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11.野々原さん
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「そろそろ行かないとまずいってわかってるの。単位も取らなきゃだし。でも、どうしても私のこと嫌な目で見てくる人たちと会いたくなくて」
「野々原さん……」
「友達も怖くなっちゃって。信用できなくて。大学で知り合った子は全員ブロックしちゃって」
「あの、それは」
「でも、こんなことでうじうじしてるのが嫌だから、ある日ぱーっと買い物してやろうって出かけたの。最初は楽しかったんだけど、同じくらいの年の子が楽しそうにしてるのを見てたら悲しくなってきて、道の真ん中で泣いちゃって」
野々原さんは鼻をすすりながら、子供みたいな泣き顔で言う。
「その時、ちらちらこっちを見ながら通り過ぎていく人たちの中で、大丈夫?って声をかけてくれたのが天野さんだった。それで落ち着くまでそばにいてくれたんだ。それで、泣き止んだら唐突にうちで記者やらないかって聞かれたの。面食らっちゃった」
僕は話を聞きながら呆気に取られる。僕の時もいきなりだったけれど、野々原さんのときは、まさか泣いているところを泣き止んで即勧誘しているとは。
「なんか怪しかったし断ろうと思ったんだけど、その時天野さんが『ちょうど道端で泣き出してしまうような感受性豊かな子を探してたの』って言ってて……。なんだかその言葉が妙に胸に響いたんだよね。それで、大学行けないなら代わりにバイトでもしてみようかって気になってここに来たんだ」
「そんな事情があったんですか」
僕は罪悪感に駆られながら野々原さんを見た。噂を鵜呑みにしてあろうことか本人に既婚者はやめたほうがいいなんて、なんてひどいことを言ってしまったんだろう。
何か言いたいのに、言葉が思い浮かばない。途方に暮れていると野々原さんは少し照れたように言った。
「星井君と群馬に行ったときね、嬉しかったんだ。久しぶりに同じ大学の子と普通に話せて、笑えて。ちょっとはしゃいじゃった」
野々原さんが赤くなった目を細めて笑うので、胸が痛くなった。
「野々原さん、すみません。野々原さんは何も悪くなかったのに」
「本当だよね。星井君っていい子だけど、ときどきちょっと浅はかなとこあるよね」
「返す言葉もないです……」
「嘘だよ。いいって。私軽く見えるってわかってるもん。信じちゃうのも無理ないよ」
「そんな風に言わないでください。信じる方が悪いんですから」
諦めたように言う野々原さんにそう言ったら、彼女は意外そうな顔をした。
「星井君は私の話疑わないんだね。嘘ついてるとか思わない?久瀬先生、いい人に見えるでしょ」
「嘘ついてるように見えませんから。それに、久瀬先生と野々原さんだったら、今まで一緒に行動してきた野々原さんの方を信じます」
「あはは。さっきまで不倫の噂信じてたくせに」
痛いところを突かれて僕は押し黙った。けれど、野々原さんの顔を見ると、嬉しそうに笑っている。
その顔を見ていたら、気が付くと口から言葉が出ていた。
「あの!一緒にめちゃくちゃすごい記事作って、久瀬先生や大学の人たちにも届くくらいの記事作って、見返してやりませんか?」
「え?」
「だって、何も悪くない野々原さんばかり辛い思いをしておかしいです。今調べてる石鷲見の事件、すっごい記事にして、めちゃくちゃ売ってやりましょうよ!!」
自分で言いながら、馬鹿っぽい励まし方だなと思った。そもそも、「めちゃくちゃすごい記事」とは何だろう。でも悔しくて、何でもいいから言いたかった。
「どうやって?」
野々原さんの口からもっともな疑問が出てくる。
「そ、それは、これから考える感じで……」
「具体的な案はないんだ」
冷静に言われて、しょんぼりと項垂れる。もうちょっといいことが言えたらよかったのに。
「でもそういう無謀な挑戦って楽しそう」
「え?」
見上げると、野々原さんは晴れやかな顔で僕を見ている。
「いいよ。やろう!めちゃくちゃすごい記事作ろうよ」
野々原さんが影のない笑顔で言うので嬉しくなった。思わず言葉が口をついて出る。
「野々原さん、この後時間ありますか?ちょっと作戦会議していきませんか?」
「いいね、行こうっ」
