3 / 59
第1話 嘘から本気にさせられちゃった恋のおはなし。
1−3
しおりを挟む頭がくらくらする。
っていうか、痛ったい……。
わたしが頭を押さえながら体を起こすと、そこは見慣れた家だった。
……うん、見慣れた家ではあったのよ?
「…………えー……と……」
……ただ、自分の家でなかっただけで。
間取りはうちとまったく同じ。寝室が北向きでちょっと寒い、小さなアパート。
しかも寝室になってるこの部屋には、剣やら槍やら弓やらが所狭しと並べられている。
ラルフは器用だからね……クエストによって、持っていく武器もいろいろ変えているのは知っている。
腕は若手だとナンバーワンで、相当稼いでいるはずなのにね。ラルフはいつまで経ってもこの部屋から出ていく気配はなくってさ。
……っていうかここ、どう考えても、やっぱりラルフの部屋ですよね……?
瞬間、昨日の夜のアレヤコレヤが頭によぎって、わたしはばばばっと、自分の体を弄った。
服っ!
服は、着てる……よねっ!?
だいじょうぶ!?
…………あ、大丈夫っぽい……? うん。昨日の服のまんまだ。
ちょっと、上のほうボタンゆるめてあるけど、まあ、それは寝苦しかったからだろうし……うん、体、へんなとこ、ない。だいじょぶ。だいじょうぶ。
いつもゆるっと編んである量の多い茶色い髪はほどいてあって、ぐしゃぐしゃになってる。
いつもと変わらない、地味なわたし。
そだよね。夢だ。
うん。わたし、呑みすぎ。
だから仕方なしにラルフに連れて帰られたってだけ。
「はぁー……」
安心感からか、ついつい大きなため息がでちゃった。
まあ、あのラルフが? 今さら? わたしに手を出すとか絶対ないもんね。
っていうか、本気で呑みすぎた。わたし、くっさい。
ラルフが連れて帰ってきてくれたみたいだし、寝室占拠しちゃった。それはちょっと申し訳ないなあとは思うけどさ。
いやでも、いっつも迷惑かけられてるのはわたしだもん。たまには、いいかな、とも思うわけで。
でもいまは、わたしの家に戻って、体きれいにして、はやく着替えたい。
お仕事には間に合うと思うけど……って思ったところで、となりの部屋から足音が聞こえてきた。
「お。――起きたみたいだな」
「!」
もちろんね、ラルフですよ。
そりゃあ、いるよね……。
見慣れた顔すぎて、特別感もなにも出てこない。
どうせ酔いつぶれたわたしを介抱してやったんだぞ、寝床占拠されたんだぞって、このさき1ヶ月くらいずーっと言われ続けてこき使われるんだ。
わたしにはわかってるんだからね。
だからつい身構えちゃう。
ほーら、見てみなよ。ラルフの顔。
いつものようにいたずらっ子な顔つきになってさ?
なって……なって……、
…………あれ。
ならない。
「どうだ、気分は悪くないか?」
え?
いやいやいや、なにそのやさしい顔。
「ほんと、バカだな。呑みすぎだ。今度から、オレのいないところで、そんな呑むんじゃねえぞ?」
「え……あ、の……」
ぐしゃってわたしの頭を撫でてさ?
っていうか、その手に持ったグラス、何?
「喉渇いてないか? 飲んどけ、な? いま、朝メシの用意してっからさ」
なんて、お水の入ったグラスを両手に握らせてくれてさ?
少し迷うように視線を彷徨わせたあとにさ、ちゅって。
……!?
……ちゅって、おでこに、ちゅーしてくれちゃってさ!?
「ま、オマエほど凝ったモンはつくれねーけどよ。そこは文句言うんじゃねえぞ?」
なんて、ちょっと早口にいいながら、隣の部屋に去っていく彼は――、
――え。ええ。えーっと。どなた、かな?
握らされたグラスを見つめたまま、わたしはしばし考える。
さっきのラルフの表情、あれは、なんだ。
妙に落ち着きなくて、妙に優しくて、妙に早口だった彼は、なんだ。
『信じてもらえるかわかんねーけど、オレも……ずっと、オマエのこと、好きだったからよ……?』
オレも……ずっと、オマエのこと、好きだったからよ……?
オマエのこと、好きだったからよ……?
……。
…………。
………………。
……………………ゆめじゃ、なかった……?
つまりだ。
信じがたいことだけれども、つまり。
わたしが、(嘘だけど)告白して。
彼が、(嘘だと気がつかずに)受け入れてくれて。
むしろ……告白し直してくれて?
あれ……これ、ラルフの方からしたらさ……まさかの……両想い状態、だったり、するっ!?
70
お気に入りに追加
640
あなたにおすすめの小説
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。
すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。
そこで私は一人の男の人と出会う。
「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」
そんな言葉をかけてきた彼。
でも私には秘密があった。
「キミ・・・目が・・?」
「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」
ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。
「お願いだから俺を好きになって・・・。」
その言葉を聞いてお付き合いが始まる。
「やぁぁっ・・!」
「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」
激しくなっていく夜の生活。
私の身はもつの!?
※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
では、お楽しみください。

淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
エリート警察官の溺愛は甘く切ない
日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。
両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる