11 / 59
第1話 嘘から本気にさせられちゃった恋のおはなし。
1−11
しおりを挟むギルドに到着してから情報をすりあわせ、冒険者の部隊編成をしている途中で同僚に呼び止められる。
「おおい、ラルフが来たぞ!」
あわてて表の方に出ていったら、鎧を着込んで大剣担いだ彼の姿が見えた。
……とはいっても、鎧もフルアーマーとかではなくって、ブレスト部分を護っているほかは、比較的軽装だ。
ラルフとつきあいが長いからこそ、わたしはよく知っている。
彼が重装備をして動きが鈍くなるのを嫌って、軽めの魔獣の皮とか、魔石を使ったアイテムとかを使って、その分をカバーしてるってこと。
でもでも。相手はドラゴンなのに!
しかも、今日の武器は大剣。ってことは、接近戦を想定しているってわけで。
「バカ! そ、そんな、装備でっ。怪我でもしたらっ……!」
「はぁ? するかよ、ンなの」
慌てて駆け寄ったわたしに、彼はデコピンして、胸を張ってみせる。
「いつも通りだろ。前にドラゴン殺ったときも、これだったしよ」
「そ、そうだけどっ。そうなんだけどっ……!」
ギルドホールには大勢の冒険者が集まっていて、編成が終わったところから次々と外へ飛び出している。ラルフだって、緊急でパーティ組むはずだし、打ちあわせもあるだろうから、早く解放してあげないとって思うのに。
「…………心配、してくれてるのか?」
「!」
う……うん。
そりゃ、まあ。
「……」
そういうことになるわけで。
わたしはこくりと頷いた。
どんなに難しいクエストでも笑顔で送り出してたのに、今日はそれができない。
不安で、怖くて。このまま彼のことをクエスト登録しないでおこうかって、バカみたいなこと思ったりもする。
「そっか。うん、なら、……よ?」
「?」
「無事に帰ってきたら、その…………」
「!」
こ。
これは……。
彼が何を言おうとしてるのか悟ってしまって、わたしは、硬直した。
っていうか、周囲!
耳を大きくして聞いてるんじゃない! この緊急事態にっ。
動けないわたしも、わたしなんだけどっ。
「…………ヤらせ、……いや。キス。で手を打つ」
…………。
ええと。
やらせて、って言おうとしたよねっ。
で。言い直しましたよね!?
ちょ、周囲っ。
失笑しない。もう! こっちはね。ふたりして顔真っ赤なんだから。
ああああもう、こんなときに。
緊張感ないところとか、やっぱりラルフなんだから。
さっきまで心配で震えてたのに、今は、わたしだって体温高いしっ。もうっ。めちゃくちゃほっぺたが、カッカしてるんだけど……!
場の空気が一変して、緊張感なんかどこかにとんでっちゃって。
わたしは、ぼすって、彼の胸を叩いてさ。
「ちゃんと、帰ってきたら、ね……っ」
キス。
うん。……キス。
彼が欲しいのなら。わたしだって。
「! お、おぅ!」
「傷ひとつでもつけたら、ナシだからねっ」
「ひとつも!?」
「ひとつも!」
「くっ……マジかよ。いや。まあ、わかった。おう」
なんて、ぐしゃってわたしの頭を撫でてからさ、満足そうに笑って、ひらりと踵を返して他の仲間たちのところへ行っちゃった。
彼ってば周囲にからかうように背中叩かれててさ。いつものように肩の力を抜いて、ちょっと打ちあわせだけしたら出ていっちゃった。
ほんとに。なんてことないって顔してさ。
「ほほーう。ついに覚悟決めたかー」
ぼーっとしてたら後ろから腕が伸びてきてさ。
わたしの肩をがっしり掴まえたかと思うと、見慣れた金髪が目に飛び込んでくる。
「っ。ケーシャ!?」
「見てたよー? ふふん、いい雰囲気だったじゃん?」
「いや。だって……!」
「まんざらでもないんじゃないの、アンタ?」
「う、うううっ」
どうしてケーシャも、こんなところでそんな話ふってくるかなあ!
残った同僚たちも、ニヤニヤしながら聞くの、やめてよね!
「仕事っ。ほらっ。街の被害とか、医療機関の確認っ。しなきゃでしょ……!」
「アンタの返事聞いたらね?」
「っ……」
「まあ、顔にデカデカと書いてあるけど?」
「…………っ、っ、っ、」
「んー?」
ケーシャだけじゃなくって、ほんとにみんな、わたしに注目してて。
だから、いろいろ、動かなきゃな時なのにっ。
わたしが言わないと、みんな、動かないわけでっ。
「………………もん」
「ん?」
「それは、ちゃんと、先に! ラルフに! 言うもん……っ」
なかばヤケになりながら叫ぶと、周囲がどっと沸き立った。
「ひゅーっ! 聞いた、みんな!?」
「聞いた聞いた!」
「こりゃ、泣く冒険者多いぞー?」
「でもリリーに関しては、もう諦めさせられてるヤツ多いからなー」
なんて、ほんと緊張感どこにいったのってくらいにみんなカラカラと笑って。
ギルドにいたら多かれ少なかれ、大型モンスター討伐に慣れちゃうのも仕方がないんだろうけれどもさっ。
「もういいかなっ! 緊急事態っ! 仕事っ!!」
わたしは踵を返して、事務室の方へと戻っていく。
うしろから、アイツが嫁になったら、きっとラルフも尻にしかれるぞーって聞こえてきた。
っ。
っっっ。
そんなっ、未来っ。来るのかなっっっ!!!???
