71 / 75
21.公表
4
しおりを挟む
「社長。僕はまだ目標には全然届いてないってわかってます」
固い声で言ったら、社長は首を傾げた。
「ええ?十分だよ。星井君は頑張ってくれてる」
「けれど、まだ、みんな烏丸玲佳さんが犯人じゃないって信じてくれていません。そういう説もあるのかくらいにしか思ってないです。社長の目指している真相を明らかになった状態には程遠くて……」
僕の言葉に、社長は静かに笑った。
「それは仕方ないよ。事実と違うことでも一度世に出てしまったら、なかったことにするのは無理だから。アイトにできるのは結局ここまでだったってことだよね。星井君はよくやってくれた」
「でも、それじゃあ」
「かき乱せたからいいの」
「かき乱す?」
「うん。今までは玲佳が犯人で、石鷲見一家はおかしなメイドの被害にあった被害者だって、誰も信じて疑わなかったでしょう。でも、今はそんな状態が崩れて、本当にそうだったのか疑う人が出てきてる。それで満足しないと」
社長は静かな声で言う。それからぽつりと言った。
「……でも、終わりってどこなのかなぁ」
「終わりですか?」
「うん。全て終わったら、会社を畳んで、区切りをつけるつもりだったんだけど。どこで終わらせたらいいのかわからないね」
社長はそう言うと、弱気な顔で笑った。
「僕、もっとアイトで働きたいです。終わらせるなんて言わないでください」
「嬉しいこと言ってくれるね。でも、最初からそのつもりだったし」
「終わりなんて探さないで、世の中の認識がひっくり返るまでやればいいじゃないですか。僕はまだ全然納得がいってないです。まだ成果はこの程度のものだけど、次はもっとうまくいかせたい。もっと多くの人の心に響かせたいです」
言いながら、僕は社長になんて言って欲しかったのか思い至る。このくらいでいい、十分だなんて言葉じゃなかった。これじゃあまだまだ足りない、もっと広げて欲しいって言って欲しかった。
社長は真っ直ぐに僕の目を見ている。
「えと、なので……早々に会社畳んだりしないでくださいね!」
話の着地点がわからなくなって、早口でそう言ったら、社長はくすくす笑った。僕は恥ずかしくなって、社長から目を逸らしてパソコンをじっと見つめた。
***
「お疲れ様でした」
「星井君、お疲れ様」
18時になったので、社長に挨拶をして事務所を後にした。商店街を通り抜け、駅まで歩く。駅が見えてきたところで向こうから歩いてくる人に声をかけられた。
「おーい、星井君」
「あ、長洲さん!」
歩いて来たのは長洲さんだった。今日は珍しくスーツを着ている。そういえば、天野さんが今日は長洲さんは外部ライターさんと打ち合わせをしに行ったと言っていた。
「星井君、今帰り?お疲れ様」
「はい。長洲さんはこれから事務所に行くんですか?」
「うん。打ち合わせが終わってね」
そう言うと、長洲さんは周りをきょろきょろ見回した。そうして、星井君ちょっといい?と言って、建物の影の方まで行って手招きする。多分人目を気にしているのだろう。
「聞いてよ。星井君。今日話したライターさん、石鷲見の記事に興味津々でさ。今度この鳥居って人に会わせてくれって頼まれちゃった」
「え、どうしましょう。鳥居なんて本当はいないのに……」
「星井君たちが鳥居みたいなもんじゃん。いや、本当によくやってくれたよ。天野さんに強引に連れてこられた子がこんなに頑張ってくれるとは思わなかった」
長洲さんはそう言って笑う。
「ありがとうございます。話を聞いたら僕自身も玲佳さんのこと明らかになって欲しいと思ったので」
「そっかそっか。いや、天野さんも意外と見る目あるんだね。32歳が18歳の純朴そうな男の子喫茶店で勧誘してたら、一歩間違えば不審者じゃんって思ったんだけど」
長洲さんは感心したようにうんうん頷いている。一応長洲さんは天野社長の部下だと思うんだけれど、言いたい放題だ。
固い声で言ったら、社長は首を傾げた。
「ええ?十分だよ。星井君は頑張ってくれてる」
「けれど、まだ、みんな烏丸玲佳さんが犯人じゃないって信じてくれていません。そういう説もあるのかくらいにしか思ってないです。社長の目指している真相を明らかになった状態には程遠くて……」
僕の言葉に、社長は静かに笑った。
「それは仕方ないよ。事実と違うことでも一度世に出てしまったら、なかったことにするのは無理だから。アイトにできるのは結局ここまでだったってことだよね。星井君はよくやってくれた」
「でも、それじゃあ」
「かき乱せたからいいの」
「かき乱す?」
