絶倫騎士さまが離してくれません!

浅岸 久

文字の大きさ
26 / 54
番外編(後日談)

番外編2 なあ、シェリル オレは9年も待たせちまったんだな−1

しおりを挟む
* * * * * * * * * *

シェリルとレオルドが結婚して最初の春。
冬明けの大討伐を終えて、レオルドは久しぶりにシェリルの顔を見るため、全力で自宅へ向かっていた。

* * * * * * * * * *





 ダッダッダッダッ!

 あと少し。もう少し。
 そう考えるだけでオレの足はますます速くなる。

 今回の仕事を終えるなり、船着き場から飛び出し、オレは全力で屋敷を目指す。
 身体強化をしているからそれほど時間もかかりはしないけれども、何日もあのぽやっとした顔を見ていないと、どうもソワソワする身体になっちまったらしい。

 レオルド・ヘルゲン――――いや、ちがうな。まだなかなか慣れねえが、レオルド・アルメニオは、冬明けの大討伐を終えて真っ先に可愛い嫁さんの顔を見に走る。


 ここ、フォ=レナーゼでは、冬の間は近海のモンスターが凶暴になるから一般商船の渡航は禁止されている。
 春になるとようやく諸々の取引が解禁になるわけだが、渡航する船が増える直前のこの時期に、国からの依頼で増えたモンスターの大討伐をするのが習慣なんだそうな。
 今年からは当然、オレも駆り出されることになった。かなり割の良い仕事だし、喜び勇んで出たはいいんだがな……。

 わかっていたが、海への航海は数日は陸に戻れない。
 今年はオレが居たから討伐期間が短くすんだとは言われたけれども、それでも二週間近く船の上。
 そのうえ、シェリルが居なけりゃ魔力欠乏による欲求不満の解消もままならねえ。
 オレはシガレットはやんねえから、クッソ不味い高魔力保有植物のジュースみたいなモンをしょっちゅう飲ませられたんだが、マジで吐きそうなほどクッッッソ不味かった……。
 船室にひとりで籠もってヌいてなんとか処理してはいたんだけど、たまにマジで熱が出てフラフラしてたし、つのるイライラを全力でモンスターにぶつける日々だったよな……。

 アレをシェリルはずっと続けてきたわけだ。
 改めてシェリルのすごさを実感しながらも、オレは早々に自分には無理だと判断した。

 絶対に護るから、来年はシェリルも連れていくと強く決めて、オレはひた走る。
 街の住民がオレを見つけるたびに挨拶してくれるんだが、それもそこそこに手を振りかえしつつ、中央公園を抜けた向こう――高級住宅地の一角にあるアルメニオの本邸に向かった。

 丁度オレが討伐から帰る頃には新しい家への引っ越し時期とかぶるはずだから、本邸か、商会の方か、新居にいるかは定かじゃない。
 けどシェリルには、オレが長期不在の間、できる限り本邸にいろよとは口を酸っぱくして言っているからな。
 なぜって?
 そんなの、警護の問題に決まっているだろう。

 新居は護衛も使用人もあまり雇わず、無理のない範囲で生活していこうってシェリルが提案してきたんだ。
 まあ、オレが使用人が多い生活にあんまり慣れなかったことも配慮してくれたんだろうな。
 アンナやキースには日中シェリルについていてもらうことをすでに了承済みだが、住み込みの使用人を雇うつもりはなかった。だから、オレが居ないと夜の間、シェリルの護衛がいなくなっちまうんだ。

 オレが当面の金を貯めたら、お互い働き方については考えていこうって話はしている。
 オレたちはふたりとも魔法使いだからな。離れて仕事すると、いつかきっと破綻する。
 ――というか、オレがあの激マズ料理で我慢できるはずもなし。
 遠征するなら絶対シェリルは連れていくし、シェリルを連れていくとすれば過酷すぎる遠征なんかはさせる気はないわけで。

 っとまあ、シェリルを置いて長期の遠征に出ることは、今後ないつもりでいる。
 シェリルはシェリルで、従来やってたっつう商会の仕事もあるらしいしな。これから先は、基本、オレはシェリルの護衛だ。それが一番、オレ自身も安心ができるしな。


 ――と、いろいろ考えをめぐらせているうちに、アルメニオ家の正門が見えてきた。
 閉ざされた正門をひょいっと跳び越えて、オレは真っ直ぐ玄関口へと向かう。
 こういうことをするとすぐにキースが怒りやがるが、まあ、今日は許してほしい。一刻も早く、シェリルの顔が見たいだけなんだ。

「!? レオルド様!?」
「まあ、いつのまにお帰りに?」

 やっぱり使用人たちが目を丸めているけれど、軽く流してオレはシェリルの居場所を聞く。
 今日は本館の方の昔の部屋の荷物を整理しているらしく、オレは真っ直ぐ上の階へと脚を進める。

 丁度、シェリルの部屋の前にはいくつか荷物が運び出されているようで、作業中ではあるらしい。
 けれども、この部屋自体は使えるようにして残しておくらしいので、荷物自体は少なめだ。

「ごくろーさん」

 出入りしている使用人たちに声をかけて中に入ると、そこにはこぎれいに片付けられたシェリルらしいさっぱりとした部屋が残っている。

 ちまちまとした花柄やら何やらの女らしい装飾が散りばめられていて、シンプルでかわいいモノが好きなアイツに似合いの部屋だ。
 とはいえ、ぱっと見シェリルの姿が見当たらない。
 と、丁度、部屋の奥の扉が開いていて、そこから出てきたアンナと目があった。

「あら、レオルドさま。お帰りなさいませ」

 オレがシェリルと結婚してから、アンナもオレのことを様をつけて呼ぶようになった。シェリルのことも、名前で呼ぶようになったしな。
 アンナは少し驚いたような顔を見せてから、奥の扉の向こうに声をかける。

「シェリルさま、レオルドさまがお戻りでいらっしゃいます」
「!? レオルド!? ちょっと、まって……!」

 と、パタパタと奥から出てきたシェリルの姿を見て、オレはゴクリと唾を飲み込んだ。

 いつもは真っ直ぐに下ろしているか、ハーフアップにしている長くて黒い髪を、今日は左右にそれぞれ三つ編みでまとめている。
 まるで尻尾みてえにふわっと揺れて、素朴なその髪型が妙に愛らしく見えた。

 シェリルは自ら部屋の奥の荷物を片付けているらしくて、動きやすい軽めのワンピースを着ている。
 それがまるで町娘みたいで、普段の彼女と雰囲気が違って、これはこれで可愛らしかった。

(ヤベエ……こういう格好の女、昔はまるで興味なかったのに)

 それがシェリルだっていうだけで、あっという間に勃っちまいそうだから困る。

「あー……今ちょっと、片付けてるところだから。すぐに終わるから! そこで待っててっ」

 久しぶりってこともあってすぐさまアイツを抱きしめたかったのだけれども、アイツは慌てて向こうの扉の奥に隠れちまいやがった。
しおりを挟む
感想 150

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

ナッツアーモンド
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模S子。新入社員として入った会社でS子を待ち受ける運命とは....。

ヤンデレにデレてみた

果桃しろくろ
恋愛
母が、ヤンデレな義父と再婚した。 もれなく、ヤンデレな義弟がついてきた。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にノーチェの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、ノーチェのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。