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第2話 恋のライバル登場に「えっ、ベタな……」ってなるのは許してほしい。

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 我慢できなくなってわたしは、声の聞こえるほうへと向かう。

 最初に彼女の取り巻きの――おそらく、首都ギルド所属の男たちが気がついて、おい、と声をあげた。
 すっごく不機嫌そうな顔のラルフがこっちを向いて――ぱああ、と笑ってくれて――でも、すぐに困ったような曖昧な顔を見せたけど、大丈夫。
 ちゃんと笑ってくれたもん。
 だいじょうぶだよ、ラルフ。

「おかえり、ラルフ」
「ん、ただいま」

 彼が両腕を広げてくれたからさ? わたしも、そっと寄り添う。
 人前だけどね。もう、吹っ切れたもの。
 少しだけぎゅっと彼に抱きついてから、体を離して――そして、ミリアムの方を見る。

 食堂の方からはがやがやと賑やかな声が聞こえてくる。
 ただ、わたしとミリアムが睨みあっているからだろうね。だれかがおーい! と声をかけて、あきらかに野次馬みたいなひとが増えた。
 でも大丈夫。
 わたしはひっこまない。

「ラルフのこと、ずいぶん買ってくれてるんですね」
「ん? ……ふぅーん?」

 はじめてわたしから強く出たからかな?
 ミリアムってばぱちぱち瞬いてから、口の端を上げる。
 まるで舌なめずりをするかのように、わたしを見下ろしながら、小首を傾げてる。

「まあね? 彼に相応しい場所を用意するって言ってるだけじゃない。前にも言ったでしょう? ラルフはね、この街で燻ってるのはもったいないって」
「どこで何をするかを決められるのはラルフ本人だけです。燻ってるわけじゃない」
「へぇ~。……今日は、言い返すんだ」
「労働時間外ですから」

 ばちばちばちっ。
 相変わらず眼光に魔力を混ぜてくるのね。
 周囲にはバレないようにやってるんだろうけど、めっちゃくちゃ痛い。痺れるみたいに。

「いいよ、リリー」
「ううん」

 って、わたしが矢面にたたないようにってね? ラルフが庇ってくれようとする。
 でもわたしは、彼を手で制して一歩もひかない。

「そんなこと言って、アンタ、ラルフを手元に置いておきたいだけでしょ? 自慢の彼氏だもんね?」
「わたしは関係ない。ラルフの将来を決める権利があるのはラルフ本人だけでしょ!」

 つい言葉づかいも崩れてしまう。
 でも、それでも、言い返さずにはいられないんだ。

「アハハ! そうやって、うわべで、都合のいいこと言って。アンタがラルフの足を引っ張ってるんじゃない」
「!」
「……おい。やめろ、ミリアム!」

 わたしのかわりにラルフが声を荒げる。
 でも大丈夫。その通りかもしれないけど、わたし、ここでひかないよ。

「わたしは、ラルフの足をひっぱるつもりなんて、ない! そんな女にはならない」

 言い切った。
 ちゃんと、全部。ほんとの気持ちを奮いたたせて。

 彼に釣り合う女でいるだなんて、だいそれたことかもしれないけど。
 でも、彼がわたしがいいって言ってくれるのなら。
 わたしを認めてくれているのなら、わたしだって、わたしを肯定してあげなくちゃ。

「ラルフがもし、自分の意志で、この街を出ていくなら止めないよ」
「……っ」

 後ろで、ラルフが唾を飲み込んだのがわかった。
 ちょっと震えてる。でも、大丈夫。大丈夫だよ。

 わたしは、彼の手をぎゅっと握って、前を見る。

「そのときは、わたしもついていくから。――ちゃんと、支える。彼を」

 だれもが息を呑んだ。ミリアムも。両目を見開いて、わたしの決意を、ちゃんと聞いている。
 もちろんラルフも。
 小さな声でわたしの名前を呼んで、信じられないって顔してて。

 不安にさせてごめんね。でも、はっきりしているの。
 わたしだって、ラルフのそばにいたい。
 だから、がんばるって。


「わたしね、怒ってるの」
「――?」

 ぎりっと真っ正面からミリアムを睨みつける。
 でも、彼女はすっごく楽しそうでさ? まるでわたしみたいな小娘に何を言われてもきになりませんって顔してる。

「最初は色仕掛け、しようとしたんでしょ? でも無理だった。だから、強引にラルフに貼りついてさ? 首都に勧誘しようって、やっきになってさ?」
「――彼に相応しい場所を用意したい。それのどこが悪いの?」
「悪いわよっ!」

 ミリアムはぜんぜんわかってない!
 力尽くで取りこんだらいいってまるで開き直って、ラルフに絡んで、遊んで――、

「ラルフは、冒険者なの! 
 今回の大討伐でも――いくら腕のいい冒険者でも、つねに、命の危険にさらされている! それをわかっていながら、あなたはラルフの邪魔をして……!」
「……」
「今回の遠征の前もね? あなたに絡まれるのが面倒だからって、彼はこの街をあけていた。
 自分の家にも帰れずにさ? ぎりぎりまで、街の外で仕事いれて――ちゃんと休めずに、今回の討伐に参加したのっ。
 あなたのせいで、しなくていい苦労をしてっ! 足を引っ張ってるのはどっちよ!?」

 つい、食ってかかりそうになってラルフに抱きとめられる。
 彼はさ、わたしをうしろから抱きしめながら、なんども頭を撫でてくれて。

 ミリアムは、そんなことって笑うでしょうね。
 でもね?
 わたしは冒険者でもなんでもない。
 だからこそ、冒険者を――戦いの外から守る存在でありたい。

「同じ戦いの場所に立てなくても、わたしは、ラルフを守るっ。それが、ギルド職員としても――ラルフの恋人としての誇りなんだからっ!
 自分のことしか考えてないあなたの言葉になんて、絶対惑わされないんだからっ!」
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