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7.鳩羽ひまりの日記②
2007/5/3
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ここのところ、倉庫の片付けが大きな仕事になっています。
お屋敷の奥まったところにある使用人の部屋の、さらに奥へ行った部屋が倉庫です。ここには、使わなくなった家具や石鷲見ご兄弟が学校で作ったもの、コレクションルームに置ききれなくなった美術品まで、さまざまなものが保管してあります。
あまりに増えすぎてしまったので、現在いらないものの処分と、残しておくものの整頓に大忙しです。
「加納さん、このスペースはなんですか?」
「ああ、それはここを去った使用人の残していったものです。連絡が付かなくて届けられなかった忘れ物や、新しい人が来たときに使えそうな家具。そろそろいくつか処分しなければなりませんね」
私はそこにあるものを手に取って眺めました。鞄やノートの束、アクセサリーにコップ。コートに辞書まで。新しそうなものからすっかり色あせてしまったものまで、さまざまなものがありました。その中で目についたのが、カラフルなガラスで周りを覆われた、鏡のついたボックスです。なんとなく気になって、くるくる回して眺めます。
「変わったデザインですねぇ。東南アジアの雑貨にこういうのありそうです。それにしても、何かしまえそうなのに、全然開かないな」
軽い気持ちで言ったら、加納さんは驚いた顔でこっちに来ました。
「やめなさい。それは烏丸さんのものです」
「え?」
「彼女は着の身着のまま出て行きましたから……。置いて行ったものは倉庫へしまっておいたんです」
いつも冷静な加納さんの声が、小さく震えていました。ただ事ではない気がして、慌てて鏡を床に置きます。
「でももう三年も経っているのですから、残しておく必要はありませんね。処分しましょう」
「あ、あの」
加納さんは青ざめた顔で、取り付かれたかのように一心にそのあたりに散らばっていたものをごみ袋に放り込んでいきます。
「加納さん、私がやりますよ。顔が真っ青ですよ。捨てておきますから、休んで下さい」
私は加納さんを無理やり座らせて、烏丸玲佳の荷物らしきものを片付けた後ごみ捨て場に持っていきました。
しかし、私はいけないことをしてしまいました。
どうしてもあの鏡が気になったのです。鏡の下には、3センチほどの厚みがありました。開け方こそわかりませんが、私にはあれが鏡付きの箱に見えて仕方ありませんでした。
人を殺して行方不明になったという烏丸玲佳の残した箱。好奇心を抑えきれず、私は鏡をごみ袋から取り出して、こっそり自分の部屋に隠しました。
倉庫に戻ると加納さんはもう元気に働いていて、「取り乱してごめんなさい、助かりました」とお礼を言われました。私は後ろめたい気持ちを振り切るように、倉庫の片付けに集中しました。
お屋敷の奥まったところにある使用人の部屋の、さらに奥へ行った部屋が倉庫です。ここには、使わなくなった家具や石鷲見ご兄弟が学校で作ったもの、コレクションルームに置ききれなくなった美術品まで、さまざまなものが保管してあります。
あまりに増えすぎてしまったので、現在いらないものの処分と、残しておくものの整頓に大忙しです。
「加納さん、このスペースはなんですか?」
「ああ、それはここを去った使用人の残していったものです。連絡が付かなくて届けられなかった忘れ物や、新しい人が来たときに使えそうな家具。そろそろいくつか処分しなければなりませんね」
私はそこにあるものを手に取って眺めました。鞄やノートの束、アクセサリーにコップ。コートに辞書まで。新しそうなものからすっかり色あせてしまったものまで、さまざまなものがありました。その中で目についたのが、カラフルなガラスで周りを覆われた、鏡のついたボックスです。なんとなく気になって、くるくる回して眺めます。
「変わったデザインですねぇ。東南アジアの雑貨にこういうのありそうです。それにしても、何かしまえそうなのに、全然開かないな」
軽い気持ちで言ったら、加納さんは驚いた顔でこっちに来ました。
「やめなさい。それは烏丸さんのものです」
「え?」
「彼女は着の身着のまま出て行きましたから……。置いて行ったものは倉庫へしまっておいたんです」
いつも冷静な加納さんの声が、小さく震えていました。ただ事ではない気がして、慌てて鏡を床に置きます。
「でももう三年も経っているのですから、残しておく必要はありませんね。処分しましょう」
「あ、あの」
加納さんは青ざめた顔で、取り付かれたかのように一心にそのあたりに散らばっていたものをごみ袋に放り込んでいきます。
「加納さん、私がやりますよ。顔が真っ青ですよ。捨てておきますから、休んで下さい」
私は加納さんを無理やり座らせて、烏丸玲佳の荷物らしきものを片付けた後ごみ捨て場に持っていきました。
しかし、私はいけないことをしてしまいました。
どうしてもあの鏡が気になったのです。鏡の下には、3センチほどの厚みがありました。開け方こそわかりませんが、私にはあれが鏡付きの箱に見えて仕方ありませんでした。
人を殺して行方不明になったという烏丸玲佳の残した箱。好奇心を抑えきれず、私は鏡をごみ袋から取り出して、こっそり自分の部屋に隠しました。
倉庫に戻ると加納さんはもう元気に働いていて、「取り乱してごめんなさい、助かりました」とお礼を言われました。私は後ろめたい気持ちを振り切るように、倉庫の片付けに集中しました。
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