49 / 59
第3話 まさか聖夜にプロポ……いえ、わたしなにも気がついていません。
3−9
しおりを挟む
そうこうしているうちに、今年もあと10日ほどになった。
ミリアムの変な脅しがあったからさ? ラルフはいつも以上に警戒してくれていたけれど、特に変なことも起こらず。
まあ、いまだにラルフとつきあっていることに対するやっかみみたいなモノはあったりするからね。今回もその類いかなって結論に至った。
秋ごろまでにくらべるとだいぶ減ったけれども、仕事への行き帰りの、ラルフの付き添いは相変わらずだ。
今年も暮れになると、服飾街のほうにはさ、幻想的なランプの明かりが道の両脇にいっぱいともされて、夜の時間に恋人たちがデートしているのを見ることが増えた。
あー……去年まではこの道、この時期は来たくなかったもんね……。
家に帰るには近道だったんだけどさ、わざわざ遠回りしたりして。
やさぐれるのは得意だったから、ラルフにからかわれながらさ、いいもんって家でヤケ酒のんでたっけ。
変わるものだよね~って思いながら、今日も、一緒に帰宅中のラルフのほうを見上げる。
「まっすぐ帰るでいいか?」
「うん。――ここの道、今までこの時期はなかなか来なかったから、不思議な感じ。……でも、もう見納めかあ」
「だな。……精霊の噴水、見てくか?」
「えっ? あ、うーん。えっと」
まっすぐ帰るって言ったけど。
あー、この季節にその単語は、なかなかの誘い文句だよね。
「――すこし気が早いか。でも、聖夜は」
「あっ、うんっ。そ、そうだねっ」
ひゃああ。
気恥ずかしい。
なんか顔見られるの恥ずかしくて、わたしはきゅって、ラルフの腕にしがみついてさ。
「今年は、……そだよね」
「ん」
おたがい多くは語らないけど、これってつまり、そういうことだよね……?
っていうのもね。
この国での聖夜――つまり、一年で最後の日のことなんだけどさ?
聖夜は正しくは、精霊王の祝夜ともいわれててね?
一年で各地に溜まった穢れを、妖精たちが浄化していく夜、と信じられているの。
実際、その日の夕方くらいから、ふわふわと――精霊の灯り、ってよばれてる淡い光がいっぱいあふれてさ。すっごく幻想的で。
人々は精霊に祈りを捧げて、翌年の幸せを願うのね。
それで、その象徴的なスポットがね、どの街にもある。
祠だったり、像だったり――精霊を祀るものがあったりするんだけど、この街は、それが噴水なの。
精霊王をかたどった像が置かれた大きな噴水があってね。そこに、一緒にコインを投げ込んで、幸せを祈った恋人同士はずっと一緒にいられるっていうジンクスがありまして。
……いちおう、プロポーズの定番スポットだったりするんだけど。
でも、わたしたちはまだつきあいはじめだし。そこまでは……ないと、思うけど? …………そ、だよね? ねっ!?
こないだラルフが宝飾店から出てくるの見ちゃったりとかさ、首都でのおうちの話とか? するからさ……。変に期待しちゃってダメだよね。
うんっ。
贅沢は言わないけどっ。でも、ラルフとこれからも仲良くしていけたら……とか、最近けっこうよく考える。
だからせめて、聖夜もね? 恋人っぽいデートできるんじゃないかなって期待してたのもあって。
「予定……あけておいて、いい?」
「ったりまえだろ。……つか、あいてなかったら泣く」
なーんて、ぼそっと言うの、ちょっとかわいいよね。
「あはは!」
「いや。リリーはそういうところ、お約束を平気でスルーしてくるところ、あるから」
「えっ!? そういうこと、言う!?」
「言う。でも――うん。あけとけよ? な?」
「うっ、うん……!」
なんか釈然としないことも言われたけどさ。結局は、わたしもラルフと一緒に聖夜を過ごせることが嬉しくて。
ぎゅっと強くしがみついて、首を縦にふる。
「じゃ、噴水見に行くのは、その日までとっとく」
「おう」
なんて、笑いあって帰宅してさ。
仕事納めまであと少し。
もう穏やかに終わるかなーってころにね?
