【R18】愛されないとわかっていても〜捨てられ王女の再婚事情〜

浅岸 久

文字の大きさ
上 下
4 / 65

2−1 捨てられた王女

しおりを挟む

 セレスティナ・セレス・エン・ルヴォイアは、ルヴォイア王族の中でも、少しだけ特殊な位置付けの王女だった。
 彼女にはひとりの兄とふたりの姉がいる。いずれも素晴らしい神の加護を授かっている第一降神格エン・ローダだ。
 しかし、セレスティナだけが皆とは違った。
 同じ第一降神格エン・ローダでありながらも、彼女が授かったのは半神の加護でしかなかったのだから。

〈処女神〉セレス。
 第一降神格エン・ローダでありながら、半神の加護でしかなかった者など過去には例がない。
 それでも、家族はセレスティナを愛してくれた。
 どの神の加護なのかなど関係ない。そう、はっきりと言い切って、たっぷりと愛情を注いで育ててくれた。
 温かな家族の愛に恵まれて、セレスティナは真っ直ぐに育った。

 しかし、半神の加護を授かったセレスティナには、魔力以外に特別な力がないのは事実だ。だから加護など、あってないようなもの。
 ないならないなりに、生きていけるように力と知識を蓄えなければいけない。やがて外の国に嫁いだときに、加護の恩恵なしでもやっていけるように。

 魔力さえあれば使える基礎魔法を勉強し、生活魔法に留まらず、攻撃魔法や補助魔法も可能な範囲で覚えた。
 どこの国に嫁いでも大丈夫なように、主要な言語をいくつも身に付けたほか、各国の文化やマナーについても積極的に覚えた。
 さらに、日ごろから社交に精を出し、誰とでも円滑な人間関係を築けるように努力した。
 ――まあ、人間関係に関しては、彼女が生まれ持った朗らかさにより、自然と身に付いたものではあるが。

 19年経つころには、セレスティナは実に利発な王女だと人々に讃えられるようになった。
 同時に、そこに立っているだけで誰もが笑顔になるような、朗らかで優しい人柄に育っていた。
 それもこれも、セレスティナは全部、家族のおかげだと思っている。彼らが愛情深く育ててくれたから、今のセレスティナがある。

『〈処女神〉セレスの一番の加護は、神が見初めるような温かさだったのかもしれないね』

 家族は皆、そう言ってくれた。
 だから、セレスティナは自分が自分らしくあり続けようと胸を張った。それがきっと自分の長所なのだろうと、皆の言葉を信じて。
 そして、たくさんの愛情を注いでくれた彼らのためにも、セレスティナはルヴォイア王女としての役割を果たさなければいけない。
 すなわち、他国との政略結婚である。

 しかし、半神の加護しかなかったセレスティナに、縁談など来なかった。
 やがて他国に嫁ぐこと。それがルヴォイア王女の存在意義だったはずなのに。



 ルヴォイア王国――かつての国名はルヴォイア神皇国。
 この世界を統べる73神の中でも最高神〈天空神〉ルヴォイアスの強い加護を授かった初代神皇が興した国である。
 不思議なことに、この国の王族は必ず第一降神格エン・ローダと呼ばれる強すぎる加護を授かって生まれるのだ。

 ルヴォイア王国内にいると感覚が麻痺するが、本来、第一降神格エン・ローダと呼ばれる才能の持ち主は世界でも数えるほどしかいない。
 その奇跡とも呼ばれる才能を、一国が一手に保有しているわけにはいかない。
 だから王女は必ず、国外の、しかも第一降神格エン・ローダの存在しない国の王族に嫁ぐ決まりがあった。

 しかし、第一降神格エン・ローダでありながら、半神の加護しかないセレスティナは、いわゆるハズレ姫だ。
 今や弱小国家のルヴォイア王国の王女を、特別な加護なく迎えいれるメリットなど、どの国にもない。

 そんな中で唯一、セレスティナに婚約の打診をくれたのが、イオス王国だった。

 そう! イオス王国!
 ルヴォイア王国の東側に隣接しており、広い国土と豊かな資源を持つ大国である。
 しかし、第一降神格エン・ローダどころか、第二降神格アム・ローダすらほとんど存在しない。
 加護を豊富に授かるルヴォイア王国とは対照的な国だった。
 だから単純に、ひとりでも第一降神格エン・ローダを確保しておきたい。そんな思惑もあったのかもしれない。
 ――けれど。

(ラルフレット様――このわたしを、必要としてくれているお方)

 誰かに必要とされたかったセレスティナにとっては、その事実が煌めいて見えた。

 ラルフレットのことは、国際会議で見たことがある。
 どこよりも歴史があり、神に愛されたこのルヴォイア王国は完全中立国である。それゆえに、五年に一度の国際会議はかならずこの国で行われることになっていた。

 そのとき、隣国の使節団にかの王太子ラルフレットの姿もあった。
 物腰柔らかなまさに物語の王子様といった雰囲気は、セレスティナの目にもとても印象的に残った。

 好みかと問われれば、よくわからない。
 しかし、あの王子様がセレスティナを欲してくれた。
 恋をするには、それで十分だった。セレスティナはひたすら、自分を欲してくれる誰かを待っていたのだから。
 ――なのに。








 ――――今は昼だろうか。

 ――――それとも夜?


 何度、朝が来て昼となり、夜が訪れたかもわからない。
 まともに食事も与えられず、この細い腕、細い足には力が入らない。だから逃げることなんてできるはずもないのに、セレスティナはこの地下の牢で鎖に繋がれたままだ。
しおりを挟む
感想 20

あなたにおすすめの小説

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。

海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。 ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。 「案外、本当に君以外いないかも」 「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」 「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」 そのドクターの甘さは手加減を知らない。 【登場人物】 末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。   恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる? 田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い? 【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

愛する殿下の為に身を引いたのに…なぜかヤンデレ化した殿下に囚われてしまいました

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のレティシアは、愛する婚約者で王太子のリアムとの結婚を約1年後に控え、毎日幸せな生活を送っていた。 そんな幸せ絶頂の中、両親が馬車の事故で命を落としてしまう。大好きな両親を失い、悲しみに暮れるレティシアを心配したリアムによって、王宮で生活する事になる。 相変わらず自分を大切にしてくれるリアムによって、少しずつ元気を取り戻していくレティシア。そんな中、たまたま王宮で貴族たちが話をしているのを聞いてしまう。その内容と言うのが、そもそもリアムはレティシアの父からの結婚の申し出を断る事が出来ず、仕方なくレティシアと婚約したという事。 トンプソン公爵がいなくなった今、本来婚約する予定だったガルシア侯爵家の、ミランダとの婚約を考えていると言う事。でも心優しいリアムは、その事をレティシアに言い出せずに悩んでいると言う、レティシアにとって衝撃的な内容だった。 あまりのショックに、フラフラと歩くレティシアの目に飛び込んできたのは、楽しそうにお茶をする、リアムとミランダの姿だった。ミランダの髪を優しく撫でるリアムを見た瞬間、先ほど貴族が話していた事が本当だったと理解する。 ずっと自分を支えてくれたリアム。大好きなリアムの為、身を引く事を決意。それと同時に、国を出る準備を始めるレティシア。 そして1ヶ月後、大好きなリアムの為、自ら王宮を後にしたレティシアだったが… 追記:ヒーローが物凄く気持ち悪いです。 今更ですが、閲覧の際はご注意ください。

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~

恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん) は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。 しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!? (もしかして、私、転生してる!!?) そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!! そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

処理中です...