野々原さんは元気な声で同意してくれた。僕たちは駆け足で街を歩き、近くのファミレスに入る。昨日、僕が日記を読んだファミレスだ。
「野々原さん……」
「友達も怖くなっちゃって。信用できなくて。大学で知り合った子は全員ブロックしちゃって」
「あの、それは」
「でも、こんなことでうじうじしてるのが嫌だから、ある日ぱーっと買い物してやろうって出かけたの。最初は楽しかったんだけど、同じくらいの年の子が楽しそうにしてるのを見てたら悲しくなってきて、道の真ん中で泣いちゃって」
野々原さんは鼻をすすりながら、子供みたいな泣き顔で言う。
「その時、ちらちらこっちを見ながら通り過ぎていく人たちの中で、大丈夫?って声をかけてくれたのが天野さんだった。それで落ち着くまでそばにいてくれたんだ。それで、泣き止んだら唐突にうちで記者やらないかって聞かれたの。面食らっちゃった」
僕は話を聞きながら呆気に取られる。僕の時もいきなりだったけれど、野々原さんのときは、まさか泣いているところを泣き止んで即勧誘しているとは。
「なんか怪しかったし断ろうと思ったんだけど、その時天野さんが『ちょうど道端で泣き出してしまうような感受性豊かな子を探してたの』って言ってて……。なんだかその言葉が妙に胸に響いたんだよね。それで、大学行けないなら代わりにバイトでもしてみようかって気になってここに来たんだ」
「そんな事情があったんですか」
僕は罪悪感に駆られながら野々原さんを見た。噂を鵜呑みにしてあろうことか本人に既婚者はやめたほうがいいなんて、なんてひどいことを言ってしまったんだろう。
何か言いたいのに、言葉が思い浮かばない。途方に暮れていると野々原さんは少し照れたように言った。
「星井君と群馬に行ったときね、嬉しかったんだ。久しぶりに同じ大学の子と普通に話せて、笑えて。ちょっとはしゃいじゃった」
野々原さんが赤くなった目を細めて笑うので、胸が痛くなった。
「野々原さん、すみません。野々原さんは何も悪くなかったのに」
「本当だよね。星井君っていい子だけど、ときどきちょっと浅はかなとこあるよね」
「返す言葉もないです……」
「嘘だよ。いいって。私軽く見えるってわかってるもん。信じちゃうのも無理ないよ」
「そんな風に言わないでください。信じる方が悪いんですから」
諦めたように言う野々原さんにそう言ったら、彼女は意外そうな顔をした。
「星井君は私の話疑わないんだね。嘘ついてるとか思わない?久瀬先生、いい人に見えるでしょ」
「嘘ついてるように見えませんから。それに、久瀬先生と野々原さんだったら、今まで一緒に行動してきた野々原さんの方を信じます」
「あはは。さっきまで不倫の噂信じてたくせに」
痛いところを突かれて僕は押し黙った。けれど、野々原さんの顔を見ると、嬉しそうに笑っている。
その顔を見ていたら、気が付くと口から言葉が出ていた。
「あの!一緒にめちゃくちゃすごい記事作って、久瀬先生や大学の人たちにも届くくらいの記事作って、見返してやりませんか?」
「え?」
「だって、何も悪くない野々原さんばかり辛い思いをしておかしいです。今調べてる石鷲見の事件、すっごい記事にして、めちゃくちゃ売ってやりましょうよ!!」
自分で言いながら、馬鹿っぽい励まし方だなと思った。そもそも、「めちゃくちゃすごい記事」とは何だろう。でも悔しくて、何でもいいから言いたかった。
「どうやって?」
野々原さんの口からもっともな疑問が出てくる。
「そ、それは、これから考える感じで……」
「具体的な案はないんだ」
冷静に言われて、しょんぼりと項垂れる。もうちょっといいことが言えたらよかったのに。
「でもそういう無謀な挑戦って楽しそう」
「え?」
見上げると、野々原さんは晴れやかな顔で僕を見ている。
「いいよ。やろう!めちゃくちゃすごい記事作ろうよ」
野々原さんが影のない笑顔で言うので嬉しくなった。思わず言葉が口をついて出る。
「野々原さん、この後時間ありますか?ちょっと作戦会議していきませんか?」
「いいね、行こうっ」
野々原さんは元気な声で同意してくれた。僕たちは駆け足で街を歩き、近くのファミレスに入る。昨日、僕が日記を読んだファミレスだ。
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