上 下
1 / 59
第1話 嘘から本気にさせられちゃった恋のおはなし。

1−1

しおりを挟む

「ラルフ! あ、あの……ね……っ」

 まってまって、上擦るな、わたしの声!
 平常心。だって、こんなの、さらっと言っちゃった方がいいじゃない。
 緊張しちゃってる方がそれっぽくなっちゃうし、これはあくまで演技。……っていうか、ただの罰ゲームなわけで。

「おおー! ついに行くか、リリーちゃん!」
「ヨッ! がんばれっ!」

 ああもう、みんなもなんでそうはやし立てるかなあ!?
 完全に面白がってるよね!?
 ケーシャもっ、アナタのことずっと親友だって思ってたのに、ニヤニヤ楽しそうな顔しちゃって!
 そもそもアナタがこんな罰ゲーム言い出さなければ、わたしだって、こんなこと……!

「ぉ、おお? どうした、リリー。ンな顔して」

 ちょっと、ラルフも。いつもならもっとテキトーな扱いのくせにさ。
 どうしてこんな時ばっかり、お話聞く雰囲気出してくれちゃってるのかな!? っていうか、なんでこんな間の悪いときに、クエストから帰ってくるかな!?


 ギルドホールの一角にある酒場は今日も大盛況だ。
 わたしは普段、ギルド嬢としてこのギルドホールで働いているわけだけれど、今はただのお客さん。お仕事が終わってから、みんなと一緒に楽しく呑んでたまではいいんだけどね?

「大丈夫大丈夫。リリーちゃん、がんばれ!」
「やってくれるよな! ほら!」

 期待に満ちた周囲の声に、本当に泣きそうになる。いくら罰ゲームでも、これはちょっと、悪質すぎるって思うのに……。

(ラルフなら。うん、ラルフなら、大丈夫……だよね?)

 ツンツンと逆立てた短い銀髪に赤い瞳、その体格に見合った大ぶりの剣を佩いたガタイのいいオニイチャン。
 幼い頃から一緒に育って、同じ時期にこの街に出てきた、いわば腐れ縁。わたしはギルド嬢で、彼は冒険者になったってだけ。
 彼は若手ながら腕がいいと評判の凄腕の冒険者で、みんなの人気者になっちゃったけれど、わたしからすればただのロクデナシのお調子者だし。これくらいの罰ゲーム、冗談だろと鼻で笑われるのがオチだもんね?

 ……って、なんか想像してると腹が立ってきた。
 わかってる。こういうのは勢いだもんね。
 ふん、いい笑いものになってやるわよっ。


 覚悟を決めて、ぐいっと前を見る。ラルフのことを睨みつけんばかりの勢いで、わたしは口をひらいた。

「ラルフ、あのねっ。わ、わたしっ、あなたのこと、ね?」

 あああ、でも、だめだよ。やっぱり緊張するって。
 ああでも、もうここまで言っちゃってるんだから。行け、リリー!

「…………すっ、すき……なんだけど」

 ――おおおおお――――――っ!!
 ――言った――――――ッ!!

 めちゃくちゃどもっちゃったけど、周囲は大歓声。
 最後の方なんか、わっとわいた歓声にかき消されちゃったんじゃないかな。
 でもね。言った。声裏返ったけど、言い切ったよー!
 これで罰ゲーム、もう、終了でいいよねっ!? 種明かし、していいよねっ!?

 …………そう、思ったんだけどね?

