魔女の虚像

睦月

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19.星井の知らない話(5)

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明日までに準備しなきゃならない書類があるの、と強めに言ったら、長洲君はしぶしぶ諦めたようだった。

「あ、じゃあ連絡先だけでも教えてくれませんか?天野さんの気が変わったらいつでも入社できるように」

「気が変わることはないから必要ないわね」

「わからないじゃないですか」

教えないと席を立たせてくれなそうだったので、仕方なくメールアドレスを教える。私はどっと疲れた気分で、家路についた。


***

呆れてしまうのだけれど、長洲君は四か月ほど経った頃、突然下北沢に借りたオフィスまでやって来て、会社を辞めたので入社させてくださいと頼んできた。長洲君からはカフェで会って以来、定期的にメールが着ていたけれど、会社を辞める素振りなんて全く見せなかったというのに。

ほかのところを探せ、それか元居た会社に謝り倒してでも戻れと勧めたけれど、長洲君が引かないので、仕方なく入社を許可してあげた。

渋々入れてあげた長洲君だけれど、意外にも役に立った。口がうまいので取引先と会うときに連れて行くと話が円滑に進む。企画もちゃんと世の中の関心ごとを押さえて、受けそうなものを見つけてくる。

正直言って、助かっていた。

長洲君の貢献もあり、目を回すほど忙しく働いているうちに、雑誌『アイト』の発行部数は着々と伸びていった。みんなが知っている雑誌とまでは行かないまでも、未解決事件や不可思議な事件に興味のある層にはよく知られるようになった。

もっと続ければ、きっと玲佳の件を世間に知らしめられる。


会社を設立して数年が経った頃、私は玲佳の記事の計画を練り始めた。初めは自分で記事を書こうかと思っていたけれど、第三者に関わってもらった方が説得力があるかもしれないと考え始めた。

長洲君では駄目だ。何も知らない人物にやってもらいたい。

何も知らない人物が純粋な目で見て玲佳を犯人ではないと判断してくれたら、きっと人々の胸に届く。目撃者を探さなければ。できるだけ擦れていないまっさらな子が良い。感受性豊かで、事件に感情移入してくれる子だとなおいい。若い子の方がいいだろうか。ぴったりの人物を探さなければ。

きっと、目標を達成しよう。達成したら、やっと私は終わりにできる。

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