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21.公表
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僕と野々原さんで、アイトに群馬県A村の旅行記を連載することになった。
ライターの設定をどうしようかと考え、アイトに4月に入社してきた新入社員の鳥居さんという22歳の男性ということにした。
月刊誌の連載で親近感を持たせるのは時間がかかると思ったので、社長に許可を取ってSNSを開設した。始めたばかりではそんなに人は集まらないかと思ったけれど、アイトには意外とコアなファンが多いようで、フォロワー数はそこそこ順調に増えていった。
野々原さんと話し合い、記事の内容は二人で考えて、本文は僕が書くことになった。そうして野々原さんは、SNSの管理の方を主に担当してくれることになった。僕も管理はするけれど、メインは野々原さんという形だ。
「私、大学はとりあえず休学してきたからいっぱい時間使えるし!任せといて!」
先日大学に休学届を出してきたという野々原さんは元気よく言う。なんでも、今までは大学に復帰するかしないか迷う気持ちがあって踏ん切りがつかなかったそうだ。けれど、ひとまず大学の問題は置いておくことに決めたらしい。
野々原さんは文章が固くなりがちな僕と違って返しが柔軟で、架空のライター『鳥居』は徐々にフォロワーに親しまれていった。
三か月間、そんなことを続けた。
***
「星井。アイトって雑誌知ってる?」
ある日、マーケティング概論の授業が始まるのを教室で待っていた時のこと。隣に座っていた塚田君が、突然アイトの名前を口にした。驚いて思わず言葉に詰まる。
「あの、犯罪とかを扱ってる……?」
僕はつい、知らないふりで返事をしてしまった。バイトのことを話している山崎君や矢木君に知れたらすぐばれるというのに。
「それそれ!知ってるんだ。それの群馬の旅行記みたいな記事でおかしなことが起きてるみたいで、今俺結構気になってるんだよね」
塚田君はそう言いながらスマホを触る。僕は初めて自分から口に出す以外でアイトの名前を聞いて、少し動揺していた。
「ほら、これこれ!」
塚田君が見せてくれたのは、あるニュースサイトの記事だった。見出しには『新人記者が巻き込まれたのは過去世間を騒がせたあの事件!?』と書かれている。僕も昨日読んだ記事だ。
「え、なにこれ。こんなことあるんだ」
僕は何も知らないふりで、サイトの記事を読む。
「なんかおもしろいよな。気になって旅行記の載ってる最初の号から読んでみたんだけど、最初は普通に特におもしろくもない群馬の観光地の感想が書かれてるだけでさ。でも、今月号で急に不穏な展開になるんだよ」
「と、特におもしろくもない……。そっか」
旅行記の方も一応頑張って書いていたんだけど、と切ない気持ちになりながら相槌を打つ。
「どうかした?今月号からはおもしろいんだって!鳥居さんが村人に紹介されて行ったのが実はあの群馬一家焼死事件のあったお屋敷でさー」
塚田君は目を輝かせながら記事について語っている。僕はなんだか気恥ずかしくなり、曖昧な返事ばかりしていた。
けれど、これはすごい変化だ。
塚田君には僕の知る限り、犯罪について調べたりする趣味はない。過去の号も読んでいないと言っていた。つまり、アイトの今月号についてどこかで知って興味を持ってくれたんだと思う。
僕は早くこのことを野々原さんたちに伝えたくて落ち着かない気持ちになった。
ライターの設定をどうしようかと考え、アイトに4月に入社してきた新入社員の鳥居さんという22歳の男性ということにした。
月刊誌の連載で親近感を持たせるのは時間がかかると思ったので、社長に許可を取ってSNSを開設した。始めたばかりではそんなに人は集まらないかと思ったけれど、アイトには意外とコアなファンが多いようで、フォロワー数はそこそこ順調に増えていった。
野々原さんと話し合い、記事の内容は二人で考えて、本文は僕が書くことになった。そうして野々原さんは、SNSの管理の方を主に担当してくれることになった。僕も管理はするけれど、メインは野々原さんという形だ。
「私、大学はとりあえず休学してきたからいっぱい時間使えるし!任せといて!」
先日大学に休学届を出してきたという野々原さんは元気よく言う。なんでも、今までは大学に復帰するかしないか迷う気持ちがあって踏ん切りがつかなかったそうだ。けれど、ひとまず大学の問題は置いておくことに決めたらしい。
野々原さんは文章が固くなりがちな僕と違って返しが柔軟で、架空のライター『鳥居』は徐々にフォロワーに親しまれていった。
三か月間、そんなことを続けた。
***
「星井。アイトって雑誌知ってる?」
ある日、マーケティング概論の授業が始まるのを教室で待っていた時のこと。隣に座っていた塚田君が、突然アイトの名前を口にした。驚いて思わず言葉に詰まる。
「あの、犯罪とかを扱ってる……?」
僕はつい、知らないふりで返事をしてしまった。バイトのことを話している山崎君や矢木君に知れたらすぐばれるというのに。
「それそれ!知ってるんだ。それの群馬の旅行記みたいな記事でおかしなことが起きてるみたいで、今俺結構気になってるんだよね」
塚田君はそう言いながらスマホを触る。僕は初めて自分から口に出す以外でアイトの名前を聞いて、少し動揺していた。
「ほら、これこれ!」
塚田君が見せてくれたのは、あるニュースサイトの記事だった。見出しには『新人記者が巻き込まれたのは過去世間を騒がせたあの事件!?』と書かれている。僕も昨日読んだ記事だ。
「え、なにこれ。こんなことあるんだ」
僕は何も知らないふりで、サイトの記事を読む。
「なんかおもしろいよな。気になって旅行記の載ってる最初の号から読んでみたんだけど、最初は普通に特におもしろくもない群馬の観光地の感想が書かれてるだけでさ。でも、今月号で急に不穏な展開になるんだよ」
「と、特におもしろくもない……。そっか」
旅行記の方も一応頑張って書いていたんだけど、と切ない気持ちになりながら相槌を打つ。
「どうかした?今月号からはおもしろいんだって!鳥居さんが村人に紹介されて行ったのが実はあの群馬一家焼死事件のあったお屋敷でさー」
塚田君は目を輝かせながら記事について語っている。僕はなんだか気恥ずかしくなり、曖昧な返事ばかりしていた。
けれど、これはすごい変化だ。
塚田君には僕の知る限り、犯罪について調べたりする趣味はない。過去の号も読んでいないと言っていた。つまり、アイトの今月号についてどこかで知って興味を持ってくれたんだと思う。
僕は早くこのことを野々原さんたちに伝えたくて落ち着かない気持ちになった。
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