最後の最後で、ちょっとだけギルド内がバタバタする。
フィアーク山の麓で、ちょっとタチの悪い魔素だまりが見つかったんだよね。
魔素だまりってモノによって規模が全然ちがうから、問題視するかどうかもそれぞれで変わっていくんだけど。
「はーっ……この時期に魔素だまりとか最悪。でもごめん……ラルフ、おねがいね」
今回はちょっと、よくないものだった。
っていうのもね? 冬に入ったばかりのフィアーク山のモンスターって、冬眠している個体も多いんだけどさ。魔素だまりの消去であまりに大騒ぎすると、凶暴化した個体が目ざめる可能性があって。
だから、できるだけ腕利きの冒険者が、少数精鋭で行くことになったわけ。
「おう。ま、ギリギリ年末に間に合ってよかったかな。とっととケリつけて帰ってくる」
「うん。気をつけて」
ラルフとジャックさん、それから、強化系の魔道具に慣れた前衛の冒険者たちと、まだエイルズに留まっていたミリアムたちも一緒にね。
こんな時はもう、ミリアムがいてくれてほんとよかった! って思いながら、みんなを見送ることになった。……んだけどね?
「いいか、リリー。ぜっっっったい、聖夜までにはケリつけて帰ってくるから、他、予定いれんじゃねーぞ?」
「わかってるよ、いれないって」
「絶対、絶対だからな?」
「うん」
「……あと、首都ギルドの寮も、申し込むんじゃねえぞ?」
「それもわかったから! ほら、いってきて!」
もーっ。ラルフってば、最後のひとことが長いんだから。
「あとっ! 夜道には気をつけ――」
「わかったっ! わかったから!!」
ほらっ。みんな爆笑してるじゃないっ。
「このやりとりがもう見られなくなるのかあ」
って、ジャックさんまでそれ言う!?
「つーか、リリーちゃんとラルフ、立場逆になったよな?」
「それな」
なんて。
なんだかすっごく微笑ましい目で見られてて、気恥ずかしいったらないけど。
でも、ほんとに。
頼んだよ、ラルフっ!
そうやって、ラルフを含めた短期パーティを送り出して数日。
いよいよ今年のお仕事もあと3日!
ラルフたちも、そろそろ帰ってくるかな。どうかなーって、待ってたんだけどね?
こっちはこっちで、ちょっと思いがけない事件に巻き込まれることになる。
ミリアムの変な脅しがあったからさ? ラルフはいつも以上に警戒してくれていたけれど、特に変なことも起こらず。
まあ、いまだにラルフとつきあっていることに対するやっかみみたいなモノはあったりするからね。今回もその類いかなって結論に至った。
秋ごろまでにくらべるとだいぶ減ったけれども、仕事への行き帰りの、ラルフの付き添いは相変わらずだ。
今年も暮れになると、服飾街のほうにはさ、幻想的なランプの明かりが道の両脇にいっぱいともされて、夜の時間に恋人たちがデートしているのを見ることが増えた。
あー……去年まではこの道、この時期は来たくなかったもんね……。
家に帰るには近道だったんだけどさ、わざわざ遠回りしたりして。
やさぐれるのは得意だったから、ラルフにからかわれながらさ、いいもんって家でヤケ酒のんでたっけ。
変わるものだよね~って思いながら、今日も、一緒に帰宅中のラルフのほうを見上げる。
「まっすぐ帰るでいいか?」
「うん。――ここの道、今までこの時期はなかなか来なかったから、不思議な感じ。……でも、もう見納めかあ」
「だな。……精霊の噴水、見てくか?」
「えっ? あ、うーん。えっと」
まっすぐ帰るって言ったけど。
あー、この季節にその単語は、なかなかの誘い文句だよね。
「――すこし気が早いか。でも、聖夜は」
「あっ、うんっ。そ、そうだねっ」
ひゃああ。
気恥ずかしい。
なんか顔見られるの恥ずかしくて、わたしはきゅって、ラルフの腕にしがみついてさ。
「今年は、……そだよね」
「ん」
おたがい多くは語らないけど、これってつまり、そういうことだよね……?
っていうのもね。
この国での聖夜――つまり、一年で最後の日のことなんだけどさ?
聖夜は正しくは、精霊王の祝夜ともいわれててね?
