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第1話 嘘から本気にさせられちゃった恋のおはなし。

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 狭いアパートの一室。流し台の前。
 図体だけは大きなラルフはちょっと狭そうで、ぜんぜん雰囲気なんかない。
 ないけど。

 どっ、どっ、どっ、どっ……!

 ……めちゃくちゃ、心臓、あばれてる。
 しかも、緊張してるの、わたしだけじゃない。ラルフの方まともに見られないけど、わかる。
 だって、わたしの顔は彼の胸に押しつけられてるような形になってさ。……だから聞こえるもん。ラルフの、心臓の、鼓動……。

「あっ、あのっ」

 やば。声裏返った。

「きゅ、きゅうに、なに、かなっ」
「……だめか……?」
「だ、だめって……なにがっ……」

 声が、ふるえる。ってか、全身。
 なんか、ぶるぶる、すごいぶるぶる震えてる。

 ラルフの腕ってば、がっちりたくましくってさ。
 一緒に村を出てきたときも、身長だけはあったけど、まだ今みたいにガッシリしてなくてさ。冒険者として経験を積んでいくうちに、どんどんたくましくなっていった。
 わたしだって頑張ってたけど、ラルフは、本当にメキメキと実力をつけて、すぐに若手ナンバーワンって言われるようになって。

 ……なんだか、すごく遠い場所に、行っちゃった気がした。

 わかってる。
 わたし。ムカついてたんだ。ずっと。

 わたしとは全然違って、彼はいくらでも成り上がれる。
 どこまでも遠くに行けるのに、いつまでもわたしのまわりをちょろちょろして、こんな狭いアパートだって引っ越さない。
 それじゃだめだ。彼は、もっと大きくなれるのに。

 仕事の時の彼と、私生活の時の彼がちぐはぐで、私生活さえちゃんとしたら、彼はもっと飛べると思った。
 飛んでいくべきだと思った。

 だから、わたしはわたしで、仕事の斡旋もがんばった。ご飯だって急に食べに来られたりしても、なんだかんだ次の食事も用意したりしちゃってさ。
 ラルフに彼女ができたらできたで尊重して、幼なじみは、少し距離をとった方がいいのかなって気をつかったりして。

 全部全部、彼が飛んでいくなら仕方ないって、それを手伝った自分に安心して。
 ……でも、やっぱり遠くへ行かないまま、近くにいてくれる彼にも安心して。
 ふたつの気持ちはどっちも嘘じゃなくて。

 やっぱりいま、同じこと、悩んでる。
 自分は彼の踏み台になるべきだって、心のどっかで思ってたのに………やっぱり、そばにいると、安心するというか。しっくりきたりして。
 でもいま、こうやって抱きしめられて。
 心臓、めちゃくちゃどきどきしてて。


「オマエがさ、まだこうして抱きしめたりするのに戸惑ってるのはしってる」

 わたしが口を開く前に、彼がしゃべり出す。
 ぎゅっと、わたしを抱きしめる力が強くなって、彼はわたしの肩に顔を埋めた。

 ちゅって、そのまま、肩口にキスされて。
 びくって震えたら、彼は慌てて、顔をあげてさ。

「でも、なんつーか。オレも、男で。急かしたいわけじゃ、ないんだが。その。ずっと、ずっと、好きだったから」
「……」
「ふとした瞬間に、爆発しそうになるっつーか。いや、オマエを! 尊重! したいとは、思ってるんだがな」
「ラルフ……」
「わ、その顔。やば……」

 いっかい目があったら、彼は慌ててもう一回肩口に顔を埋めちゃって。
 どうやら、ギルドでキスしたとき、わたしが倒れちゃったことをそうとう気にしているらしく。

「我慢。我慢だ、オレ……あー、情けねえ……」

 ……ずっと、ずっと、わたしの心の準備ができるのを、待ってくれてたってことみたいで。


 そんなの、ずるいじゃない。
 だって、わたしと比べて、誠実すぎる。
 今のわたしは嘘の塊なのに。
 彼の気持ちに応える資格なんてないのに。
 ……でも、都合よく応えてしまいそうになるわけで。

「ラルフ……」

 ――今だって。
 彼の頭を自然に撫でていて、彼がゆっくり頭を上げて、目があって。
 
 わたしがこんな顔してたらさ。
 いいか、なんて、彼ももう聞いてくれない。
 ゆっくり顔が近づいてきて――わたしも、目を、閉じようとして――。

 そこで。



 ドンドンドンドン!!

 ――ものすごい勢いで、外のドアを叩かれて、硬直する。
 固まるわたしたちに、扉の向こうから、慌てた男の声が聞こえた。

「リリーちゃん、いる!? そこに、ラルフさん、いる!?」

 ドンドンドンドン!!
 容赦なく扉を叩きながら、男はさらにつづける。

「ドラゴンだ! グリーンドラゴンが出たって、通信が!!」

 とんでもないモンスターの出現に、別の意味でわたしたちは固まった。
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