 気がつけば、ラルフがこっちに歩いてきてて、ガッとわたしの両肩を掴んでいたわけで。
 見たこともないような真剣な顔してさ? わたしのこと、見下ろしてて。
 ざわっ、て、周囲の声がますます大きくなって、でも、みんなの声、全部、何言ってるかわかんなくなっちゃった。

 だって、ふにって、柔らかい感触が唇に落ちてきてて、目を見開いたら、目の前にラルフの顔があったんだもん。

「――――!!??」
「ン――――」

 がちりと頭を掴まれちゃって、わたしは逃げることもできなかった。
 唇をこじ開けられたかと思うと、ぶ厚い舌がねじ込まれる。
 強引に舌を絡め取られて、口内を文字通り蹂躙された。
 じゅ、じゅ、って強く吸われるけれど、唾液が口の端からこぼれ落ちて――逃げようとするのに逃がしてくれない。
 わたしは涙目になりながら彼の胸を叩くけれど、鎧を着込んだ彼はビクともしなかった。

「ふぅ……」
「ン、リリー……」

 わずかに口が離れたけれど、それもつかの間。
 再びどっぷりとキスされて、わたしは力なく崩れ落ちそうになる。けれども彼が離してくれる気配はなくて、わたしは為すがままだった。

 周囲の歓声はそのうちどよめきになって、おい、長すぎないか……? と訝しむほどになる。
 息が苦しくなって、くらくらしていると、ようやく彼も満足したのか、そっと唇を離した。

「リリー…………その、ありがと、な……?」

 え……?

 いや。
 まって?
 あの、ちょっと、わたし、頭まっしろなんですけ、……

「まさか。オマエから言ってくれるだなんて思わなかった。信じてもらえるかわかんねーけど、オレも……ずっと、オマエのこと、好きだったからよ……?」

 ………………ど。

 ど?
 ど??

 ど????????

「これから、ちゃんと、大切に――おい、リリー? おい、リリー!」

 なんか声が聞こえるけど、わたしの意識は、ふつん、ってここで途切れちゃった。
 現実逃避っていきすぎると、ほんと意識吹っ飛ぶんだね……?

しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

巨乳令嬢は男装して騎士団に入隊するけど、何故か騎士団長に目をつけられた

狭山雪菜
恋愛
ラクマ王国は昔から貴族以上の18歳から20歳までの子息に騎士団に短期入団する事を義務付けている いつしか時の流れが次第に短期入団を終わらせれば、成人とみなされる事に変わっていった そんなことで、我がサハラ男爵家も例外ではなく長男のマルキ・サハラも騎士団に入団する日が近づきみんな浮き立っていた しかし、入団前日になり置き手紙ひとつ残し姿を消した長男に男爵家当主は苦悩の末、苦肉の策を家族に伝え他言無用で使用人にも箝口令を敷いた 当日入団したのは、男装した年子の妹、ハルキ・サハラだった この作品は「小説家になろう」にも掲載しております。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

ナイトプールで熱い夜

狭山雪菜
恋愛
萌香は、27歳のバリバリのキャリアウーマン。大学からの親友美波に誘われて、未成年者不可のナイトプールへと行くと、親友がナンパされていた。ナンパ男と居たもう1人の無口な男は、何故か私の側から離れなくて…? この作品は、「小説家になろう」にも掲載しております。

お知らせ有り※※束縛上司!~溺愛体質の上司の深すぎる愛情~

ひなの琴莉
恋愛
イケメンで完璧な上司は自分にだけなぜかとても過保護でしつこい。そんな店長に秘密を握られた。秘密をすることに交換条件として色々求められてしまう。 溺愛体質のヒーロー☓地味子。ドタバタラブコメディ。 2021/3/10 しおりを挟んでくださっている皆様へ。 こちらの作品はすごく昔に書いたのをリメイクして連載していたものです。 しかし、古い作品なので……時代背景と言うか……いろいろ突っ込みどころ満載で、修正しながら書いていたのですが、やはり難しかったです(汗) 楽しい作品に仕上げるのが厳しいと判断し、連載を中止させていただくことにしました。 申しわけありません。 新作を書いて更新していきたいと思っていますので、よろしくお願いします。 お詫びに過去に書いた原文のママ載せておきます。 修正していないのと、若かりし頃の作品のため、 甘めに見てくださいm(__)m

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

処理中です...