【R18】愛されないとわかっていても〜捨てられ王女の再婚事情〜

浅岸 久

文字の大きさ
上 下
3 / 65

1−3

しおりを挟む

 結婚式の時の、誓いの言葉はなんだったのか。
 あの穏やかな声は? 優しい眼差しは? 誓いの口づけは?
 全部、嘘だったとでも言うのか。

「勘違いをするな。議会が第一降神格エン・ローダしか妃に認めぬと言うから、お前を迎えたにすぎん。――私の子種がもらえると期待でもしていたか?」
「まあ! 殿下ったら。それは酷ですわ!」

 くすくすくす、と女が嘲笑する。
 期待しているようだけど残念ね、と、彼女は勝ち誇った瞳を向けてきた。

 セレスティナの目の前だというのに気にすることなく、ラルフレットは腰を揺すりはじめる。それにともない、女の方の声も甘やかになっていく。

 肌がぶつかり合う音。今すぐにでもここから逃げたいのに、足が動かない。
 どうして? どうすれば? そんな考えが頭の中を言ったり来たりする。

「まあ、お前は、第一降神格エン・ローダであることと、その色彩を持っているだけで十分価値はあるからな」
「それは、どういう……」
「リリアンと同じ色彩を持っているなら、都合がいいだろう?」

 瞬間、血が逆流する心地がした。

 リリアンというのは、目の前の女性のことか。
 そんな彼女と同じ色彩。
 色彩にこだわる理由に思い至り、愕然とする。

「まさか」
「心配してくれるな。お前は、誉れ高きイオス王国の王子を産むという大義を果たしたことになるからな。祖国にも顔向けできぬようなことはない」
「そんな、そんな……!」

 それはつまり、目の前のリリアンと呼ばれた彼女に、セレスティナの代わりに子供を産ませるとでも言うのだろうか。
 つまりセレスティナとの婚姻は、ラルフレットがリリアンと結ばれるための張りぼての結婚だった。

(だったら、わたしは?)

 いらなくなったセレスティナは、どう生きればいいと言うのか。

「心配せずとも、お前の魔力は存分に使ってやるさ。――誇っていいぞ。お前は、このイオス王国の発展に欠かせない存在になるからな」

 チリンチリン、と、ラルフレットがベッド脇に置いていた鈴を鳴らした。
 やって来たのは侍従でも侍女でもなく、大勢の騎士たち。この状況になると最初からわかっていたかのように、すぐ外に待機していたらしい。

「初夜に邪魔をした不届き者を連れて行け。――ああ、例の部屋で丁重に繋いで・・・おくように。いいな?」

 ラルフレットの命令に、騎士たちは「はっ!」と一礼し、セレスティナを捕らえる。
 最初に感じたのは、手首に巻きついた金属の感触。その冷たさに包まれた瞬間、身体中の魔力の感覚が切り替わる。

(魔封じ……!?)

 ゾッとした。
 だってこれは、本来ならば罪人につけるようなものではないか!

「何これ、やめて!」

 そう叫ぶも、魔力を封じられたセレスティナに抵抗する手段はない。
 両脇をガッチリと掴まれ、後ろに引きずられる。

「待って! ラルフレット様! お願い!」

 必死で彼の名前を呼ぶけれど、彼は不機嫌そうに顔を歪めるだけだ。

「見知らぬ女に、名前を呼ばれる謂れはない。不愉快だ。疾く失せろ」

 そう言いながら、すぐに彼はセレスティナから意識を外し、目の前のリリアンに視線を注ぐ。

「――ああ、待たせたな。リリアン。ほら、私に集中して?」
「ぁ、あん! 殿下ったら! 激しいんだから」
「今日は初夜なんだ。どうして君を愛さずにいられる?」



 本来、セレスティナに向けられていたかもしれない愛情を、別の女に捧げながら、ラルフレットは彼女を押し倒す。
 ふたりの紡ぐ甘い嬌声が、いつまでもセレスティナの耳から離れない。

 日も差さぬ地下室に連れて行かれ、鎖に繋がれてからも、いつまでも、いつまでも――。



しおりを挟む
感想 20

あなたにおすすめの小説

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

愛する殿下の為に身を引いたのに…なぜかヤンデレ化した殿下に囚われてしまいました

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のレティシアは、愛する婚約者で王太子のリアムとの結婚を約1年後に控え、毎日幸せな生活を送っていた。 そんな幸せ絶頂の中、両親が馬車の事故で命を落としてしまう。大好きな両親を失い、悲しみに暮れるレティシアを心配したリアムによって、王宮で生活する事になる。 相変わらず自分を大切にしてくれるリアムによって、少しずつ元気を取り戻していくレティシア。そんな中、たまたま王宮で貴族たちが話をしているのを聞いてしまう。その内容と言うのが、そもそもリアムはレティシアの父からの結婚の申し出を断る事が出来ず、仕方なくレティシアと婚約したという事。 トンプソン公爵がいなくなった今、本来婚約する予定だったガルシア侯爵家の、ミランダとの婚約を考えていると言う事。でも心優しいリアムは、その事をレティシアに言い出せずに悩んでいると言う、レティシアにとって衝撃的な内容だった。 あまりのショックに、フラフラと歩くレティシアの目に飛び込んできたのは、楽しそうにお茶をする、リアムとミランダの姿だった。ミランダの髪を優しく撫でるリアムを見た瞬間、先ほど貴族が話していた事が本当だったと理解する。 ずっと自分を支えてくれたリアム。大好きなリアムの為、身を引く事を決意。それと同時に、国を出る準備を始めるレティシア。 そして1ヶ月後、大好きなリアムの為、自ら王宮を後にしたレティシアだったが… 追記:ヒーローが物凄く気持ち悪いです。 今更ですが、閲覧の際はご注意ください。

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

魔性の大公の甘く淫らな執愛の檻に囚われて

アマイ
恋愛
優れた癒しの力を持つ家系に生まれながら、伯爵家当主であるクロエにはその力が発現しなかった。しかし血筋を絶やしたくない皇帝の意向により、クロエは早急に後継を作らねばならなくなった。相手を求め渋々参加した夜会で、クロエは謎めいた美貌の男・ルアと出会う。 二人は契約を交わし、割り切った体の関係を結ぶのだが――

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

義兄に甘えまくっていたらいつの間にか執着されまくっていた話

よしゆき
恋愛
乙女ゲームのヒロインに意地悪をする攻略対象者のユリウスの義妹、マリナに転生した。大好きな推しであるユリウスと自分が結ばれることはない。ならば義妹として目一杯甘えまくって楽しもうと考えたのだが、気づけばユリウスにめちゃくちゃ執着されていた話。 「義兄に嫌われようとした行動が裏目に出て逆に執着されることになった話」のifストーリーですが繋がりはなにもありません。

処理中です...