一年で各地に溜まった穢れを、妖精たちが浄化していく夜、と信じられているの。
実際、その日の夕方くらいから、ふわふわと――精霊の灯り、ってよばれてる淡い光がいっぱいあふれてさ。すっごく幻想的で。
人々は精霊に祈りを捧げて、翌年の幸せを願うのね。
それで、その象徴的なスポットがね、どの街にもある。
祠だったり、像だったり――精霊を祀るものがあったりするんだけど、この街は、それが噴水なの。
精霊王をかたどった像が置かれた大きな噴水があってね。そこに、一緒にコインを投げ込んで、幸せを祈った恋人同士はずっと一緒にいられるっていうジンクスがありまして。
……いちおう、プロポーズの定番スポットだったりするんだけど。
でも、わたしたちはまだつきあいはじめだし。そこまでは……ないと、思うけど? …………そ、だよね? ねっ!?
こないだラルフが宝飾店から出てくるの見ちゃったりとかさ、首都でのおうちの話とか? するからさ……。変に期待しちゃってダメだよね。
うんっ。
贅沢は言わないけどっ。でも、ラルフとこれからも仲良くしていけたら……とか、最近けっこうよく考える。
だからせめて、聖夜もね? 恋人っぽいデートできるんじゃないかなって期待してたのもあって。
「予定……あけておいて、いい?」
「ったりまえだろ。……つか、あいてなかったら泣く」
なーんて、ぼそっと言うの、ちょっとかわいいよね。
「あはは!」
「いや。リリーはそういうところ、お約束を平気でスルーしてくるところ、あるから」
「えっ!? そういうこと、言う!?」
「言う。でも――うん。あけとけよ? な?」
「うっ、うん……!」
なんか釈然としないことも言われたけどさ。結局は、わたしもラルフと一緒に聖夜を過ごせることが嬉しくて。
ぎゅっと強くしがみついて、首を縦にふる。
「じゃ、噴水見に行くのは、その日までとっとく」
「おう」
なんて、笑いあって帰宅してさ。
仕事納めまであと少し。
もう穏やかに終わるかなーってころにね?
最後の最後で、ちょっとだけギルド内がバタバタする。
フィアーク山の麓で、ちょっとタチの悪い魔素だまりが見つかったんだよね。
魔素だまりってモノによって規模が全然ちがうから、問題視するかどうかもそれぞれで変わっていくんだけど。
「はーっ……この時期に魔素だまりとか最悪。でもごめん……ラルフ、おねがいね」
今回はちょっと、よくないものだった。
っていうのもね? 冬に入ったばかりのフィアーク山のモンスターって、冬眠している個体も多いんだけどさ。魔素だまりの消去であまりに大騒ぎすると、凶暴化した個体が目ざめる可能性があって。
だから、できるだけ腕利きの冒険者が、少数精鋭で行くことになったわけ。
「おう。ま、ギリギリ年末に間に合ってよかったかな。とっととケリつけて帰ってくる」
「うん。気をつけて」
ラルフとジャックさん、それから、強化系の魔道具に慣れた前衛の冒険者たちと、まだエイルズに留まっていたミリアムたちも一緒にね。
こんな時はもう、ミリアムがいてくれてほんとよかった! って思いながら、みんなを見送ることになった。……んだけどね?
「いいか、リリー。ぜっっっったい、聖夜までにはケリつけて帰ってくるから、他、予定いれんじゃねーぞ?」
「わかってるよ、いれないって」
「絶対、絶対だからな?」
「うん」
「……あと、首都ギルドの寮も、申し込むんじゃねえぞ?」
「それもわかったから! ほら、いってきて!」
もーっ。ラルフってば、最後のひとことが長いんだから。
「あとっ! 夜道には気をつけ――」
「わかったっ! わかったから!!」
ほらっ。みんな爆笑してるじゃないっ。
「このやりとりがもう見られなくなるのかあ」
って、ジャックさんまでそれ言う!?
「つーか、リリーちゃんとラルフ、立場逆になったよな?」
「それな」
なんて。
なんだかすっごく微笑ましい目で見られてて、気恥ずかしいったらないけど。
でも、ほんとに。
頼んだよ、ラルフっ!
そうやって、ラルフを含めた短期パーティを送り出して数日。
いよいよ今年のお仕事もあと3日!
ラルフたちも、そろそろ帰ってくるかな。どうかなーって、待ってたんだけどね?
