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前日譚、そして

前日譚5.ヤレヤレ、ふたりとも若ェなあ?(首領ウィル)

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 あーあー。
 若造のヤツ、まだ苛立ってやがるのか?

 あれから散々、嬢ちゃんの戦闘訓練につきあってよ。
 戦場から戻ってきて、夜が更けてもずーっとイライラしてやがる。

 作戦がバレると面倒だから、普段通りにしていてほしいんだがなあ――と思いつつ、俺――一応【夜緋に染ブラッドレッド×まりし雨ナイトレイン】とか言われている俺、バグウィルは丁度嬢ちゃんの居室の隣にあたる部屋で寛いでいた。
 んあ?
 若造のヤツはって?
 ハッハ! さっきからずっと、俺の目の前でぐるぐるぐるぐる歩き回ってやがる。
 ったく。
 今、嬢ちゃんに呼ばれてねェのがそんなに不安か?
 ふはっ。余裕ねェな、過去の俺。

 なんだか青臭いモンみるようで、少し気恥ずかしい気持ちにもなっちまうが、勝負は明日だ。
 つうか、俺と若造の場合は、今日の夜のうち……か?

 タイムリミットは明日の夕方。嬢ちゃんから流れ込んでくる声から情報を集めた結果、時間ももう割り出している。
 ったく、独り言の多い嬢ちゃんで助かったよ。
 おかげで俺たちも、こうしてその時に備えて、準備できてるわけだしな。

「……クソ。王サマのヤロウ、遅ェな」
「仕方ないだろう。彼女も別れを惜しんでるんだろ」

 今はあの王サマが居室の警護がかりだからな。
 若い俺は、最後の夜の担当になれなくて寂しいのか?
 ハハハっ! マジで余裕なさすぎだろ。

「俺にしとけよ……クソ」

 ったくよ。テメエ、自分自身に嫉妬しすぎだろ。
 俺らバグウィルは3人。もとは同じ人間さ。
 まあ、テメエが目の敵にしてる王サマだけは、少し毛色が違うのは認めるがな。
 王サマもテメエも、同じように贔屓されてるよ。俺から見りゃあな。

「まあそう言うな、断言してやる。最後の――その時を迎える瞬間、おそらく居室に呼ばれてるのはテメエか俺さ。――まあ、そうでないとこちとら計画も狂うんだが」
「チッ」
「で、俺のカンだと、テメエだと思っている。若造」
「…………」

 オイオイ。
 そんな疑いの目を向けンなって。
 ホントだぜ?
 テメエは俺と比べても、正直能力が劣るからな。その分、嬢ちゃんにはたっぷり目をかけてもらってるだろ?

 王サマとちがって、俺らふたりは古参だ。そういう意味でも、嬢ちゃんの思い入れのようなものを感じる。だろ?
 信じろ。っつっても簡単にはいかないだろうがよ。

 この若造は、もう少し嬢ちゃんの愛情を信じてやっていいと思うんだよなあ。
 ――でないと、俺らの計画が成功した後も、余裕なくして嬢ちゃんに嫌われるぜ? ……なんて。
 ま、ジョーダン。
 そんな未来はねえかな。多分。

 ……俺も丸くなったと思う。
 けど、嬢ちゃんからは――そうだなあ。なんつーか、揺るぎねえ、無償の愛……みたいなモンを感じちまうんだ。
 あ。いや。
 しょっちゅう〈課金〉〈課金〉って、金の話してるから、無償の愛とは……正確にはちがうかもしれんが。それはそれとしてだ。
 ま。俺も、若造も、あの王サマもよォ。さんざん人を信じられなくなるような経験してきたっつーのに、嬢ちゃんのことだけは信じて、甘えられるってことなんだよな。
 だから若造も、もっと落ち着いて、嬢ちゃんの愛を信じてやれって思うのにねェ。
 青いなァ。


 ――ガチャ。

 おっと。来やがったか。
 突然ドアが開いて、俺たちふたりは視線をそちらに向ける。

「おい……ノックもせずに入ってくんな。王サマよォ」
「貴様もノックなどしたことあったか?」
「ねーよ」
「同じだ」

 くっくっ!
 王サマが部屋に入ってきて早々、これだよ。ったく、お前らは。

「はいはい、今日はそこまでな。大事なこと、他にあるだろ?」
「……チッ」

 こじれる前にふたりの仲裁に入って、俺は立ち上がる。

「嬢ちゃんは、寝たのか?」
「ああ――今日はずいぶん、粘った」
「だろうな。ま、泣き疲れたか」

 いつもなら、あと2時間は早く眠っているはず。けど、今日ばかりはギリギリまで、俺たちを構い倒してたってわけだ。

「――この調子じゃ、目さますのも早ェだろうな。そのまえに、やっちまうぞ」

 相手は自分自身っつっても、折り合いがいいわけではないからな。
 でも、今日ばかりはケンカしてる場合じゃねえ。俺たちは目配せしあって、この城の端――召喚の間へと歩いていく。
 若造や王サマをこの世界に呼び寄せた元凶となる召喚石イルスフィアのある場所に――。
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