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第3話 まさか聖夜にプロポ……いえ、わたしなにも気がついていません。

3−6

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 その翌日、わたしは上司のコンラッドさんに、首都への異動について改めて相談してみた。
 やっぱりそうか、と、彼はへらっと笑って、リリーをとられるのは痛手だなあって言ってくれた。

 異動は春だと言っても、意外と、わたしがひとりで担当しているお仕事は多い。
 ちょうどギルドの組織再編成の時期だから、引き継ぎは早めにしておこう――ということで。
 だからその日のあとすぐに、わたしのお仕事を引き継ぐための担当を決めていくことになってさ?
 これから年明けにかけて少しずつ、取引先の方とかとの顔合わせなんかもセッティングしていくことになった。



 そして、年末にむけて、一日、一日と、時間が過ぎていく。

「はぁー……リリーがいなくなるのは……さみしくなるなあ」
「だなあ……」

 って、ケーシャとか、他の職員の仲間が言ってくれてるけどさ。

「それって、賭けの対象がいなくなるから、だよね」
「うっ!!」

 もーっ!
 どうせそんなものだとは思ってましたよ!

 この間のミリアムとの一件もね、わたくし〈本命〉が勝ちましたから?
 みんな「つまらねえ!」って言いながらも、わたしの頭なで回していったもんね?

 そのうえ、なんかね? 最近また、新しい賭けをはじめたみたいでさ。内容はどーしてもわたしには教えてくれないんだけど。
 なんでも、その内容をわたしが知ることで、結果が変わる可能性があるっ! って、みんなへらへら笑いながらはぐらかすんだよねっ。
 どーせ、いいおもちゃですよーだ! もうっ。

 今日も散々みんなにからかわれながら、ギルドを出る。
 お仕事内容は職人ギルドへのおつかいだ。
 ついでに、アレクシスさんがいないか確認して、先日の資料のこともお礼しないといけないし。あとは……引き継ぎに関する相談もあるしね。

 アレクシスさんとの――職人ギルドとのお仕事は、結構数が多い上に、手続きが複雑なものもあるから。そこを簡略化出来ないかなーってのもあって、最近提案書書いてたんだけどさ? 引き継ぎまでには間にあわないだろうなあ。
 こればっかりは残念だけど、しかたがないね。
 次の子にしっかり引き継がないと。


 って、考えながらぱたぱた歩いてたらさ。
 職人ギルドへの道の途中で、見知った姿を見つけたんだよね。

「ラルフ?」
「……!」

 ラルフってば、ちょうどとあるお店から出てきたところでさ。
 なんかすっごくご機嫌そうだったんだけど、わたしが声をかけた瞬間に、彼ってばその場で硬直した。

「りっ……リリー!?」

 ?
 なんでそんなに慌ててるのかな。

「きっ、奇遇だな!? いや、オレも、たまたま。うん。たまたま、こっち出てきててよ」
「そうなんだ? 偶然だね?」

 って、チラッと彼が出てきたお店を確認して、わたしは目を逸らした。
 あーーーーー。
 なるほど。
 えーっと……うん。
 宝飾店、ですね。
 しかもちょっとお高めの、オーダーメイドまでしてくれるところの。

「あっ、新しい魔道具、作ってもらおうと思ってっ。いまのうちに顔見知りの職人に頼んだ方が、なっ?」
「あ。うん。そうよねっ」

 うん。うん。
 って、わたしは大きく頷いてるんだけどさ。

 えーっと、わたしは知ってるよ?
 ラルフが指輪とか腕輪の形をした魔道具を作ってもらうのは、ぜんっぜん別の店だってこと!
 こっちのお店は完全に女性向けの品を扱う店舗でっ。どっちかっていうと、実用よりもっ……装飾向きの……。

「……」
「……」
「…………」
「…………えーっと! リリー、こんな時間にどうしてここに!?」

 おっと。
 話を変えたよ?
 うんっ、でも。わかるよ。わたしも深くは追求しないでおこうかなっ。うん!

「職人ギルドに。引き継ぎとか、いろいろあって」
「あー……そっか。送ってく!」
「ん? いいの? なんか、用事あってこっちに来てるんじゃ?」
「いや、いま終わったし。ほら、行くぞっ」

 いま終わったって。それ……。
 もーっ……あきらかに今の宝飾店に用がありましたって言ってるようなものじゃないっ。おばか!
 このままじゃわたし、期待、しちゃうよ?
 年末の聖夜とかさっ。恋人同士は、贈り物をしたりするもんねっ。
 ラルフもしかして、なにか用意してくれたり? してるって、ことなのかなっ!?
 これでちがってたらショック大きいんだからね? わかってる???
 はーっ。もうっ。どんな顔してたらいいのよっ。……まあ、まだ聖夜の約束はしていないのですが。

「おーい、リリー」
「っ!? は、はぁい! わかってる! いくいく!」

 って、ついつい突っ立ってぼーっとしちゃってたみたいで、ラルフが手を差し出してくれてる。
 でも、今はギルドの制服で、手をつないだり腕を組んだりするわけにはいかないからね。

「行くよ、ラルフ」

 彼の背中を押して、職人ギルドの方へと足を進めた。

「――で? その用事は結構時間かかるのか?」
「うーん、今日は短い方かな。多分半刻かからないくらい?」
「そっか。なら、職人ギルドで待ってようかな。帰りも送ってく」
「いいの? 暇じゃなければ、お願いしようかな」
「暇じゃねーよ。職人ギルドのホール、おもしれーし」

 なんてお話してたらさ、すぐに目的地。で、わたしたちは正面の扉を開けた。


 職人ギルドは、大きな建物の中に、各道具や素材の専門店とか、直営の工房までもがいろいろくっついててさ、とにかく賑やかなんだよね。
 一階はそうやって、一般のお客さんもたくさんきて、賑わっている。実際の事務室や受付があるのは、正面のホールの奥にある階段をのぼったところ。

「じゃ、時間になったらここで待ってるな」
「うん。ありがと」

 って、ラルフと別れようとしたところでさ。

「あれ、リリーさん!」
「! アレクシスさん! あれ、もしかしてお出かけですか? ちょうどお話にうかがったんですけど」
「いえいえ。一階に所用があっただけで。――でも、急ぎではないので。先にお話、うかがいますよ」
「すみません」

 親切にも笑って引き返すことにしてくれて、わたしはペコリと頭を下げる。

「じゃ、ラルフ、あとでね」
「……」
「……ラルフ?」
「! ……おう。あとでな」

 なんて、ラルフってばちょっとだけ顔を強ばらせててさ。どうしたのってのぞき込んだら、なんでもないって風に笑って、わたしの肩をぽんぽんと叩いた。

「待ってるから。行ってこい。――気をつけてな」
「うんっ」

 うなずいて、わたしはパタパタと階段をあがる。
 それからアレクシスさんの横に並んで、2階の会議室の方へと向かった。

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