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第3話 まさか聖夜にプロポ……いえ、わたしなにも気がついていません。
3−11(ラルフ)
しおりを挟む「おつかれー!」
「かんぱーい!」
かんっ! と、ジョッキをならしあう音が食堂に響きわたる。
「ほら、ラルフも飲め飲め」
「ああ……」
一緒に遠征に行った仲間の冒険者に酒をすすめられて、頷く。
けど、どうにも落ちつかねえんだよな。
本当は明後日――つまり、ギルドの営業日ぎりぎり間に合うか間に合わないか、くらいに帰ってくるつもりで遠征に参加してたんだけどさ。今回はたまたま首都ギルドの連中もいてくれたことだし、早めにエイルズまで戻ってきたんだ。
で、魔素だまりの消去の完了・確認報告をすませて、ギルドホール内の食堂に移動してきたんだけどよ?
うーん……。
リリーのやつが迎えに来ねえんだよな。
いや。まあ、まだギリ勤務時間だし?
アイツ、基本オレよりも仕事優先するヤツだもんな? ……自分で言ってて悲しくなってきたけど……。
だから、姿が見えねえのも仕方ねえとは思うんだ。けどよ……。
うーん、なんだろ、な。嫌な予感? 胸騒ぎがするっつーか。
「あ、やっぱり帰ってきてた。ラルフ! ちょっといい?」
とかなんとか考えてたら、入り口の方からケーシャが顔を出してさ。オレはひとり席を立って、ケーシャの方へと向かう。
「おう。久しぶりだな、ケーシャ」
「アンタもお疲れ。……ところでラルフ。アンタ、リリー見てないわよね?」
「はあ???」
いや、どっちかって言うと、それはオレの台詞っつーか。
なんでケーシャがオレに聞くんだよ。
「……見てない、よね」
「なんだ? 今日アイツ仕事じゃなかったのか?」
「もちろん仕事よ? ……でも、仕事で外に出たっきり、帰って来なくってさ」
「ハア!?」
つい大声を出してしまって、後ろで騒いでたヤツら全員がこっちを見る。
けど、……え? どういうことだ、いったい。
「いつからいないんだ!?」
「お昼すぎ。ちょっと遠くに行ってたから、時間はかかるとは思うんだけど。でも、仕事内容的には、とっくに帰ってこないとおかしいし」
いつも余裕ぶったケーシャが心配そうにしているし、内容が内容だ。後ろで酒盛りをはじめたヤツらも、神妙な様子でこちらの話を聞いている。
「どこに行ったんだ!?」
「倉庫街。職人ギルドの、現場の担当者のところに挨拶を――」
「チィ!!」
こんなの、飲んでる場合じゃねえだろ!
オレはジョッキを置いて、あわてて食堂から外へと出ようとする。
けれどもそこで、ジャックとミリアムに足止めをくらった。
「おいおい、ちょっと落ち着け、ラルフ」
「そーよ。……なに? あの子が帰って来ないの?」
くそ、ジャックのヤロー、力ずくで押さえてきやがる。
つーか、倉庫街といやあ、あんまり治安も良くない場所じゃあないか。あのあたりの裏道は、気の短い男どもがゴロゴロしてやがるからな。
クソっ!
あの真面目なリリーが、連絡もなしに帰って来ないとか、なんかあったにちがいねーだろうがよ!
「ふーん。……ねえ、アンタ」
俺とちがって、ミリアムのやつは冷静だった。
「アンタ、名前は?」
「ケーシャ、ですが」
「そ。ケーシャ。リリーの持ち物、ある? できれば本人が愛用してるものの方がいいんだけど」
と、ミリアムがケーシャになにか指示をしやがる。オレもジャックも、それをぽかーんと見ててよ。目があうなり、ミリアムはにやあと笑った。
「ラルフ。これはこないだつきまとってたお詫びだからね。これでチャラよ?」
あわてて事務室へ行って、戻ってきたケーシャから、リリーの使っているらしいペンを受け取って、杖をかざす。
そうしてミリアムは、意識を集中させて、瞼を閉じた。
ふわりとミリアムの髪が宙に漂う。
オレには魔力がねえから、その動き? チカラ的なものはさっぱりわかんねーけどさ。たぶんリリーの居場所を追ってくれてるのかな、と思う。
……つーか、こんな魔法使えたのか。
どうりで、しょっちゅうオレを簡単に見つけ出すなって思ってたよ!
「見えた」
いうなりミリアムは両目をひらいて。
「もうとっくに街を離れているみたい。――西よ。隣町まで移動しているわ」
「ハア!?」
「あの子、魔力持ちでしょ? すごく存在がハッキリしている。間違いないわ」
「となり……まち、だと?」
「ええ。とりあえず、あの子になにかが起こったのは間違いないようね。どうする、ラルフ?」
「っ……今すぐ追うに決まってンだろ!!」
聞くまでもねえ! って主張して。
ミリアムも頷いて、ケーシャの方に視線を向ける。
「オーケイ。――ってなわけ。馬かなにか、用意してもらえる? リリーがいないと、ウチのギルドも困っちゃうものね」
そう言ってミリアムは、すぐに食堂を出ていった。
「おーい、マスター。さっき注文したメシ、ほかの客に振る舞ってやってくれ」
なんてジャックも――ついでに、他に一緒にクエスト行ってたヤローどもも言ってくれてよ。
「もしオマエへの恨みとかで、とばっちりだったら、可哀想すぎるだろ」
「つーか、あのリリーちゃんだぞ? 急がねーと、まずいって」
「だな。もしなんかあったら、犯人が切り刻まれる」
「そっちの心配かよ!」
「たりめーだろ!!」
なんて、ゾロゾロ装備を身につけて、食堂を出ていく。
「……すまん」
そんなみんなに、オレは自然と頭をさげていてさ――。
「なんだよ、オマエに謝られるとか、明日は雪か?」
「聖夜前だし、降ったほうがキレーじゃねえか?」
「そりゃそうだ。ハハハ!」
なんて、みんなの笑い声に、少しだけ救われた気持ちになって。
よし。
リリー、絶対助けるからな!
待っていろよ……!!
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