51 / 59
第3話 まさか聖夜にプロポ……いえ、わたしなにも気がついていません。
3−11(ラルフ)
しおりを挟む「おつかれー!」
「かんぱーい!」
かんっ! と、ジョッキをならしあう音が食堂に響きわたる。
「ほら、ラルフも飲め飲め」
「ああ……」
一緒に遠征に行った仲間の冒険者に酒をすすめられて、頷く。
けど、どうにも落ちつかねえんだよな。
本当は明後日――つまり、ギルドの営業日ぎりぎり間に合うか間に合わないか、くらいに帰ってくるつもりで遠征に参加してたんだけどさ。今回はたまたま首都ギルドの連中もいてくれたことだし、早めにエイルズまで戻ってきたんだ。
で、魔素だまりの消去の完了・確認報告をすませて、ギルドホール内の食堂に移動してきたんだけどよ?
うーん……。
リリーのやつが迎えに来ねえんだよな。
いや。まあ、まだギリ勤務時間だし?
アイツ、基本オレよりも仕事優先するヤツだもんな? ……自分で言ってて悲しくなってきたけど……。
だから、姿が見えねえのも仕方ねえとは思うんだ。けどよ……。
うーん、なんだろ、な。嫌な予感? 胸騒ぎがするっつーか。
「あ、やっぱり帰ってきてた。ラルフ! ちょっといい?」
とかなんとか考えてたら、入り口の方からケーシャが顔を出してさ。オレはひとり席を立って、ケーシャの方へと向かう。
「おう。久しぶりだな、ケーシャ」
「アンタもお疲れ。……ところでラルフ。アンタ、リリー見てないわよね?」
「はあ???」
いや、どっちかって言うと、それはオレの台詞っつーか。
なんでケーシャがオレに聞くんだよ。
「……見てない、よね」
「なんだ? 今日アイツ仕事じゃなかったのか?」
「もちろん仕事よ? ……でも、仕事で外に出たっきり、帰って来なくってさ」
「ハア!?」
つい大声を出してしまって、後ろで騒いでたヤツら全員がこっちを見る。
けど、……え? どういうことだ、いったい。
「いつからいないんだ!?」
「お昼すぎ。ちょっと遠くに行ってたから、時間はかかるとは思うんだけど。でも、仕事内容的には、とっくに帰ってこないとおかしいし」
いつも余裕ぶったケーシャが心配そうにしているし、内容が内容だ。後ろで酒盛りをはじめたヤツらも、神妙な様子でこちらの話を聞いている。
「どこに行ったんだ!?」
「倉庫街。職人ギルドの、現場の担当者のところに挨拶を――」
「チィ!!」
こんなの、飲んでる場合じゃねえだろ!
オレはジョッキを置いて、あわてて食堂から外へと出ようとする。
けれどもそこで、ジャックとミリアムに足止めをくらった。
「おいおい、ちょっと落ち着け、ラルフ」
「そーよ。……なに? あの子が帰って来ないの?」
くそ、ジャックのヤロー、力ずくで押さえてきやがる。
つーか、倉庫街といやあ、あんまり治安も良くない場所じゃあないか。あのあたりの裏道は、気の短い男どもがゴロゴロしてやがるからな。
クソっ!
あの真面目なリリーが、連絡もなしに帰って来ないとか、なんかあったにちがいねーだろうがよ!
「ふーん。……ねえ、アンタ」
俺とちがって、ミリアムのやつは冷静だった。
「アンタ、名前は?」
「ケーシャ、ですが」
「そ。ケーシャ。リリーの持ち物、ある? できれば本人が愛用してるものの方がいいんだけど」
と、ミリアムがケーシャになにか指示をしやがる。オレもジャックも、それをぽかーんと見ててよ。目があうなり、ミリアムはにやあと笑った。
「ラルフ。これはこないだつきまとってたお詫びだからね。これでチャラよ?」
あわてて事務室へ行って、戻ってきたケーシャから、リリーの使っているらしいペンを受け取って、杖をかざす。
そうしてミリアムは、意識を集中させて、瞼を閉じた。
ふわりとミリアムの髪が宙に漂う。
オレには魔力がねえから、その動き? チカラ的なものはさっぱりわかんねーけどさ。たぶんリリーの居場所を追ってくれてるのかな、と思う。
……つーか、こんな魔法使えたのか。
どうりで、しょっちゅうオレを簡単に見つけ出すなって思ってたよ!
