【R18】愛されないとわかっていても〜捨てられ王女の再婚事情〜

浅岸 久

文字の大きさ
上 下
29 / 65

7−1 囲うと決めた

しおりを挟む
 足りない。
 全然足りない。

 一回では。
 ひと晩では。
 一日、二日では全然。

 もっと、もっと、この娘を心ゆくまで貪りたい。
 そうすることで、リカルドは身体の隅々まで満たされていくのを感じていた。


 この部屋にセレスティナがやって来てから、どれほどの時間が経ったろう。
 窓も時計もないこの部屋では、時間感覚が全くない。セレスティナさえ貪っていれば、リカルドは空腹すら感じられなくなるから、余計にわからない。
 ただ、まだいくらでもセレスティナを抱き潰せる自信はある。

 丁度セレスティナがいくらか水と食料を持ってきてくれた。彼女が目を覚ましたわずかな時間にそれらを食べさせ、リカルドは彼女自身を堪能した。
 こんなことははじめてだった。
 セレスティナとくっついていると、この身体を蝕む苦痛も、痛みも、鈍い身体の重さも感じることはない。むしろ、今までにないくらい身体が軽い。
 かつて、ルヴォイア王国にて、彼女自身に――あるいは彼女の魔石に触れたときとは比べものにならないくらいだ。

 今のリカルドは身体の隅々まで力が充ち満ちていた。
 このまま何だってできそうだ。
 肉体だけではない、気力までもが満たされており、このような暗い地下室でも世界が輝いて見えた。
 それもこれも、目の前にセレスティナがいるからだろう。
〈糸の神〉など関係ない。リカルド自身が、彼女の存在に満たされていることを自覚した。

(……不思議な感覚だ)

 どうにも胸が疼くような。
 落ち着かず、そわそわするかのような。

 彼女の身体を穿つたびに漏れ聞こえる甘い声。
 紫水晶の瞳が甘く蕩け、恍惚としても、苦しそうに喘いでも、快楽で前後不覚になっても、全部、全部が、リカルドの心をかき混ぜる。
 もっと啼かせたくて激しく責めたてると、キュッと膣が締まる。さらに振り落とされないようにこちらをギュウギュウに抱きしめる細い腕。彼女の何もかもが、リカルドの隅々に満ちていく。

 ああ。誰にも見せたくない。
 まさにリカルドの女神だ。彼女を、このままここで閉じ込めてしまいたい。

 ――なんて、ほの暗い欲望が首をもたげるも、が放っておいてくれるはずがなかった。


 ドンドンドンドン! と、ノックにしては乱暴な音が、部屋全体に響き渡る。

「あー……ああー……! 黒騎士リカルド! 黒騎士リカルド! いい加減籠城はやめて、この部屋から出てきなさい!」

 緊張感の欠片もない声はフィーガだろう。
 おそらく、セレスティナの持たされていたバスケットは、フィーガの入れ知恵で用意された。その中身が尽きるのを計算して、様子を見にやってきたと言うわけか。

「繰り返す! 繰り返す! 黒騎士リカルド! このままだと大切な奥方が死んでしまうがよいか!」

 チィッ、と舌打ちをする。
 セレスティナが死んでしまうなど、冗談でも口にしてほしくない。
 根は忠実な臣下のくせに、人を喰うような言い回しはいつものこと。わかって言っているところが厄介だ。
 しかし、そう言われてしまえば、リカルドが返事しないわけがない。

「煩い。ティナをこの部屋に連れて来たのも、外から鍵をかけて閉じ込めたのもお前だろう」
「うわあっ! 聞いた? やだー! 愛称だっ、愛称で呼んでるっ! よかったね、主っ」

 ほら、悪びれもなく急にいつもの調子に戻るところ、全部わかってやっている。
 さすがリカルドを皇都に引っぱり出してきた男だけあって、こちらの転がし方をよく理解している。
 こいつには敵わんとハァとため息をつき、リカルドはガシガシと頭を掻いた。

しおりを挟む
感想 20

あなたにおすすめの小説

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

愛する殿下の為に身を引いたのに…なぜかヤンデレ化した殿下に囚われてしまいました

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のレティシアは、愛する婚約者で王太子のリアムとの結婚を約1年後に控え、毎日幸せな生活を送っていた。 そんな幸せ絶頂の中、両親が馬車の事故で命を落としてしまう。大好きな両親を失い、悲しみに暮れるレティシアを心配したリアムによって、王宮で生活する事になる。 相変わらず自分を大切にしてくれるリアムによって、少しずつ元気を取り戻していくレティシア。そんな中、たまたま王宮で貴族たちが話をしているのを聞いてしまう。その内容と言うのが、そもそもリアムはレティシアの父からの結婚の申し出を断る事が出来ず、仕方なくレティシアと婚約したという事。 トンプソン公爵がいなくなった今、本来婚約する予定だったガルシア侯爵家の、ミランダとの婚約を考えていると言う事。でも心優しいリアムは、その事をレティシアに言い出せずに悩んでいると言う、レティシアにとって衝撃的な内容だった。 あまりのショックに、フラフラと歩くレティシアの目に飛び込んできたのは、楽しそうにお茶をする、リアムとミランダの姿だった。ミランダの髪を優しく撫でるリアムを見た瞬間、先ほど貴族が話していた事が本当だったと理解する。 ずっと自分を支えてくれたリアム。大好きなリアムの為、身を引く事を決意。それと同時に、国を出る準備を始めるレティシア。 そして1ヶ月後、大好きなリアムの為、自ら王宮を後にしたレティシアだったが… 追記:ヒーローが物凄く気持ち悪いです。 今更ですが、閲覧の際はご注意ください。

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

魔性の大公の甘く淫らな執愛の檻に囚われて

アマイ
恋愛
優れた癒しの力を持つ家系に生まれながら、伯爵家当主であるクロエにはその力が発現しなかった。しかし血筋を絶やしたくない皇帝の意向により、クロエは早急に後継を作らねばならなくなった。相手を求め渋々参加した夜会で、クロエは謎めいた美貌の男・ルアと出会う。 二人は契約を交わし、割り切った体の関係を結ぶのだが――

義兄に甘えまくっていたらいつの間にか執着されまくっていた話

よしゆき
恋愛
乙女ゲームのヒロインに意地悪をする攻略対象者のユリウスの義妹、マリナに転生した。大好きな推しであるユリウスと自分が結ばれることはない。ならば義妹として目一杯甘えまくって楽しもうと考えたのだが、気づけばユリウスにめちゃくちゃ執着されていた話。 「義兄に嫌われようとした行動が裏目に出て逆に執着されることになった話」のifストーリーですが繋がりはなにもありません。

処理中です...