5 / 59
第1話 嘘から本気にさせられちゃった恋のおはなし。
1−5
しおりを挟むいま、周囲がざわって、した。
朝になったから出勤したってだけだよ?
それ以上でも、それ以下でもないの。
でもね。理由はわかる。
二度見するよね。そうですよね。
なぜだかわたしの右手はがっちりとラルフに握られてて……しかもだよ? 指と指を絡められるような繋ぎ方してさあ。ギルドホールの、真ん前まで。
「あ、あのねっ。ラルフっ、ここまでで、いいからっ」
ほんっと、いたたまれないからやめて欲しいんだけど。
周りのみんなも変に思うよね。だって、わたしみたいな地味なさ? いつまで経っても田舎くささが抜けない人間がさ? 一応、そこそこ? 有名な冒険者になっちゃったラルフと、朝っぱらから手を繋いで仕事先に送ってもらってるとか……。
「いやいや、オレも今日のクエスト、受けに来たんだって」
「ひぁっ!? そ、そーだよね。ちょっとまって、早番の、誰かにたの――」
「いや。オレ基本オマエ担当のクエストしか受けねーし。ほら、とっとと準備してこい」
「わかった……!」
バッッッ!! って彼の手を離して、解放されて、ようやくほっとした。
好奇の目に晒されながらも、全神経を遮断! とにかく、全力で事務室の方へ向かう。
バン! って、メインホールとの間の扉を閉めて、そのまま崩れ落ちた。
でもここでも、先に来ていたギルド職員たちの視線が一気に集まるのがわかる。
「お! 来たな。リリー」
「昨日はどうだったんだい?」
わ。
みなさんおそろいで、楽しそうな目をしてらっしゃって……。
昨日のお酒の席には、職員さんはほんの少ししかいなかったはずなのに、これ、絶対みんな全部知ってる顔してるじゃん!
「オッハヨー、リリー。いやあ! すっごかったね! ふふ。外でラルフがそわそわ待ってるよー?」
「ちょっ! ちょ、まっ、ど、ど、どどどどどーしよう、ケーシャ……っ!!!」
どうやらホールの方でわたしたちの様子を見ていたらしいケーシャが、後から入ってくる。やっぱりわたしの方をニヤニヤ見ながら。
ううっ、みんなみんな、楽しそうっ。
なによう、急にわたしを生贄に差しだしてっ。
みんなのおかげで、わたしは大変な目にあっているのですけれどもね!?
ケーシャはふわふわゴージャスな巻き毛の、華やかな美人さん。
茶色い髪に榛色の目をした、どこにでもいる顔というか……とにかく、地味なわたしとは大違い。
ほんっと、高みの見物決め込んでさ。
恋愛ごとに慣れてるからって、遊びであんなトンデモ提案してくれたケーシャを睨みつける。
わたしの気持ちは十分伝わったみたいでね。彼女も悪い悪いと、肩をすくめた。
「いやー、ごめんね。まさかラルフが本気にとるとは思わなくってさ」
「わたしも思わなかったよー!」
ケーシャってば、へたりこむわたしに手を差し出してくれるんだけどさあ。
もう、顔が。完全にいいオモチャを見つけましたと言わんばかりの顔で!
ぜんっぜん、反省してませんよね!
「あの。あのですね。つかぬ事をおうかがいしますがケーシャさん」
「んー?」
「罰ゲームって。ラルフに、言ったんですよ、ね? わたし、その、全然記憶がなくてですね」
「ああ、キスしてぶっ倒れてたもんね?」
「キ……! え、ええ。まあ……」
はぁー。
言葉にされると改めて実感しちゃうよね。
やっぱ、みなさんの目の前で、キス、してましたか。はい。
「で。そのあとさ! みんな、ちゃんと、ラルフの誤解、といてくれたんだよね???」
「あはははは。それがねー」
カラッと笑って、彼女はのたまった。
「アンタがぶっ倒れて、ラルフめちゃくちゃオロオロしてるのに、超幸せそうでさあ!」
「…………も、」
もしかして。
「言えなかったんだよねー! 誰も!」
「…………ぁ、ぁ、ぁ、ぁ……」
すっごい声出ちゃった。
いやまって?
わたしもたいがいナイけど。みんなして、めちゃくちゃナイよ?
「アタシら共犯だね?」
「勘弁してえ…ぇ……」
79
お気に入りに追加
640
あなたにおすすめの小説
【R18】助けてもらった虎獣人にマーキングされちゃう話
象の居る
恋愛
異世界転移したとたん、魔獣に狙われたユキを助けてくれたムキムキ虎獣人のアラン。襲われた恐怖でアランに縋り、家においてもらったあともズルズル関係している。このまま一緒にいたいけどアランはどう思ってる? セフレなのか悩みつつも関係が壊れるのが怖くて聞けない。飽きられたときのために一人暮らしの住宅事情を調べてたらアランの様子がおかしくなって……。
ベッドの上ではちょっと意地悪なのに肝心なとこはヘタレな虎獣人と、普段はハッキリ言うのに怖がりな人間がお互いの気持ちを確かめ合って結ばれる話です。
ムーンライトノベルズさんにも掲載しています。
【R18】いくらチートな魔法騎士様だからって、時間停止中に××するのは反則です!
