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第1話 嘘から本気にさせられちゃった恋のおはなし。
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しおりを挟むいま、周囲がざわって、した。
朝になったから出勤したってだけだよ?
それ以上でも、それ以下でもないの。
でもね。理由はわかる。
二度見するよね。そうですよね。
なぜだかわたしの右手はがっちりとラルフに握られてて……しかもだよ? 指と指を絡められるような繋ぎ方してさあ。ギルドホールの、真ん前まで。
「あ、あのねっ。ラルフっ、ここまでで、いいからっ」
ほんっと、いたたまれないからやめて欲しいんだけど。
周りのみんなも変に思うよね。だって、わたしみたいな地味なさ? いつまで経っても田舎くささが抜けない人間がさ? 一応、そこそこ? 有名な冒険者になっちゃったラルフと、朝っぱらから手を繋いで仕事先に送ってもらってるとか……。
「いやいや、オレも今日のクエスト、受けに来たんだって」
「ひぁっ!? そ、そーだよね。ちょっとまって、早番の、誰かにたの――」
「いや。オレ基本オマエ担当のクエストしか受けねーし。ほら、とっとと準備してこい」
「わかった……!」
バッッッ!! って彼の手を離して、解放されて、ようやくほっとした。
好奇の目に晒されながらも、全神経を遮断! とにかく、全力で事務室の方へ向かう。
バン! って、メインホールとの間の扉を閉めて、そのまま崩れ落ちた。
でもここでも、先に来ていたギルド職員たちの視線が一気に集まるのがわかる。
「お! 来たな。リリー」
「昨日はどうだったんだい?」
わ。
みなさんおそろいで、楽しそうな目をしてらっしゃって……。
昨日のお酒の席には、職員さんはほんの少ししかいなかったはずなのに、これ、絶対みんな全部知ってる顔してるじゃん!
「オッハヨー、リリー。いやあ! すっごかったね! ふふ。外でラルフがそわそわ待ってるよー?」
「ちょっ! ちょ、まっ、ど、ど、どどどどどーしよう、ケーシャ……っ!!!」
どうやらホールの方でわたしたちの様子を見ていたらしいケーシャが、後から入ってくる。やっぱりわたしの方をニヤニヤ見ながら。
ううっ、みんなみんな、楽しそうっ。
なによう、急にわたしを生贄に差しだしてっ。
みんなのおかげで、わたしは大変な目にあっているのですけれどもね!?
ケーシャはふわふわゴージャスな巻き毛の、華やかな美人さん。
茶色い髪に榛色の目をした、どこにでもいる顔というか……とにかく、地味なわたしとは大違い。
ほんっと、高みの見物決め込んでさ。
恋愛ごとに慣れてるからって、遊びであんなトンデモ提案してくれたケーシャを睨みつける。
わたしの気持ちは十分伝わったみたいでね。彼女も悪い悪いと、肩をすくめた。
「いやー、ごめんね。まさかラルフが本気にとるとは思わなくってさ」
「わたしも思わなかったよー!」
ケーシャってば、へたりこむわたしに手を差し出してくれるんだけどさあ。
もう、顔が。完全にいいオモチャを見つけましたと言わんばかりの顔で!
ぜんっぜん、反省してませんよね!
「あの。あのですね。つかぬ事をおうかがいしますがケーシャさん」
「んー?」
「罰ゲームって。ラルフに、言ったんですよ、ね? わたし、その、全然記憶がなくてですね」
「ああ、キスしてぶっ倒れてたもんね?」
「キ……! え、ええ。まあ……」
はぁー。
言葉にされると改めて実感しちゃうよね。
やっぱ、みなさんの目の前で、キス、してましたか。はい。
「で。そのあとさ! みんな、ちゃんと、ラルフの誤解、といてくれたんだよね???」
「あはははは。それがねー」
カラッと笑って、彼女はのたまった。
「アンタがぶっ倒れて、ラルフめちゃくちゃオロオロしてるのに、超幸せそうでさあ!」
「…………も、」
もしかして。
「言えなかったんだよねー! 誰も!」
「…………ぁ、ぁ、ぁ、ぁ……」
すっごい声出ちゃった。
いやまって?
わたしもたいがいナイけど。みんなして、めちゃくちゃナイよ?
「アタシら共犯だね?」
「勘弁してえ…ぇ……」
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