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20.玲佳の手紙
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「社長?」
「……玲佳」
社長はそれしか答えてくれないので、カードを覗き込むと、そこには丸っこい柔らかな字でメッセージが書かれていた。
『ひまりへ
今日は紅介様にたまには息抜きでもしてくるようにと、村の博物館のチケットをもらいました。早速、次のお休みにでも行ってみるつもりです。
紅介様は、本当は愛情深いのに不器用で一見わかりづらくて、少しひまりに似てるような気がします。だから親しみが湧くのかも。ひまりと紅介様が会ったら意外と仲良くなれるかもしれないね。
それじゃあ、また』
「玲佳さんから社長への手紙ですか?」
カードを見て固まったままの社長に向かって尋ねた。社長は震える声で言った。
「うん。玲佳は私によくカードを送ってきたの。でも、石鷲見家に行ってから数か月後には全く来なくなったのに……。これはいつの……」
社長はそう言いながら散らばっているカードを一枚一枚見ていく。焦ったようにカードを拾い上げていく社長の顔は今にも泣きだしそうだった。
「天野さんが探してるのこれですか。多分最初に箱に入れられた書かれたカード」
長洲さんがカードの一つを手に取って言う。
「貸して」
「どうぞ」
社長はカードを読んでからしばらく口を開かなかった。
「……なんて書いてあったんですか?」
「見る?」
遠慮がちに聞くと、社長にカードを手渡された。文字を目で追う。
『ひまりへ
無理やり約束しちゃったけど、しょっちゅうカードを送り付けられて、ひまりは迷惑しているかもしれないね。ごめんなさい。
でも、ひまりにメッセージを書くのは楽しくて、ついつい調子に乗っちゃった。これからはひまりに直接送らずに、お土産店で買った箱にしまっておくことにします。帰った時にまとめて渡すくらいなら許してくれるかな。
前にも言ったけど、私にとってひまりは太陽みたいな女の子です。私は小さい頃から、嘘に囲まれて生きてきました。けれど、ひまりはなんでも正直に言ってくれるので、ほっとします。ばっさり断るからたまにちょっと傷つくけど。でも、そんなところも含めて大好きです。
帰った時にひまりと話せるのを楽しみにしています』
ほかのカードより少し長い文章。玲佳さんから社長へのメッセージ。控えめで、それでも愛情を感じる。
「……私のことなんか、いいかげん見限ったのかと思ってたのに」
社長がぽつりとつぶやいた。
「玲佳さん、きっとこの鏡の箱、最初から天野さんに渡すつもりだったんでしょうね。手元にわたってよかったぁ」
野々原さんは社長の方を向き、にこにこしながら言った。
「……うん。よかった。二人のおかげだね」
「どういたしましてー」
僕は拾い集めたカードに目を通す。そうして、おそらく、最後の方に入れられたであろうカードを手に取った。
「あの、社長。これを」
「これは?」
「読んでみてください」
社長はカードに目を通す。その目が小さく泳いだ。僕が渡したカードには、次のような内容が書かれていた。
『ひまりへ
今、ちょっとやっかいなことが起こっています。朱莉様とお友達のことで……。詳しくは言えませんが、朱莉様は罪を犯してしまいました。
私も正直追い詰められています。緋音様が私に朱莉様をかばうように言うのです。石鷲見家と紅介様のためにもそうして欲しいと。お礼はするからと言われましたが、気乗りしません。
けれど、私がはいと言うことで朱莉様を守れるなら、お世話になった石鷲見家に恩返しできるなら……、何より、紅介様のためになるならば、受け入れた方がいいのかもしれません。私一人の犠牲で全て丸く収まるのならば。こんな風に書いても何が何だかわかりませんね。
ただ、一つ気がかりなのは両親やひまりに迷惑がかからないかということです。緋音様はうまくやると言っていますが……。どうか、私の選択でひまりが嫌な思いをすることのないように願います。
それでは、またね』
それはおそらく、石鷲見朱莉が殺人事件を起こし、石鷲見緋音にその罪を被ってくれないかと頼まれた時に書かれたであろうカードだった。
読み終わった社長の肩が震え出す。
「何なの、これ。なんで頼まれたからって了承しちゃうの。そんなふざけた要求突っぱねればいいじゃない。馬鹿じゃないの?」
肩を震わせる社長に、野々原さんがおろおろしながらハンカチを渡している。
「ひどすぎますよね。優しい玲佳さんを利用して!これは絶対世の中の人に知ってもらうべきです……!」
「ちょっと、野々原さん。あなたが泣かなくていいんだよ」
野々原さんの顔を見ると、目が潤んで鼻が赤く染まっている。社長はちょっと困った顔で、野々原さんに渡されたハンカチでそのまま彼女の顔を拭っていた。
