【R18】嘘から本気にさせられちゃった恋のおはなし。

浅岸 久

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第3話 まさか聖夜にプロポ……いえ、わたしなにも気がついていません。

3−11(ラルフ)

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「おつかれー!」
「かんぱーい!」

 かんっ! と、ジョッキをならしあう音が食堂に響きわたる。

「ほら、ラルフも飲め飲め」
「ああ……」

 一緒に遠征に行った仲間の冒険者に酒をすすめられて、頷く。
 けど、どうにも落ちつかねえんだよな。

 本当は明後日――つまり、ギルドの営業日ぎりぎり間に合うか間に合わないか、くらいに帰ってくるつもりで遠征に参加してたんだけどさ。今回はたまたま首都ギルドの連中もいてくれたことだし、早めにエイルズまで戻ってきたんだ。
 で、魔素だまりの消去の完了・確認報告をすませて、ギルドホール内の食堂に移動してきたんだけどよ?

 うーん……。
 リリーのやつが迎えに来ねえんだよな。

 いや。まあ、まだギリ勤務時間だし?
 アイツ、基本オレよりも仕事優先するヤツだもんな? ……自分で言ってて悲しくなってきたけど……。
 だから、姿が見えねえのも仕方ねえとは思うんだ。けどよ……。
 うーん、なんだろ、な。嫌な予感? 胸騒ぎがするっつーか。


「あ、やっぱり帰ってきてた。ラルフ! ちょっといい?」

 とかなんとか考えてたら、入り口の方からケーシャが顔を出してさ。オレはひとり席を立って、ケーシャの方へと向かう。

「おう。久しぶりだな、ケーシャ」
「アンタもお疲れ。……ところでラルフ。アンタ、リリー見てないわよね?」
「はあ???」

 いや、どっちかって言うと、それはオレの台詞っつーか。
 なんでケーシャがオレに聞くんだよ。

「……見てない、よね」
「なんだ? 今日アイツ仕事じゃなかったのか?」
「もちろん仕事よ? ……でも、仕事で外に出たっきり、帰って来なくってさ」
「ハア!?」

 つい大声を出してしまって、後ろで騒いでたヤツら全員がこっちを見る。
 けど、……え? どういうことだ、いったい。

「いつからいないんだ!?」
「お昼すぎ。ちょっと遠くに行ってたから、時間はかかるとは思うんだけど。でも、仕事内容的には、とっくに帰ってこないとおかしいし」

 いつも余裕ぶったケーシャが心配そうにしているし、内容が内容だ。後ろで酒盛りをはじめたヤツらも、神妙な様子でこちらの話を聞いている。

「どこに行ったんだ!?」
「倉庫街。職人ギルドの、現場の担当者のところに挨拶を――」
「チィ!!」

 こんなの、飲んでる場合じゃねえだろ!
 オレはジョッキを置いて、あわてて食堂から外へと出ようとする。

 けれどもそこで、ジャックとミリアムに足止めをくらった。

「おいおい、ちょっと落ち着け、ラルフ」
「そーよ。……なに? あの子が帰って来ないの?」

 くそ、ジャックのヤロー、力ずくで押さえてきやがる。
 つーか、倉庫街といやあ、あんまり治安も良くない場所じゃあないか。あのあたりの裏道は、気の短い男どもがゴロゴロしてやがるからな。
 クソっ!
 あの真面目なリリーが、連絡もなしに帰って来ないとか、なんかあったにちがいねーだろうがよ!

「ふーん。……ねえ、アンタ」

 俺とちがって、ミリアムのやつは冷静だった。

「アンタ、名前は?」
「ケーシャ、ですが」
「そ。ケーシャ。リリーの持ち物、ある? できれば本人が愛用してるものの方がいいんだけど」

 と、ミリアムがケーシャになにか指示をしやがる。オレもジャックも、それをぽかーんと見ててよ。目があうなり、ミリアムはにやあと笑った。

「ラルフ。これはこないだつきまとってたお詫びだからね。これでチャラよ?」

 あわてて事務室へ行って、戻ってきたケーシャから、リリーの使っているらしいペンを受け取って、杖をかざす。
 そうしてミリアムは、意識を集中させて、瞼を閉じた。

 ふわりとミリアムの髪が宙に漂う。
 オレには魔力がねえから、その動き? チカラ的なものはさっぱりわかんねーけどさ。たぶんリリーの居場所を追ってくれてるのかな、と思う。
 ……つーか、こんな魔法使えたのか。
 どうりで、しょっちゅうオレを簡単に見つけ出すなって思ってたよ!


「見えた」

 いうなりミリアムは両目をひらいて。

「もうとっくに街を離れているみたい。――西よ。隣町まで移動しているわ」
「ハア!?」
「あの子、魔力持ちでしょ? すごく存在がハッキリしている。間違いないわ」
「となり……まち、だと?」
「ええ。とりあえず、あの子になにかが起こったのは間違いないようね。どうする、ラルフ?」
「っ……今すぐ追うに決まってンだろ!!」

 聞くまでもねえ! って主張して。
 ミリアムも頷いて、ケーシャの方に視線を向ける。

「オーケイ。――ってなわけ。馬かなにか、用意してもらえる? リリーがいないと、ウチのギルドも困っちゃうものね」

 そう言ってミリアムは、すぐに食堂を出ていった。

「おーい、マスター。さっき注文したメシ、ほかの客に振る舞ってやってくれ」

 なんてジャックも――ついでに、他に一緒にクエスト行ってたヤローどもも言ってくれてよ。

「もしオマエへの恨みとかで、とばっちりだったら、可哀想すぎるだろ」
「つーか、あのリリーちゃんだぞ? 急がねーと、まずいって」
「だな。もしなんかあったら、犯人が切り刻まれる」
「そっちの心配かよ!」
「たりめーだろ!!」

 なんて、ゾロゾロ装備を身につけて、食堂を出ていく。

「……すまん」

 そんなみんなに、オレは自然と頭をさげていてさ――。


「なんだよ、オマエに謝られるとか、明日は雪か?」
「聖夜前だし、降ったほうがキレーじゃねえか?」
「そりゃそうだ。ハハハ!」

 なんて、みんなの笑い声に、少しだけ救われた気持ちになって。

 よし。
 リリー、絶対助けるからな!
 待っていろよ……!!
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