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第2話 恋のライバル登場に「えっ、ベタな……」ってなるのは許してほしい。

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 そうして数日間。
 ラルフがいないからさ、ミリアムにはあまり絡まれずにすんだけどね。
 もやもやーっとした気持ちで時間が過ぎていって。
 大討伐の前日の夜ギリッギリにラルフは帰ってきてさ。
 次の日は朝早いからね。しっかりご飯だけ食べてもらって、翌日――。


 ――大討伐の日の朝は、ギルドホールがかなり混雑する。
 いくつもの長期パーティがこぞって集合しているし、普段ソロでやってたり、短期パーティばっかり組むタイプの人がこの期間だけの特別パーティを組んだり、いろいろ。

「もーっ、ラルフってば。せっかくあたしがこの街にいるのに、どうして出かけちゃうかなあ」

 もちろん、ミリアムもいるわけで。

「関係ねーだろ。ほら、オマエは自分のパーティのとこ行け、な?」
「えーっ? 一緒に組まないの?」
「組まねーよ。ジャックがいるし」

 彼女は相変わらずの格好で、ラルフにまとわりついている。
 なんだかエイルズの街の冒険者たちもね、ずいぶんミリアムに気易くなったせいか、やさしくしてやれよー、みたいな声かけもあって。
 んもうっ。みんなどっちの味方かなっ。

 もちろんいまは仕事中。いまは仕事中。いまは仕事中っ。
 いいかげんわたしも気にするのやめなきゃって思うのにね。どうしても、ミリアムたちの会話が気になっちゃう。
 冒険者のみんなの登録の照合とか、最終チェックがあるからさ。彼らばっかりは気にしていられないんだけど。
 職員総出で一気にお仕事かたづけて、最後の最後――。

 いよいよ、ラルフたちも旅立つときに、わたしは彼のもとへ歩いて行った。

「! リリー」

 普段、人が多いときにはさ? わたしは、ラルフに個人的に話したりすることってしないようにしてるの。だから、いま彼のそばに行ったことに、ラルフってばちょっと驚いたみたい。
 もちろんすぐ近くにミリアムもいる。
 だからね。
 彼女からラルフを取り返すように、わたしは彼の腕を引っ張ってさ。

「――!」

 仕事中だけど。でも――。

『リリーはちょっと、真面目すぎるのよ』――ってのが、ケーシャの言葉。
 ほんとに、そう。
 ルールの中で、なにも考えずに真面目にするのが楽で、引っ込み思案をよしとしていた。
 でも、これだけは、絶対負けちゃいけないんだ。
 ミリアムに言われた言葉なんて、気にしちゃだめ。

「っ」

 背伸びして、彼の頬に口づける。
 わっ、と周囲が沸き立つけど、気にしない。

 ちょっとだけ、彼の腕にぎゅって腕巻きつけて、

「行ってらっしゃい。気をつけて」
「…………おう」

 なんだか呆けてる彼に、こつんとおでこくっつけてから離れる。

 ラルフは、わたしの、だからねっ!!!
 ――ってね、ミリアムの方をじっと見てから、踵を返した。

 ひゅーっ! って後ろから歓声があがるけど、気にしない。
 やることは、やったぞ! ちゃんと、宣戦布告したもの!


 バタバタと事務室の方へ行ってさ、はーって息をつく。
 やったぞ? やっちゃったぞ?
 全部あとの祭りだけどね。

 次の仕事に頭を切り換えなきゃって思ってたら、いろんなひとが代わる代わるやって来てさ。
 わたしの肩を叩いてくれるの。
 よくやった、ってさ?

 ……どうも、このところみんな、やきもきして見てたっぽい。
 ええと、つまり? いま、ミリアムの不興を買ったの、不問ですよね、これ。いいんですよね、これから彼女に言い返しても?

 でもね、わたし、騙されないよ。
 どーせ、みんな、裏で賭けがあるからでしょ。心配してるの。
 もうっ!
 わたしが本命ですものね。頑張らせて頂きますよ。えへん。
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