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11−1 本当の望み
しおりを挟む馬車も使わず、リカルドはセレスティナを抱きかかえて帰った。
まさか彼が飛行までできるとは思わず、セレスティナも彼の腕の中で凍りついたまま。彼の圧倒的な力に、驚くことしかできなかった。
本来街の外れであるこの屋敷に、あっという間に着いてしまい、今。
ドサリとベッドに下ろされる。
カーテンの閉ざされた寝室は、昼間なのに薄暗い。そんな中、セレスティナはリカルドの腕の中に閉じ込められた。
訓練場から、リカルドはひとことも声を発していない。底冷えのするような瞳を向けられると、漆黒の瞳の向こうにぎらぎらとした赤い色彩が見えた。
感情が昂ぶると宿るその光。最上級神に魅入られた彼だからこそ宿る、強すぎる加護の輝きだ。
お前を逃がさない。誰の目にも映さないという欲望が滾っている。
しかしリカルドは苦しそうだった。
自分で自分の渇望を制御しきれないのか、自身と戦っているのだろう。
額に汗がびっしょりと浮かび、呼吸は荒い。
「リカルド……」
震えながらも彼の名前を呼ぶと、彼はカッと目を見開き、次の瞬間には唇を奪われていた。
あまりに深く、激しいキスだった。
角度を変えて何度も、どんどんと口腔内を犯される。
じゅぶり、と唾液が混ざりあい、淫靡な音を立てる。溢れ出た唾液が頬を汚すも、それを気にする余裕もない。
「ぁ……ふぁ…………っ」
苦しい。
息を継ぐ暇もなく、永遠とも感じる時間を彼に貪られる。どんどんと胸を叩いて抗議するも、聞き入れてはもらえない。
「あなたは、どこまで俺を追い詰めれば気が済むんですか」
低く、暗い声だった。
背筋が凍るほどに冷たく、セレスティナは唇を噛みしめる。
嫉妬という感情では説明しきれない、もっと深く重たい感情。それを正面からぶつけられ、セレスティナは言葉を失う。
「あなたのおかげで、俺は自由を手に入れ――あなたのせいで、俺は縛られた」
どういう意味だろう。
わなわなと震えながら彼を見つめると、ギロリと、鋭い視線が返ってくる。
「やっぱり、無理だ。あなたが望むから、頑張った。――けど! あなたが他者に笑いかけるのも。他者が、あなたを見つめているのも……!」
「リカルド」
「俺には、こんな感情、耐えられそうにない……!!」
ビリビリビリ! と布を引き裂く音が響いた。
肌が一気に空気にさらされ、自らの服が引き裂かれたのだと後から意識が追いついてくる。
かと思えば、彼は引き裂いた布を束にして、手を伸ばす。そのままセレスティナの両手を束ね、手首にぐるぐると巻き付けた。
「っ……!?」
セレスティナは言葉を失った。
薄暗い部屋で手首を拘束される。
だって、それは――。
――あの、閉ざされた真っ暗な部屋。
かつての記憶が呼び覚まされるようで、心臓が嫌な音を立てる。
「待って、リカルド……!」
制止するも、聞き入れてはもらえない。彼はさらにセレスティナの服を引き裂き、こちらを見下ろした。
ほの暗い瞳。リカルドという名の檻に拘束されている心地がして、息を呑む。
そうして彼は、今度はセレスティナの頭部に腕を伸ばした。
ぞくりと、全身に悪寒が走る。
彼が何をしようとしているのか。それを瞬時に理解し、セレスティナは声を荒げた。
「嫌! それだけは嫌! やめて!!」
あの真っ暗な部屋の中、この身体が朽ちるほどに魔力を搾取された日々。
あの時の記憶がセレスティナの脳を支配し、震えが止まらなくなる。
「お願い! 嫌なの! やだ、やめて……っ!!」
服従の心が意識を支配する。
バタバタと足をばたつかせて反抗するも、相手は黒騎士だ。敵うはずもない。
あっという間に布で目元を覆われて、視界を塞がれる。
世界が暗黒に飲み込まれ、セレスティナは絶望を思い出す。
このまま、セレスティナの世界は閉ざされるのだ。
目の前の誰か。
誰だ。
セレスティナを縛るこの人。
そんな誰かにも捨てられて、セレスティナは。
きっとこの部屋の中で、一生、誰にも話しかけられず。触れられず。忘れられ。ひとり朽ちていき――。
ああ、あの時の感覚が鮮明に蘇り、セレスティナは訴える。
「ラルフレット様! やめて!!」
「――――――――!!」
瞬間、目の前の誰かが息を呑み、ピタリと動きを止めた。
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