? あなたに、少しでもよくなってもらいたい」
「それは――」
駄目ではない。
駄目ではないが、恥ずかしすぎる。
頭に血が集中して、すっかり頬が火照っている。どうしようと頬を押さえるも、懇願するように見つめられては拒否などできようもない。
こくん、とわずかに首を縦に振ってしまうのを、彼は見逃さなかった。
感極まるように破顔して、セレスティナの秘所に口づける。
(いいいいい、今の! 顔!)
なにそれ、あの幸せで蕩けるような顔!
あんな顔、セレスティナは知らない!
まさか口淫の許可であんなに喜ばれるとは思わなかった。
というか、今までで一番いい笑顔が口淫って! とセレスティナは恥ずかしさで足をバタつかせたくなる。
けれどリカルドにガッチリ押さえられてはそれもままならず、彼の愛撫に翻弄されることになった。
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