「……玲佳」
社長はそれしか答えてくれないので、カードを覗き込むと、そこには丸っこい柔らかな字でメッセージが書かれていた。
『ひまりへ
今日は紅介様にたまには息抜きでもしてくるようにと、村の博物館のチケットをもらいました。早速、次のお休みにでも行ってみるつもりです。
紅介様は、本当は愛情深いのに不器用で一見わかりづらくて、少しひまりに似てるような気がします。だから親しみが湧くのかも。ひまりと紅介様が会ったら意外と仲良くなれるかもしれないね。
それじゃあ、また』
「玲佳さんから社長への手紙ですか?」
カードを見て固まったままの社長に向かって尋ねた。社長は震える声で言った。
「うん。玲佳は私によくカードを送ってきたの。でも、石鷲見家に行ってから数か月後には全く来なくなったのに……。これはいつの……」
社長はそう言いながら散らばっているカードを一枚一枚見ていく。焦ったようにカードを拾い上げていく社長の顔は今にも泣きだしそうだった。
「天野さんが探してるのこれですか。多分最初に箱に入れられた書かれたカード」
長洲さんがカードの一つを手に取って言う。
「貸して」
「どうぞ」
社長はカードを読んでからしばらく口を開かなかった。
「……なんて書いてあったんですか?」
「見る?」
遠慮がちに聞くと、社長にカードを手渡された。文字を目で追う。
『ひまりへ
無理やり約束しちゃったけど、しょっちゅうカードを送り付けられて、ひまりは迷惑しているかもしれないね。ごめんなさい。
でも、ひまりにメッセージを書くのは楽しくて、ついつい調子に乗っちゃった。これからはひまりに直接送らずに、お土産店で買った箱にしまっておくことにします。帰った時にまとめて渡すくらいなら許してくれるかな。
前にも言ったけど、私にとってひまりは太陽みたいな女の子です。私は小さい頃から、嘘に囲まれて生きてきました。けれど、ひまりはなんでも正直に言ってくれるので、ほっとします。ばっさり断るからたまにちょっと傷つくけど。でも、そんなところも含めて大好きです。
帰った時にひまりと話せるのを楽しみにしています』
ほかのカードより少し長い文章。玲佳さんから社長へのメッセージ。控えめで、それでも愛情を感じる。
「……私のことなんか、いいかげん見限ったのかと思ってたのに」
社長がぽつりとつぶやいた。
「玲佳さん、きっとこの鏡の箱、最初から天野さんに渡すつもりだったんでしょうね。手元にわたってよかったぁ」
野々原さんは社長の方を向き、にこにこしながら言った。
「……うん。よかった。二人のおかげだね」
「どういたしましてー」
僕は拾い集めたカードに目を通す。そうして、おそらく、最後の方に入れられたであろうカードを手に取った。
「あの、社長。これを」
「これは?」
「読んでみてください」
社長はカードに目を通す。その目が小さく泳いだ。僕が渡したカードには、次のような内容が書かれていた。
『ひまりへ
今、ちょっとやっかいなことが起こっています。朱莉様とお友達のことで……。詳しくは言えませんが、朱莉様は罪を犯してしまいました。
私も正直追い詰められています。緋音様が私に朱莉様をかばうように言うのです。石鷲見家と紅介様のためにもそうして欲しいと。お礼はするからと言われましたが、気乗りしません。
けれど、私がはいと言うことで朱莉様を守れるなら、お世話になった石鷲見家に恩返しできるなら……、何より、紅介様のためになるならば、受け入れた方がいいのかもしれません。私一人の犠牲で全て丸く収まるのならば。こんな風に書いても何が何だかわかりませんね。
ただ、一つ気がかりなのは両親やひまりに迷惑がかからないかということです。緋音様はうまくやると言っていますが……。どうか、私の選択でひまりが嫌な思いをすることのないように願います。
それでは、またね』
それはおそらく、石鷲見朱莉が殺人事件を起こし、石鷲見緋音にその罪を被ってくれないかと頼まれた時に書かれたであろうカードだった。
読み終わった社長の肩が震え出す。
「何なの、これ。なんで頼まれたからって了承しちゃうの。そんなふざけた要求突っぱねればいいじゃない。馬鹿じゃないの?」
肩を震わせる社長に、野々原さんがおろおろしながらハンカチを渡している。
「ひどすぎますよね。優しい玲佳さんを利用して!これは絶対世の中の人に知ってもらうべきです……!」
「ちょっと、野々原さん。あなたが泣かなくていいんだよ」
野々原さんの顔を見ると、目が潤んで鼻が赤く染まっている。社長はちょっと困った顔で、野々原さんに渡されたハンカチでそのまま彼女の顔を拭っていた。
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