75
お気に入りに追加
640
あなたにおすすめの小説
【R18】助けてもらった虎獣人にマーキングされちゃう話
象の居る
恋愛
異世界転移したとたん、魔獣に狙われたユキを助けてくれたムキムキ虎獣人のアラン。襲われた恐怖でアランに縋り、家においてもらったあともズルズル関係している。このまま一緒にいたいけどアランはどう思ってる? セフレなのか悩みつつも関係が壊れるのが怖くて聞けない。飽きられたときのために一人暮らしの住宅事情を調べてたらアランの様子がおかしくなって……。
ベッドの上ではちょっと意地悪なのに肝心なとこはヘタレな虎獣人と、普段はハッキリ言うのに怖がりな人間がお互いの気持ちを確かめ合って結ばれる話です。
ムーンライトノベルズさんにも掲載しています。
【R18】いくらチートな魔法騎士様だからって、時間停止中に××するのは反則です!
おうぎまちこ(あきたこまち)
恋愛
寡黙で無愛想だと思いきや実はヤンデレな幼馴染?帝国魔法騎士団団長オズワルドに、女上司から嫌がらせを受けていた落ちこぼれ魔術師文官エリーが秘書官に抜擢されたかと思いきや、時間停止の魔法をかけられて、タイムストップ中にエッチなことをされたりする話。
※ムーンライトノベルズで1万字数で完結の作品。
※ヒーローについて、時間停止中の自慰行為があったり、本人の合意なく暴走するので、無理な人はブラウザバック推奨。
【R18】幼馴染な陛下と、甘々な毎日になりました💕
月極まろん
恋愛
幼なじみの陛下に、気持ちだけでも伝えたくて。いい思い出にしたくて告白したのに、執務室のソファに座らせられて、なぜかこんなえっちな日々になりました。
【R18】騎士団長は××な胸がお好き 〜胸が小さいからと失恋したら、おっぱいを××されることになりました!~
おうぎまちこ(あきたこまち)
恋愛
「胸が小さいから」と浮気されてフラれた堅物眼鏡文官令嬢(騎士団長補佐・秘書)キティが、真面目で不真面目な騎士団長ブライアンから、胸と心を優しく解きほぐされて、そのまま美味しくいただかれてしまう話。
※R18には※
※ふわふわマシュマロおっぱい
※もみもみ
※ムーンライトノベルズの完結作
【完結】お義父様と義弟の溺愛が凄すぎる件
百合蝶
恋愛
お母様の再婚でロバーニ・サクチュアリ伯爵の義娘になったアリサ(8歳)。
そこには2歳年下のアレク(6歳)がいた。
いつもツンツンしていて、愛想が悪いが(実話・・・アリサをーーー。)
それに引き替え、ロバーニ義父様はとても、いや異常にアリサに構いたがる!
いいんだけど触りすぎ。
お母様も呆れからの憎しみも・・・
溺愛義父様とツンツンアレクに愛されるアリサ。
デビュタントからアリサを気になる、アイザック殿下が現れーーーーー。
アリサはの気持ちは・・・。
【R18】××××で魔力供給をする世界に聖女として転移して、イケメン魔法使いに甘やかされ抱かれる話
もなか
恋愛
目を覚ますと、金髪碧眼のイケメン──アースに抱かれていた。
詳しく話を聞くに、どうやら、私は魔法がある異世界に聖女として転移をしてきたようだ。
え? この世界、魔法を使うためには、魔力供給をしなきゃいけないんですか?
え? 魔力供給って、××××しなきゃいけないんですか?
え? 私、アースさん専用の聖女なんですか?
魔力供給(性行為)をしなきゃいけない聖女が、イケメン魔法使いに甘やかされ、快楽の日々に溺れる物語──。
※n番煎じの魔力供給もの。18禁シーンばかりの変態度高めな物語です。
※ムーンライトノベルズにも載せております。ムーンライトノベルズさんの方は、題名が少し変わっております。
※ヒーローが変態です。ヒロインはちょろいです。
R18作品です。18歳未満の方(高校生も含む)の閲覧は、御遠慮ください。
[R18] 18禁ゲームの世界に御招待! 王子とヤらなきゃゲームが進まない。そんなのお断りします。
ピエール
恋愛
R18 がっつりエロです。ご注意下さい
えーー!!
転生したら、いきなり推しと リアルセッ○スの真っ最中!!!
ここって、もしかしたら???
18禁PCゲーム ラブキャッスル[愛と欲望の宮廷]の世界
私って悪役令嬢のカトリーヌに転生しちゃってるの???
カトリーヌって•••、あの、淫乱の•••
マズイ、非常にマズイ、貞操の危機だ!!!
私、確か、彼氏とドライブ中に事故に遭い••••
異世界転生って事は、絶対彼氏も転生しているはず!
だって[ラノベ]ではそれがお約束!
彼を探して、一緒に こんな世界から逃げ出してやる!
カトリーヌの身体に、男達のイヤラシイ魔の手が伸びる。
果たして、主人公は、数々のエロイベントを乗り切る事が出来るのか?
ゲームはエンディングを迎える事が出来るのか?
そして、彼氏の行方は•••
攻略対象別 オムニバスエロです。
完結しておりますので最後までお楽しみいただけます。
(攻略対象に変態もいます。ご注意下さい)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる