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21.公表
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「野々原さん……」
「ねぇ、それより、次の記事どうする!?そろそろ烏丸玲佳の真実出しちゃってもいいんじゃない!?」
野々原さんは、切り替えるように明るい声で言った。僕もそれに合わせる。
「そろそろいいかもしれませんね!記事の中でHさんに真相を語ってもらいましょうか」
コラムは、鳥居がお屋敷で出会ったHさんという元メイドの女性と話をする場面まで来ていた。四号目で登場した足音の正体は、Hさんだったという設定だ。Hさんは、19歳の時にお屋敷に働きに来て、石鷲見家の最後の場面に立ち会った人物。鳩羽ひまりがモデルだ。
「じゃあ、次号で、本題に入りましょう」
「……うん!」
そして僕たちは、満を持して烏丸玲佳の真実の載った記事を公表した。
記事の中では、鳩羽ひまりをモデルにしたHさんに、以前起こった殺人事件の犯人は烏丸玲佳ではなかったのだと話してもらった。その証拠に、社長が保管しておいた石鷲見氏から学園長に向けての手紙の写真や、石鷲見夫人が書いたというブログも掲載した。
雑誌発売後の反響は大きかった。
先月までと比べ物にならないほどさまざまなメディアで取り上げられ、人々の話題をさらった。
そして、今までは比較的好意的なものが多かった反響の中に、マイナスの反応が目立ち始めた。
話題作りのための捏造なのではないか。13年もわからなかった事件の真相を、弱小出版社の記者が調べただけでなぜ見つけられるんだ。そもそも鳥居なんて記者が本当に存在するのか。
さまざまな意見が寄せられた。最後の意見に関しては実際にそんな人物は存在しないため、反論の余地もない。
僕は本屋でアイトが平積みされている様子をじっと眺めた。発売日以外は雑誌コーナーの隅に二、三冊ひっそりと並べられているだけだったアイトが、今では特設コーナーまで作られて売り出されている。
鳥居のSNSにもコメントが殺到していて、野々原さんは返信が追いつかないと嘆いていた。全部返すのは諦めたらどうかと勧めたが、野々原さんはなかなか引かない。
『烏丸玲佳が犯人ではなかった』という話を世に出すことについては、成功したと思う。大学でも昼休みや移動時間にしょっちゅうその話題が出る。
けれど、これで真相を明らかにしたと言えるのだろうか。
アイトを疑う声は消えないし、みんなが記事を読んで烏丸玲佳は犯人ではなかったんだと納得したのかと言えば、そういうわけでもない。
そういう説もあるのかと考える人が増えた。その程度だろうか。
記事が発売されさえすれば、人々の認識がひっくり返るくらいに考えていた僕は、自分の甘さを思い知らされた。
講義が終わり、すっきりしない気持ちのままアイトに向かうと、野々原さんも長洲さんもいなかった。社長が一人、机でパソコンを叩いている。
「あ、星井君。こんにちは。今日も早いね」
「こんにちは。今日は社長一人なんですね」
「長洲君は外部ライターさんのところに行ってもらってるの。野々原さんは今日はお休み」
「なるほど」
僕は机に荷物を置いて、パソコンの電源をつける。
「星井君、石鷲見の記事、本当にすごい反響だよ。ここまで行くとは思ってなかった。ありがとう」
社長は笑顔を向けて言った。
「いえ、もともと社長たちが用意した地盤があったので」
「それにしたって、あなたのアイデアのおかげだよ。あの喫茶店で、怪しまれるの覚悟で星井君に声かけてよかったー」
社長は楽し気に言う。けれど、僕は素直に喜ぶことができなかった。
「ねぇ、それより、次の記事どうする!?そろそろ烏丸玲佳の真実出しちゃってもいいんじゃない!?」
野々原さんは、切り替えるように明るい声で言った。僕もそれに合わせる。
「そろそろいいかもしれませんね!記事の中でHさんに真相を語ってもらいましょうか」
コラムは、鳥居がお屋敷で出会ったHさんという元メイドの女性と話をする場面まで来ていた。四号目で登場した足音の正体は、Hさんだったという設定だ。Hさんは、19歳の時にお屋敷に働きに来て、石鷲見家の最後の場面に立ち会った人物。鳩羽ひまりがモデルだ。
「じゃあ、次号で、本題に入りましょう」
「……うん!」
そして僕たちは、満を持して烏丸玲佳の真実の載った記事を公表した。
記事の中では、鳩羽ひまりをモデルにしたHさんに、以前起こった殺人事件の犯人は烏丸玲佳ではなかったのだと話してもらった。その証拠に、社長が保管しておいた石鷲見氏から学園長に向けての手紙の写真や、石鷲見夫人が書いたというブログも掲載した。
雑誌発売後の反響は大きかった。
先月までと比べ物にならないほどさまざまなメディアで取り上げられ、人々の話題をさらった。
そして、今までは比較的好意的なものが多かった反響の中に、マイナスの反応が目立ち始めた。
話題作りのための捏造なのではないか。13年もわからなかった事件の真相を、弱小出版社の記者が調べただけでなぜ見つけられるんだ。そもそも鳥居なんて記者が本当に存在するのか。
さまざまな意見が寄せられた。最後の意見に関しては実際にそんな人物は存在しないため、反論の余地もない。
僕は本屋でアイトが平積みされている様子をじっと眺めた。発売日以外は雑誌コーナーの隅に二、三冊ひっそりと並べられているだけだったアイトが、今では特設コーナーまで作られて売り出されている。
鳥居のSNSにもコメントが殺到していて、野々原さんは返信が追いつかないと嘆いていた。全部返すのは諦めたらどうかと勧めたが、野々原さんはなかなか引かない。
『烏丸玲佳が犯人ではなかった』という話を世に出すことについては、成功したと思う。大学でも昼休みや移動時間にしょっちゅうその話題が出る。
けれど、これで真相を明らかにしたと言えるのだろうか。
アイトを疑う声は消えないし、みんなが記事を読んで烏丸玲佳は犯人ではなかったんだと納得したのかと言えば、そういうわけでもない。
そういう説もあるのかと考える人が増えた。その程度だろうか。
記事が発売されさえすれば、人々の認識がひっくり返るくらいに考えていた僕は、自分の甘さを思い知らされた。
講義が終わり、すっきりしない気持ちのままアイトに向かうと、野々原さんも長洲さんもいなかった。社長が一人、机でパソコンを叩いている。
「あ、星井君。こんにちは。今日も早いね」
「こんにちは。今日は社長一人なんですね」
「長洲君は外部ライターさんのところに行ってもらってるの。野々原さんは今日はお休み」
「なるほど」
僕は机に荷物を置いて、パソコンの電源をつける。
「星井君、石鷲見の記事、本当にすごい反響だよ。ここまで行くとは思ってなかった。ありがとう」
社長は笑顔を向けて言った。
「いえ、もともと社長たちが用意した地盤があったので」
「それにしたって、あなたのアイデアのおかげだよ。あの喫茶店で、怪しまれるの覚悟で星井君に声かけてよかったー」
社長は楽し気に言う。けれど、僕は素直に喜ぶことができなかった。
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