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第3話 まさか聖夜にプロポ……いえ、わたしなにも気がついていません。

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 そうこうしているうちに、今年もあと10日ほどになった。
 ミリアムの変な脅しがあったからさ? ラルフはいつも以上に警戒してくれていたけれど、特に変なことも起こらず。
 まあ、いまだにラルフとつきあっていることに対するやっかみみたいなモノはあったりするからね。今回もその類いかなって結論に至った。
 秋ごろまでにくらべるとだいぶ減ったけれども、仕事への行き帰りの、ラルフの付き添いは相変わらずだ。


 今年も暮れになると、服飾街のほうにはさ、幻想的なランプの明かりが道の両脇にいっぱいともされて、夜の時間に恋人たちがデートしているのを見ることが増えた。

 あー……去年まではこの道、この時期は来たくなかったもんね……。
 家に帰るには近道だったんだけどさ、わざわざ遠回りしたりして。
 やさぐれるのは得意だったから、ラルフにからかわれながらさ、いいもんって家でヤケ酒のんでたっけ。
 変わるものだよね~って思いながら、今日も、一緒に帰宅中のラルフのほうを見上げる。

「まっすぐ帰るでいいか?」
「うん。――ここの道、今までこの時期はなかなか来なかったから、不思議な感じ。……でも、もう見納めかあ」
「だな。……精霊の噴水、見てくか?」
「えっ? あ、うーん。えっと」

 まっすぐ帰るって言ったけど。
 あー、この季節にその単語は、なかなかの誘い文句だよね。

「――すこし気が早いか。でも、聖夜は」
「あっ、うんっ。そ、そうだねっ」

 ひゃああ。
 気恥ずかしい。
 なんか顔見られるの恥ずかしくて、わたしはきゅって、ラルフの腕にしがみついてさ。

「今年は、……そだよね」
「ん」

 おたがい多くは語らないけど、これってつまり、そういうことだよね……?


 っていうのもね。
 この国での聖夜――つまり、一年で最後の日のことなんだけどさ?
 聖夜は正しくは、精霊王の祝夜ともいわれててね?
 一年で各地に溜まった穢れを、妖精たちが浄化していく夜、と信じられているの。

 実際、その日の夕方くらいから、ふわふわと――精霊の灯り、ってよばれてる淡い光がいっぱいあふれてさ。すっごく幻想的で。
 人々は精霊に祈りを捧げて、翌年の幸せを願うのね。

 それで、その象徴的なスポットがね、どの街にもある。
 祠だったり、像だったり――精霊を祀るものがあったりするんだけど、この街は、それが噴水なの。
 精霊王をかたどった像が置かれた大きな噴水があってね。そこに、一緒にコインを投げ込んで、幸せを祈った恋人同士はずっと一緒にいられるっていうジンクスがありまして。

 ……いちおう、プロポーズの定番スポットだったりするんだけど。
 でも、わたしたちはまだつきあいはじめだし。そこまでは……ないと、思うけど? …………そ、だよね? ねっ!?

 こないだラルフが宝飾店から出てくるの見ちゃったりとかさ、首都でのおうちの話とか? するからさ……。変に期待しちゃってダメだよね。
 うんっ。
 贅沢は言わないけどっ。でも、ラルフとこれからも仲良くしていけたら……とか、最近けっこうよく考える。
 だからせめて、聖夜もね? 恋人っぽいデートできるんじゃないかなって期待してたのもあって。

「予定……あけておいて、いい?」
「ったりまえだろ。……つか、あいてなかったら泣く」

 なーんて、ぼそっと言うの、ちょっとかわいいよね。

「あはは!」
「いや。リリーはそういうところ、お約束を平気でスルーしてくるところ、あるから」
「えっ!? そういうこと、言う!?」
「言う。でも――うん。あけとけよ? な?」
「うっ、うん……!」

 なんか釈然としないことも言われたけどさ。結局は、わたしもラルフと一緒に聖夜を過ごせることが嬉しくて。
 ぎゅっと強くしがみついて、首を縦にふる。

「じゃ、噴水見に行くのは、その日までとっとく」
「おう」

 なんて、笑いあって帰宅してさ。

 仕事納めまであと少し。
 もう穏やかに終わるかなーってころにね?

 最後の最後で、ちょっとだけギルド内がバタバタする。

 フィアーク山の麓で、ちょっとタチの悪い魔素だまりが見つかったんだよね。





 魔素だまりってモノによって規模が全然ちがうから、問題視するかどうかもそれぞれで変わっていくんだけど。

「はーっ……この時期に魔素だまりとか最悪。でもごめん……ラルフ、おねがいね」

 今回はちょっと、よくないものだった。
 っていうのもね? 冬に入ったばかりのフィアーク山のモンスターって、冬眠している個体も多いんだけどさ。魔素だまりの消去であまりに大騒ぎすると、凶暴化した個体が目ざめる可能性があって。
 だから、できるだけ腕利きの冒険者が、少数精鋭で行くことになったわけ。

「おう。ま、ギリギリ年末に間に合ってよかったかな。とっととケリつけて帰ってくる」
「うん。気をつけて」

 ラルフとジャックさん、それから、強化系の魔道具に慣れた前衛の冒険者たちと、まだエイルズに留まっていたミリアムたちも一緒にね。
 こんな時はもう、ミリアムがいてくれてほんとよかった! って思いながら、みんなを見送ることになった。……んだけどね?

「いいか、リリー。ぜっっっったい、聖夜までにはケリつけて帰ってくるから、他、予定いれんじゃねーぞ?」
「わかってるよ、いれないって」
「絶対、絶対だからな?」
「うん」
「……あと、首都ギルドの寮も、申し込むんじゃねえぞ?」
「それもわかったから! ほら、いってきて!」

 もーっ。ラルフってば、最後のひとことが長いんだから。

「あとっ! 夜道には気をつけ――」
「わかったっ! わかったから!!」

 ほらっ。みんな爆笑してるじゃないっ。

「このやりとりがもう見られなくなるのかあ」

 って、ジャックさんまでそれ言う!?

「つーか、リリーちゃんとラルフ、立場逆になったよな?」
「それな」

 なんて。
 なんだかすっごく微笑ましい目で見られてて、気恥ずかしいったらないけど。
 でも、ほんとに。
 頼んだよ、ラルフっ!


 そうやって、ラルフを含めた短期パーティを送り出して数日。
 いよいよ今年のお仕事もあと3日!
 ラルフたちも、そろそろ帰ってくるかな。どうかなーって、待ってたんだけどね?

 こっちはこっちで、ちょっと思いがけない事件に巻き込まれることになる。

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