こっちはこっちで、ちょっと思いがけない事件に巻き込まれることになる。
41
お気に入りに追加
640
あなたにおすすめの小説
【R18】助けてもらった虎獣人にマーキングされちゃう話
象の居る
恋愛
異世界転移したとたん、魔獣に狙われたユキを助けてくれたムキムキ虎獣人のアラン。襲われた恐怖でアランに縋り、家においてもらったあともズルズル関係している。このまま一緒にいたいけどアランはどう思ってる? セフレなのか悩みつつも関係が壊れるのが怖くて聞けない。飽きられたときのために一人暮らしの住宅事情を調べてたらアランの様子がおかしくなって……。
ベッドの上ではちょっと意地悪なのに肝心なとこはヘタレな虎獣人と、普段はハッキリ言うのに怖がりな人間がお互いの気持ちを確かめ合って結ばれる話です。
ムーンライトノベルズさんにも掲載しています。
【R18】幼馴染な陛下と、甘々な毎日になりました💕
月極まろん
恋愛
幼なじみの陛下に、気持ちだけでも伝えたくて。いい思い出にしたくて告白したのに、執務室のソファに座らせられて、なぜかこんなえっちな日々になりました。
【完結】お義父様と義弟の溺愛が凄すぎる件
百合蝶
恋愛
お母様の再婚でロバーニ・サクチュアリ伯爵の義娘になったアリサ(8歳)。
そこには2歳年下のアレク(6歳)がいた。
いつもツンツンしていて、愛想が悪いが(実話・・・アリサをーーー。)
それに引き替え、ロバーニ義父様はとても、いや異常にアリサに構いたがる!
いいんだけど触りすぎ。
お母様も呆れからの憎しみも・・・
溺愛義父様とツンツンアレクに愛されるアリサ。
デビュタントからアリサを気になる、アイザック殿下が現れーーーーー。
アリサはの気持ちは・・・。
【R18】いくらチートな魔法騎士様だからって、時間停止中に××するのは反則です!
おうぎまちこ(あきたこまち)
恋愛
寡黙で無愛想だと思いきや実はヤンデレな幼馴染?帝国魔法騎士団団長オズワルドに、女上司から嫌がらせを受けていた落ちこぼれ魔術師文官エリーが秘書官に抜擢されたかと思いきや、時間停止の魔法をかけられて、タイムストップ中にエッチなことをされたりする話。
※ムーンライトノベルズで1万字数で完結の作品。
※ヒーローについて、時間停止中の自慰行為があったり、本人の合意なく暴走するので、無理な人はブラウザバック推奨。
王女、騎士と結婚させられイかされまくる
ぺこ
恋愛
髪の色と出自から差別されてきた騎士さまにベタ惚れされて愛されまくる王女のお話。
性描写激しめですが、甘々の溺愛です。
※原文(♡乱舞淫語まみれバージョン)はpixivの方で見られます。
異世界の学園で愛され姫として王子たちから(性的に)溺愛されました
空廻ロジカ
恋愛
「あぁ、イケメンたちに愛されて、蕩けるようなエッチがしたいよぉ……っ!」
――櫟《いちい》亜莉紗《ありさ》・18歳。TL《ティーンズラブ》コミックを愛好する彼女が好むのは、逆ハーレムと言われるジャンル。
今夜もTLコミックを読んではひとりエッチに励んでいた亜莉紗がイッた、その瞬間。窓の外で流星群が降り注ぎ、視界が真っ白に染まって……
気が付いたらイケメン王子と裸で同衾してるって、どういうこと? さらに三人のタイプの違うイケメンが現れて、亜莉紗を「姫」と呼び、愛を捧げてきて……!?
【R-18】悪役令嬢ですが、罠に嵌まって張型つき木馬に跨がる事になりました!
臣桜
恋愛
悪役令嬢エトラは、王女と聖女とお茶会をしたあと、真っ白な空間にいた。
そこには張型のついた木馬があり『ご自由に跨がってください。絶頂すれば元の世界に戻れます』の文字が……。
※ムーンライトノベルズ様にも重複投稿しています
※表紙はニジジャーニーで生成しました
【R18】騎士団長は××な胸がお好き 〜胸が小さいからと失恋したら、おっぱいを××されることになりました!~
おうぎまちこ(あきたこまち)
恋愛
「胸が小さいから」と浮気されてフラれた堅物眼鏡文官令嬢(騎士団長補佐・秘書)キティが、真面目で不真面目な騎士団長ブライアンから、胸と心を優しく解きほぐされて、そのまま美味しくいただかれてしまう話。
※R18には※
※ふわふわマシュマロおっぱい
※もみもみ
※ムーンライトノベルズの完結作
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる