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しおりを挟む結婚式の時の、誓いの言葉はなんだったのか。
あの穏やかな声は? 優しい眼差しは? 誓いの口づけは?
全部、嘘だったとでも言うのか。
「勘違いをするな。議会が第一降神格しか妃に認めぬと言うから、お前を迎えたにすぎん。――私の子種がもらえると期待でもしていたか?」
「まあ! 殿下ったら。それは酷ですわ!」
くすくすくす、と女が嘲笑する。
期待しているようだけど残念ね、と、彼女は勝ち誇った瞳を向けてきた。
セレスティナの目の前だというのに気にすることなく、ラルフレットは腰を揺すりはじめる。それにともない、女の方の声も甘やかになっていく。
肌がぶつかり合う音。今すぐにでもここから逃げたいのに、足が動かない。
どうして? どうすれば? そんな考えが頭の中を言ったり来たりする。
「まあ、お前は、第一降神格であることと、その色彩を持っているだけで十分価値はあるからな」
「それは、どういう……」
「リリアンと同じ色彩を持っているなら、都合がいいだろう?」
瞬間、血が逆流する心地がした。
リリアンというのは、目の前の女性のことか。
そんな彼女と同じ色彩。
色彩にこだわる理由に思い至り、愕然とする。
「まさか」
「心配してくれるな。お前は、誉れ高きイオス王国の王子を産むという大義を果たしたことになるからな。祖国にも顔向けできぬようなことはない」
「そんな、そんな……!」
それはつまり、目の前のリリアンと呼ばれた彼女に、セレスティナの代わりに子供を産ませるとでも言うのだろうか。
つまりセレスティナとの婚姻は、ラルフレットがリリアンと結ばれるための張りぼての結婚だった。
(だったら、わたしは?)
いらなくなったセレスティナは、どう生きればいいと言うのか。
「心配せずとも、お前の魔力は存分に使ってやるさ。――誇っていいぞ。お前は、このイオス王国の発展に欠かせない存在になるからな」
チリンチリン、と、ラルフレットがベッド脇に置いていた鈴を鳴らした。
やって来たのは侍従でも侍女でもなく、大勢の騎士たち。この状況になると最初からわかっていたかのように、すぐ外に待機していたらしい。
「初夜に邪魔をした不届き者を連れて行け。――ああ、例の部屋で丁重に繋いでおくように。いいな?」
ラルフレットの命令に、騎士たちは「はっ!」と一礼し、セレスティナを捕らえる。
最初に感じたのは、手首に巻きついた金属の感触。その冷たさに包まれた瞬間、身体中の魔力の感覚が切り替わる。
(魔封じ……!?)
ゾッとした。
だってこれは、本来ならば罪人につけるようなものではないか!
「何これ、やめて!」
そう叫ぶも、魔力を封じられたセレスティナに抵抗する手段はない。
両脇をガッチリと掴まれ、後ろに引きずられる。
「待って! ラルフレット様! お願い!」
必死で彼の名前を呼ぶけれど、彼は不機嫌そうに顔を歪めるだけだ。
「見知らぬ女に、名前を呼ばれる謂れはない。不愉快だ。疾く失せろ」
そう言いながら、すぐに彼はセレスティナから意識を外し、目の前のリリアンに視線を注ぐ。
「――ああ、待たせたな。リリアン。ほら、私に集中して?」
「ぁ、あん! 殿下ったら! 激しいんだから」
「今日は初夜なんだ。どうして君を愛さずにいられる?」
本来、セレスティナに向けられていたかもしれない愛情を、別の女に捧げながら、ラルフレットは彼女を押し倒す。
ふたりの紡ぐ甘い嬌声が、いつまでもセレスティナの耳から離れない。
日も差さぬ地下室に連れて行かれ、鎖に繋がれてからも、いつまでも、いつまでも――。
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