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第1話 嘘から本気にさせられちゃった恋のおはなし。

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 ギルドに到着してから情報をすりあわせ、冒険者の部隊編成をしている途中で同僚に呼び止められる。

「おおい、ラルフが来たぞ!」

 あわてて表の方に出ていったら、鎧を着込んで大剣担いだ彼の姿が見えた。
 ……とはいっても、鎧もフルアーマーとかではなくって、ブレスト部分を護っているほかは、比較的軽装だ。

 ラルフとつきあいが長いからこそ、わたしはよく知っている。
 彼が重装備をして動きが鈍くなるのを嫌って、軽めの魔獣の皮とか、魔石を使ったアイテムとかを使って、その分をカバーしてるってこと。

 でもでも。相手はドラゴンなのに!
 しかも、今日の武器は大剣。ってことは、接近戦を想定しているってわけで。


「バカ! そ、そんな、装備でっ。怪我でもしたらっ……!」
「はぁ? するかよ、ンなの」

 慌てて駆け寄ったわたしに、彼はデコピンして、胸を張ってみせる。

「いつも通りだろ。前にドラゴン殺ったときも、これだったしよ」
「そ、そうだけどっ。そうなんだけどっ……!」

 ギルドホールには大勢の冒険者が集まっていて、編成が終わったところから次々と外へ飛び出している。ラルフだって、緊急でパーティ組むはずだし、打ちあわせもあるだろうから、早く解放してあげないとって思うのに。

「…………心配、してくれてるのか?」
「!」

 う……うん。
 そりゃ、まあ。

「……」

 そういうことになるわけで。
 わたしはこくりと頷いた。

 どんなに難しいクエストでも笑顔で送り出してたのに、今日はそれができない。
 不安で、怖くて。このまま彼のことをクエスト登録しないでおこうかって、バカみたいなこと思ったりもする。

「そっか。うん、なら、……よ?」
「?」
「無事に帰ってきたら、その…………」
「!」

 こ。
 これは……。

 彼が何を言おうとしてるのか悟ってしまって、わたしは、硬直した。
 っていうか、周囲!
 耳を大きくして聞いてるんじゃない! この緊急事態にっ。
 動けないわたしも、わたしなんだけどっ。

「…………ヤらせ、……いや。キス。で手を打つ」

 …………。

 ええと。
 やらせて、って言おうとしたよねっ。
 で。言い直しましたよね!?

 ちょ、周囲っ。
 失笑しない。もう! こっちはね。ふたりして顔真っ赤なんだから。


 ああああもう、こんなときに。
 緊張感ないところとか、やっぱりラルフなんだから。
 さっきまで心配で震えてたのに、今は、わたしだって体温高いしっ。もうっ。めちゃくちゃほっぺたが、カッカしてるんだけど……!

 場の空気が一変して、緊張感なんかどこかにとんでっちゃって。
 わたしは、ぼすって、彼の胸を叩いてさ。

「ちゃんと、帰ってきたら、ね……っ」

 キス。
 うん。……キス。
 彼が欲しいのなら。わたしだって。

「! お、おぅ!」
「傷ひとつでもつけたら、ナシだからねっ」
「ひとつも!?」
「ひとつも!」
「くっ……マジかよ。いや。まあ、わかった。おう」

 なんて、ぐしゃってわたしの頭を撫でてからさ、満足そうに笑って、ひらりと踵を返して他の仲間たちのところへ行っちゃった。
 彼ってば周囲にからかうように背中叩かれててさ。いつものように肩の力を抜いて、ちょっと打ちあわせだけしたら出ていっちゃった。

 ほんとに。なんてことないって顔してさ。



「ほほーう。ついに覚悟決めたかー」

 ぼーっとしてたら後ろから腕が伸びてきてさ。
 わたしの肩をがっしり掴まえたかと思うと、見慣れた金髪が目に飛び込んでくる。

「っ。ケーシャ!?」
「見てたよー? ふふん、いい雰囲気だったじゃん?」
「いや。だって……!」
「まんざらでもないんじゃないの、アンタ?」
「う、うううっ」

 どうしてケーシャも、こんなところでそんな話ふってくるかなあ!
 残った同僚たちも、ニヤニヤしながら聞くの、やめてよね!

「仕事っ。ほらっ。街の被害とか、医療機関の確認っ。しなきゃでしょ……!」
「アンタの返事聞いたらね?」
「っ……」
「まあ、顔にデカデカと書いてあるけど?」
「…………っ、っ、っ、」
「んー?」

 ケーシャだけじゃなくって、ほんとにみんな、わたしに注目してて。
 だから、いろいろ、動かなきゃな時なのにっ。
 わたしが言わないと、みんな、動かないわけでっ。

「………………もん」
「ん?」
「それは、ちゃんと、先に! ラルフに! 言うもん……っ」

 なかばヤケになりながら叫ぶと、周囲がどっと沸き立った。

「ひゅーっ! 聞いた、みんな!?」
「聞いた聞いた!」
「こりゃ、泣く冒険者多いぞー?」
「でもリリーに関しては、もう諦めさせられてるヤツ多いからなー」

 なんて、ほんと緊張感どこにいったのってくらいにみんなカラカラと笑って。
 ギルドにいたら多かれ少なかれ、大型モンスター討伐に慣れちゃうのも仕方がないんだろうけれどもさっ。

「もういいかなっ! 緊急事態っ! 仕事っ!!」

 わたしは踵を返して、事務室の方へと戻っていく。
 うしろから、アイツが嫁になったら、きっとラルフも尻にしかれるぞーって聞こえてきた。

 っ。
 っっっ。

 そんなっ、未来っ。来るのかなっっっ!!!???
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