魔女の虚像

睦月

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20.玲佳の手紙

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僕たちは群馬から東京に戻ると、そのままファミレスで構成案を作り始めた。

「いいのかなぁ。こんな風にしちゃって」

野々原さんは僕がA4の紙に書いた記事構成を眺め、難しい顔をする。

「喜ばれはしないでしょうね」

「星井君って、素直そうに見えて意外と頑固なとこあるよね。それで観光地を巡ってたのか」

「はい、必要だと思ったので」

「まぁ。仕方ない。私もこっちの方がいいと思うし、これで出してみようか!」

野々原さんは笑顔で言った。


***

翌日、野々原さんと二人で社長に構成案を提出したら、当然のように苦い顔をされた。

「星井君。これ、どういうこと?私が言ったのと全然違うじゃない」

長洲さんもやってきて社長から構成案を受け取り、眺めている。

「どれどれ。んー……?群馬旅行記?全然石鷲見の事件出てこないじゃん」

二人が困惑するのも当然だ。群馬一家焼死事件について書くように言われたのに、構成案には一言も事件について書かれていないのだから。代わりに案には、記者Aが群馬で回った観光地についてまとめられている。

僕は怪訝な顔でこちらを見る天野社長と長洲さんに、意図を説明する。


「僕は最初、自分とは全く関係のない、遠いところで起こった出来事を見る気持ちで、石鷲見家の事件を調べていました。村に行っても、お屋敷に入っても、どこか事件はフィクションの物語のように感じていました。

でも、社長が関わっているって知った途端、急に現実にあったこととして胸に迫ってきたんです。

出来事を真剣に考えられるのは、自分や身近な人物に関係のあることだって認識できたときなんじゃないかと思いました」

「まさか関係者の私が平然と取材を依頼してくるなんて驚いたでしょうね。けど、それとこの構成案に何の関係が?」

「雑誌を読む人も、僕と同じじゃないかと思ったんです。他人に起こった事件よりも、身近な人間が関わっている事件の方がのめりこんでくれるんじゃないかって。読者全員の身近な人になるのは無理ですが、例えば、それがライターだとしても、その人をよく知っていれば、深く心に響いてくれるんじゃないかと思いました」


そして僕は考えた案を話した。

まず、事件には一切触れずに、ただの群馬旅行のコラムとして連載を開始する。親しみが湧くように、ライターには名前をつけて架空の人物像を設定する。しばらく連載を続け、読者が慣れてきたところで、過去に起こった事件のことを匂わせ始める。架空の記者を不可解な事件に巻き込まれる形で連載する。

話し終えて社長を見たら、やはり難しい顔のままだった。

「そんなまどろっこしいことをするよりも、私の名前を出して新事実で注目を集めた方が早いと思うんだけど」

「この前は、はいって言ってしまいましたけど、やっぱりそういうのは嫌なんです。社長が晒し者にされる予想がつくのに」

「本人がいいと言ってるのに?」

社長は眉を顰める。

「俺はいいと思うけどなー。おもしろそうだし」

長洲さんが顎に手を置いて言う。

「ちょっと、長洲君まで何言ってるの?」

「いいじゃないですか。突然事件に巻き込まれるコラムライターなんて、うまく行けば話題になりそうだし。天野さんが捨て身にならなくてもいけるんじゃないですか」

「そんなにうまくいくわけない」

社長はそう言うと、疲れたように息を吐く。部屋には沈黙が訪れる。
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