【R18】愛されないとわかっていても〜捨てられ王女の再婚事情〜

浅岸 久

文字の大きさ
上 下
30 / 65

7−2

しおりを挟む
 ベッドの上で上半身を起こしたまま、隣に眠るセレスティナに視線を落とす。
 つい先ほど意識を失うように寝入ってしまったから、しばらくは目を覚まさないだろう。現に、これだけ大きな声で会話していても、ピクリとも動かない。

 銀に近いプラチナブロンドの髪がベッドに流れ、眠る姿は物語の中の眠り姫のようだ。
 なんと美しい。
 彼女の柔らかい頬に人差し指の甲を滑らせると、長い睫がふるると震えた。
 先ほどまで、その瞼の奥に隠れている瞳がリカルドを映していたのだと思うと、それだけでまた下半身に熱が集中してくるから困る。

 ああ、フィーガなど無視して貪ってしまおうか。
 どうせ戦闘に借り出されないかぎりはリカルドに仕事などない。好きにしていいだろうと、もう一度彼女に組み敷こうとすると、ドンドンドンドン! というノック音が大きくなった。

「ちょっと! 僕を無視してそこで奥様を可愛がるとか、やめてくださいね! そろそろ満足してくださいよォ!」
「お前が差し出してきたくせに」
「そ、それはそうなんですけどォ……!」

 扉の向こうから、萎れたような声が響いてくる。
 やはりな、と思った。セレスティナをこの空間に差し向ければ、渇きと飢えに喘いだリカルドが手を出さないはずがないと考えたのだろう。

 フィーガはリカルドのためには、手段を選ばないところがある。そのためには、一国の王女であるセレスティナを犠牲にすることも厭わない。

 4年前の国際会議の場で、リカルドがセレスティナに意識を向けたその日から、フィーガは裏で動き回っていた。
 リカルドは一生、〈糸の神〉の渇望とともに生きる覚悟があったが、フィーガはそんなリカルドの意志を無視して別の道を用意した。結果的に、全てがフィーガの思うままだ。

 ああ、本当に身体が軽い。
 フィーガに感謝する気は到底起きないが、セレスティナにならいくらでも感謝を捧げられる。
 今までは戦闘中しか生きている感覚を得られなかったリカルドだが、もうそのようなことはない。
 まあ、その代わり、存分にセレスティナを貪らなくては気が済まなくなってしまった自分もいるけれど。

「主は頑丈で、食も細くて殺しても死なないような人だからいいですけどォ、奥様が倒れてしまいますって! か弱い方なんですからね! ちゃんと食べさせて、寝かせてあげないと!」
「だったらお前が食糧を運んでくればいいだろう」
「うーわ! ここに一生引き籠もらせる気だ、鬼畜!」

 当たり前だ。
 もうセレスティナを手放すつもりはない。
 彼女にだってそう宣言した。何度も逃がそうとしても逃げなかったということは、彼女もその運命を受け入れるということだ。
 一生、閉じ込めて他の者の目には晒さない。
 ほの暗い欲望が胸の奥に渦巻く。

「あのねェ、主。主のヤンデレっぷりにはね、まァ僕も気付いてはいましたよ。でもね、囲うにしても場所を変えません?」

 囲うことを否定しないあたり、フィーガは本当にリカルドのことをよくわかっている。そして、フィーガにとってはセレスティナよりも、圧倒的にリカルドの方が優先順位が高いことも実感する。

(クソ……)

 セレスティナが蔑ろにされているようで苛立つが、そもそも、彼女を囲おうとしているのはリカルドの意志だ。むしゃくしゃするが、それをねじ曲げるつもりはない。

「どこにいても引き籠もるんだ。同じだ」
「全然違いますってェ! 奥様も、同じ囲われるなら環境がいい方が快適ですって!」

 フィーガはずっと、リカルドをこの執務室の外に出させようとしてきた。
 セレスティナがその餌になることもよく分かっているのだろう。しかし、まんまとそれに乗るのは癪だ。
 小さな抵抗をするも、口論になるとなかなかフィーガには勝てない。

「あのですねェ! 今日までは僕も、ここの地下室の前を誰も通らないように尽力しましたけどねェ! そろそろ限界ですからね! ――いいんですか? 奥様の喘ぎ声、他の兵士に聞かれても」

 瞬間、身体中の血が駆け巡る。

 もちろん、いいはずがない。
 セレスティナの声だってリカルドのものだ。あんなにも可愛い声を、他の男に聞かせてなるものか。

 リカルドは瞬時に手のひらを返した。
 ささやかな抵抗? そんなものは知らない。
 こんな場所、1日でもいられない。

 だからリカルドはガバリと立ち上がったのだった。
しおりを挟む
感想 20

あなたにおすすめの小説

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

愛する殿下の為に身を引いたのに…なぜかヤンデレ化した殿下に囚われてしまいました

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のレティシアは、愛する婚約者で王太子のリアムとの結婚を約1年後に控え、毎日幸せな生活を送っていた。 そんな幸せ絶頂の中、両親が馬車の事故で命を落としてしまう。大好きな両親を失い、悲しみに暮れるレティシアを心配したリアムによって、王宮で生活する事になる。 相変わらず自分を大切にしてくれるリアムによって、少しずつ元気を取り戻していくレティシア。そんな中、たまたま王宮で貴族たちが話をしているのを聞いてしまう。その内容と言うのが、そもそもリアムはレティシアの父からの結婚の申し出を断る事が出来ず、仕方なくレティシアと婚約したという事。 トンプソン公爵がいなくなった今、本来婚約する予定だったガルシア侯爵家の、ミランダとの婚約を考えていると言う事。でも心優しいリアムは、その事をレティシアに言い出せずに悩んでいると言う、レティシアにとって衝撃的な内容だった。 あまりのショックに、フラフラと歩くレティシアの目に飛び込んできたのは、楽しそうにお茶をする、リアムとミランダの姿だった。ミランダの髪を優しく撫でるリアムを見た瞬間、先ほど貴族が話していた事が本当だったと理解する。 ずっと自分を支えてくれたリアム。大好きなリアムの為、身を引く事を決意。それと同時に、国を出る準備を始めるレティシア。 そして1ヶ月後、大好きなリアムの為、自ら王宮を後にしたレティシアだったが… 追記:ヒーローが物凄く気持ち悪いです。 今更ですが、閲覧の際はご注意ください。

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

魔性の大公の甘く淫らな執愛の檻に囚われて

アマイ
恋愛
優れた癒しの力を持つ家系に生まれながら、伯爵家当主であるクロエにはその力が発現しなかった。しかし血筋を絶やしたくない皇帝の意向により、クロエは早急に後継を作らねばならなくなった。相手を求め渋々参加した夜会で、クロエは謎めいた美貌の男・ルアと出会う。 二人は契約を交わし、割り切った体の関係を結ぶのだが――

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

義兄に甘えまくっていたらいつの間にか執着されまくっていた話

よしゆき
恋愛
乙女ゲームのヒロインに意地悪をする攻略対象者のユリウスの義妹、マリナに転生した。大好きな推しであるユリウスと自分が結ばれることはない。ならば義妹として目一杯甘えまくって楽しもうと考えたのだが、気づけばユリウスにめちゃくちゃ執着されていた話。 「義兄に嫌われようとした行動が裏目に出て逆に執着されることになった話」のifストーリーですが繋がりはなにもありません。

処理中です...