おうぎまちこ(あきたこまち)
恋愛
寡黙で無愛想だと思いきや実はヤンデレな幼馴染?帝国魔法騎士団団長オズワルドに、女上司から嫌がらせを受けていた落ちこぼれ魔術師文官エリーが秘書官に抜擢されたかと思いきや、時間停止の魔法をかけられて、タイムストップ中にエッチなことをされたりする話。
※ムーンライトノベルズで1万字数で完結の作品。
※ヒーローについて、時間停止中の自慰行為があったり、本人の合意なく暴走するので、無理な人はブラウザバック推奨。
【R18】幼馴染な陛下と、甘々な毎日になりました💕
月極まろん
恋愛
幼なじみの陛下に、気持ちだけでも伝えたくて。いい思い出にしたくて告白したのに、執務室のソファに座らせられて、なぜかこんなえっちな日々になりました。
【完結】お義父様と義弟の溺愛が凄すぎる件
百合蝶
恋愛
お母様の再婚でロバーニ・サクチュアリ伯爵の義娘になったアリサ(8歳)。
そこには2歳年下のアレク(6歳)がいた。
いつもツンツンしていて、愛想が悪いが(実話・・・アリサをーーー。)
それに引き替え、ロバーニ義父様はとても、いや異常にアリサに構いたがる!
いいんだけど触りすぎ。
お母様も呆れからの憎しみも・・・
溺愛義父様とツンツンアレクに愛されるアリサ。
デビュタントからアリサを気になる、アイザック殿下が現れーーーーー。
アリサはの気持ちは・・・。
【R18】××××で魔力供給をする世界に聖女として転移して、イケメン魔法使いに甘やかされ抱かれる話
もなか
恋愛
目を覚ますと、金髪碧眼のイケメン──アースに抱かれていた。
詳しく話を聞くに、どうやら、私は魔法がある異世界に聖女として転移をしてきたようだ。
え? この世界、魔法を使うためには、魔力供給をしなきゃいけないんですか?
え? 魔力供給って、××××しなきゃいけないんですか?
え? 私、アースさん専用の聖女なんですか?
魔力供給(性行為)をしなきゃいけない聖女が、イケメン魔法使いに甘やかされ、快楽の日々に溺れる物語──。
※n番煎じの魔力供給もの。18禁シーンばかりの変態度高めな物語です。
※ムーンライトノベルズにも載せております。ムーンライトノベルズさんの方は、題名が少し変わっております。
※ヒーローが変態です。ヒロインはちょろいです。
R18作品です。18歳未満の方(高校生も含む)の閲覧は、御遠慮ください。
[R18] 18禁ゲームの世界に御招待! 王子とヤらなきゃゲームが進まない。そんなのお断りします。
ピエール
恋愛
R18 がっつりエロです。ご注意下さい
えーー!!
転生したら、いきなり推しと リアルセッ○スの真っ最中!!!
ここって、もしかしたら???
18禁PCゲーム ラブキャッスル[愛と欲望の宮廷]の世界
私って悪役令嬢のカトリーヌに転生しちゃってるの???
カトリーヌって•••、あの、淫乱の•••
マズイ、非常にマズイ、貞操の危機だ!!!
私、確か、彼氏とドライブ中に事故に遭い••••
異世界転生って事は、絶対彼氏も転生しているはず!
だって[ラノベ]ではそれがお約束!
彼を探して、一緒に こんな世界から逃げ出してやる!
カトリーヌの身体に、男達のイヤラシイ魔の手が伸びる。
果たして、主人公は、数々のエロイベントを乗り切る事が出来るのか?
ゲームはエンディングを迎える事が出来るのか?
そして、彼氏の行方は•••
攻略対象別 オムニバスエロです。
完結しておりますので最後までお楽しみいただけます。
(攻略対象に変態もいます。ご注意下さい)
冷酷無比な国王陛下に愛されすぎっ! 絶倫すぎっ! ピンチかもしれませんっ!
仙崎ひとみ
恋愛
子爵家のひとり娘ソレイユは、三年前悪漢に襲われて以降、男性から劣情の目で見られないようにと、女らしいことを一切排除する生活を送ってきた。
18歳になったある日。デビュタントパーティに出るよう命じられる。
噂では、冷酷無悲な独裁王と称されるエルネスト国王が、結婚相手を探しているとか。
「はあ? 結婚相手? 冗談じゃない、お断り」
しかし両親に頼み込まれ、ソレイユはしぶしぶ出席する。
途中抜け出して城庭で休んでいると、酔った男に絡まれてしまった。
危機一髪のところを助けてくれたのが、何かと噂の国王エルネスト。
エルネストはソレイユを気に入り、なんとかベッドに引きずりこもうと企む。
そんなとき、三年前ソレイユを助けてくれた救世主に似た男性が現れる。
エルネストの弟、ジェレミーだ。
ジェレミーは思いやりがあり、とても優しくて、紳士の鏡みたいに高潔な男性。
心はジェレミーに引っ張られていくが、身体はエルネストが虎視眈々と狙っていて――――
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる