上 下
1 / 65

1−1 プロローグ

しおりを挟む

 難しい婚姻だとはわかっていた。
 それでも、少なからずこの結婚に夢を抱いていた自覚はある。
 でも。どうして――。


「あっ、ぁん! そこ! ラルフレット様ぁ!」


 ――――どうして、初夜に寝所から他の女の淫らな声が聞こえるのか。









 自分の夫となる人と、これまでまともに話したことはない。
 結婚話が浮上してから、今日まであっという間だった。王族の結婚式とは思えないくらいに急な婚姻に戸惑わなかったと言えば嘘だ。

 それでも、改めて結婚式の場で会った彼は素敵だった。
 華やかな金色の髪に、透き通るような碧い瞳。まさにおとぎ話の中に出てくるような理想の王子様そのもの。
 大国であるイオス王国王太子の名に恥じない、素敵な旦那様。

 一方のセレスティナの出身国と言えば、隆盛していたのは過去の話だ。
 ただ長い歴史があるだけで、今やすっかりと小国となったルヴォイア王国の第三王女でしかない自分とは、どう考えてもつり合わない。
 それでもセレスティナは、この婚姻に夢を抱き続けていた。

 ――だって、これは望まれた婚姻のはずだから。



 その血により、必ず神の加護を色濃く受け継ぐと言われているルヴォイア王国の王女。当然、セレスティナもその恩恵を受けて生まれてきた。
 そして、ルヴォイア王女として生まれたからには、必ず他国へ嫁がなければいけない。それがもう何代も続いてきたルヴォイア王国の慣習だ。
 いくら小国とはいえ、神の祝福を強く授かった娘は貴重だ。だから本来、嫁ぎ先には困ることがない。
 ――――ただし、セレスティナ以外は。

(わたしは、いつまで経っても半人前。それでも、ラルフレット様はわたしを必要としてくれた)

 等級で言えば、最上級。
 第一降神格エン・ローダと呼ばれる最も強い祝福を受けたセレスティナであったが、19歳になるまで、なかなか嫁ぎ先が決まらなかったのは理由があった。
 セレスティナに加護を授けた神が、半神だったためである。

〈処女神〉セレス。
 神話上、とある神に見初められ、強引に神に引き上げられただけの元人間。
 寿命だけを引き延ばされたものの、何の特別な力も持っていないハズレ神である。

 歴史上を振り返っても、半神の加護を授かった者など存在しない。
 生まれた瞬間、セレスティナは世界でたったひとりの半端者になったのだ。

〈処女神〉の加護を授かったところで無意味だ。莫大な魔力だけは授かったものの、その魔力を使って特別な何かができるわけでもない。

〈豊穣の神〉の加護を授かった一番上の姉のように大地を豊かにすることも、〈音の神〉の加護を授かった二番目の姉のように人々を魅了する音楽を奏でることもできない。
 ただ、使い道のない魔力を持っているだけ。

 それでも、彼――ラルフレット・アム・イオスは、セレスティナを選んでくれた。
 大国であるイオス王国の王太子であるならば、妃などよりどりみどりなはずなのに、あえてちっぽけなセレスティナを。
 しかも婚約が整うなり、一日も待てないと言わんばかりに結婚を急いでいた。

 それほどまでに自分は望まれている。
 その事実が、セレスティナを勇気づけてくれる。

 いくら政略結婚でも、姉たちのように愛され、きっと大切にしてもらえる未来がある。
 そんな幸福な夢を見ながら、夜、セレスティナは寝所に向かった。

 プラチナブロンドと言うには色素が薄く、銀髪に見えなくもない浅い髪。紫水晶の瞳も珍しくはあるけれど、どこか華やかさの足りない薄い自分。
 それでも、侍女たちの手によって磨き上げられた今、それなりに見映えはするはず。
 レースがたっぷりのナイトドレスは、絹が薄くて心許ない。けれど、これが彼の心を擽るなら喜んで着よう。

 ラルフレットに誠心誠意尽くして、愛し愛されるようになりたい。
 この身の全てを、彼と、この国に捧げる覚悟はしてきた。
 そしてそのためには、この初夜で、その自分の覚悟を見せなければいけない。

 ――そう思ってきたはずなのに。



 ひとり、寝室の扉を開けて、凍りつく。
 部屋の奥には大きな天蓋付きのベッド。そこに、ひと組の男女が睦み合っていた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

プールの中で幼馴染のイケメン双子に挟まれてえっちな悪戯されるし、プールサイドでクリを溺愛された後に交代で手マンされてお潮いっぱい吹く女の子

ちひろ
恋愛
ひとりえっちのネタとして使える、すぐえっち突入のサクッと読める会話文SSです。 いっぱい恥ずかしい言葉で責められて、イヤイヤしても溺愛されちゃいます。

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

女性の少ない異世界に生まれ変わったら

Azuki
恋愛
高校に登校している途中、道路に飛び出した子供を助ける形でトラックに轢かれてそのまま意識を失った私。 目を覚ますと、私はベッドに寝ていて、目の前にも周りにもイケメン、イケメン、イケメンだらけーーー!? なんと私は幼女に生まれ変わっており、しかもお嬢様だった!! ーーやった〜!勝ち組人生来た〜〜〜!!! そう、心の中で思いっきり歓喜していた私だけど、この世界はとんでもない世界で・・・!? これは、女性が圧倒的に少ない異世界に転生した私が、家族や周りから溺愛されながら様々な問題を解決して、更に溺愛されていく物語。

孕ませねばならん ~イケメン執事の監禁セックス~

あさとよる
恋愛
傷モノになれば、この婚約は無くなるはずだ。 最愛のお嬢様が嫁ぐのを阻止? 過保護イケメン執事の執着H♡

奴隷の私が複数のご主人様に飼われる話

雫@更新未定
恋愛
複数のご主人様に飼われる話です。SM、玩具、3p、アナル開発など。

ずっと好きだった獣人のあなたに別れを告げて

木佐木りの
恋愛
女性騎士イヴリンは、騎士団団長で黒豹の獣人アーサーに密かに想いを寄せてきた。しかし獣人には番という運命の相手がいることを知る彼女は想いを伝えることなく、自身の除隊と実家から届いた縁談の話をきっかけに、アーサーとの別れを決意する。 前半は回想多めです。恋愛っぽい話が出てくるのは後半の方です。よくある話&書きたいことだけ詰まっているので設定も話もゆるゆるです(-人-)

クソつよ性欲隠して結婚したら草食系旦那が巨根で絶倫だった

山吹花月
恋愛
『穢れを知らぬ清廉な乙女』と『王子系聖人君子』 色欲とは無縁と思われている夫婦は互いに欲望を隠していた。 ◇ムーンライトノベルズ様へも掲載しております。

【R18】微笑みを消してから

大城いぬこ
恋愛
共同事業のため、格上の侯爵家に嫁ぐことになったエルマリア。しかし、夫となったレイモンド・フローレンは同じ邸で暮らす男爵令嬢を愛していた。

処理中です...