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第3話 まさか聖夜にプロポ……いえ、わたしなにも気がついていません。

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「えっ? 異動……ですか?」
「そうなんです。先日、あんなに素晴らしい資料まで頂いてしまったのに……新しい提案まとめるまでしかいられそうになくて。すみません」
「いえ……でも、どうしてまた?」

 小会議室を借りてアレクシスさんに事情を話しつつ、わたしは何度も頭をさげる。
 ……突然でびっくりさせちゃったよね。
 本当に、長い間お世話になったからさ、中途半端なところでお仕事引き継ぎしなきゃいけないのは心苦しいんだけど。

「実は、首都のギルドの方に、声をかけていただきまして」

 異動なんです、と説明する。
 ラルフのオマケ、云々は対外的に話すようなことじゃない。ってか、自虐すぎるし。
 だから、こつこつ努力してきた成果が認めてもらえて――という話をしてみる。
 実際、向こうの職員さんにも、そこを褒めてもらえたわけだしね。

「そうですか……リリーさん、優秀ですものね」
「そんな。アレクシスさんに、いろいろ教わったり、ご協力頂いたりしたおかげです」
「でも――それだったら。どうするのです?」
「引き継ぎですか?」
「いえ。彼の――ええと、ラルフ君、でしたっけ。彼のことは」
「!?」

 まさか思いっきり取引先の職員さんにラルフのことを言及されると思わなくて、わたしは焦った。

「ああ、すみません。プライベートなことに首を突っ込んで。ただ、リリーさん、彼にかなり影響を受けているようですから」
「あはは……」

 影響を受けてるかあ。
 なんだかちょっと心配されてたのかな。
 そっか。離れたところからはそう見えるのだろうなって納得しつつ、わたしは苦笑いを浮かべる。

「一緒に行くって言ってくれまして。首都で、ふたりで頑張っていこうかなと」
「…………ご結婚、ですか」
「けっこ!? ……いえっ!? そんなっ。そんな、ものではっ」

 あーっ、また声が裏返った!
 でも、いきなりすぎ。つい吹き出しそうになってしまって、目を白黒させる。

「あのっ、ただの幼なじみでっ。あ、いや。いまはっ、それだけじゃないんですけどっ!? でもまだ早いというかっ。その、そこまでっ」

 はじめて誰かに結婚なんて言われて、体温が上昇する。
 わー! まって。えっ。顔が火照るんだけどっ。
 いやまあ、あの……それは……そんな未来を……考えたことないかって聞かれたら、ちょっと答えに困るけどっ。でもでも、まだつきあい始めだし? そこまでは、ちょっと、ねえ?
 とかなんとか考えながらも、さっきラルフが出てきたお店のこと思い出したりしてわーっ! ってなる。
 え? ないよ……ね? ない……うん。

「? ちがうのです?」
「ちがいますよっ。……びっくりした。あはは!」
「そうですか。僕もびっくりしました」
「驚かさないでくださいよ」
「いやいや。でも、そうですか。……うーん」

 そこまで言って、アレクシスさんは少し考え込むように顎に手を当てる。
 職人ギルドの職員さんってさ、落ち着きのある男性が多いけど、アレクシスさんはその中でも特に知的っていうか、読めないところがある。
 賢そうだなー、いろいろ考えてそうだなーとは思うんだけど、わたしくらいの頭じゃ、考えてることぜんぜん読み切れないんだよね。

「つかぬことをおうかがいしました。でも、そうですね。――首都に行かれるのでしたら、向こうでも役立つ資料とかもご用意できますし。年内に、またお会いしましょうか」
「えっ、でも、そこまでしてもらうわけには」
「いいのですよ。餞別と思っておいてください。ただ、あなたが心配で――あ、少々、お待ち頂けますか? ええと、このあいだ渡し忘れた資料もあって」
「えええ?」

 そこまでしてくれるの!? って困惑してたらさ、アレクシスさん、すぐに立ち上がって部屋から出ていってしまって。
 行動はやいなーって感心してたら、すぐに戻ってきてくれた。
 で、今度はちょっとだけ薄いけど、いろいろ資料と、あとは職人ギルドで再錬成したらしい特殊な素材見本なんかもくれたりしてね?

「今、職人ギルドで試しに作っているお守りです。どれもまだ製品化はしてないのですが、リリーさんに」
「えっ……いいんですか?」
「――もちろん。災いから身を守るものと、幸運を呼び起こすものと、身の回りの環境を整えるもの」
「こんなに? ありがとうございます。折角なので、頂きます」
「ええ」

 そう言って、この日はアレクシスさんとも別れてね?

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