【R18】愛されないとわかっていても〜捨てられ王女の再婚事情〜

浅岸 久

文字の大きさ
上 下
1 / 65

1−1 プロローグ

しおりを挟む

 難しい婚姻だとはわかっていた。
 それでも、少なからずこの結婚に夢を抱いていた自覚はある。
 でも。どうして――。


「あっ、ぁん! そこ! ラルフレット様ぁ!」


 ――――どうして、初夜に寝所から他の女の淫らな声が聞こえるのか。









 自分の夫となる人と、これまでまともに話したことはない。
 結婚話が浮上してから、今日まであっという間だった。王族の結婚式とは思えないくらいに急な婚姻に戸惑わなかったと言えば嘘だ。

 それでも、改めて結婚式の場で会った彼は素敵だった。
 華やかな金色の髪に、透き通るような碧い瞳。まさにおとぎ話の中に出てくるような理想の王子様そのもの。
 大国であるイオス王国王太子の名に恥じない、素敵な旦那様。

 一方のセレスティナの出身国と言えば、隆盛していたのは過去の話だ。
 ただ長い歴史があるだけで、今やすっかりと小国となったルヴォイア王国の第三王女でしかない自分とは、どう考えてもつり合わない。
 それでもセレスティナは、この婚姻に夢を抱き続けていた。

 ――だって、これは望まれた婚姻のはずだから。



 その血により、必ず神の加護を色濃く受け継ぐと言われているルヴォイア王国の王女。当然、セレスティナもその恩恵を受けて生まれてきた。
 そして、ルヴォイア王女として生まれたからには、必ず他国へ嫁がなければいけない。それがもう何代も続いてきたルヴォイア王国の慣習だ。
 いくら小国とはいえ、神の祝福を強く授かった娘は貴重だ。だから本来、嫁ぎ先には困ることがない。
 ――――ただし、セレスティナ以外は。

(わたしは、いつまで経っても半人前。それでも、ラルフレット様はわたしを必要としてくれた)

 等級で言えば、最上級。
 第一降神格エン・ローダと呼ばれる最も強い祝福を受けたセレスティナであったが、19歳になるまで、なかなか嫁ぎ先が決まらなかったのは理由があった。
 セレスティナに加護を授けた神が、半神だったためである。

〈処女神〉セレス。
 神話上、とある神に見初められ、強引に神に引き上げられただけの元人間。
 寿命だけを引き延ばされたものの、何の特別な力も持っていないハズレ神である。

 歴史上を振り返っても、半神の加護を授かった者など存在しない。
 生まれた瞬間、セレスティナは世界でたったひとりの半端者になったのだ。

〈処女神〉の加護を授かったところで無意味だ。莫大な魔力だけは授かったものの、その魔力を使って特別な何かができるわけでもない。

〈豊穣の神〉の加護を授かった一番上の姉のように大地を豊かにすることも、〈音の神〉の加護を授かった二番目の姉のように人々を魅了する音楽を奏でることもできない。
 ただ、使い道のない魔力を持っているだけ。

 それでも、彼――ラルフレット・アム・イオスは、セレスティナを選んでくれた。
 大国であるイオス王国の王太子であるならば、妃などよりどりみどりなはずなのに、あえてちっぽけなセレスティナを。
 しかも婚約が整うなり、一日も待てないと言わんばかりに結婚を急いでいた。

 それほどまでに自分は望まれている。
 その事実が、セレスティナを勇気づけてくれる。

 いくら政略結婚でも、姉たちのように愛され、きっと大切にしてもらえる未来がある。
 そんな幸福な夢を見ながら、夜、セレスティナは寝所に向かった。

 プラチナブロンドと言うには色素が薄く、銀髪に見えなくもない浅い髪。紫水晶の瞳も珍しくはあるけれど、どこか華やかさの足りない薄い自分。
 それでも、侍女たちの手によって磨き上げられた今、それなりに見映えはするはず。
 レースがたっぷりのナイトドレスは、絹が薄くて心許ない。けれど、これが彼の心を擽るなら喜んで着よう。

 ラルフレットに誠心誠意尽くして、愛し愛されるようになりたい。
 この身の全てを、彼と、この国に捧げる覚悟はしてきた。
 そしてそのためには、この初夜で、その自分の覚悟を見せなければいけない。

 ――そう思ってきたはずなのに。



 ひとり、寝室の扉を開けて、凍りつく。
 部屋の奥には大きな天蓋付きのベッド。そこに、ひと組の男女が睦み合っていた。

しおりを挟む
感想 20

あなたにおすすめの小説

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。

海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。 ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。 「案外、本当に君以外いないかも」 「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」 「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」 そのドクターの甘さは手加減を知らない。 【登場人物】 末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。   恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる? 田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い? 【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~

恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん) は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。 しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!? (もしかして、私、転生してる!!?) そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!! そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

魔性の大公の甘く淫らな執愛の檻に囚われて

アマイ
恋愛
優れた癒しの力を持つ家系に生まれながら、伯爵家当主であるクロエにはその力が発現しなかった。しかし血筋を絶やしたくない皇帝の意向により、クロエは早急に後継を作らねばならなくなった。相手を求め渋々参加した夜会で、クロエは謎めいた美貌の男・ルアと出会う。 二人は契約を交わし、割り切った体の関係を結ぶのだが――

×一夜の過ち→◎毎晩大正解!

名乃坂
恋愛
一夜の過ちを犯した相手が不幸にもたまたまヤンデレストーカー男だったヒロインのお話です。

処理中です...