16 / 65
4−5
しおりを挟むかつて、地下牢で鎖に繋がれた彼女の姿が脳裏に蘇る。
背筋が凍り、次の瞬間には叫んでいた。
「どういうことだ!? なぜ……!!」
「よりにもよって初夜に! 花嫁を置いて! 誰にも知らせずに姿を消したアナタのせいでしょうが!!」
「は…………?」
リカルドは口をぽかんと開けたまま固まった。
確かに初夜、リカルドは彼女を突き放した。そうしないと、衝動のままに彼女を奪ってしまいそうだったからだ。
少しでも早く彼女の元から立ち去りたかった。
なのに、名前を呼ばれて、引き留められて、動揺して、冷たく当たってしまったことは認める。
でも、こんな男に抱かれなくて、彼女もホッとしているのではないのか?
(だって、俺、だぞ……?)
自分で言うのも何だが、引き籠もりの社会不適合者だ。
誰かとまともに会話できるような技術は持ちあわせておらず、いつもオドオドしている。それをなぜか、クールだの冷酷だのと称する人間もいるが、要はコミュ障なだけだ。
普通に生きるにしてもフィーガがいないと何もできない、ダメ人間。
見た目も陰気だし、男としての魅力など皆無だろう。
こんな男と結婚せざるを得なかったのは可哀相だが、リカルドが近づかないことで彼女は幸せになれるはず。
そう信じているからこそ、あえて彼女とは関わりを最小限にできるように努めたのに。
「彼女の魔力がなくなったことは、あなたも重々ご存じですよね?」
「それは、もちろん」
イオス王国から彼女を助け出したのはリカルドだ。その時の彼女の状態はこの目でしっかり確認している。
それに彼女に触れた程度では、以前のような癒しは得られなかった。そこまでは確認済みだが。
「あの屋敷の扉すべて、あの方の魔力では開かないそうです」
「は……?」
絶句した。
いや。さすがに、それはありえない。
いくら魔力がなくなったと言えど、生命活動を維持するため、最低限のものは体内に流れているはず。その最低限の魔力すらなくなってしまったということか。
もはや生きているのが、不思議なほどに。
「アナタは誰にも告げず、隠れるように家から出たでしょう? そのせいで、奥様が床に倒れていたことに朝方まで誰も気付けずにいた」
「床に? どうして? 床……?」
「そりゃそうでしょうよ! アナタ、乙女心ってモンがわからないんですか!」
フィーガがさすがに声を荒げた。
いや、そんなもの、リカルドにわかるはずがない。
人の心の機微などわかっていたら、こんな人間にはなっていない。
「初夜に旦那様に捨てられたとあらば、ショックに決まってるじゃないですか!」
「だが、俺だぞ……?」
イオス王国で彼女を助けたとき、彼女の意識はなかった。
それをいいことに、リカルドが手を貸したことを彼女に教えないように忠告して、帰国したのだ。
セレスティナのリカルドに対する好感度など、なにもないはず。
彼女がリカルドに期待するはずがないというか、むしろこの結婚を疎ましく思っていても不思議ではない。だから、むしろリカルドが消えてホッとしているのではないのだろうか……?
「うーわ! 本当に何もわかっていない顔!」
「だって、だな」
「あのねェ! 相手が誰であろうと、初夜に放置されてショックを受けない女性なんていませんよ! ましてや、これは表向きには国と国を繋ぐ大切な婚姻! 王族である彼女が、夫となる方に愛されないとなったら、あの方は自身の存在意義をどう思われるでしょうか!」
763
お気に入りに追加
2,264
あなたにおすすめの小説

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

愛する殿下の為に身を引いたのに…なぜかヤンデレ化した殿下に囚われてしまいました
Karamimi
恋愛
公爵令嬢のレティシアは、愛する婚約者で王太子のリアムとの結婚を約1年後に控え、毎日幸せな生活を送っていた。
そんな幸せ絶頂の中、両親が馬車の事故で命を落としてしまう。大好きな両親を失い、悲しみに暮れるレティシアを心配したリアムによって、王宮で生活する事になる。
相変わらず自分を大切にしてくれるリアムによって、少しずつ元気を取り戻していくレティシア。そんな中、たまたま王宮で貴族たちが話をしているのを聞いてしまう。その内容と言うのが、そもそもリアムはレティシアの父からの結婚の申し出を断る事が出来ず、仕方なくレティシアと婚約したという事。
トンプソン公爵がいなくなった今、本来婚約する予定だったガルシア侯爵家の、ミランダとの婚約を考えていると言う事。でも心優しいリアムは、その事をレティシアに言い出せずに悩んでいると言う、レティシアにとって衝撃的な内容だった。
あまりのショックに、フラフラと歩くレティシアの目に飛び込んできたのは、楽しそうにお茶をする、リアムとミランダの姿だった。ミランダの髪を優しく撫でるリアムを見た瞬間、先ほど貴族が話していた事が本当だったと理解する。
ずっと自分を支えてくれたリアム。大好きなリアムの為、身を引く事を決意。それと同時に、国を出る準備を始めるレティシア。
そして1ヶ月後、大好きなリアムの為、自ら王宮を後にしたレティシアだったが…
追記:ヒーローが物凄く気持ち悪いです。
今更ですが、閲覧の際はご注意ください。

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。
下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。
またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。
あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。
ご都合主義の多分ハッピーエンド?
小説家になろう様でも投稿しています。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

魔性の大公の甘く淫らな執愛の檻に囚われて
アマイ
恋愛
優れた癒しの力を持つ家系に生まれながら、伯爵家当主であるクロエにはその力が発現しなかった。しかし血筋を絶やしたくない皇帝の意向により、クロエは早急に後継を作らねばならなくなった。相手を求め渋々参加した夜会で、クロエは謎めいた美貌の男・ルアと出会う。
二人は契約を交わし、割り切った体の関係を結ぶのだが――

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

義兄に甘えまくっていたらいつの間にか執着されまくっていた話
よしゆき
恋愛
乙女ゲームのヒロインに意地悪をする攻略対象者のユリウスの義妹、マリナに転生した。大好きな推しであるユリウスと自分が結ばれることはない。ならば義妹として目一杯甘えまくって楽しもうと考えたのだが、気づけばユリウスにめちゃくちゃ執着されていた話。
「義兄に嫌われようとした行動が裏目に出て逆に執着されることになった話」のifストーリーですが繋がりはなにもありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる