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しおりを挟むミアの言葉は本当だった。
建物自体はそれなりに歴史があるのか、その分風情を感じられた。そこに、上品な家具や調度品が並んでおり、伝統とモダンさがマッチした素晴らしい邸宅であった。
ルヴォイア王宮とは雰囲気が全然違う。
大国であるフォルヴィオン帝国だからこそなのだろう。様々な国の文化を取り入れて、どこか垢抜けした趣がある。
セレスティナは興味深くそれぞれの部屋を見て回る。
食堂や居間、それからライブラリ――そう、ライブラリまであるのだ!
元々物語を読むのが好きだったセレスティナにとっては、飛び上がりたいほどに嬉しかった。
著書も魔導書や兵法書が中心かとおもいきや、風土記に拾遺物語、さらにはなぜか女性が好むような恋物語まである。
「セレスティナ様が物語を好むと伺って、手に入るかぎりの書物を集められたそうですよ」
「そんな。だって、こんな――」
書物はとても高価な物だ。
だからこそ、調度品としての役割も果たす。
ライブラリの充実はその家の裕福さを示すため、見栄のためにライブラリをそのまま応接間としている屋敷も多い。
しかし、ここのライブラリは贅沢にも、純粋に本を楽しむための作りだった。
(リカルド様……?)
いや、彼はこの国の英雄だ。きっとセレスティナには想像もできないほどのお金持ちで、これくらいなんということもないのかもしれない。
でも、セレスティナの好みに沿って集められた書物の数々に、彼の気配りのようなものを感じてならない。
「それから、次がとっておきですよ。セレスティナ様」
そう言って、最後に連れて行かれたのはこの家の4階部分だった。
3階建てかと思っていたが、物見窓があるらしい。にこにこ微笑むミアに導かれるまま階段を登り、外を見るためだけに存在するらしい小さな部屋に入った瞬間、セレスティナは息を呑む。
「さあ、どうぞ!」
大きな窓が開け放たれた。
瞬間、爽やかな風が部屋の中に吹き込んでくる。
結婚式を終えた後、馬車に乗って連れて来られたときは、緊張していたのと意気消沈していたのもあって、外を見る余裕なんて全然なかった。
随分と街外れに屋敷があるのだな――と思ったくらい。屋敷の外観すらもよく見ていなかったけれど。
大きな窓に縁取られた、外の風景。
ここは小高い丘の上に建てられた屋敷だったらしく、皇都の景色が一望できる。
白く美しい王城も、結婚式を挙げた大聖堂も、街のシンボルとなる時計塔も、よく晴れた空の下、キラキラと輝いて見えた。
ああ――と、セレスティナは想う。
結婚する前。つまり、4年前だ。リカルドとは国際会議の場ではじめて顔を合わせた。
彼と会話する機会はほとんどなかったけれど――だからこそ、何を話したのかはよく覚えている。
『大勢がいらっしゃるところは苦手ですか?』
各国の代表たちが集う夜会の会場。壁際に突っ立っては居心地悪そうにじっとしているリカルドのことが気になった。
『……っ、あ! いや……』
人付き合いが苦手なのか、とても無口で、話しかけるともごもごと口ごもるばかりだった。
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