「うん。今までは玲佳が犯人で、石鷲見一家はおかしなメイドの被害にあった被害者だって、誰も信じて疑わなかったでしょう。でも、今はそんな状態が崩れて、本当にそうだったのか疑う人が出てきてる。それで満足しないと」
社長は静かな声で言う。それからぽつりと言った。
「……でも、終わりってどこなのかなぁ」
「終わりですか?」
「うん。全て終わったら、会社を畳んで、区切りをつけるつもりだったんだけど。どこで終わらせたらいいのかわからないね」
社長はそう言うと、弱気な顔で笑った。
「僕、もっとアイトで働きたいです。終わらせるなんて言わないでください」
「嬉しいこと言ってくれるね。でも、最初からそのつもりだったし」
「終わりなんて探さないで、世の中の認識がひっくり返るまでやればいいじゃないですか。僕はまだ全然納得がいってないです。まだ成果はこの程度のものだけど、次はもっとうまくいかせたい。もっと多くの人の心に響かせたいです」
言いながら、僕は社長になんて言って欲しかったのか思い至る。このくらいでいい、十分だなんて言葉じゃなかった。これじゃあまだまだ足りない、もっと広げて欲しいって言って欲しかった。
社長は真っ直ぐに僕の目を見ている。
「えと、なので……早々に会社畳んだりしないでくださいね!」
話の着地点がわからなくなって、早口でそう言ったら、社長はくすくす笑った。僕は恥ずかしくなって、社長から目を逸らしてパソコンをじっと見つめた。
***
「お疲れ様でした」
「星井君、お疲れ様」
18時になったので、社長に挨拶をして事務所を後にした。商店街を通り抜け、駅まで歩く。駅が見えてきたところで向こうから歩いてくる人に声をかけられた。
「おーい、星井君」
「あ、長洲さん!」
歩いて来たのは長洲さんだった。今日は珍しくスーツを着ている。そういえば、天野さんが今日は長洲さんは外部ライターさんと打ち合わせをしに行ったと言っていた。
「星井君、今帰り?お疲れ様」
「はい。長洲さんはこれから事務所に行くんですか?」
「うん。打ち合わせが終わってね」
そう言うと、長洲さんは周りをきょろきょろ見回した。そうして、星井君ちょっといい?と言って、建物の影の方まで行って手招きする。多分人目を気にしているのだろう。
「聞いてよ。星井君。今日話したライターさん、石鷲見の記事に興味津々でさ。今度この鳥居って人に会わせてくれって頼まれちゃった」
「え、どうしましょう。鳥居なんて本当はいないのに……」
「星井君たちが鳥居みたいなもんじゃん。いや、本当によくやってくれたよ。天野さんに強引に連れてこられた子がこんなに頑張ってくれるとは思わなかった」
長洲さんはそう言って笑う。
「ありがとうございます。話を聞いたら僕自身も玲佳さんのこと明らかになって欲しいと思ったので」
「そっかそっか。いや、天野さんも意外と見る目あるんだね。32歳が18歳の純朴そうな男の子喫茶店で勧誘してたら、一歩間違えば不審者じゃんって思ったんだけど」
長洲さんは感心したようにうんうん頷いている。一応長洲さんは天野社長の部下だと思うんだけれど、言いたい放題だ。
0
お気に入りに追加
52
あなたにおすすめの小説
キラースペルゲーム
天草一樹
ミステリー
突如見知らぬ館に監禁された十三人の男女。彼らはそれぞれ過去に完全犯罪を成し遂げた者たちであり、それゆえにとある実験兼ゲームの栄誉ある被験者として選ばれた。そのゲームの名は『キラースペルゲーム』。現代の科学では解明されていない、キラースペルという唱えるだけで人を殺せる力を与えられた彼らは、生き残りが三人となるまで殺し合いをするよう迫られる。全員が一筋縄ではいかない犯罪者たち。一体誰が生き残り、誰が死ぬのか。今ここに究極のデスゲームが幕を開ける。
僕は警官。武器はコネ。【イラストつき】
本庄照
ミステリー
とある県警、情報課。庁舎の奥にひっそりと佇むその課の仕事は、他と一味違う。
その課に属する男たちの最大の武器は「コネ」。
大企業の御曹司、政治家の息子、元オリンピック選手、元子役、そして天才スリ……、
様々な武器を手に、彼らは特殊な事件を次々と片付けていく。
*各章の最初のページにイメージイラストを入れています!
*カクヨムでは公開してるんですけど、こっちでも公開するかちょっと迷ってます……。
交換殺人って難しい
流々(るる)
ミステリー
【第4回ホラー・ミステリー小説大賞 奨励賞】
ブラック上司、パワハラ、闇サイト。『犯人』は誰だ。
積もり積もったストレスのはけ口として訪れていた闇サイト。
そこで甘美な禁断の言葉を投げかけられる。
「交換殺人」
その四文字の魔的な魅力に抗えず、やがて……。
そして、届いた一通の封筒。そこから疑心の渦が巻き起こっていく。
最後に笑うのは?