「見えた」
いうなりミリアムは両目をひらいて。
「もうとっくに街を離れているみたい。――西よ。隣町まで移動しているわ」
「ハア!?」
「あの子、魔力持ちでしょ? すごく存在がハッキリしている。間違いないわ」
「となり……まち、だと?」
「ええ。とりあえず、あの子になにかが起こったのは間違いないようね。どうする、ラルフ?」
「っ……今すぐ追うに決まってンだろ!!」
聞くまでもねえ! って主張して。
ミリアムも頷いて、ケーシャの方に視線を向ける。
「オーケイ。――ってなわけ。馬かなにか、用意してもらえる? リリーがいないと、ウチのギルドも困っちゃうものね」
そう言ってミリアムは、すぐに食堂を出ていった。
「おーい、マスター。さっき注文したメシ、ほかの客に振る舞ってやってくれ」
なんてジャックも――ついでに、他に一緒にクエスト行ってたヤローどもも言ってくれてよ。
「もしオマエへの恨みとかで、とばっちりだったら、可哀想すぎるだろ」
「つーか、あのリリーちゃんだぞ? 急がねーと、まずいって」
「だな。もしなんかあったら、犯人が切り刻まれる」
「そっちの心配かよ!」
「たりめーだろ!!」
なんて、ゾロゾロ装備を身につけて、食堂を出ていく。
「……すまん」
そんなみんなに、オレは自然と頭をさげていてさ――。
「なんだよ、オマエに謝られるとか、明日は雪か?」
「聖夜前だし、降ったほうがキレーじゃねえか?」
「そりゃそうだ。ハハハ!」
なんて、みんなの笑い声に、少しだけ救われた気持ちになって。
よし。
リリー、絶対助けるからな!
待っていろよ……!!
41
お気に入りに追加
640
あなたにおすすめの小説
月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~
真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。
巨乳令嬢は男装して騎士団に入隊するけど、何故か騎士団長に目をつけられた
狭山雪菜
恋愛
ラクマ王国は昔から貴族以上の18歳から20歳までの子息に騎士団に短期入団する事を義務付けている
いつしか時の流れが次第に短期入団を終わらせれば、成人とみなされる事に変わっていった
そんなことで、我がサハラ男爵家も例外ではなく長男のマルキ・サハラも騎士団に入団する日が近づきみんな浮き立っていた
しかし、入団前日になり置き手紙ひとつ残し姿を消した長男に男爵家当主は苦悩の末、苦肉の策を家族に伝え他言無用で使用人にも箝口令を敷いた
当日入団したのは、男装した年子の妹、ハルキ・サハラだった
この作品は「小説家になろう」にも掲載しております。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
ナイトプールで熱い夜
狭山雪菜
恋愛
萌香は、27歳のバリバリのキャリアウーマン。大学からの親友美波に誘われて、未成年者不可のナイトプールへと行くと、親友がナンパされていた。ナンパ男と居たもう1人の無口な男は、何故か私の側から離れなくて…?
この作品は、「小説家になろう」にも掲載しております。
お知らせ有り※※束縛上司!~溺愛体質の上司の深すぎる愛情~
ひなの琴莉
恋愛
イケメンで完璧な上司は自分にだけなぜかとても過保護でしつこい。そんな店長に秘密を握られた。秘密をすることに交換条件として色々求められてしまう。 溺愛体質のヒーロー☓地味子。ドタバタラブコメディ。
2021/3/10
しおりを挟んでくださっている皆様へ。
こちらの作品はすごく昔に書いたのをリメイクして連載していたものです。
しかし、古い作品なので……時代背景と言うか……いろいろ突っ込みどころ満載で、修正しながら書いていたのですが、やはり難しかったです(汗)
楽しい作品に仕上げるのが厳しいと判断し、連載を中止させていただくことにしました。
申しわけありません。
新作を書いて更新していきたいと思っていますので、よろしくお願いします。
お詫びに過去に書いた原文のママ載せておきます。
修正していないのと、若かりし頃の作品のため、
甘めに見てくださいm(__)m
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
明智さんちの旦那さんたちR
明智 颯茄
恋愛
あの小高い丘の上に建つ大きなお屋敷には、一風変わった夫婦が住んでいる。それは、妻一人に夫十人のいわゆる逆ハーレム婚だ。
奥さんは何かと大変かと思いきやそうではないらしい。旦那さんたちは全員神がかりな美しさを持つイケメンで、奥さんはニヤケ放題らしい。
ほのぼのとしながらも、複数婚が巻き起こすおかしな日常が満載。
*BL描写あり
毎週月曜日と隔週の日曜日お休みします。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる