【R18】愛されないとわかっていても〜捨てられ王女の再婚事情〜

浅岸 久

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2−1 捨てられた王女

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 セレスティナ・セレス・エン・ルヴォイアは、ルヴォイア王族の中でも、少しだけ特殊な位置付けの王女だった。
 彼女にはひとりの兄とふたりの姉がいる。いずれも素晴らしい神の加護を授かっている第一降神格エン・ローダだ。
 しかし、セレスティナだけが皆とは違った。
 同じ第一降神格エン・ローダでありながらも、彼女が授かったのは半神の加護でしかなかったのだから。

〈処女神〉セレス。
 第一降神格エン・ローダでありながら、半神の加護でしかなかった者など過去には例がない。
 それでも、家族はセレスティナを愛してくれた。
 どの神の加護なのかなど関係ない。そう、はっきりと言い切って、たっぷりと愛情を注いで育ててくれた。
 温かな家族の愛に恵まれて、セレスティナは真っ直ぐに育った。

 しかし、半神の加護を授かったセレスティナには、魔力以外に特別な力がないのは事実だ。だから加護など、あってないようなもの。
 ないならないなりに、生きていけるように力と知識を蓄えなければいけない。やがて外の国に嫁いだときに、加護の恩恵なしでもやっていけるように。

 魔力さえあれば使える基礎魔法を勉強し、生活魔法に留まらず、攻撃魔法や補助魔法も可能な範囲で覚えた。
 どこの国に嫁いでも大丈夫なように、主要な言語をいくつも身に付けたほか、各国の文化やマナーについても積極的に覚えた。
 さらに、日ごろから社交に精を出し、誰とでも円滑な人間関係を築けるように努力した。
 ――まあ、人間関係に関しては、彼女が生まれ持った朗らかさにより、自然と身に付いたものではあるが。

 19年経つころには、セレスティナは実に利発な王女だと人々に讃えられるようになった。
 同時に、そこに立っているだけで誰もが笑顔になるような、朗らかで優しい人柄に育っていた。
 それもこれも、セレスティナは全部、家族のおかげだと思っている。彼らが愛情深く育ててくれたから、今のセレスティナがある。

『〈処女神〉セレスの一番の加護は、神が見初めるような温かさだったのかもしれないね』

 家族は皆、そう言ってくれた。
 だから、セレスティナは自分が自分らしくあり続けようと胸を張った。それがきっと自分の長所なのだろうと、皆の言葉を信じて。
 そして、たくさんの愛情を注いでくれた彼らのためにも、セレスティナはルヴォイア王女としての役割を果たさなければいけない。
 すなわち、他国との政略結婚である。

 しかし、半神の加護しかなかったセレスティナに、縁談など来なかった。
 やがて他国に嫁ぐこと。それがルヴォイア王女の存在意義だったはずなのに。



 ルヴォイア王国――かつての国名はルヴォイア神皇国。
 この世界を統べる73神の中でも最高神〈天空神〉ルヴォイアスの強い加護を授かった初代神皇が興した国である。
 不思議なことに、この国の王族は必ず第一降神格エン・ローダと呼ばれる強すぎる加護を授かって生まれるのだ。

 ルヴォイア王国内にいると感覚が麻痺するが、本来、第一降神格エン・ローダと呼ばれる才能の持ち主は世界でも数えるほどしかいない。
 その奇跡とも呼ばれる才能を、一国が一手に保有しているわけにはいかない。
 だから王女は必ず、国外の、しかも第一降神格エン・ローダの存在しない国の王族に嫁ぐ決まりがあった。

 しかし、第一降神格エン・ローダでありながら、半神の加護しかないセレスティナは、いわゆるハズレ姫だ。
 今や弱小国家のルヴォイア王国の王女を、特別な加護なく迎えいれるメリットなど、どの国にもない。

 そんな中で唯一、セレスティナに婚約の打診をくれたのが、イオス王国だった。

 そう! イオス王国!
 ルヴォイア王国の東側に隣接しており、広い国土と豊かな資源を持つ大国である。
 しかし、第一降神格エン・ローダどころか、第二降神格アム・ローダすらほとんど存在しない。
 加護を豊富に授かるルヴォイア王国とは対照的な国だった。
 だから単純に、ひとりでも第一降神格エン・ローダを確保しておきたい。そんな思惑もあったのかもしれない。
 ――けれど。

(ラルフレット様――このわたしを、必要としてくれているお方)

 誰かに必要とされたかったセレスティナにとっては、その事実が煌めいて見えた。

 ラルフレットのことは、国際会議で見たことがある。
 どこよりも歴史があり、神に愛されたこのルヴォイア王国は完全中立国である。それゆえに、五年に一度の国際会議はかならずこの国で行われることになっていた。

 そのとき、隣国の使節団にかの王太子ラルフレットの姿もあった。
 物腰柔らかなまさに物語の王子様といった雰囲気は、セレスティナの目にもとても印象的に残った。

 好みかと問われれば、よくわからない。
 しかし、あの王子様がセレスティナを欲してくれた。
 恋をするには、それで十分だった。セレスティナはひたすら、自分を欲してくれる誰かを待っていたのだから。
 ――なのに。








 ――――今は昼だろうか。

 ――――それとも夜?


 何度、朝が来て昼となり、夜が訪れたかもわからない。
 まともに食事も与えられず、この細い腕、細い足には力が入らない。だから逃げることなんてできるはずもないのに、セレスティナはこの地下の牢で鎖に繋がれたままだ。
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