(全三十六話+序章・終章)
※言葉の暴力が表現されています。ご注意ください。
※この作品はフィクションです。実在の人物・団体とは関係ありません。
クイズ 誰がやったのでSHOW
鬼霧宗作
ミステリー
IT企業の経営者である司馬龍平は、見知らぬ部屋で目を覚ました。メイクをするための大きな鏡。ガラステーブルの上に置かれた差し入れらしきおにぎり。そして、番組名らしきものが書かれた台本。そこは楽屋のようだった。
司馬と同じように、それぞれの楽屋で目を覚ました8人の男女。廊下の先に見える【スタジオ】との不気味な文字列に、やはり台本のタイトルが頭をよぎる。
――クイズ 誰がやったのでSHOW。
出題される問題は、全て現実に起こった事件で、しかもその犯人は……集められた8人の中にいる。
ぶっ飛んだテンションで司会進行をする司会者と、現実離れしたルールで進行されるクイズ番組。
果たして降板と卒業の違いとは。誰が何のためにこんなことを企てたのか。そして、8人の中に人殺しがどれだけ紛れ込んでいるのか。徐々に疑心暗鬼に陥っていく出演者達。
一方、同じように部屋に監禁された刑事コンビ2人は、わけも分からないままにクイズ番組【誰がやったのでSHOW】を視聴させれることになるのだが――。
様々な思惑が飛び交うクローズドサークル&ゼロサムゲーム。
次第に明らかになっていく謎と、見えてくるミッシングリンク。
さぁ、張り切って参りましょう。第1問!
陰影
赤松康祐
ミステリー
高度経済成長期、小さな町で農業を営み、妻と子供二人と日々を共にする高城慎吾、変化に乏しいその日常に妖しげなベ-ルを纏った都会から移住して来た役場職員の山部俊介、果たしてその正体とは...
イグニッション
佐藤遼空
ミステリー
所轄の刑事、佐水和真は武道『十六段の男』。ある朝、和真はひったくりを制圧するが、その時、警察を名乗る娘が現れる。その娘は中条今日子。実はキャリアで、配属後に和真とのペアを希望した。二人はマンションからの飛び降り事件の捜査に向かうが、そこで和真は幼馴染である国枝佑一と再会する。佑一は和真の高校の剣道仲間であったが、大学卒業後はアメリカに留学し、帰国後は公安に所属していた。
ただの自殺に見える事件に公安がからむ。不審に思いながらも、和真と今日子、そして佑一は事件の真相に迫る。そこには防衛システムを巡る国際的な陰謀が潜んでいた……
武道バカと公安エリートの、バディもの警察小説。 ※ミステリー要素低し
月・水・金更新
審判【完結済】
桜坂詠恋
ミステリー
「神よ。何故あなたは私を怪物になさったのか──」
捜査一課の刑事・西島は、5年前、誤認逮捕による悲劇で全てを失った。
罪悪感と孤独に苛まれながらも、ひっそりと刑事として生きる西島。
そんな西島を、更なる闇に引きずり込むかのように、凄惨な連続殺人事件が立ちはだかる。
過去の失敗に囚われながらも立ち向かう西島。
彼を待ち受ける衝撃の真実とは──。
渦巻く絶望と再生、そして狂気のサスペンス!
物語のラストに、あなたはきっと愕然とする──。
春の残骸
葛原そしお
ミステリー
赤星杏奈。彼女と出会ったのは、私──西塚小夜子──が中学生の時だった。彼女は学年一の秀才、優等生で、誰よりも美しかった。最後に彼女を見たのは十年前、高校一年生の時。それ以来、彼女と会うことはなく、彼女のことを思い出すこともなくなっていった。
しかし偶然地元に帰省した際、彼女の近況を知ることとなる。精神を病み、実家に引きこもっているとのこと。そこで私は見る影もなくなった現在の彼女と再会し、悲惨な状況に身を置く彼女を引き取ることに決める。
共同生活を始めて一ヶ月、落ち着いてきたころ、私は奇妙な夢を見た。それは過去の、中学二年の始業式の夢で、当時の彼女が現れた。私は思わず彼女に告白してしまった。それはただの夢だと思っていたが、本来知らないはずの彼女のアドレスや、身に覚えのない記憶が私の中にあった。
あの夢は私が忘れていた記憶なのか。あるいは夢の中の行動が過去を変え、現実を改変するのか。そしてなぜこんな夢を見るのか、現象が起きたのか。そしてこの現象に、私の死が関わっているらしい。
私はその謎を解くことに興味はない。ただ彼女を、杏奈を救うために、この現象を利用することに決めた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる